二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【銀魂】銀ノ鬼ハ空ヲ仰グ—花曇編—【夢幻誕うp】 ( No.427 )
日時: 2011/08/04 10:46
名前: 李逗 ◆Dy9pHDxQUs (ID: r9bFnsPr)

第二十三訓  展開早ェとか言わないで……え?そうでもない?


相も変わらず後方から聞こえてくる轟音に、神楽はぐっと唇を噛んだ。

神楽と桂は、未だに延々と続くかに思われる通路を走り続けていた。
夢幻を庇った時に受けた攻撃による脇腹の痛みは、立って走る事が出来る位には回復している。身体を捻らない限りは、だが。
神楽の前を走る桂は、先程から全くと言っていいほど喋らない。それ程朱音達親子を探す事に集中しているのだろう。
いや、集中しないと時折聞こえてくる後方からの激しい物音に気を取られて足を止めそうになってしまうのだ。夢幻と無黯が戦う事によって生まれる音は、二人の居る場所から遠く離れたここにも変わらず聞こえてくる。それどころか激しさを増しているようにも思えた。
音が聞こえると、神楽は足を止めそうになる。その度脳裏には桂が言った一言が蘇るのだ。

“だが俺は、夢幻を信じているからな”

そう言った桂の横顔に、銀時の横顔が重なって見えた。だから、と言うわけではないのだが。

(今は夢幻を信じるネ)

きっと一番夢幻を心配し、そこへ駆けつけたいと思っているのは、自分の数歩先を行くあの電波野郎なのだ。


それからまた暫く走った頃。
前方を走る桂の足がぴた、と止まった。

「ヅラ、どうしたアルか?」

尋ねながら、神楽は桂の横から顔を覗かせた。
立ち止まった桂の二、三歩先にあったのは、

「これ、扉ネ」

鉛色の大きな扉だった。桂は神楽にうむ、と頷くと、自分の右側に視線を移す。
今迄二人が走ってきた通路は、扉の前で丁度突き当たりになっていて、そこから右側に折れまた通路が続いている。その先には明かり一つ無く、何があるのかもどれ位続いているのかも確認する事は出来なかった。

「よっしゃぁぁあ、開けてみるアル!!」
「待て、リーダー」

やる気十分で扉に手を伸ばした神楽を、桂が制した。何だヨちくしょー、と言って、神楽は頬を膨らませる。

「罠、ということも有り得る。俺の後ろに———!?」

隠れていてくれ、と言おうとした瞬間、桂は何かの気配を感じ、ばっと天井を見上げた。その右手は既に左腰の刀の柄に触れている。
何をしているのかと不思議そうな神楽を尻目に、桂は天井の排気口を凝視する。ことん、という小さな物音——常人では聞き取れない様な音をとらえた瞬間、桂は叫んでいた。

「リーダー、後ろに跳べ!!」

切羽詰った桂の声に驚いた神楽は、とっさに後方に跳ぶ。神楽が着地するが速いか、がしゃんと排気口が開き、そこから二人の天人が現れた。

「ヅラぁっ!!」

桂にその刃を向けんとする天人を見た神楽は、反射的に傘の銃口を天人に向ける。一方桂は神楽のそれよりも速く、既に行動を起こしていた。
跳べ、と言ったと同時に桂は自身も半歩分後ろに下がり、天人が現れた時には既に刀の鯉口を切っていたのだ。
刀を振り上げ落下してくる天人めがけて、びゅんと銀の一閃が走る。
声を上げる余地も無く、二人の天人はどしゃ、と倒れた。

「殺しちゃったアルか……?」

神楽に訊かれ、桂はいや、と首を横に振り、神楽に刀の切っ先を見せた。
きらりと銀色に光る刃には、それを曇らせる赤い血は一切付いてはいなかった。いつか見た和月と同じ、峰打ち。それを見て、神楽はほっと胸を撫で下ろした。
桂は刀を鞘に納めると、懐から縄を取り出し天人二人を縛りつけ、武器を奪い取って通路の奥に放り投げた。

「ヅラ、ここ開けてもいいアルか!?」
「ああ、慎重に、だぞリーダー」
「分かってるネ!」

桂にそう答えると、神楽は数歩後ろに下がった。そして体を低く屈め、

 走った。


「ちょ、リィィィダァァ!?」


どがしゃぁぁあ、と。
神楽の盛大な跳び蹴りを受け、見た目重たそうな扉は吹っ飛び、その奥にあるであろう部屋の中に落ちた。

「チッ、ショボい扉ネ」
「リーダー俺の声聞こえた? 慎重にと言ったんだが」
「オメーの言う事なんざハナから聞く気無いアル」

腐れ電波が、とその後に続けると、神楽は部屋の中に入っていった。桂もその後に続く。
部屋の中も通路と同じく薄暗く、壁の蛍光灯が唯一の明かりになっていた。誰かいないものかと眼をこらして辺りを見回していると、

「……神楽ちゃん?」

小さな、か細い声が聞こえた。

「朱音ェ!」

それはまさしく朱音の声で。声の聞こえた部屋の角へ行くと、そこには確かに両手両足を縛られた状態で朱音が居た。
縛られている手首と足首が赤くなってはいるが、他には特に外傷も無い。

「良かったヨ朱音ェ! どこも痛いとこ無いアルか!?」
「かぐらちゃ……」

そう言うと、朱音はぎゅうと神楽にしがみ付いた。余程怖かったのだろう、微かに肩が震えている。
桂は再度刀を抜くと、朱音を縛っていた縄を慎重に切った。

「リーダー、朱音殿。今すぐここを出、夢幻のもとへ行こう」
「ヅラ、銀ちゃん達はどうするネ?」

銀時達はどうしたのだろう。朱音の兄と父親を、助け出す事ができたのだろうか。
すると、桂は懐からある者を取り出した。何話前に登場したのかも忘れていた、かれーだーである。

「一応これで連絡を取ってみよう。やらねばならん事もあるしな」

そう言うと、桂はかれーだーの発信ボタンを押した。