二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: イナズマイレブン 黒田エリの好きな人 ( No.106 )
- 日時: 2011/06/05 19:35
- 名前: 紅花 ◆8/MtyDeTiY (ID: LQ45f2Hx)
本名バレあり、時期はエイリア学園になる前の晩。
【 五秒 】
「愛してる」
私は凍地修児を見上げた。
私達が人間でいられる最後の夜。夜明けと共に宇宙人のアイキューとなる修児が、日の出と共にやはり宇宙人となる私——倉掛クララに言ってきたのは、そんな短いけど真直ぐで、だけど——さよならよりもずっと悲しい言葉だった。
日の出は、夜明けはもう迫っていた。あと少しで私も修児もグランとなる。人から宇宙人になり、人間としての全てを捨てると言うことに、お日さま園の多くの子供達は不安を抱き、眠れずにいた。彼も私もその一人で。私に皮肉を放った後の彼のその言葉に、私はいいようのない悲しさを感じた。
「最後に伝えたかった。——ひどいことを言ってすまなかった、クララ」
淡く儚い笑みを浮かべる彼。私は涙を心の底に埋もれさせて、無理矢理に笑顔を作ってみせる。それはどれ程に強張り、不器用だっただろうか。それもそうかもしれない。私が彼に対してみせる笑みはいつも温かみ一つのない冷淡な笑みで、優しい笑顔を見せようとしたことはこれが始めてなのだから。——そう、私達はいつもそうだった。いつも冷たい火花を散らしあい、相手が大変な目にあっても哀れみ一つかけずに薄情に笑う。そんな私達、なのに。
まるで呼吸するみたいに自然な出会い方だった。初めてあった彼は、やたらと妹に話しかける私に警戒心を抱いていて。私を目の敵にする彼が、いつも私を打ち負かそうとする彼が本当に気に食わなくて、いつもそっけない態度を取っていた。——けれど知らず知らず、私は彼と皮肉を飛ばしあうのが好きになっていた。彼がいない日は寂しいとさえ思うようになった。
「“凍地修児”でいる間に、“倉掛クララ”である君に伝えたかった。すまない、クララ——」
「やめ、て」
更に続けようとした彼を制する。「……あなたはいつも一言多いの。そのよく喋る口を閉じてくださらない」本当は「もう何も言わなくていい」って、彼の口から奏でられる悲しい響きの言葉を止めようとしたのに。なのに私は冷淡な言葉しか吐けなかった。人間の“クララ”でいられるのは今夜が最後なのに。ねえどうして素直になれないの。
「ねえ、」
未だに脳裏で響く、さよならよりも悲しい「愛してる」と言う一言。人間でいられる最後の夜に彼が告げてきた言葉は私にはとても切ないものに思えて仕方が無かった。
「この夜を止めてよ」
無茶なことだなんてわかっているのに。私よりずっと頭のいい彼でも止められないだなんて分かっている。だけど、それでも、それでも、私は——
この夜を止めて、欲しくて。
宇宙人になんかなりたくないんだ。愛しい父さんの為とは言え、その為に友達と争い、様をつけられ敬語を使われ呼ばれるだなんて。
私は、そう、確かに修児とは傷つけ傷つき、ただ毒を含んだ冷たい言葉を投げ合ってばかりいて。だけどそれでいいと思っていた。私はそれが好きだったから。なのにそれも、今日で終わってしまう。
私は彼が好きだ。エイリア石からなる力なんていらないから。父さんに嫌われてしまっても構わないから。だから、だから人間でいさせて。私は、人間のクララとして修児としたいことが沢山あったのに。
「綺麗な星空だと思わない?」
小さな声で話しかけてみた。その小さな声の中に、彼を看る瞳の中に、たくさんの想いを込めようとする。伝われ、とそう思いながら。私もあなたのことを愛してるって、伝えたくても出来なかったから、だから私は別の何かにこの溢れるばかりの愛を込めた。
「寒いほうが星がよく見えるからね」
囁いて、そして彼は笑った。泡みたいに、浮かんでは弾けて消えてしまう笑顔。声を潜めて二人だけの秘密を増やすたび、私の顔にはガラス細工の、触っただけで壊れちゃいそうな作り笑いが浮かぶ。あなたの姿を、私よりずっと大きいその背中を見られれば幸せだったのに。どんなに激しく愛したって答えは見えなくって。答えが見つからない私はどうすればいいのかわからずにただただ冷たい言葉を投げ続けるのみだった。
「すまない、クララ」
三回目の彼の謝罪。地平線はぼんやりと明るくなり始めていた。——ああ、もうすぐ時間だ。そうぼんやり思った私の作り笑いが崩壊し、心の底に埋めていた涙が溢れ出す。
「五秒、よ」
霞んだ目でも、彼が驚いていることはわかった。私は左手で目元を拭いながら、右手の五本の指を突き出して彼に見せる。
「私が目を閉じて深呼吸してる間。五秒上げるから、その間にここから離れて」
私は霞んだ瞳を閉じる。睫毛に叩かれた涙がまた一粒頬を転がり落ちた。
「その間に、忘れてあげるわ」
大きく深呼吸をして五秒数える。僅かに躊躇った後、走り出す彼の足音が聞こえた。
*
開いた私の目を太陽の光が刺した
*
+・+
キュークラでかいてみました。とある神文書きのお方の影響ではまりましたよ思いっきり!
「ギルティ 悪魔と契約した女」の主題歌「この夜を止めてよ」を聞いてうわああああとなってかいた奴。
ガゼクラもクラヒトも好きだけど「この夜を止めてよ」に似合うのはキュークラなのでこうなりました。
曲の歌詞を拝借しているところがいくつかあります。神曲なんで是非聴いてみてください。
二番使って続き書くつもりです。その時はエイリア学園真っ最中にしようかなあと。
- Re: イナズマイレブン 黒田エリの好きな人 ( No.107 )
- 日時: 2011/06/05 19:39
- 名前: 紅花 ◆8/MtyDeTiY (ID: LQ45f2Hx)
【 “クララ” 】
「くら、ら」
振り返ると、長い浅紫色の髪を中わけにした、赤いつり目の小柄な少女がそこに立っていた。纏うユニフォームは紛うことなきエイリア学園マスターランクチームの一つである私と同じ“ダイヤモンドダスト”のもの。
「あら、——アイシー、何か用?」
思わず彼女の本名で——つまり、愛と——呼んでしまいそうになる。未だに友人達の宇宙人ネームに慣れられず、度々呼び間違えそうになってしまう。自分より下のランクであるチームの者は、それがキャプテンであろうと友人であろうと、宇宙人の名前で呼び捨てにしなければならない。反対に、彼等私達に敬語を使い、様をつけて呼ばなければならないのだ。そんな私達もキャプテンである凉野風介——いや、ガゼル様や、同じマスターランクのキャプテンである基山ヒロトに南雲晴矢——グラン様とバーン様には敬語を使わねばならない。こんなことをするのに一体何の意味があるのか私には到底理解出来なかった。
一部少数を除けば、お日さま園の子供たちの名前は、皆自分の名前に類似した宇宙人ネームになっていた。一部少数、と言うのは、五人のキャプテンやガイアに所属する八神玲名——ウルビダたちの名前は本名と凡そ関係のないものであったし、私に至っては、類似どころか全く同じで、何の変哲もないからだ。
「今日はクララの誕生日だから、——その、」
「宇宙人のクララに誕生日は存在しないわ」
やんわりと、でもはっきりと私は言って。だよね、とアイシーは俯く。そんなアイシーに歩み寄り、私ははっきりとした声で彼女に語りかけた。
「アイシー、甘い過去の記憶なんて私は惜しくない」
過去なんて宇宙人のクララには存在しないとは、敢えて言わなかった。私の言葉に、アイシーは赤いその瞳を大きく見開く。兄であるアイキューとは似てもつかないその容姿なのに、二人はとても似ていた。
「ごめん、ごめんねクララ」
そう、私に謝るときのこの表情も、似ている。
なんでアイシーが私に謝るのか。その謝罪の言葉は“人間の”クララと、“宇宙人の”クララのどちらに向けられたのか。私にはわからなかった。知る術さえなかった。だから、私は考えない事にして。少し悲しそうな顔をした彼女に、
「でもね、形のある未来にしがみつきたくもないの」
そう言って微笑んだ。そして、アイシーと別れ、それから数分し——、彼の兄、アイキューと、であった。
愛してると言われたのは倉掛クララであって、ダイヤモンドダストのクララではない。断じて、違う。私は目を閉じて深呼吸をしたあの五秒の間に凍地修児と言う存在を忘れた。忘れた、はず、だけど。でも私はちゃんと覚えていた。愛してると言われたことも、初めて彼に微笑みを見せたことも、初めて彼が私に向かって微笑んだことも、初めて彼が私に謝罪をしたことも、私達が始めて皮肉以外の言葉を使って会話したことも、全部。凍地修児と言う存在はまだ私の中でずっと生きていた。例え彼自身がダイヤモンドダストのアイキューで人間である凍地修児殺してしまったとしても、私の中に彼はずっと生きている。瞼を閉じれば、暗闇に浮かぶ彼の微笑み。耳元で聞こえるようなあの悲しい言葉。
「何か用かしら、アイキュー? 生憎、私は貴方と同じ空気を長い間吸っていたくはないのよ。用件を伝えたらさっさと私の視界から転がりでて——転がるのをお忘れなく——そして二度と戻ってこないで」
「視界から転がりでるべきは貴様だろう」
私の言葉に彼はそんな一言を返しただけだった。おかしいな、いつもならもっとだらだら長い言葉で反撃してくるはずなのに。——宇宙人になってからは、また以前の繰り返しだった。どんなに近くにいても、間にはまるで隙間風が吹いているような感じが、して。
はあ、と彼は溜息をついて、そして眼鏡の位置をくいくいっと正すと、真面目な顔でこちらを見た。
「クララ——倉掛、クララ」
「…………ぇ」
躊躇いがちに彼の口から紡がれた言葉に、一瞬呆気にとられる。一拍遅れて口から零れたのは、泡沫が割れるときみたいな、ほんとに小さくて小さくて、自分でさえもよく聞こえないような、そんなか細い声だった。
「お誕生日、おめでとう。……あ」
「だめ!」
次に口から迸り出たのは掠れた金切り声だった。狂ったように私は叫ぶ。「私は、——っ私は倉掛クララなんか知らない! ダイヤモンドダストのクララよ。アイキューなんかが私に話しかけないで。“クララ”に誕生日は存在しないんだから!」
甘い過去の記憶なんて、私は惜しくないはず、なのに。
“でもね、形のある未来にしがみつきたくもないの”
——私は今、その形のある未来にしがみついていた。甘い過去の記憶を惜しく思っていた。自分で自分の言葉を裏切っているだなんて、なんて愚かなんだろうとそう思う。
「いしてるよ、クララ」
それでも。それでもアイキューは顔を赤くしながらその言葉を完結させて——、それでさっと私に背中を向けた。激しく愛した私より大きな背中。どんなに激しく愛しても伝えられず、冷たい言葉しか投げられなかった私。
なんでアイキューの、いや、修児の“愛してる”はいつもこんなに悲しい響きを伴っているんだろう? ——ああそうか。私は修児にこんなに冷たくしてるから。なのに愛してるだなんて言われても、——いや、違う。違うんだ。こんな理由じゃなくて——。
「今日は貴様の誕生日だから、特別だ。もうこんなことは二度とないと思え、——“ダイヤモンドダストのクララ”」
私は、アイキューと——修児と、同じ色の夢を見ていた。いや、見ているつもりだった。だけど、同じチームにいる私達の歩む道は全くことなったもので。
私達は出会う時を選べずに出会った。——ねえ神様、お願い。別れの時さえ選べないのなら。
*
せめて、この夜を止めてよ。
*