二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: イナズマイレブン 黒田エリの好きな人 ( No.25 )
日時: 2010/09/04 21:12
名前: 紅花 ◆iX9wdiXS9k (ID: W3jWtiQq)

 第十二話 郵便配達の男の子

 *
  他人の失敗から教訓を得る。残忍だけど、役に立つ
 *

 むー、だるい。
 泣くのももう疲れた。今日はうちでぐーたらするぞ!
 ベッドの上に寝転がり、小説を読む。小林深雪先生の「ホンキになりたい」。
 この本は四つの短編で出来ているんだけど、中に山内真琴っていう女の子が出てくる。
 で、この女の子が私によく似てるんだ。
 男の子っぽい性格で、その事に悩んでる。そんな真琴ちゃんの気持ちが痛いほどよくわかる。
 あっ、先生に電話するの忘れたぁ〜!
 理由どうしよう? 「失恋のショックから復帰できません。今日は休みます」なんていうつもり?
 ありえないから!
 で、最終的には、「熱」。
 ふーっと溜息をつく。
 中学二年(年は15だけど)で一人暮らしの女の子、黒田エリは、昨日、失恋しましたぁ〜!
 勉強する気にもなれません。
 走る気にもなれません。
 好きな人に会う気にもなれません。
 う〜あ〜、せつないよぉ〜〜〜!
 って思ってると、ピンポーンとチャイムがなった。
 だれ?
 あ〜、だる。
 こっちだって仮病するつもりはないんだよ、全く。
 でも、あの人に会いたくないんだ。
 会ったら、その場で泣き出しそうな気がしたから。
 もしあの人だったら、鼻先でドアを閉めてやる。
 そしたら、二見さんと幸せになれる。
 私なんかより、二見さんと一緒のほうが、幸せだよね。
 ドアを開ける。
 すると、男の子が立っていた。
 私と同じくらいの年の男の子だ。
 服装に、緑色の自転車からすると、郵便配達をしているのかもしれない。
 若いのに、私と同じ年なのに、大変だな。
 きっと、私みたいに失恋しても、頑張って仕事しなくちゃならないんだもんね。
 そうだよ、人生、そんな甘くない。
 私は改めてその子を見た。
 日焼けした肌、尖った顎。あの人ほどじゃないけど、整った容姿。
 黒い目は、ちょっと鋭い。だけど、なんだか親しみを感じられる、子犬みたいな雰囲気を感じる事ができる。愛らしい眸だ。
 柔らかくて、綺麗な若葉色の長髪をポニーテールにしている。天然パーマなのだろうか、すこしくるくるっと巻いている。
 綺麗な鼻筋、小さな唇。私とあの人より、少しだけ背が低くて、痩せてる。
 あの人は足に筋肉がついてた。あんまりよくわかんないけど。でも、この男の子はない。
 とても痩せている。壁山に見習えと言いたいぐらいだ、と呟いて笑う。
 なにを笑っているのだろう?と、きょとんとした目で首を傾げる少年。
 とても男の子とは思えない、愛らしい仕草に思わず笑ってしまう。
 あの人のことを思い出す。あの人や鬼道が大人なら、彼は子どもだ。
 そして、私は気付いた。
 この子、見たことある。
 台湾に居たころ。ニュースで。
 思い出してみる。
 廃墟の上に立ち、黒いサッカーボールを踏んでいた少年。
 確か、ジェミニストームのキャプテン、レーゼとか言ってた。
 すっごく尊大な態度で。不思議な服を着て、星の使徒とかなのってたやつ。

「あの、手紙、持ってきました!」

 元気よくいうレーゼくん。差し出した手紙を受け取る。
 
「あの……君って、ジェミニストームのキャプテン、レーゼ?」

 恐る恐る聞く。すうっとレーゼくんの顔が青ざめた。
 レーゼくん、後悔しているのかな、中学を破壊したこと。
 レーゼくんはにこっと笑みを浮かべた。ひと懐っこい笑みだった。

「レーゼは宇宙人ネーム!俺には緑川リュウジって名前があるんだから」
「……髪の色?」

 今度はレーゼくん、じゃなくてリュウジくんは顔を真っ赤にした。
 たぶん、リュウジくんはそれを気にしているのだろう。

「ご、ごめん。気にしてるって、知らなかった……」
「いいよ。よく言われるもん」
「でもなんで郵便配達なんかしてるの? うちが貧乏とか?」

 リュウジくんはきょとんとした表情になった。

「あれ? 君、もしかして前まで外国に居た?」
「うん、そうだけど」
「それじゃあ知らないか……」

 リュウジくんは一瞬、ちょっと淋しそうな顔をした。
 でも、次の瞬間には、あの人懐っこい笑みが戻っていた。

「エイリア学園の子供たちはね、みんな『お陽さま園』って孤児院に住んでるんだ」
「え……ご、ごめんなさい」

 なんか私って謝ってばかり。だから失恋するんだよ、私。
 あり? いつのまに失恋って話に?
 ああ、二見さんとあの人がキスしたからか。
 あー、思い出したくねー。話題かえよっと。

「じゃあ、なんで郵便配達なんかしてるの?」
「うん、もとは日本代表、イナズマジャパンの選手だったんだけどさ、体力不足ではずされちゃたんだよ」
「体力不足かぁ。見てわかるよ。イナズマジャパンの選手は足に筋肉ついてるけど、あんたないもんね」
「うわ、ざくっと言うね。まあいいや、で、郵便配達で鍛えてるんだよ、基礎体力をね」
「じゃあ、学校は?」
「うん? みんなライオコット島にいっちゃってるときがおおいからなぁ。俺がいなくても大丈夫かなってかんじ。君は?」
「私はサボタージュ。失恋したから」
「ぶっ。なにその理由! おかしいよ!」
「あ〜、吹きだしたっ! ひっどぉ〜い!」
「ねぇねぇ、こんな言葉しってる?」
「あっ、話題変えた!」
「『他人の失敗から教訓を得る。残忍だけど、役に立つ』」
「うわ〜、話題変えるの上手だね。あっ、でも私、知ってるよ。台湾で聞いた事ある」
「スゴイ言葉だよね。なんか感心しちゃったよ。……ってあ、早く次のうちにいかなきゃ!」

 そんな時、私の心に、なにかが芽生えた。
 あの人を二見さんに譲って、ウチの中でゴロゴロしているつもり?
 だめじゃん。元気にならなきゃ。
 目の前にいる、この子だって頑張ってるんだから。
 なら。

「あのさ、お仕事終わるのっていつ?」
「え? うーん、あと一時間ほどで終わるかな。ちょうどお昼の時間だから」
「じゃあさ、私のうちにきてご飯たべない? 風丸一郎太って人について話したい事があるの」
「あっ、さては風丸の彼女?」
「ううん、元カノ。それからサッカーしようよ。私も好きなんだよ。こう見えてサッカー部のマネージャーなんだから」
「ほんと?」

 リュウジくんの目がきらきら輝き始めた。

「じゃあ俺、リクエストするね。天むすたべたい!」
「天むすかぁ。コンビニいって探してくるね」
「じゃあちゃっちゃとすませちゃうね。ばいばい!」

 リュウジくんの姿が遠ざかっていく。
 私は手紙を見た。

「黒田エリ様 お陽さま園 吉良瞳子」

 ……お陽さま園の人が、一体私になんの用なの?

 *
 そうだよ、人生、そんな甘くない。
 *