二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.159 )
日時: 2011/01/11 17:19
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: 8IaQw9YV)

 ——バガンッ

 扉は、そのような音を部屋に響かせる。
「うぅぐっ!?」
 その瞬間、ひどい臭気がマルヴィナとキルガの鼻を刺す。
「・・・な・・・に、これ・・・っ」
 目の前がゆがむ。涙だ。ぐっ、と手でこする。目をパチパチとしばたたかせ、マルヴィナは前を睨んだ。
 レオコーンがいる。そして、その眼先に、もう一人。玉座に高飛車に座る女がいた。
「・・・マルヴィナ、キルガ」
 レオコーンが反応して肩から振り返る。
「あぁらぁ・・・邪魔が入ったみたいだねぇ」
 艶っぽい話し方のその女が低く笑う。マルヴィナの警戒心が脈打った。
「知り合いなのね、レオコーン? ——いいわ。[最後に]放す機会でもあげる」
 そのまま、玉座へ座りなおす。罠はないようだ。キルガは警戒しながら、レオコーンに尋ねる。
「・・・奴は?」
「・・・名は、イシュダル。魔女だ。私が、かつて討つはずだった魔物だ・・・」
「かつて・・・? レオコーン、まさか」
「ああ」頷く。「思い出した・・・私は奴を討ち、そして帰るつもりだった・・・メリア姫の元へ」
 マルヴィナとイシュダルの視線が合う。
相手は嫌な笑みを浮かべた。マルヴィナは睨み返す。
「・・・だが、あの日、私は敗れた。奴の率いる魔物の数に翻弄されて・・・な」
「そして、貴方は私の呪いを受けた・・・私と貴方、二人きりの世界を作る呪いにね」
 「・・・・・・」キルガが顔をしかめる。「・・・ドロドロだな」
「どろどろ?」マルヴィナが首を傾げる。説明する気にもなれないキルガは頷くだけにとどめた。
「呪いが解けたとて・・・貴方は私の僕に過ぎない。今も・・・昔もね」
「・・・黙れ・・・っ」
「貴方が尽くすのはメリアじゃない・・・この王座に座るのはメリアじゃなく、私——」
「黙れっ!!」
 レオコーンがついに叫ぶ。イシュダルはどこか楽しげに、妖しく笑う。
「・・・貴様の・・・貴様のせいで、・・・メリアはっ・・・!」
「・・・まだ、気にしているのねぇ・・・居もしない女のことを」
 音無く立ち上がったイシュダルの眼が、黒光りする。
 マルヴィナが、キルガが、目を見開く。
「・・・もう一度かけてあげる・・・今度こそメリアを忘れるほどの、強い呪いをね・・・っ!」

「——っ危ないっ!!」

 キルガが叫んだのと、イシュダルの瞳が赤く光ったのは、ほぼ同時だった。
眸から放たれた閃光が、レオコーンに突き刺さり、倒れさせる。
「っ!」
 レオコーンの周りに、黒い蛇のような妖気が巻きつく。電気のような、嫌な光がレオコーンを苦しめる。
微動だにしていなかった、否、出来なかった。
「レオコーン!」
 マルヴィナとキルガが素早く目を合わせ、同時に 応急呪文_ホイミ_ を送る。
だが、レオコーンへ向けて放たれた回復の呪文は、黒蛇によってはじかれ、散った。
「な!?」
「ふふ・・・私の呪いが、それ如きに破られるはずが無いでしょう・・・?」

「——さて・・・次はお前たちの番だよ。邪魔者たち」

 イシュダルが向けた視線の先は——マルヴィナ。
「うっ・・・」
「・・・お前だけが、私の目には違ったように見える・・・
お前だけ、周りとは違う光を帯びている。ここに光は必要ない!」
 イシュダルの目が、再び妖しく光る。レオコーンに巻きついていた黒蛇が、低く唸った。
ズルリ、とレオコーンからはなれる。
そして、ありえないスピードで、イシュダルの眸の閃光と共にマルヴィナに狙いを定める——!

「っ!」
「マルヴィナっ!」

 その一瞬——



 マルヴィナが、腕で顔を覆う。しかし、時間が経っても何も起こらなかった。
そろそろと、腕を降ろす。何かの影がある・・・その影が、崩折れるように倒れた。

「・・・・・・・・・・・——っキルガ!?」
 そして、叫ぶ——影は、キルガだった。
その一瞬のうちに、キルガがマルヴィナの前に立ちはだかり——そして、身代わりとなった。
「な・・・キルガ、何で・・・ちょ、しっかりし——ぐっ!?」
 触れようとした手が、稲妻にはじかれる。
「マルヴィナ!? どうしたっ!?」
 扉が開く。シェナ、セリアスの順に入ってきて、同じように悪臭に鼻を押さえた。
「キルガが・・・キルガが呪いにっ・・・!」
 それを見続けたイシュダルの目が細まる。だが、何の言葉も発さないまま、再びマルヴィナを狙った。
今度は、抵抗することも出来ず蛇に身を縛られる。体が重い。足が動かない・・・!
「・・・美しいわね。身を挺して人を守る姿は・・・
でも、他人の美しさなどいらない、私は私のみの美しさを持つ。
マルヴィナとやら、お前は私の前に姿を見せるべきでは・・・むっ!?」

 イシュダルの声が途切れた。そして、[苦しむ]少女の様子を見直す。
 マルヴィナを取り巻いている蛇がもがいているように見えた。
しかも、マルヴィナは・・・少し、本当にわずかだが、抵抗していないか?
動くことさえままならない、この呪いにかかりながら——
 と。

 マルヴィナが、ニッ、と笑った・・・

「・・・なっ!?」
「・・・く・・・っはぁぁあああっ!!」

 叫びと共に——マルヴィナは、ガラスの割れるような音を立てて、その呪いを払いのける!
もがき苦しんだ蛇がのたうち、元の妖気に戻る。そして、レオコーンとキルガを縛り付けた呪いまでも——消える。
「な・・・何っ!!」
 イシュダルの開いた口がふさがらない。
イシュダルだけではない。キルガも、セリアスも、シェナも・・・マルヴィナでさえ。
「何故だ・・・何故、私の呪いが効かない・・・! 何者だ、お前は!」
「・・・わたしは・・・マルヴィナ、いや・・・天空の民、天使マルヴィナだ!」
 ニヤリ、と笑い、言い放つ。
呪いを消し去ったのが天使の力ではないような気がしつつも、はっきりと、堂々と。
「・・・・・天使・・・だと!? 天使が、邪魔立てを・・・!
許せぬ、こうなったらこの私が、あの世へ葬り去ってやる!」
「・・・やれるものなら、どうぞ。——みんな。——いくよ」
 三人が頷いた。









       Chess)我ながらなんてドロドロ・・・しかも長いし