二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.165 )
日時: 2011/01/17 17:27
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: YAFo98qW)

 何とか自分自身を回復させることに成功したキルガ、セリアス、シェナの三人が立ち上がる。
ゆっくりと、だが、しっかりと。
「・・・今度こそ、油断しないからな」
「そうね——ちょっと、油断してたかもね」
 セリアスとシェナが、小さく声を交わす。
 そして、駆け出した。

「マルヴィナ」
 イシュダルの狙い先が変わったのを見て、レオコーンはマルヴィナを小声で呼んだ。
マルヴィナは振り返り、無言のまま話を促す。
「・・・前と、後ろだ。挟み撃ちにする。私が奴の前に立つ。奴の狙いが私にそれたときに、奴の急所を刺せ」
「・・・っ!?」
 マルヴィナは言葉に詰まった。反応が遅れる。
(・・・駄目だ。躊躇っちゃ、いけな、い——)
 再び、決意、・・・しようとする。
 決意しなければ——
「・・・レオコーン、逆にしてくれ。わたしが前に行く。
あんたが次にまともに攻撃を受けたら、身が持たない」
 だが、結局、そう言った。レオコーンの答えを聞かず、マルヴィナは駆け出す。
「おいっ、マルヴィナ・・・!?」
 届いていない、否、無視された、というべきだろうか。それ以上の反論を拒絶する雰囲気があった。
レオコーンはそれ以上何かを言うのをやめる。
「・・・ん?」
「おっと、よそ見しないことね!」
 いきなり戦いに参加したマルヴィナに、やはりイシュダルは狙いを定める。
自分だけに見えるという、周りとは違った光。それが、狙われる理由。
逆に、注意をそらすには、一番適したのが、自分——

 それは、本当に理由だろうか。

 違う。やはりまだ、覚悟が無い。
 『勝負』は好きだ。力と、力の、真正面からのぶつかり合い。それが、勝負だ。
 だが、『戦闘』は、嫌いだ。命を懸け、死と隣り合わせとなる。それが、戦闘だ。
(・・・こんなことして、本当に・・・何かになるんだろうか?)
 マルヴィナは走る。イシュダルもまた、真正面になるように、動き続けた。明らかに、マルヴィナを狙っていた。
 だが、その時、マルヴィナは動きをピタリと止めた。
口を真一文字に結び、両足でしっかりと、仁王立つ。
「・・・? 動かないの・・・? 愚かな!」
 代わりに動いたのは、イシュダルだ。殺戮の眸と、冷静な眸が、交錯する。

 刹那。



           ————ッィインッ・・・・



 二つの、短刀と剣がこすれる、金属音が響く。
 イシュダルの短刀、マルヴィナの剣、
 完全に他に対しての隙を見せたイシュダルを、金属音を合図に、レオコーンが狙う。漆黒の剣を唸らせて。
 だが。

「っ!?」

 マルヴィナの剣が、空を凪いだ。触れ合っていた短刀が、消えたのだ。
 イシュダルはマルヴィナから背を向けていた。
(な・・・まさか、気付いた!?)
 マルヴィナの予想は当たる。レオコーンの気配に、イシュダルは気付いていた。
後は止めを刺すだけだったはずのレオコーンめがけて、イシュダルは刃を走らせる。
(危、な————!)

           ———ドスッ・・・

 嫌な音がする。

 手に、重みを感じていたのは——マルヴィナだった。

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.166 )
日時: 2011/01/17 18:02
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: YAFo98qW)

 イシュダルは呻く。自分の手にした短刀は、何にも刺さっていない。
代わりに、自分の体に突き刺さったのは、マルヴィナの剣。
「・・・な・・・」
 そのまま、崩折れる。マルヴィナがはっとして、手の剣を見て・・・そして、急いで引き抜いた。
信じられないように、赤黒く染まったそれを見て、震えた。
 後退し、イシュダルを見て、震えた。イシュダルは笑っていた。憎悪をこめた——邪笑。
「ク・・・ククッ・・・レオコーン・・・あなたは、何を・・・求め・・・る? 愛する、メリアは・・・
もう、どこにも、いな、い・・のに。そう、この世の、どこに・・・」

 ——黒い波動。風のようなそれがイシュダルの周りを包み、そして・・・フッ、と消えた。
跡形も無く。

「・・・レオコーン」
 セリアスが、剣を収めて一呼吸置いた後、躊躇いがちに名を呼んだ。だが、反応は無い。
レオコーンを苦しめるのは、絶望——・・・
「・・・三百年・・・私は・・・私は、帰ってくるのが、遅すぎた・・・メリア・・・っ!」
 愛しい者を呼ぶ声、何よりも辛い痛みが、言葉の刃となってマルヴィナたちに伝わる。
何を言えば良いのだろう。こういう時、どうすればいいのだろう——


「——遅くなどありません」


 ・・・静かに響いた、涼やかな声に、四人は、レオコーンは、ゆっくりと扉を見る。刹那、奇跡が起こる。
 そこにいたのは。
 純白のドレスを身にまとい、首に紅の宝玉の首飾りをつけた、美しい女性。
フィオーネに[似ている]、その人は——

「——っメリア姫!?」

 優雅に、驚きを隠せないレオコーンの手をとる。
「・・・私は、ずっと貴方を待っています。そう言いましたね。
私は約束を守りました。貴方も約束を守りました。——さあ、後一つ。
・・・黒薔薇の騎士よ、私と一緒に踊ってくださいますね? 交わした最後の約束・・・婚礼の踊りを」
 ・・・答えは、レオコーンの立ち上がる音、そして、一礼。
 そして、二人は踊りだした。
 三百年の時をこえた、婚礼の踊り。

「やるじゃん。——フィオーネ」
 マルヴィナは目を細めて、笑った。
 時は流れる。レオコーンの体が光りはじめる。光り、そして・・・消えかかってゆく。
[フィオーネ]が、はっともう一度レオコーンの手を握る。まるで、この世にとどめるように。
だが、それはかなわない。レオコーンは笑う。そっと握り返すのみ。
「・・・ありがとう、異国の姫君・・・そして、愛するメリアの意思を継ぐ子孫の姫。
貴女がいなければ、私はずっと、絶望の淵をさまよい続けていたでしょう」
「・・・やはり、貴方は、黒薔薇の騎士でしたのね・・・そして、私が、メリア姫の、子孫・・・」
 フィオーネの目に、うっすらと涙が浮かぶ。レオコーンは頷いた。そして、マルヴィナたち四人に向き直る。
「そなたらのおかげで、私は悔いをなくした。——感謝する。・・・ありがとう」
 最後は、声も小さくなり——

 そして、レオコーンの魂は、昇天した。

「・・・・・」
 フィオーネは、溜めていた涙を流す。
「・・・マルヴィナ、ありがとう。・・・お父様に内緒で、ついここまで来てしまったわ。でも、良かったと思うの。
きっと、メリア姫も・・・喜んでくれると思ったから。・・・そう、キルガさん、ごめんなさい。
本当は、おばあさまからメリア姫の話はよく聞いていたんです。嘘をつきました。ごめんなさい」
「いえ、構いません。こちらこそいきなり失礼しました。・・・ところで、どうやってここへ?」
 フィオーネは、にっこり笑った。涙の後は、もう残っていない。立ち直ることが、彼女の強さ。
 身を優雅に翻したフィオーネは、扉との対面、・・・ではなく、そこにいる妙に涙目の兵士二人との対面を許してくれる。
「彼らと一緒に。実は、行くことに反対されて。だからつい、彼らの頭に」
 そういってフィオーネは、右手を出し、・・・チョップする仕草を見せる。
「・・・・・・・・・え。・・・ま、まさか」
「そう。つい、頭に、です」
 恐ろしい。

 というか絶対マルヴィナの余計な一言が原因だろう、と、マルヴィナ以外の三人はひそかに思っていたりする。