二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.186 )
日時: 2011/01/25 20:55
名前: Chess ◆JftNf0xVME (ID: FjkXaC4l)

 町長の家から出て、最後にいたセリアスが扉を閉めた。
「なあ——天使界を襲ったあの黒い光。あれと同時に、この世界では地震が起こった。
そのせいで、魔物も増えて、世界のあちこちでも異変が起きてる。
あの地震・・・何か、とんでもないことが起きる前触れってことはないよな?」
「・・・・・・。その考え、間違ってないかもしれない。
僕たちの知らないところで、何かが動き始めているのかもね」
「なにかって・・・あれ、シェナ、どーしたの?」
 シェナ。妙に青ざめた顔になっていた。しかも、少し震えている。
「・・・ちょ!? 流行病がうつったのか!? それとも口ふさいだ影響で窒息!?
それとも食べすぎで——痛」
 シェナチョップ炸裂。
「何でそーなるのよ。食べすぎはあんたでしょうが」
「いってぇ。誰がいつ食べ過ぎたっていうんだ」
「毎日」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 言い返せなくてマルヴィナが微妙な敗北感をもらった時のこと。

          ——ヒュン——

「っ!」
 音を伴い飛んできたそれは、キルガのこめかみにあたった。
 石。大きくはない、だが、小さくもない。つぅ、と、血の玉がキルガの頬を伝った。
「キルガ!? ——っ、誰!?」
 そのマルヴィナの言葉に、反応した者はいた。
 それは、小さくて六歳ほど、大きくて十歳ほどの子供たちだった。全員そろって、キルガをにらみつけている。
「何だ? いきなり危ないじゃないか」
「お前のせいだっ!」
 一人の少年が、マルヴィナ——を通り越して、キルガを指差した。
「てんしなんて、いないじゃんかっ! ママを、あんな病気にさせて——」
 キルガは悟る。涙をためた少年の心の内を。頼れる者のいない辛さを。
何かに怒りをぶつけなければ気を済ませられない、彼らの心境を——
 無防備なキルガに、再び石が飛んでくる。マルヴィナは舌打ちした。

「——仕方ない」

 その瞬間、マルヴィナは剣を引き抜いて、そのまま石つぶての向かってきたものだけを瞬時に見分けて
それを全て弾き返した。子供たちが呆気にとられる。そして、手中に残っている石を全て落とした。
 マルヴィナは剣を鞘に納め、口を開きかけて何も言えなかった。神父が来たのだ。
「これ、子供たち。お客様方に、失礼をしてはなりません」
「っで、でも、そいつのせいなんだっ」
「・・・シャルロロ。彼は確かに、守護天使様と同じ名前です。ですが、彼は守護天使様とは違うのです。
そして、この病気も、守護天使様のせいではありません」
 うわ、それ、言っちゃダメな言葉だって——と思ったが、セリアスは言わない。言ったら話がややこしくなる。
 思った通り、キルガは歯の奥で、ぎりっ、と音を立てた。
「さぁ、謝りなさい。そして、八つ当たりなどというみっともない真似は二度としてはなりません」
「・・・・・・・・・・ごめんなさい」
 その子の言葉に続き、それぞれ違った声の“ごめんなさい”が聞こえる。
そして皆、返事も待たずに逃げるように去っていった。

「・・・申し訳ございません、旅人さん方。・・・あの子は、人一倍情報入手が得意でしてね・・・
あなたの名前を聞き、居ても立ってもいられなくなったのでしょう。あの子の母親は先日、天に召されたのです」
「・・・・・・そう、なのですか」
 走り去る子供たちを、凝視できなかった。悔しかった。
「・・・お怪我をされたでしょう。教会にぜひいらしてください」
「いえ」キルガはその言葉に、丁寧に答える。「ありがとうございます。ですが、大したことではありません」
 この町の人に比べれば。そう、呟く。
「・・・そうですか。・・・あなた方に、強運と健康の神のご加護のあらんことを・・・」
 神父は、べクセリア特有の祈りをささげた。


 ばしん、と。
「痛っ!?」
 ・・・しばらくの後、セリアスの右手がキルガの背中にヒットする。
「・・・な、・・・何?」
「何? じゃねーよ、この下げ下げ。勝手にひとり悩みやがって」
「・・・はぁ」
 空返事をするキルガに、セリアスはずいと顔を近づけ言う。
「お前なぁ。なっにいまっさら後悔してんだよ。後悔したところでなんか変わるか? 誰かが蘇るか?
そんなのは叶わない。だったらいまっさらウーダウーダ考えてずにさっさと自分にできること考えろ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 セリアスの言い切った言葉に、しばらく反応ができなかった。だが、言われたことは間違っていなかったし、
何より言葉の内容はキルガに最も必要なことであった。
「・・・返事!」
 ずばりと言われ、
「・・・・・・ああ。・・・そうだね。ごめん」
 キルガは応え、力強く頷いた。


「——えぇぇーーっ!? パパがルーくんにっ!?」
 エリザは、鍵のことを聞いた瞬間に口をぱっくり縦に開いて驚いた。
「ん〜、まぁ、しゃーなしに、って感——」
 シェナが言って、いや言いかけて、またもマルヴィナに口をふさがれた。

「・・・わかりましたよ。えーえー行けばいーんでしょう。
それじゃ、僕は先に行ってますんで、あなたもすぐ来てくださいよ」
 というわけで、説明を終えた四人に言われたルーフィンの言葉がそれである。
 やれやれといった割に、妙に張り切っている感じがしなくもない。彼にとっては、ツボを治すことよりも
封鎖され続けていた祠に入れることのほうが重要なのだろう。
 残された計五人、初めに沈黙を破ったのはエリザの咳だった。
「・・・あ〜、もう。やんなっちゃう。この部屋、ホコリ凄いから・・・けほっ」
「大丈夫? ・・・ほんとにホコリのせい?」
「・・・ええ、だからだいじょーぶですっ。・・・でも、ルーくんのほうが心配だな・・・病魔って、なんなのかな。
・・・お願い。ルーくんのこと、しっかり守ってあげてください!」
 エリザは、本当にルーフィンのことが好きなんだな・・・
 キルガは、そう思った。誰も死なせない。病魔封印を手伝うこと。
それが、今自分にできることだった。