二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【銀魂】銀ノ鬼ハ空ヲ仰グ—花曇編—【高杉誕加筆訂正】 ( No.439 )
日時: 2011/08/20 11:41
名前: 李逗 ◆8JInDfkKEU (ID: r9bFnsPr)
参照: まさかの2度目の文字数オーバーorz②↓に続きます


第二十四訓  部屋に入るときはまずノック


銀時、和月、新八の三人も、長い通路の先にある扉を見つけていた。

大勢の敵とはち会った桂達とは違い、三人はあまり敵と会わずにここにたどり着けた。
それは良いのだが、敵と会わなかった時間のぶんだけある種の不安のようなものが少しずつ大きくなってゆく。顔にこそ出していないが、それは銀時も同じだろう。

(敵が少なすぎる)

自分達の拠点に侵入者がいるのに、何故それを排除しようとしないのか。ほんの少し前からすっと、和月はその事ばかり考えていた。
と、その時。

『銀時、おい銀時!』

一歩前を走る銀時から桂の声がして、三人は扉の直前で足を止めた。
銀時は懐から声を発した物——かれーだーを取り出す。和月と新八はそれを横から覗き込んだ。

「ンだヅラぁ。俺達ァ今忙しいんだよ」
『ヅラじゃない桂だ。良いか銀時、よく聞け』

桂は百回言えば百回馬鹿正直に返事をするお決まりの台詞を言うと、少しだけ声を低くした。銀時が黙った事を確認すると口を開く。

『俺達は今、無事に朱音殿を救出した』
「コタ兄ィ、神楽と夢幻は!?」

思わず訊いた和月に、桂のうむ、という返事が返る。

『少し怪我はしたが、リーダーは無事だ。……夢幻は今、戦っている』
「た、戦ってるってどういう事ですか!!」

桂が言い終えた瞬間、和月よりも先に新八が叫んだ。血相変えたその養子はきっと自分も同じだろう。

『捜索している途中、夜兎族の少女に道を阻まれてな。……だから銀時』

只の気のせいかもしれないが、和月には銀時が“夜兎族”の部分で眉を寄せたように見えた。
桂は更に続ける。

『俺達は今から夢幻のもとへ行き、合流してそのまま脱出するつもりだ。——その際、いくつか時限爆弾を仕掛けていく』
「ちょ、コタに……」
『一時間だ』

和月を遮って放たれた言葉に、ぴしりと三人のまわりの空気が固まった。

『一時間でそこを出ろ』

一時間。桂はそう言い切った。
一時間で朱音の父と兄を救出し脱出するのは、些か無理がある。だってこの扉を見つけるまでに一時間近くの時間がかかったのだから。しかも三人の通ってきた通路は、この扉を前に終わっていた。ここに来るまでに他に扉は無かったから、部屋の中に扉を見つけられなければ来た道を戻らなければならなくなる。

「桂さん、幾らなんでも無茶ですよ!! せめて後三十分は必要です」

和月と同じ事を考えたらしい新八がそう反論した。
その後桂の声は聞こえず、暫くの沈黙が続く。桂の事だから何か理由があるのだろうが、さすがにこれは無理に思えた。

『夢幻の治療をせねばならん』

沈黙を破ったのは桂だった。

『だから—……』
「解った」

桂の言葉を遮った銀時は、大袈裟にも思える溜め息を一つつく。

「要するに一時間以内に脱出すりゃ良いんだな? 何とかなるだろ」
『すまん、銀時。治療が終わったら俺も戻ろう』

ちょ、銀さん!と思わず身を乗り出した新八に静止をかけ、桂と二言三言会話を交わすと銀時は懐にかれーだーを仕舞った。
その行動を見て、和月はやっぱりなとどこかで納得している自分に気付く。多分桂が一時間、と言った時点で銀時の答えは決まっていたのだろう。いや、むしろはじめからそのつもりだったのかもしれない。夢幻が戦っている、と聞いた時から。

「銀さん、本当に大丈夫なんですか?」
「大丈夫も何もやるしかねーだろ。何とかなんだろ、多分」

不安げに訊く新八に銀時はそう言うと、扉の取っ手を掴み、押した。

Re: 【銀魂】銀ノ鬼ハ空ヲ仰グ—花曇編—【高杉誕加筆訂正】 ( No.440 )
日時: 2011/08/20 11:52
名前: 李逗 ◆8JInDfkKEU (ID: r9bFnsPr)
参照: まさかの2度目の文字数オーバーorz①↑の続きです

ぎぎぃという音と共に扉が開くと、そこはかなりの広さのある部屋だった。万事屋が丸々二個入るくらいの。部屋の中は今迄通ってきた通路と同じく薄暗い。

「暗っ。ここどこか電源無いの?」
「こっちの世界でも節電か? 節電なのか?」
「こっちの世界って何ですか。世界が崩壊する様な発言はやめてくださ——……」

と、そこで新八の突っ込みが止まった。

「……あれ、何ですか?」

ある一点を指差した新八につられて、和月と銀時もそちらを見やる。
指差した先は、その角だけが格子状の牢屋になっていた。牢の隣には扉がある。そしてその牢屋の中に、黒い塊が一つ。

和月はそれを見た瞬間、反射的にそこへ向かって駆け出した。薄暗いこの部屋に、和月と、和月を追うようにして走り出した銀時と新八の足音がやけに大きく響く。牢屋の前で三人はしゃがみこみ、それを見つめた。

「……男の人だ」

それは確かに人だった。両手両足が鎖でしばられてあり、怪我を負ってはいるが微かに呼吸もしている。
和月の左隣にいた銀時は格子の間に腕を突っ込み、おいと声を掛けながら男を揺すぶった。

「おーい、生きてるか」

その声に、男は低く呻ると閉じていた瞼を上げた。歳は二十代後半から三十代前半だろうか。

「貴方達は……」
「僕達、五十鈴朱音ちゃんの頼みで貴方と貴方の息子さんを探しに来たんです。貴方は五十鈴眞前さんですよね?」

新八の問いに、男——朱音の父である眞前ははいと頷いた。それを聞き銀時は立ち上がる。

「そうとわかりゃ話は早ェ。さっさとここ出て、次はおめーさんの息子探しだ」

そう言うと、銀時は腰の木刀を抜いて構えた。木刀で鉄を斬るつもりなのかと、和月はぎょっとして彼を見る。

「ちょ、銀時兄ィそれで斬るん!? だってそれ、木刀……」
「銀さんの愛刀なめんなよ和月ィ。こいつぁとある超能力者に作って貰った代物でな」
「え、まじでか。あたしもそれ欲しい!!」
「てめーは何デタラメ教えとんじゃァァ!! 和月ちゃんも何信用してんですか!!」

新八の突っ込みは部屋の中にぐわんと響いた。馬鹿二人に更に何か言おうと口を開いた時。

「あの。……ここに晃己はいません」

新八を遮った眞前の言葉に、三人は驚いて彼を見やった。
突然の台詞に全員が黙りこくる。それを破ったのは銀時だった。
銀時は木刀を構えると、びゅ、と真横に振る。新八の眼にその剣筋は上手く捕らえられなかった。一瞬空いてから、がしゃんという物音とともに鉄格子が壊れ、床に落ちる。
和月は立ち上がると牢の中に入り、眞前の自由を奪っていた鎖を刀で断ち切った。

「おい、今のはどういう事だ。俺達にも聞く権利あるだろ」

銀時はいつもと変わらぬ声で、新八の支えられて立つ眞前に問うた。

「それが……」

眞前が口を開いた、その瞬間。
ばぁんと乱暴に扉が開き、大勢の天人が部屋に流れ込んできた。

「……な」

三十名はおろうかという天人。そのうちの数名は出で立ちからして恐らく夜兎だ。それを見て新八は転びそうになり、和月は牢から飛び出して銀時の隣に並んだ。

(待ち伏せされてたんだ)

侵入者を一気に袋叩きにするために。
この部屋に至るまでに天人と遭遇しなかったのは、つまりそういうことだったのだ。

「和月、お前新八とここから脱出しろ」

銀時に言われて、和月は口の端に笑みを浮かべた。そう言われる事位、天人が乱入してきた時から予想していた。

「やだよ。銀時兄ィばっかり良いとこ取りじゃん。あたしが主人公なんだから、かっこつけさせてよ」
「何言ってんのお前。銀さんあってのこの小説だからね。俺いないと成立しないからね」

銀時と和月のお互いの眼がかち合う。ふたりはにぃ、と口角を上げた。

「新八、お前その人連れて逃げろ。時間がねぇ」

銀時はそう言って、木刀を新八に投げつけた。
桂から連絡があって、既に十五分近く経っている。大人一人支えた新八がここから脱出するには、今すぐに出なければ間に合わない。不満そうな顔をしてはいたものの、新八は早く戻ってきてくださいと言って後方の扉から部屋を出た。
残された二人は前方の天人と対峙する。

「こんな大勢で出迎えたァご苦労なこって」
「違う銀時兄ィ。見送りだよ」
「あー、そうか。……だけどな」


そして。


「「野郎に見送られてもなんも嬉しくねーや」」


二人は同時に駆け出した。