二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: イナズマイレブン 黒田エリの好きな人 ( No.79 )
日時: 2010/09/21 23:51
名前: 紅花 ◆iX9wdiXS9k (ID: 2Ln5gotZ)


 第四十二話 好敵手

 *
 久しぶりに夢を見た。 
 *

 紫色の妖しげな光りを発するものを、一人の男の子がじいっと見つめていた。
 記憶の底を漁る。あぁ、あれはエイリア石だと気付く。
 やめた方がいいよ、と少年を阻止しようとした。
 誰かに名前を呼ばれたらしい少年が顔をあげた。エイリア石の光に映し出される顔。
 小麦色の肌に張り付く柔らかい髪。よくみると、男の子は冷汗を出していた。
 その男の子は相手の顔を見て、笑みを浮かべた。
 口元は可愛らしい笑みを浮かべているけど、目は笑っていない。疲れたようにも見える。
 夜空みたいに黒い目を動かして、彼はなにか言うと、またエイリア石を見つめた。
 それから彼は立ち上がった。
 どこだろうか、ここはグラウンド?
 彼は黒白のボールを蹴りながら、走り回る。でもあっけなくボールを奪い取られる。
 その後、彼は二度とボールを奪い取ることなく、終了する試合。
 俯いて、それから顔をあげると明るく笑った。負けちゃった、でも仕方ないやって声が異様にハッキリ聞こえた。
 テレビみたいに、画面が切り替わった。
 溢れんばかりの満足感に思わず舌なめずりをする。
 男の子はあざ笑った。
 自分の下にいる人々が、なんて哀れに見えるのだろう。
 男の子にはそれが嬉しくてたまらなかった。
 いつも哀れだと思われてきた自分が嫌いでたまらなかったから。
 他の人が哀れに見える。
 男の子は唇の端で冷笑した。
 くっくっく、と出来るだけ声を抑えて笑った。
 折角味わえた快感は、脆く消えてしまった。
 おそろしい程あっけなく、束の間に。
 追放する、と言うおそろしい言葉が何回も耳に響く。
 ねぇやめてよ、と男の子が小さい声で、泣きそうな声で囁いた。
 昔は、同等だったのに。
 昔は、一緒に遊んでたのに。
 いつの間に、身分の差なんてものが出来たんだろう。
 友達が遠のいたようなきがした。
 気がついたら、自分の中から全てが消えた。
 心の中が空虚だった。自分が誰であるかさえも覚えていない、不思議な感覚。
 今から考えればそれがたぶん所謂記憶喪失とやらなんだと思うがもうそれもどうでもよかった。
 そして、次にであったのは、黒い髪の女の子だった。
 失恋のショックでサボタージュ、と言って、エイリア石に手を伸ばして以来、初めて、その男の子を心の底から笑わせた。
 作り物の笑顔じゃなく、心の底からの笑み。
 その男の子が、自転車をこいでいると、坂道で落ちた——。
 肩から血が出て、血を見た男の子の目が変わった。
 その男の子は前にも壊したことのあるところを壊し——。
 女の子にキスをした。
 女の子が囁くような声で、男の子に言った。れーぜ、と。
 その瞬間、目が覚めた。
 
 とんたんとんたん、まな板を叩く包丁の音。
 あぁ、聞きなれた音。
 黒くてシンプルなエプロンをした、大好きな後姿。
 いちゃいちゃしながらアイスを食べているのは——マキとカゲトくん。
 そして睨みあっているのは、風丸と下鶴。
 そうだ、俺はリュウジ——レーゼ。
 さっき、夢の中で感じていたデジャヴの正体はこれなのかと妙に冷静な頭が納得している。
 あの男の子は、全部俺だったのだ。
 なんて恥かしい事をしてきたのだろう、俺は。
 なんてばかばかしいことをしてきたのだろう、俺は。
 急にすまなくなった。
 俺は風丸と下鶴に話しかけた。

「あのさ、かぜまる、しもづる」

 ん、とにらみ合いをやめてそろってこっちをみる二人。
 
「うん……俺のこと、どう思う?」

 え、と揃って困惑の表情を浮かべる二人。
 それからにやっと笑って答えた。

「そりゃ、最大のライバルだな」
「あぁ。俺の好敵手だ」

 その後、二人は同時に、

「ま、俺に敵うわけないけど」

 と言って、
 違うだろー!? 俺のほうが優勢だって!!
 とか子どもみたいに騒ぎ出す二人。
 なんか、なんとなく頬がゆるんだ。
 この二人のばからしい騒ぎに加わりたい、と感じたんだ。

「いや、優勢なのは俺だね。ファーストキス奪ったの俺だし」
「はー? 違うだろ!! 告白された俺だっつの!」
「ふったんだろが! ってかエリのこと一番しってるのは幼馴染の俺だって!!」

 こんなバカ騒ぎが、ずっと続いてくれるだろうか。
 ううん、すぐに終わらせて見せる。
 エリちゃんは、誰にも譲らないよ?
 不敵な笑みを浮かべて、皆を見回す。
 二人も、不敵な笑みを浮かべる。
 
 *
 そう、俺たちは好敵手(ライバル)。ねぇ、だから仲良くしよ?
 *