二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: イナズマイレブン 黒田エリの好きな人 ( No.56 )
日時: 2010/09/14 18:04
名前: 紅花 ◆iX9wdiXS9k (ID: ehc5.viK)

 第二十九話 シスコンの妹様 

 *
 鬼道キャラ崩壊です注意。
 *

「ほぉ。お前は澪の友達になったばかりでなくそいつをお前の部屋に泊まらせていると」

 茶色いドレットヘアーが、怒りに逆巻く。
 茶色く太い眉が、さっきから何回もぴくぴく動いている。
 いつも冷静な鬼道がこんなに怒るなんて、珍しい。

「ねぇ鬼道さん、父が教えたはずよ。いつも冷静を保てって」

 澪ちゃんがすらっと「父」を口にする。
 鬼道の怒りのオーラが強くなる。
 澪ちゃん、空気読もうね。

「大体黒田、お前は変わり身が早すぎる! ブロッサムクイーンのキャプテンの名をかけて勝負するとかいってなかったか!?」

 鬼道の声はあたりの喧騒に呑み込まれ、少数の人間にしか聞こえない。
 ここは四回の体育館。因みに、今は授業中である。
 
「あのね、澪ちゃんが影山の娘だからそんな風に言うんでしょ」

 図星だったようだ。唇をぎりぎり噛み締める。
 ねぇ鬼道、あんたほんとは単純だったのね。

「でも澪ちゃんだって台本どおりやってただけだよ?」
「……台本?」
「うん、コレ」

 澪ちゃんが見せてくれた台本。
 台本というより、影山の妄想を書き綴った紙に近い。
 にしても、あのぬかりのない影山がマヌケに台本なんてつくってたなんて驚きだ。
 
「驚き、桃の木、山椒の木」

 呟いたのはリュウジくん。——つけたし言葉も好きだったんだ。
 まあ実際、現在我がクラスで国語の成績が一番優秀なのはリュウジくんだしね。
 ヒロトによると、リュウジくんを虐めるのならかれの国語の教科書とかことわざ辞典を奪えばいいらしい。
 
「あとさ、鬼道。澪ちゃんと影山のことばっかかんがえているばっかりじゃないと思うけど」

 私は窓の下を指差す。全員の視線が集まる。
 鬼道がなにか言った。酷い言葉だったと思う。
 下にいたのは、刃くんとはるちゃんだった。
 たぶんはるちゃんは教具を運びにきたらしい。
 そこに、〝なぜか〟〝ぐうぜん〟はるちゃんに出くわした刃くんがはるちゃんのかわりに教具を持ってあげている、らしい。
 楽しそうにおしゃべりをしている。
 漫画だったらそこらへんをピンク色に塗って、花を近くにたくさん書いてたところだろう。
 ああ、恋ね。青春ね。
 私とて恋する乙女、それくらいすぐわかる。
 鬼道から禍々しいオーラが陽炎のように立ち昇る。なんか、ヤバくない?

「あいつめ、よくも春奈を……!」

 べつに刃くんははるちゃんになんにもしていない、ただ教具を持ち、おしゃべりしている、それだけだ。
 鬼道は窓から飛び出そうとした。
 慌てて鬼道のマントを引っ掴む私、澪、一郎太、リュウジくん。

「鬼道、惚れた病に薬なし! とめるなんて当分無理だよ!」

 こんな状態になってまでことわざかい。
 惚れた病に薬なし、意味は恋煩いを治す薬はないってそのまんまの意味。
 それを聞かない鬼道、窓から身を乗り出そうとしながら怒鳴る。

「あの欠点の塊やろうのどこがいいんだ!」
「痘痕も笑窪(あばたもえくぼ)! 恋したら欠点でも長所に思えちゃうんだよ!」

 鬼道の力強さに、どんどんとひっぱられていく。
 踏ん張っても、どんどんどんどん、ひっぱられてく。
 そんな状態で声を振り絞り、悲鳴のような声でことわざを綺麗な発音で言えたリュウジくんはスゴイ。
 それ以上に、こんな状態でもことわざが考え付くところもスゴイ。

「まだ彼氏をつくろとなど言っていない!」
「どうせ一生言わないんでしょう!?」
「恋に師匠なし! 教える必要なんかないんだって!」

 さらに怒鳴る鬼道。手が汗ばんでくる。
 同時に叫ぶ私とリュウジくん。またことわざか。
 
「ってかここ四階! 落ちたら死ぬぅ!」
「無薬可救! 俺のときみたいに助けてくれる人なんていないんだから!」
「かまわん!」
「いや、お前が死んだ後、切先と音無が付き合い始める可能性だって低くないだろ!」
「そうよそうよ! 不可能なんてどこにだってあるのよ。あの妻が出来そうにない父の娘である私の存在自体が奇跡みたいなものじゃない!」

 私が叫んだ後に、リュウジくんが中国語のことわざを言う。
 助けられる薬はないと言う文字通りの意味だが、リュウジくん、あんたもしかして外国のことわざもできるの!?
 かまわんと怒鳴る鬼道に、風丸が阻止する。
 それにちょっと怯んだらしい鬼道。
 澪ちゃんがぶんぶん頷きながら悲鳴をあげる。
 あ、自分の父親のこと、そんな風に思ってたんだ。
 知らなかったぞ。なんかあまえんぼうって感じだったし。
 流石に気付いた先生とクラスメートの皆様。
 イナズマジャパンのメンバーズは鬼道を窓から引き離し、先生がぴしゃりと窓を閉めてカーテンを閉じる。

「はるなぁああぁああぁああぁあああっ!」

 とじたばた暴れだす鬼道。
 ついでに子どもみたいに半泣きで妹の名前を絶叫する。
 ……みっともない。
 ねぇ春奈ちゃん。
 刃くんを選ぶ気持ち、わかるよ?
 こんなお兄さんと暮らしてきて、大変だっただろうね。
 一時期はなれて暮していたとはいえ。
 澪ちゃんが私のよこでぽそっと呟いた。

「——私の代わりに、鬼道さんを父の所へ連れて行こうかしら——?」
「それはいいかもしれない……」

 げっそりとした声で、異口同音に、イナズマジャパンの面々が言った。
 その中には、このシスコンを送り出したいと言う気持ちが込められている。
 ついでに、同じシスコンである、今鬼道と意気投合し、自分の妹について語り、私達が鬼道を阻止したことをまるで死罪に値するような犯罪を犯したように言っている豪炎寺も同じようにしたほうがいいんじゃないかという気持ちも込められている。
 そしてシスコンの妹に生まれた哀れな二人の少女への、同情も含まれていた。

 *
 ——本音だった。
 *