二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【銀魂】銀ノ鬼ハ空ヲ仰グ—花曇編— ( No.423 )
日時: 2011/07/10 12:13
名前: 李逗 ◆hrygmIH/Ao (ID: .qxzdl5h)

〈夢幻誕生日特別編〉
              優しい愛情



貴方の隣にいるだけで、私は笑顔になれるのです。



その日は朝からしとしとと雨が降っていた。
雨と呼んでいいのか、それとも霧と呼ぶべきなのかも定かではない、細かな雨粒。その雨の所為か今日は気温があまり高くなく、どちらかといえば肌寒く感じる。
そんな中、夢幻と桂は傘を差して通りを歩いていた。

「全く、何だあ奴等は。突然押しかけてきて追い出して」

桂はそう言うと、はぁと長い溜め息を吐いた。夢幻ははは、と笑うと、差している傘をくるりと一回転させる。傘についていた雨粒がぴしゃりと跳ねた。

事の発端は、一時間ほど前に遡る。
一見只の家に見える桂の隠れ家。そこでエリザベスを交えた三人で何時もどおりに過ごしていると、急にインターホンが鳴った。
エリザベスが玄関から連れてきたのは、万事屋の四人組。四人それぞれがにたにたと笑みを浮かべ、夢幻と桂に言ったのだ。

「ちょっとここから出てってくんない?」

と。
瞬間二人は四人と何故だかエリザベスに家を追い出され、あろうことか鍵を閉められたのだ。
二人が何が起こったのか理解できずに呆然としていると、玄関脇の窓が開き、中からひょっこりと和月が顔を出した。和月は二人に傘を一本ずつ差し出すと、一言。

「一時間位経つまで帰ってこんでね!」

そして二人は仕方なしに雨のそぼ降る街へと繰り出し、今に至る。


「本当にあ奴等何を考えておるのだ」

突然家を追い出された為に、珍しく桂の声は不機嫌そうだった。夢幻は気付かれないように傘を少し傾け、傍らの桂を見上げた。その顔もやはり不機嫌そうだ。

「何か……やりたいこと、あった、の?」

桂がここまで不機嫌な顔をするとは、余程何か大事な用事があったからに違いない。
数秒の沈黙の後、桂は言った。


「ファミコンだ」


「……え?」
「だから、ファミコンだ」

フ、ファミコンんんん?
夢幻は心の中で、新八ばりの突っ込みを入れた。勿論桂に。

「一昨日ようやくマ●オとの再開を果たしてな」

今迄散々この人が銀時に電波呼ばわりされてきた理由がようやく分かった気がする。マ●オとの再開も何も、マ●オは消えてなんかいなかったのに。しかもファミコン。ゲームも3Dになっている時代にファミコン。夢幻は何故だか眩暈を覚えた。

「……あ、れ?」

夢幻はふと、差していた傘を下ろした。今迄延々マ●オの事を語っていた桂もそれにつられて傘を下ろす。

「雨、止んで……る」

何時の間にか雨が止み、見上げた雲の切れ間からは青空が覗いていた。道行く人々も皆傘を閉じ空を見上げている。

「これはもう今日は降ら……あ、」

桂は言いかけた言葉を、そこで途切れさせた。夢幻が怪訝に思っていると、桂は急に歩き出し、道沿いに続いていた垣根に近付いていく。垣根の前にしゃがみ込んだ桂は、顔だけをこちらへ向かせて夢幻を呼んだ。

「こたろ?」

慌てて近付き、桂の横にちょこんとしゃがむ。
桂は一言見ろ、と言うと、指先でやさしく何かをつまみ、夢幻に見せた。
それは薄く水色がかった、花びらが全て繋がっている一輪の花だった。桂が花と一緒に摘んでいる緑色の葉には雨粒がついていて、太陽の光を反射してきらりと光る。

「……朝顔?」

その問いに、桂はゆるゆると首を横に振った。朝顔にしては咲く時間が遅すぎるとは思うが、これはどこからどう見たって朝顔だ。朝顔でないなら何だろうと考えていると、ふいに桂が言った。

「これはな、昼顔だ」
「昼、顔?」

夢幻は昼顔をじぃと見つめた。そういわれて改めて見て見ると、確かに少し違うもののような気がしなくも……ない。

「朝顔と違って、昼に咲く。夢幻の誕生花だ」
「……あ!」

言われて、はっと気が付いた。今日は六月二十五日。夢幻の誕生日だった。そして明日は桂の誕生日でもある。ということは、突然押しかけてきて二人を追い出した、あの四人とエリザベスは。
そこから導き出された答えに驚き、夢幻は目を見開いた。

「あ奴等、そういう事だったのか」

桂もつい先ほどそれを思い出したらしく、また長い溜め息を吐いた。
そして、その指先につまんでいた昼顔を取り、夢幻に渡す。夢幻はそれを受け取ると、珍しげに見つめた。


「誕生日、おめでとう」


ふいに掛けられた言葉に再度驚き、夢幻は持っていた昼顔を落としそうになった。そして数秒の沈黙の後、

「こたろ、も……おめで、とう」

桂はそれにふっと笑うと、夢幻の頭をぽんぽんと軽く叩き、立ち上がった。夢幻もそれに続いて立ち上がる。少し考えた後、貰った昼顔は髪に差しておく事にした。


「帰るぞ、夢幻」


掛けられた言葉に、夢幻は笑顔で答えた。