二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: [銀魂]拝啓、大嫌イナ神様ヘ。 |4up ( No.36 )
日時: 2010/08/22 13:35
名前: 瓦龍、 ◆vBOFA0jTOg (ID: dNKdEnEb)

■5 大きな背中

彼女が背中を預ける人物。

戦場へと向かう前。
ふと思いついた無兎は、皆を呼びだし集合させた。
何時にも増してご機嫌な彼女は中々見られないので、逆に何かを企んでいるのではないかと思ってしまう彼等。
鬼兵隊から各々が持つ義勇軍まで全員集合だ。改めて見れば結構数があるもんだと高杉は感心する。
銀時は至極面倒臭そうに鼻を穿る。態度が悪いことこの上ない。
桂は腕を組んで立ち、隣の坂本は桂の肩に手を置き楽しそうに笑っている。
皆が集まった事を確認し、彼女は笑顔になった。

「皆来た。あのさ、ちょっと我儘聞いて。円陣、組まない?」

間。
真逆そんな事かとは思わなかったので、反応がなかった。無言になる。
何か不味い事を言ったのだろうかと戸惑う彼女。
少し俯き、ぱっと顔を上げた。

「ほら、皆生きて帰ってこようって。肩組んで、皆で言うの。そういうの好きなんだ……駄目?」

恥ずかしそうにもじもじしながら彼女は言う。
中々そんな姿は見れないので新鮮である。

もう仲間は失いたくない。生きて帰ってきて欲しい。
其れを互いに誓い合い、其の為に生きなければならないと心に刻む。
彼女は其れをしたかった。仲間の中には自分が死んでもいい、天人の数が少しでも減ればいいと思う者も居る。
其れが嫌だった。自分が死んでもいいと思う人は嫌いだった。大きな勘違いだ。
だから刻み付けて欲しい。自分は生きて帰って来なければならない、と。
帰りを待つ者が居る、生きて欲しいと願う者が居ると、解って欲しい。

彼女は心底想っている。仲間の事を。
そして────。

「何より、我らの勝利を願って」

再び口を開いた無兎の瞳は、真っ直ぐで美しいものだった。
集まった盟友達は未だ無反応。
別に彼女が大した力を持っていないのに出しゃばっているから、というわけではない。
指揮者が居ない為誰がどんな事を言おうと自由だ。
しかし言いだしたのが女であるから迷っているのだ。少女で、未だ10歳の子供であるから。

だが、四人だけ彼女に歩み寄った者達が居た。
黙って彼女の肩に腕を回す桂。続く銀時、高杉、坂本。
更に彼等に続き、徐々に線は長くなり、やがて円となる。
円となった彼等は淡い笑みを浮かべ、各々が其々の思いを抱き肩を組んだ。
初めこそ言いだした本人は彼らの行動をポカンとしてみていたのだが、人の円が出来る頃には嬉しそうに微笑んだ。

そうして互いに互いの生存を望んだ。
あまり笑顔を見せない者達も、其の時ばかりは柔らかな笑顔を見せていた。

此れから行く場所が戦場とは、とても思えない程に優しい雰囲気を纏っていた。

  ◆

「ヅラァ!! そっち行ったぞ!!!」
「ヅラじゃない桂だァ!!」

赤い液体が宙を舞い踊る。銀時が相手をしていた天人が桂の方へと標的を変える。
だが桂の剣も中々のものであるので、天人は呆気無く上下真っ二つに分かれた。
切断された胴体から夥しい量の血が噴き出す。
近くで応戦していた無兎は初めの頃は吐き気を催したが、現在は平気になってしまった。
只管に刀を振るい、天人達を斬り倒していく。
時には袈裟斬り、時には下から掬い上げるように。ストレート突っ込んでくる輩には心臓を一突き。
女であるから体は軽く、素早い動きで敵を惑わす。
体力は通常の成人男子より遥かに上だ。息切れ一つ無しに飛びまわる。
髪が返り血を吸い赤く染まる。

「あー─もうッ! 帰ったら絶対髪切る。もう切る。頭が重い」

言いつつも動きはしなやかで軽やかであるが。
桂が彼女の背後に回る。後ろから狙う天人を横に刀を一閃させて斬る。

「だからあれ程──切れと言っただろうッ!!」
「辰馬が切るのを毎回阻止すんだってば」
「何なら今切ってやろうか?」
「首が飛ぶ」

背中合わせに立ち一旦呼吸を整える。
次から次へと天人が攻撃を仕掛けてくるので、流石に体力が持たない。
言い合いをしながら刀を振るっているのに正確に天人を斬っている所が彼等の凄い所だろう。
もう一度足に力を入れ、地を強く蹴る。
宙を舞い、一回転の後斬りかかる無兎。走り出し、弧を描くように斬る桂。

双方、絶対に自分の背中を見なかった。

其れは非常に危険であるのだが、其れでも見ない。目の前の敵にだけ意識を集中させる。
互いに信頼しているからこそそういった事が出来るのだ。
後ろから殺気を感じた時は振り向くだろうが、今まででそんな事はなかった。
二人でいる時は互いに互いの背中を預けようと約束していた。
同じ場所に居る時は、絶対に相手の背中を守る事を誓った。

彼女が背中を預ける人物の、一人。


(其の男、狂乱の貴公子)
立場的には親のような人。