二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: イナズマイレブン 黒田エリの好きな人 ( No.24 )
日時: 2010/09/04 20:05
名前: 紅花 ◆iX9wdiXS9k (ID: W3jWtiQq)

 第十一話 諦める才能

 *
 唇の隙間から漏れた言葉は、誰にも届くことなく、空へと消えた。
 *

 二見百。
 二年C組の女生徒。
 そして——風丸一郎太の従妹。

「差し入れ持ってきたの。食べる?」

 小さく、囁くような甘い声。はにかむような笑みを浮かべ、クーラーボックスを開ける。
 おおっと、サッカー部の連中からどよめきがあがる。
 彼らは美味しそうに中にあったケーキを食べる。

「手作りなんスか?」
 
 と言う壁山の問いに、はい、と微笑んで答える。
 どんなに太陽の下にいても、やけることのない白い肌。
 眉の上で切り揃えた黒い髪。髪の毛をポニーテールにしたこの女の子、二見百って言う。
 私の友達だ。
 だけど、同時に、ライバルでもある。

「おしとやかなレディーですねー」

 手と手を合わせて、はぁぁ、と羨望の溜息をつきながら、ハルちゃんが言った。
 確かに、彼女はお嬢さまだ。それはもう、なっちゃんに負けないくらいの。
 化粧用品を扱う会社の社長がもうけた娘。
 皆に差し入れをもってきただけにみえるが、わたしも一応恋する乙女、彼女の狙いはわかっている。
 
「美味しいよ、百」

 一郎太だ。
 一郎太になれなれしく名前で呼ばれるなんて……!私のことは黒田さんって呼んでたじゃない。
 なぁに? 浮気? 野蛮な娘よりおしとやかなレディーを選ぶわけね。どうせわたしは野蛮よ!
 うぅ〜、と唸りつつ、なんだか泣きたくなる。わたしはいつの間にか「恋する乙女モード」に突入していた。
 さっさとわたしとわかれちゃえばいいのよ、そんなに二見さんのことが好きなら!
 唇を尖らせる。二見さんが一郎太の従妹であることは知っていたけど、二人はあまり似てない。
 二見さんは知っているのだろうか、わたしと一郎太が付き合いはじめたことを?
 わからない。でも、わたしが男の子なら、二見さんを選ぶだろう。
 自分より背が低く、年も下で、可愛くて、愛嬌もあって、性格もよくて。
 だれが野蛮な男っぽくて自分より背が高くて年上の女を好きになるって言うの?
 きっと一郎太はむりやりわたしの彼氏になったんだ。
 だって、そうとしか思えないじゃない。
 わたしの強引さに引っ張ってかれた、それだけ。この間もわたしの所為で睡眠不足。
 わたしの所為。全部わたしの所為。
 強引で、だから一郎太はわたしに無理矢理付き合っているんだって。
 そう思ったら悲しくなった。
 わたしに才能なんかない。
 あるのは諦める才能とぐうたらする才能だけ。
 そんな才能、いらない。
 二見さんは絵も上手だ。デッサンが凄く得意で、先生が「もう貴方に教えることはありません」って言われたぐらいだし。
 わたしって、ほんと、役立たず!
 気に障ることを言われたら、理性と女としてのプライドなんてかなぐり捨てて、腹蹴り、腹蹴り、腹蹴り!
 野蛮だよね。ちょっとむかついただけで腹蹴りするなんて、さ。
 もういいよ。私のことが嫌いなら、それでもいい。
 でもわたし、努力するよ。
 好きになってもらえるのなら、振り向いてくれるのなら。
 わたし、一年でも十年でも、努力するから。


「あっ、やばい。国語のノート持ってかえるの忘れた〜!」

 友達のはるちゃん、りっちゃん、あきちゃん、鬼道、佐久間と一緒に帰路についていると(ふゆちゃんはお父さんと帰っちゃった。なっちゃんはベンツのお迎え、鬼道ははるちゃんと一緒に帰りたいらしい。佐久間が同じ道だからりっちゃんがきたみたい)、国語のノートを忘れている事に気付いた。

「早くもってこい」
「私達、ここで待ってますから!」
「あ、うん。ありがとね!先にいっちゃってもいいから。だからといってほんとうに先にいっちゃうと悲しいかもよ〜!」

 そう言って笑うと、私は雷門へと走った。

「あ〜、うざうざ。四階の、しかも階段に一番離れてる教室ってありえね〜」

 はぁはぁ言いながら階段を駆け上る。
 そして教室の前につく。すると、声が聞こえた。

「ねえ、一郎太、どうしてあの子のことが好きになったの?」
「どうして、って……」

 一郎太と二見さんの声!
 わたしの背筋が凍りつく。恐る恐るできるだけ声を立てないようにして、ドアを開けて、中を覗き込む。
 中を見て、鳥肌がたった。
 二見さんが、一郎太の両腕を掴んでいた。ふっくらした頬が赤く染まっている。
 ふわりと、雫が二見さんのふっくらした頬を伝っていく。
 胸がずきんと痛んだ。二見さんも、すきなんだ。一郎太のこと。
 知ってた。知ってたけど、目の当たりにすると、痛かった。
 だって、信じようとしなかった自分がいたから。否定しようとしていた自分が居たから。
 誰とも奪い合いたくなかった。でも、一郎太は人気者だった。
 二見さんの唇と一郎太の唇までの距離が縮まっていく。
 それ以上見てられなくて、私は階段を駆け下りた。
 熱い涙が頬を伝っていた。
 はるちゃんたちが居るところにいって、涙を見られないように手の甲で拭う。
 お母さんに買い物を頼まれたとか適当な理由を言ってその場を抜け出す。
 みんな、心配そうな顔をしていた。
 そんな顔しないでよ。
 私、誰かが心配している顔を見るの、大嫌いなんだ。
 ベッドの上に横たわった。
 涙は横に流れる。
 声は出さず、ただ涙だけが零れていく。
 私、もう諦めるよ。
 一郎太のこと。
 二見さんと争いたくないの。
 だって、二見さんと友達でいたいから。
 それに、私に、勝ち目なんてないもんね。
 だから——諦める。
 私って、諦める才能ならあるもん。
 幸せになってね。

 *
 私、傍にいられるだけで、貴方の後姿を見ることができるだけで、幸せだから。
 *