二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人  ( No.10 )
日時: 2012/10/30 23:24
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)

     【 Ⅰ 天使 】



     1.




 ——世界暦五の六八三四、八一二の年。
安月小—ル・アリア—と呼ばれる世代の、九年目。世界の西の大陸、シャルララの造山帯。
一年を通して、春のような暖かい気候に恵まれるこの地には、村や遺跡、遠くには国や町などが見られる。
その大陸の、西側のその村は、小さい。
だが、対照的に、絶景ともいえる大滝がある。

 大滝と名水で知られる、ウォルロの村。
それが、その村に与えられた称号だった。

 ——リッカ・ロリアムは、十七歳にして宿屋の女主人でもある。
彼女の宿は、小さいながらも、大滝目当てにやってきた旅人たちに評判が広がるほどのものだった。
蜜柑色のバンダナをかぶり、太陽の反射によっては青く見える黒髪をはねさせて、走る。
 この日は暇だった。客は誰ひとり来なかった。
それでも、宿屋の仕事は一日たりとも手を抜いてはいけないのである。
掃除掃除、と口にする彼女の次にやるべきことは、宿のカウンター、テーブル、床、その他もろもろのその名の通り掃除。
 忙しく走り、腕まくりをした彼女は、ふとその速度を緩めた。
「・・・・・・?」
 宿の扉が、少し開いた。だが、すぐにまた閉まる。
お客様かな。・・・まずい。急がなきゃ。
なるべく乱暴にならないように、それでも急いで、その扉を開けた。
「・・・あ」
 そこで、リッカは驚いた。
・・・床も、カウンターも、テーブルも。
埃一つない、掃除を既にされたような様子となっていた。
だが、そこには何もなく、また誰もいなかった。

 ・・・“そこには”。


 ・・・後ろに。
後ろに、いた。
人間のようで、だが、半透明で、人間には見えない人ならざるもの。
頭上に後輪、背に翼。

 ・・・それは、天使、と呼ばれていた。

 眸は蒼海—ブルーオーシャン—、長くも短くもないさっぱりとした髪は、闇の色。
年若き少女のようなその天使は、遥か天空の都“天使界”に住まう。
役目は、守護天使。人間を守り、手伝う役割を持つものを、そう呼ぶ。
 そして、名は。
「・・・・守護天使さま・・・?」
 リッカが、呟いた。誰かに、聞かせるように。
「守護天使マルヴィナさまだわ・・・」
 ・・・マルヴィナ。

 天使の名は、マルヴィナ、といった。

「ああ・・・ありがとうございます! 私、これからも頑張りますっ」
 リッカは祈る。
その胸の辺りから、半透明の、小さな結晶がすうと現れる。
その結晶は、ひとりでに天使マルヴィナの手の中に滑り込み、
「・・・どういたしまして」
 ・・・マルヴィナは、言った。

Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人  ( No.11 )
日時: 2012/10/30 23:25
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)

 天使界には、身分、もしくは階級がある。

『長老』最上級の身分であり、天使界のトップ。
『上級天使』経験豊富な天使たちに付けられる。
その中に、『近衛天使』や『師匠』という身分がある。
『守護天使』一人前となった天使に付けられる、天使界で重要とされるもの。
人間界に赴き、人間を助け、守る仕事をする。
『見習い天使』・・・名のとおり、見習いの天使。

 見習い天使だったマルヴィナは、上級天使『師匠』イザヤールにより、
二日前に『守護天使』と認められたばかりの新人(新天、かな?)だった。
イザヤール、マルヴィナの師匠の彼は、天使界でも優秀な天使という。
(・・・そう。わたしだって、その弟子なんだ)
 マルヴィナは、年こそ若いが_とはいえ既に二百年は生きているが_、人一倍の努力は欠かさない性格、
だからこうやって仕事をしているわけなのだが。
(・・・っはああぁぁぁぁが・・・・)
 ・・・いきなり溜め息である。語尾に妙なものがくっついていたが。
(この結晶_星のオーラ、と呼ばれる_は綺麗だけど・・・人間が感謝してくれた証だけど・・・)
 感想は正直一つ。
(・・・・・・・・・・・疲れた)
 と、誰も見えない事をいいことに、床にどへ〜ん、と寝っころがるマルヴィナ。どこかでちーん、という音がした。
どう考えても師匠に追いつけないであろう情けない姿であった。
(何か、燃えないんだよなあ・・・あっちで手伝い、こっちで手伝い。
本来なら、魔物とか危機から守るって、そーゆー事するんじゃ)
 その刹那——ぴん、と。そこで跳ね起きた。

 脳裏に走った、邪悪な気配。
 全身にざわめきだつ、燃え上がる闘志。

(・・・謀った? ・・・やけにタイミングが、いいじゃないかっ・・・!)
 マルヴィナは、口元を引き締めた。すら、と自分の剣を抜き取って。
人間の、叫びが聞こえる——

 ・・・魔物だ、と。