二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 凍りつく花、 〔テニスの王子様〕 ( No.31 )
- 日時: 2010/08/12 11:35
- 名前: 黒百合 (ID: TtH9.zpr)
- 参照: “スキ” 一言で壊れてしまう。 大切なこの関係が、一瞬で。
005 謎的発言 離那ver.
「そんじゃ、行ってきまーす」
美耶は母にそう言い、玄関の戸を開ける。
母はパタパタとスリッパをならしながら、美耶の見送りに来た。
「今日も早いのね、」
「あぁ、関東大会決まったから。 もうすぐ抽選なの」
「へぇ、今年も順調なのね」
母のその言葉に、美耶は少しだけ顔を顰めた。
「どうだろ、コンソレーションだったし、不動峰に借りを返さなくちゃね」
それだけ言い残し、美耶はもう1度母に手を振り、家を出た。
(うちがコンソレーションなんて、なんだか信じられなかったなぁ)
自分の発言を振り返り、美耶はふと思う。
(不動峰、確かに強かった)
宍戸が負けた橘を含む、全員。
2年生ばかりだというのに、あれだけの戦力があるのには、驚いた。
「まぁ、こっちもベストメンバーじゃなかったし」
「何が?」
「ふぇ、きゃぁ?!」
美耶の視界が暗くなる。
そして、額に冷たい何かがぶつかった。
「だ、大丈夫?! ごめん、タオル持ってくるよ!」
ぼやけて見えた美耶の視界に現れたのは、捻りはちまきをした1人の少年。
「ごめん、大丈夫?」
「え、あ、ありがとう」
どうやら美耶は、頭に水を被ってしまったようで。
少年はタオルで美耶の髪を丁寧に拭く。
そのタオルには、“かわむらずし”の文字が。
「河村くん、朝から手伝い?」
“河村”と呼ばれた少年は、ニコリ、と微笑み頷く。
「今日は朝練が休みなんだ。 だから、修行も兼ねて、ね」
「偉いね」
「そんなことないよ、氷帝は?」
「なんか、宍戸が気合い入っちゃってる。 朝練の時間も早くなったしね」
美耶は少しだけ近況報告をする。
河村の所属する青春学園テニス部と氷帝はライバル関係である。
もっとも、跡部が手塚を敵対ししているだけなのだが。
他のレギュラー陣は、自信があるのかそれほど気にしていない様子。
宍戸に限っては、レギュラー復帰を果たして“油断”という言葉を忘れたようだ。
「そっか、ごめんね。 時間取らせちゃって。 急いでるんだろ?」
「あ、ううん。 こちらこそ、」
「それじゃ」
河村に軽く手を振り、美耶は学校へ向かう。
バスに乗れば、もうすぐそこ。
———氷帝学園———
「何で、髪濡れてんだ?」
朝練も終わり、ジローと宍戸と3人で教室に向かう途中。
宍戸がふいに尋ねる。
「え? あぁ、ちょっと水被ちゃって」
美耶は笑いながら応える。
「はぁ? 水? なんで」
「んっと、河村くんにぶつかってね、」
「河村っていうと、青学のか?」
そんなコトを確認してくる宍戸。
「そうだよ? 河村寿司、うちの家から近いんだ」
そんな具合に、美耶は今朝の出来事を宍戸に話す。
宍戸は、心中穏やかではなくて。
(コイツ、結構顔広いのな・・・)
なんて、どうしようもない心配をしている。
それを知るよしもない美耶は、1人でペラペラと話していた。
そうしているウチに、見えてくる靴箱。
「あ!」
「どうした?」
宍戸が尋ねると同時に美耶は走り出していた。
運動神経0なのに、その時ばかりは誰よりも速く。
「おはよー!! 竹下さん」
“竹下”、と呼ばれた黒髪の少女は吃驚した表情で振り向く。
美耶はそんな離那の肩を、ポン、と叩いた。
誰にでも、するようなノリで。
誰とでも交わすような挨拶を。
「あ・・・・・・」
「あ、解る? 同じクラスの海神美耶ですー」
「あぁ」
離那は不思議なモノでも見るような瞳[メ]で美耶を見る。
美耶はそんなこと気にする様子もなく、ただヘラヘラ笑っている。
「おい、美耶!!」
後から、小走りで追ってくる宍戸。
「あ、ついでにコレが宍戸、ね」
「何だよついでって」
宍戸はきょとんとして美耶を見た後、隣にいた自分のクラスの転校生に目を向ける。
すると、離那の方も、宍戸へ視線を送っていた。
「・・・・・・・・・・・・、知ってるわ」
クス、と離那は口を歪ませる。
「え?」
宍戸が疑問をそのまま言葉にした時には——、離那はもう進み始めていた。
「あ、竹下さん、一緒に行こうよ」
美耶も急いで、靴を履き替える。
そして、離那の後をペタペタと付いていった。
「何だろうね、今の」
ふいに自分の後ろから聞こえた声に、宍戸は驚く。
「ジ、ジロー、起きてたのかよ」
「うん、途中からだけどねぇ」
宍戸の背中から、ひょいっと降りる慈郎。
「なーんか、有りそうだね〜 離那ちゃん」
「ジロー・・・・・・・・・?」
美耶は、忘れていた。
昨日の、離那の笑みを。
「ねぇ、前は何処の学校にいたの?」
「・・・・・・、昨日の話、聞いてた?」
「え、」
「立海」
「え?」
「・・・・・・、だから、立海」
「そっか!!」
完全に忘れていたからこそ、彼女は気がつかない。
“謎的発言”に。
——————
「来たか・・・・・・、」
紅茶を一口口にしながら、彼は悪寒を感じていた。