二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: [銀魂]拝啓、大嫌イナ神様ヘ。 |1up ( No.20 )
- 日時: 2010/08/20 23:05
- 名前: 瓦龍、 ◆vBOFA0jTOg (ID: ALFqxRJN)
■2 紅く紅く、
行動が何もかも急すぎる彼女に、銀時と高杉は顔を合わせて呆れる。
銀時の方は苦笑し肩を竦め、もう一方は溜息を吐いた。
と、くるりと無兎が振り向いた。
「そうだ。銀時はして貰ったみたいだけど、晋助まだでしょ」
はいこっち来て、彼女は手招きするが主語がない為さっぱり意味が解らない。
彼等が解読しようと考えている。
すると主語がなかった事に気付いたのか、あるいは倒置法なのか、「手当て」と言い高杉の腕を指差した。
確かに其処には鋭い刃で斬られた傷があり、血液は固まり始めている。
最悪の場合、何針か縫わなければいけないであろう傷が。
本人はあまり気にしていなかったようで、彼女に指摘されて思い出したような反応をする。
「ほら、だから来る。銀時も。足斬られてるでしょ」
其の場を去ろうとした銀時だったが、彼女に引き留められ足を止める。
「……ばれた?」
「ばればれ。銀時の服に付いた大体の血は天人のだけど、銀時の血はもっと……色が違うというか」
「どんな視力!?」
彼自身は大した怪我ではないと思っており、放っておくつもりだった。
しかし無兎に言われては仕方がない。
彼女は昔から、掠り傷だけで先生を呼んで大騒ぎするぐらい心配性だった。
現在は少しましにはなったが、変わりに鋭くなった。
────……敵わねぇな。
早く来いと怒鳴られ、銀時は大人しく彼女に着いていった。
◆
慣れた手付きで高杉に包帯を巻いていく姿を見れば、一見医療班の人間に見える。
手が足りない時は必ず手伝いをしている無兎は、必然的に色々覚える。
元々器用であった為、医療班としては彼女の手助けは嬉しい。
腕の傷は幸い縫う程でもなかった。
微温湯をかけて傷を洗い、消毒して包帯を巻く。
「ん、出来た。銀時はまだ? 他の人にやって貰った?」
「いや、まだだぜ。相当忙しいんだなあ、医療班」
「じゃあやったげる。はい座って」
高杉が立ち上がり、代わりに無兎の前に銀時が座る。
手当の途中、無兎が首を傾げた。
其れは傷に関してではなく、もっと別の事で。
「銀時、さっきから辰馬見てないんだけど……」
「あ? ああ、あいつはあれだ。屋根の上」
「成る程。何時ものあれか。“わしは宙に行く”ってやつ」
彼女の気になった事は、辰馬────坂本辰馬の事である。
坂本辰馬は幼馴染ではなく、此の戦争の途中で出逢った男だ。
特徴は土佐弁。銀時は銀髪の天然パーマなのだが、其れより酷い黒髪天パ。
戦を好まない彼の性格を彼女は好いている。
いや、戦が好きな者など誰一人として居ないだろう。
今も彼等は知っている。彼らの仲間が、兄弟が死に、毎晩嘆く声がある事を。
墓など作れない。代わりに亡くなった者の所有物や刀を盛った土に埋めたり、あるいは刺したりする。
坂本は、「 宙 」に行きたいのだと言う。
戦を好まないのも理由の一つだが、何より彼は無類の船好き。
頭は空だが、其の事に関してはちょっとしたものだ。
「辰馬。行っちゃう、宙に」
「おー。ま、良いんじゃねぇか? やりたい事やってんだしよ」
「うん」
包帯を巻く手を止めずに、寂しそうで嬉しそうに笑って言う無兎。
強気であったり儚げになったり、忙しい子供だ。
けれど、其れが彼女なのだ。仕方がない。
色々な感情の混じり合った笑みを浮かべている彼女。手当が終わり、銀時にもう動いていいと知らせる。
「お前あれだよな。包帯巻くの上手くなってきたな」
「上手くなりたくないけど。他の人はもう治療も終わったみたいだし、辰馬んとこ行っか」
「そーすっか」
即ち屋根の上である。
こんな状況で皮肉のように美しい星空を見上げ、辰馬と話すのは彼女にとって一時の安息。
彼は其処でよく寝ている。夜風が頬を撫でるのが気持ち良いんだろう。
銀時より先に小走りに襖へ走って行く無兎。
立ち上がって彼女の後に歩いて着いて行こうと銀時が腰を上げる。
すると、無兎が襖の前で立ち止まった。
怪訝な顔をして銀時も立ち止まらざるを得ない。
くるりと振り向いた少女の顔は、さっきと同じ微妙な表情。
「銀時、あのさ」
「んだよ」
「一人が嫌なの。何時か此の戦が終わって、小太郎も晋助も離れていくと思う。
もう独りにはなりたくないんだ。だから、少しで良いから、銀時の傍に居ても良い?」
「……何其れ。プロポーズ? 俺10歳児はちょっと」
「なわけないでしょ。自分も銀時みたいに自由になりたいだけ。じゃ、決定」
「まじでか」
「まじでだ。じゃ、おっ先に」
プロポーズ紛いの事を言った為銀時は勘違いをする。全くそんな意味はなかったが。
彼女は彼に憧れていた。自由でよく解らないけど、一本芯の通った奴だと認識している。
自由と言うのは個人がやりたい事をすることだ。
けれど彼女は、彼女一人では絶対に其れが出来ない。彼女の中に住まう罪悪感が自由の邪魔をする。誰か、誰でもいい、誰かが必要なのだ。
銀時は自由だ。何者にも捕らわれない。
彼の背中を見続けるのは癪だが、そうしていれば自分にとっての自由が見つかるかもしれない。
ずっと彼女は思っていた。故に戦が終わり目的を失った時は、銀時に着いて行くつもりだ。
銀時は後頭部を軽く掻くと、ゆっくりと辰馬の所へと向かった。
(其の少女、紅の蝶)
其れは一人の少女と四人の青年の物語。