二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【銀魂】銀ノ鬼ハ空ヲ仰グ—花曇編— ( No.459 )
- 日時: 2011/09/04 12:23
- 名前: 李逗 ◆8JInDfkKEU (ID: r9bFnsPr)
第二十八訓 なんやかんやで家族一緒が一番安心する……かもしれない。
『『ああぁああぁぁああああ!!!!!』』
直後、雑音。
桂はかれーだーを通して聞こえた銀時と和月の叫びを最後に、それを袖の中に入れた。
「桂さん」
名前を呼ばれてそちらを向く。そこには、つい先ほど建物から出てきた新八と、彼に肩を貸された朱音の父、眞前が居た。体中に痛々しい傷が付いて痩せてはいるが、命に別状は無いようだ。
「お父さん!!」
神楽と夢幻と居た朱音が、たたたと走って眞前に飛びついた。眞前はよろめきながらも彼女を受け止め、逞しくも抱き上げる。お父さん、お父さんと繰り返す朱音に、彼もまたすまない、と何度も返した。その姿を見て、桂達の顔には自然と笑みが浮かんでくる。
自分達が中に居た間に降り続いていた雨は止んでいて、重い雲間からは日の光が差し込んでいた。じきに晴れるだろう。
「新八ィ。和月と銀ちゃんどうしたアルか? 何でお前と一緒じゃ無いネ」
「それが……」
神楽の問いに新八は少し表情を曇らせた。
「眞前さん見つけて脱出しようとした時、急に部屋に天人が沢山入ってきて」
新八の脳裏に、その時の光景が蘇る。三十名近く居た天人。しかもそのうち五名は夜兎族だった。
「僕に眞前さんを連れて逃げろって言って、二人は中に残ったんだ」
「残ってるって、戦ってるって事アルか!?」
うん、と新八が頷くと、神楽は心配そうに工場を見た。先ほど急に現れ、去っていったあの戦艦。あれに敵が乗っているという事だろうか。あの二人は強いからきっと大丈夫だと思う。問題は爆発までの時間に間に合うかどうかだ。
「こたろ……あと、どれ位?」
腕や足に包帯を巻いた夢幻が桂に訊いた。桂はかれーだーを三度取り出し、画面の左上に記された数字を見る。
「……あと五秒だ」
その言葉に、全員が顔を引きつらせた。二人が工場から出て来る気配はまだ無い。
「三」
自然皆、一歩後ろへ退く。
工場の方から、あああああと叫ぶ声がした様な気がした。
「二」
直後、扉が開き、白と銀が見えた……様な気がした。
「一」
どっかぁあああぁあん。
耳を劈く爆音と共に、工場がどんとはじけ跳ぶ。そしてそれによって生じた爆風によって、
「「ぎゃぁあああああぁっ!!」」
先ほど垣間見えた白と銀がこちらへ向かって吹っ飛んできたのだ。桂達全員が思わず身を屈めた為、その吹っ飛んできたものは後方の建物にぶつかり、どしゃりと地面に落ちる。
全員が黙して見つめる中、白と銀が——銀時と和月が、のそりと顔を上げた。微かに血飛沫の飛んだ顔は煤で汚れている。
「銀ちゃん和月ィィッ」
飛びついて来た神楽を手で制すと、二人は膝に手を突いて立ち上がる。どれ程全力で走って来たのか、その顔は疲れ果てていた。
「無事だったか。銀時、和月」
「これ見て無事に見えんのかテメーは!!」
和月は桂に蹴りを入れる銀時を尻目に、和月心配したヨと言う神楽の頭をぽんぽんと軽く叩く。すると夢幻が手拭いを差し出して来て、有り難く受け取り顔の煤を拭う。手拭いから顔を上げたとき、何時の間にか近くに来ていた五十鈴親子が目に入った。
「あの。私を助け出して下さって、本当に有難う御座います」
そう言って頭を下げる眞前に、新八が顔を上げて下さいと懇願する。その後も深く頭を下げ続ける眞前を見てか、銀時が彼に近付いた。
「なぁ、さっき言ったここにお前の息子が居ねぇってのは、どういう事だ」
「それが……」
眞前はちらりと隣に居た朱音を見やる。銀時達は眞前が話し出すのを待った。
「眞前は今、京都に居るんです。江戸に来る途中に置いて来ました」
「何で!? 何で兄ちゃん京都に居んの!?」
朱音が眞前に縋り付く。話しにくい、と思ったのか。眞前は朱音を引き離すと、新八と神楽の真ん中に立たせた。
「皆さんもきっと知っていると思いますが——私は攘夷活動の為にここに来ました」
山陽地方の過激派攘夷党にいた彼は、言ってみればスパイの様な役柄にいた。ある日、江戸に天人の集団が入ったとの情報が入り、それが何なのかを調べ上げ、本隊に連絡し幕府転覆にどうにかして利用する為に眞席が送り込まれたのだ。朱音の兄である十三歳の晃己は、眞前に何かあったときの為に連れてきたのだが、京都で体調を崩した為、親戚の元に置いて来たのだと言う。
「ですが、少しばかりヘマをやらかしてしかって、捕まってしまったんです」
そう言って苦笑いを浮かべた眞前を、銀時たちは黙って見ていた。
「……違うでしょ」
不意に口を開いたのは和月だった。その場に居た全員の視線が和月に集まる。和月のその日の光にも似た目は、真っ直ぐ射る様に眞前を見据えていた。
「あたしには、あんたが望んで過激派攘夷党に在籍する様な人間には見えない。まして幕府転覆とか考えるとは思えない」
その台詞に、眞前はぎょっと眼を見開いた。和月は直も言い放つ。
「あんたは攘夷志士じゃない。脅されて……朱音のお兄ちゃんを人質に取られて仕方なく協力した。違う?」
和月の言葉を、銀時と桂も肯定した。どうやら二人も和月と同じ事を考えていたらしい。この目の前にいる男が、自分の子どもを放って攘夷活動を行うとはどうしても思えなかったのだ。
暫くの沈黙の後、眞前は首を縦に振った。
「……そうです。晃己が京都に居るのは、攘夷志士に人質に取られているから」
と、そう言うと眞前は突然地面に膝をつき、頭が地に付く程頭を下げてきた。その行動には流石に驚き、思わず和月は一歩退く。
「この事、真選組には言わないで頂きたい。喋ったとばれれば晃己は殺されてしまうんです」
お父さん、と名前を呼ぶ朱音の手を、神楽が握る。新八も夢幻もどうしたらいいのかと、銀時達三人に視線を向けた。
「眞前殿、顔を上げてくれ。俺達には土下座される理由はない」
桂が言うと、眞前はゆっくりと顔を上げた。立ってくれ、と促され、桂の手を借りながら立ち上がる。
「なァ、お父さんよォ。お前真選組にばれたら殺されるとか言ってるが、あいつらもそんな馬鹿じゃねぇだろうよ」
「しかし……」
銀時の脳裏に思い出されたのは、今朝会った寥とアリスの姿。あの二人がいるならきっと大丈夫だろう。それにあの二人がいなくとも、話せばあのゴリラやらマヨやらドSも調べ上げてくれる……筈だ。(特にマヨは)嫌いだけれども。
「明日には全部カタが付く」
不安気な眞前と朱音とは裏腹に、銀時はらしくもない奇妙な自信に満ちた顔を浮かべた。