二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: [銀魂]拝啓、大嫌イナ神様ヘ。 ( No.11 )
- 日時: 2010/08/20 18:57
- 名前: 瓦龍、 ◆vBOFA0jTOg (ID: ALFqxRJN)
■1 赤と黒と君と闇
倒れる、倒れる。仲間が次々と地面に突っ伏していく。
彼女は今、自分が踏んでいる屍が仲間のものか敵のものかさえ解らなかった。
只一心に刀を振るう。気を反らしたら死ぬ。
返り血を衣服が吸い込み纏わりついてくるが、其れさえ気にしない。
クリーム色の髪は紅に染まっている。
ぎゃあぎゃあと煩い天人を弧を描くように横に斬りつけ一掃する。
やっと一通り片付けた事に安堵し、荒い呼吸を整えた。
取り敢えず周りもそろそろ片付いた事を確認する。
彼女はまだ生きているが深手を負った仲間である男を背負う。
意識は手放しているが、弱々しくも呼吸も脈もしているし動いている。
通常、子供の彼女が男を背負うと言うのは相当な力を必要とする。
が、彼女は簡単にやってのけた。軽々と体格の良い男を二人も。
ふう、と小さく溜め息を吐くと、彼女は歩き出した。
「あ、晋助」
「……俺は偶にお前が恐ろしくならァ」
「え?」
彼女—───無兎が皆の待つ本拠地に急いで男達を運んでいると、整端な顔立ちの男に出会った。
名を高杉晋助。鬼兵隊と言う軍隊を率いている、無兎の幼馴染である。
彼も勿論軍隊を率いているのだから戦に参加している。
先程の高杉の発言に首を傾げる無兎。しかし高杉は当たり前の反応をしたまでだ。
無兎は華奢で容姿端麗。そんな少女が猛者二人を易々と背負い担いでいると、驚愕する。
しかし彼女の基準は自分。戦場に女は無兎のみだ。故に年頃の娘の平均的な力など知りもしない。
紅一点にも拘わらず、彼女の力は「白夜叉」と呼ばれ恐れられている男に負けず劣らずのものだ。
女だからこそ出来る素早い身のこなし、舞うように相手を薙ぎ倒す様から、「紅の蝶」とまで言われている。
────其の身が紅に染まるまで血を浴び、敵を容易く踊るように華麗に薙ぎ払う様はまさしく宙を舞う蝶。
「よく解んないけど、こっちは片付けた。晋助はどう?」
「帰ろうとしてんだ。意味解るだろうが」
「あ、そっか。っと、早く帰んないと、こいつ等手当て出来ない」
此のようにふわふわとしているが、決して仲間が如何でも良い訳ではない。
此れでも仲間を人一倍心配し、仲間を大切に思っている。
只、上記の通り掴み所のない性格だ。其れでも小さい頃は素直で真面目であったのだが。
高杉は何時からこんな性格になってしまったのか、と考えた事がある。
そして、辿り着いた答えに納得しすぎた。
あの日、彼女は変わった。
確かに其れは彼女なのだが、悲しみを無理に隠そうとするあまり、あの性格が定着してしまったのだろう。
あの日は、彼女にとってだけではなく、彼等にとっても忘れる事の出来ない日。
泣き虫で弱虫だった彼女は、強くなり泣かなくなった。そして、雲のような人間になった。
ふわふわと空を漂うと言う点では、ある意味蝶と同じである。
彼等が戦う理由は、素晴らしい程バラバラだった。
「白夜叉」こと坂田銀時は大切な者達の為。
「狂乱の貴公子」こと桂小太郎は此の国の為。
高杉晋助は『先生』の為。
無兎は自分でもよく解っていない。
多分銀時達の背中を見ているだけの自分と決別する為だと彼女自身が思っている。
何の為かなど自分で決める事だ。自身がそう思ったのだから、恐らくはそうだろう。
と言う事は、自分の為とでも言うのだろうか。
兎に角此のように、見事にバラバラ。其れでも唯一の共通点がある。
────皆、『先生』の教え子であると言う事。
見ている方向は確かに違う。
だがしかし、今現在立っている場所は同じなのだ。
◆
ガラガラと音を立てて戸を開ける。
所々傷があったりするのは、天人達に一、二度攻撃を仕掛けられた事があるからだ。
屋根も同じく瓦が何枚か割れているのだが、あまり生活に支障はない。何より直している暇がない。
本拠地と言えば立派に聞こえるが、只のボロ家である。今の彼女等には住めるだけで有難い。
足を一歩踏み入れるなり全身が何とも言えない安心感に包まれ、一気に力の抜けた無兎。
気付いていなかったようだが相当消耗していたようで、カクンと膝が折れた。
バランスを崩し、彼女は転けそうになった。手を使おうにも男を背負っているので両手が使えない。
衝撃に堪える為目をギュッと瞑る。しかし何時まで経っても痛みは訪れない。
変わりに何かに包み込まれるようにしている気がして、彼女は恐る恐る目を開けた。
「ったく、帰ってきたと思ったら此れかよ」
心なしか、背中が軽くなる。
「無兎、帰宅したからといって気を抜いてはならんぞ。今のような事が今まで18回あっただろう」
「……遠足は家に帰るまでが遠足でしょ。帰ったら気ィ抜くもんなの」
「違ェと思う」
こけそうになった彼女を支えてくれたのは白夜叉。
そして背負っていた男達を担いだのは狂乱の貴公子。
ついでにつっこんだのは高杉である。
要するに坂田銀時に受け止められ、桂小太郎が男等を担いでくれたのだ。
唇を突き出して不満そうに文句を言うと、銀時に頭をペチリと叩かれた無兎。痛いと呟き再び文句を言い始める。
其の間に男達の怪我の具合を確認した桂は、現状を彼女に告げる。
「こ奴らは出血は多いが傷自体は大した事はないな。安心しろ、無兎」
先刻からちらちらと桂の担ぐ男の方へと視線を行ったり来たりさせていた彼女。
気になっている事は丸解りで、心配をさせまいと桂が気遣った。
彼の言葉に安心した彼女は、心底安心した笑みを見せる。其れから良かったと小さな声で言った。
相当な深手だと彼女は思っていたらしい。傷をよく見ずていなかったらしい。
もっと冷静になれと桂に指摘された無兎は、えー……と何故か嫌がる。
えー、じゃない! そう言われ、今度は桂に叩かれる彼女。文句と共に舌打ちを打つ。
取り敢えず手当は早くした方が良い。彼は男等を担ぎ直すと、向こうの部屋に彼等を運びに行った。
其れを見、何時までも此処に居ても意味はない事を思い出す。
一応医療班なるものがあるのだが、手が足りない時もある。
そんな時は、戦線に出ている者も手伝わなければならない。
今回は負傷者が多かったようで、其の状況に陥っているのだろう。
無兎は気付き、銀時に礼を言い彼から離れる。
動き易いよう特注で作った黒いブーツを脱ぎ、桂が入った部屋の襖を開けた。
(赤と黒と君と闇)
血と空と仲間と彼女の心