二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【銀魂】銀ノ鬼ハ空ヲ仰グ—花曇編— ( No.412 )
日時: 2011/06/06 11:16
名前: 李逗 ◆hrygmIH/Ao (ID: .qxzdl5h)

第二十二訓  普段大人しい人ほど怒ると怖い、見ちゃいけないもの見てるみたいで



「ヅラは夢幻の事心配じゃないアルか」

ふいに背中の神楽が言った。桂はその声に一瞬足を止める。
神楽の問いに答えようとした時、遥か後方で何かと何かがぶつかり合う激しい物音が聞こえた。何の物音であるか位、簡単に想像がつく。脳裏に浮かぶのは二人の少女が激しく刃を交錯させて戦う様子。
それは神楽も同じだったらしく、肩を掴む手の力が一層強くなった。

「あいつ、絶対夜兎族ネ。あの傘が証拠アル。夢幻を信頼してない訳じゃ無いけど、でも……」

あの少女が夜兎族、という神楽の予想には桂も同意した。あの傘、マントの隙間から覗くあの白い肌、そして何よりもあの身のこなし。全てが夜兎の特徴と一致していた。

「でも、あいつ相当強いアル。これ女の勘ネ」

そんな事今更言われずとも、あの少女を人目見た時から感じていた。
神楽のものが女の勘ならば、桂は長い間戦場で戦ってきた者が持つ戦士の勘で。

「ヅラ、戻るネ。夢幻一人には出来ないヨ」

それには答えずに、桂は再び一歩踏み出した。今だ後方からは激しい物音が絶えず聞こえてくる。
そんな桂の態度にしびれを切らしたのか、神楽が言う。

「ヅラ、お前夢幻の事心配じゃないアルか!? お前いつも仲間が捕まったり酷い目にあったら助けに行ってただロ!? 夢幻の事、どうでもいいアルか!!」

叫んだ後、殴られた脇腹に激しい痛みが走り、神楽は顔を歪めた。

「心配していないわけ無いだろう」

今まで無言を貫いていた桂が、突然口を開いた。
負ぶわれている神楽には、その顔が見えない。

「だが俺は、夢幻を信頼しているからな」




             *



ガキィィィン!という二つのものがぶつかり合う音が辺りに響いた。

夢幻の刀と無黯の番傘が衝突する。
夢幻が無黯の傘を受け止めた瞬間、夢幻の身体は宙を舞い、そのまま背後の壁に吹っ飛んだ。

「つっ!」

直後、全身を襲う激痛。意識が飛びそうになるのはすんでのところで抑えたが、立ち上がることは出来なかった。
霞む目で見れば、右手の傘を肩に担ぎながら無黯が近付いてくるのが見て取れた。

(なんて……力……!)

全力で刀を振った。これ以上無い位の力を込めて。しかし無黯は、それをいとも簡単に打ち破ってしまったのだ。彼女が夜兎であることは薄々感づいてはいたものの、何と言う怪力。正面から打ち合えば、夢幻は力負けしていまう。

「余所見は駄目だよ」

気付いた時、目の前には無黯の拳があった。瞬間、とっさの判断で夢幻は横に跳ぶ。ドガァ、という鈍い音と共に、無黯の拳が今まで夢幻のいた壁に直撃した。

「反射神経、凄いねぇ」

拳の直撃を受けた壁を見て、夢幻は目を見開いた。
無黯が殴った壁は大きくへこみ、その部分から放射線状に伸びた無数の罅割れが走っている。穴が開かなかった事が不思議な位のその壁は、無黯の戦闘能力の高さを物語っていた。

あれを、まともに受ければ。

それを考えただけでもぞっとする。戦意喪失には十分すぎる程だった。夢幻の中で、恐怖心が少しずつ大きくなっていく。ゆらり、と無黯がこちらに身体を向けた。

(……でも、)

負けられない。いや、負けたくないのだ。夢幻は心の内でそう強く言い、刀の切っ先を無黯に向けた。
自分が彼女をここで食い止める必要がある。そして何より、

(この人は神楽ちゃんを傷付けた)

脳裏に浮かぶのは、激痛に苦しむ神楽の姿。
夢幻はそれを、どうしても許す事が出来なかった。
そして、神楽が自分を庇って傷ついたという事実も許せないでいる。何故自分はずっと年下の神楽に助けられているのだ、と。


(だから、)


負ける事など出来ないの。