二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: イナズマイレブン 黒田エリの好きな人 ( No.72 )
日時: 2010/09/19 20:49
名前: 紅花 ◆iX9wdiXS9k (ID: geHdv8JL)

 第三十七話 スランプ中の神 
 
 *
 世宇子の理事長の娘、畑山蘭。
 *

「……」

 僕はただぼうっと突っ立っていた。
 目の前が暗くなる。
 ねぇ、もうやめてよ。
 心配しないで。
 そんな目で、みないで。
 僕はその場から逃げ出した。
 ふらふらした足取りで歩く。
 最近、練習に集中できなくて、ゴッドブレイクもカオスブレイクも失敗の連続で、必殺技だけじゃない、ドリブルも普通のシュートもタックルもダメになっていた。
 サッカーだけじゃない、成績も落ちた。
 この間のテストだって、そう。
 一番得意だった歴史もダメだった。
 先生に怒られると同時に、心配そうな目で見られた。
 チームメイトたちも。
 所謂「スランプ」というものなんだろうか。
 一度も経験したことがないからわからない。
 心配されるのは、嫌いだ。
 それだけで、自分が惨めに思えてくるから。
 なのに、なのに、周りの人々はいつも自分のことを心配していた。
 自分だけの通り道と称している裏路地。
 暗いし細いし気味悪いけど、気分が悪いときは、ここが一番。
 あんまり人がこない。
 ぽたりと生暖かいものが自分の頬を伝って顎の先から落ちた。
 悔しい。
 全てが思い通りにいかなくて、悔しい。
 そんな時、歌声が聞こえた。
 「ハッピーチルドレン」。
 弾むように明るいリズムのはずなのに、優しくて穏やかなハッピーチルドレン。

「蘭」

 見上げると、彼女がそっと微笑んでいた。
 畑山蘭。
 世宇子の理事長の娘。

「聞いたわよ。スランプだそうね。——ったく、なに落ち込んでるのよ、あなたらもっとこう、」

 そう言いながら髪をふわっと掻き揚げた。
 短いので失敗したが。

「華麗に大胆に行くべきではなくて? 天使さん? 美の神でしょう? 薔薇でも持ってキザなポーズとってなさいよ。それともナルシストに、『僕の美しさに敵う奴はいない』とか言っちゃえばいいじゃない。胸を張りなさい、亜風炉照美!」
「らん、らん、らん」
「らんらんらんじゃないわよ。蘭よ。蘭は一つで十分よ」

 ねえ、泣いててみっともないよね。
 だけどさ、蘭、

「好き」

 驚く蘭。
 それから蘭は顔を背けた。
 顔を真っ赤にしながら。

「なによ。あんたなんか嫌いだから」
「あれっ? そうなの?」

 思わずくすくす笑いながら言った。
 言うんだろうな、あの台詞。

「私に騙されたいのは、どなた?」

 小さい声で言って、小さく笑った。
 蘭の手を掴んで立ち上がった。

「ねぇ、サラダ記念日って知ってる?」
「?」
「君より一分早くつく。一分間君の事を思う」

 蘭が優しい声で言って、微笑んだ。

 *
 ——私、一年中貴方のこと思ってたんだから。
 *