二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【銀魂】 銀ノ鬼ハ空ヲ仰グ 【あんけーと!】 ( No.497 )
- 日時: 2011/10/17 11:33
- 名前: 李逗 ◆hrygmIH/Ao (ID: cebg9jtM)
第三十訓 天然モノってあらゆる面においてある意味最強
それは梅雨入り前の晴天の日。
銀時、和月、神楽、新八の四人は、特にあてもなくかぶき町の大通りをぶらぶらと歩いていた。もとは買い物を終えたらすぐに帰るつもりだったのだが、青絵の具をぶちまけたような空と若草のにおいを運ぶ風に誘われて、足を伸ばしたのだ。
いつも賑わっているこの大通りもいつにも増して人通りが多く、心なしか道行く人々の足取りも軽く見えた。
「……銀?」
ふいに聞こえた、声。和月には聞き覚えのない声であったが、ぴたと止まった銀時たちにつられて足を止めた。
「銀に、神楽ちゃんと新八……だよね?」
それ程大きくは無いが、喧騒の交錯する人ごみにあってしてもよく通る声。その瞬間、和月を除く三人はばっと後ろを振り返った。数秒遅れて、和月も振り返る。そこにいたのは和月とさして歳も変わらぬ少女だった。
「穂乃嘉ぁ!」
神楽が叫ぶ。
穂乃嘉、そう呼ばれた少女は人ごみの中にこりと微笑んだ。
————
「久しぶりアルナ、穂乃嘉!」
「半年ぶり位になりますよね?」
所変わって、ここは大通りを一本はずれたところにある団子屋。店の前に容易された長椅子二つのうち一つに神楽と穂乃嘉が、その向かいに銀時と和月と新八が座っている。
穂乃嘉は時たち三人と知り合いらしく、神楽や新八と仲良さげに話していた。
「あれ、」
と、そこで穂乃嘉は話をやめ、和月を見つめてきた。大きな金色をした眼だ。ふたりの目がかち合い、和月が名乗る。
「あたし和月だよ、斎賀和月。よろしくね」
「和月はこないだここに来てんだよ」
和月が名乗ると、銀時がフォローを入れてくれた。その左手には団子。餡子がいっぱい乗ってるやつだ。
「はじめまして、私は中野穂乃嘉って言います! 穂乃嘉でどうぞーっ!」
大きな愛らしい眼に、整った顔立ち。その長い髪は金色にも見える茶髪をしていて、すれ違った十人中八人が振り返るような美人さんだ。
四人は一体どんな関係なのかと、和月は銀時に視線を向けた。その視線に気付いたらしく、銀時が手短に説明する。
「穂乃嘉はお前が来る半年前まで真選組にいたんだよ。まァ今は江戸を出てるがな」
ということは、アリスや寥も穂乃嘉のことを知らないのだろう。前はじめて寥に会ったとき、土方は寥のことを「入隊したばっか」だと話していたから。
「移動することになって引っ越したんです。今日はお休みなんで遊びに来ました!」
穂乃嘉はそう言うと、にっこり微笑んだ。彼女の隣にいた神楽は唇を尖らせる。
「じゃすぐに帰っちゃうアルカ、穂乃嘉」
「うん。夕方には帰るね」
「もっとゆっくりしていけばいいじゃないですか、夕飯つくりますよ」
そういう二人の言葉を穂乃嘉はやんわりと断ると、既に運ばれていたみたらし団子に手をのばした。十本入りで注文していた団子の半分はすでに神楽の胃袋に消えている。
「ねぇ穂乃嘉、敬語使わなくていいよ。同い年位でしょ?」
がたんと身を乗り出して和月が言うと、穂乃嘉は一瞬眼を見開いた。和月がそう言うとは思わなかったのだろう。
「うん——よろしくね、和月ちゃん」
戸惑いながらも微笑んで見せた穂乃嘉の笑顔。やはり美人さんで、これを向けられたら誰でも即KOではないのだろうか。ある意味最強の武器である。
「ねぇ銀、久しぶりに万事屋行きたいな、良いでしょ?」
「おー」
銀時の了承を得た穂乃嘉はやったぁと言って立ち上がった。早速万事屋へ帰ろうと、その場にいた全員もそれにつられて立ち上がる。
「れっつごーアル!」
神楽の掛け声と共歩き出した、その刹那。突如、和月の前を歩いていた穂乃嘉が消えた。
「ほほほ穂乃嘉ぁぁっ!?」
神隠し、はたまたテレポートでもしたのかとありもしないことが頭に浮かんだ和月だったが、穂乃嘉はすぐに見つかった。
……和月の足元で。
どうやら転んでしまったらしいが、地面はきちんと整備されているため躓くようなものは何も無い。
「いてて、転んじゃった」
そう言って立ち上がる穂乃嘉の顔には赤い擦り傷。何も無いところで転び怪我をしたにも関わらず、彼女はえへへと笑っている。
和月の脳裏にある言語が浮かんできたのはそれを見たときだった。和月はざっと真後ろにいた銀時の方を振り返ると、小声で訊く。
「ねぇ銀時兄ィ、あのさ、もしかしてさ」
和月のその先に続く台詞を予想したのが、銀時はしきりに頷いている。
「「穂乃嘉って天然じゃね」」
何も無いところで躓き転ぶなど、天然以外の何者でもない。穂乃嘉のある意味最強の武器その弐である。
そんな事を考えている銀時と和月の目線の先では、心配して寄って来た新八と神楽に、穂乃嘉が満面の笑みを浮かべていた。