二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.254 )
日時: 2011/03/01 17:21
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: PdKBVByY)

 こうして。
 一つ目の果実を手に入れた一行は、ダーマ神殿へ戻った。
 神殿もちょっとした活気を取り戻し、転職を心待ちにしていた人々が続々と押し寄せた。
中にはメイドになりたいとか言う老人(男)もいたが・・・一体どうなったのだろう。
シェナいわく、「あーゆーオジジはどこにでもいるものよ」らしいが、・・・とりあえず気にしないでおいた。

 ・・・ところで。
「セリアス〜。転職おめでとう? ま、とにかく、良かったわね」
 シェナは転職を終えたセリアスに真っ先に声をかけに行った。
セリアスはびっ、と親指を立ててはにかんだ。バトルマスターとして、ロウに実力を認められたのである。
 ジャダーマ戦、セリアスが最後に見せた、あの動き。守りを捨て、攻撃に専念した、あの一撃。
まさかバトルマスターとしての修行を積んでもいない彼が、本物に近しい動きを見せるとは
さすがのロウも思わなかったらしい。これは天賦の才だ、と彼に言われて、セリアスは大いにてれた。
 ロウはバトルマスターを辞めるつもりだったらしい。
そのために、見込みのあるものに、自分の意志を託そうとしていたという。
「意志?」
 シェナが聞き返す。セリアスは頷いた。
「何か、バトルマスターっていう名を持ってるために、自分の武器に頼る奴が多いんだってさ。
本当の武器は、精神力と己の力。それが分かっている奴を探してたって」
「それがセリアスだったのね。やるじゃん」
 笑ったついでに、シェナはふっとさっき目を引いたものについて尋ねる。
「・・・思ったんだけど、それ。その背中のって、ロウさんの斧?」
「えっ? ああ、そうだよ。もう使わないからってさ。・・・正直、結構重い」
「・・・そう、なんだ」
 シェナは思わず視線をそらした。[あの事]を聞かれたくない——
「持ってみるか?」
「へっ?」
 だが、セリアスは何を思ったか、それとも何の考えも無しだったのか、そう言った。
シェナは呆然として——頷く。
セリアスは、重いと言っていながら片手でスッと突き出す。シェナはおずおずと両手を出した。
「離すぞ。——もういっぺん言っとくが、重——」
 その瞬間。


          が ん   っ!


「ひっ」
「あら」
 斧の刃、床に激突。
「あああああああああ“あら”じゃないっっっ! 重いっつっただろっ!?」
「遅い。・・・えーと、床、大丈夫?」
「どうしたんだっ?」
 最後は宿屋にいたキルガである。ちょうど出てきたところだったらしい。
「あ、いや・・・これシェナに渡したら、刃が床に・・・」
「重いもの持たせるからよ。・・・あの戦いでセリアスの剣を持ったのは、火事場のなんとやら、って奴なんだから」
「持たせろ言ったのは誰だ!?」
「先に言ったのはセリアスじゃなかったっけ?」
 シェナの反論にセリアスは口ごもりつつ、会話している中で、キルガは。
 そうか、火事場の馬鹿力だったのか、と思って——思いかけ——首を、かしげた。

 刃のあたったような音はした。だが、それにしては、おかしなところがある。




 ・・・床は、切れていなかったのだ。

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.255 )
日時: 2011/03/01 17:53
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: PdKBVByY)

「てか、キルガ。マルヴィナは? 一緒じゃなかったのか?」
 シェナについに反論できなくなったセリアス、苦し紛れに話題をそらしたが——そういえば何処だ、と後から思う。
 だが、キルガもキルガで、首をかしげた。
「そっちこそ、一緒じゃなかったのか」
 頷くセリアスの横で、シェナポツリ。
「スカリオのところ」
 三人の間に静寂が落ちる。
が、セリアスがすぐさままくし立てる。
「いやいやいやいや、待て待て。あの変人男、マルヴィナに手ぇ出したら絶対許さんっ」
 キルガ、複雑な表情。別にセリアスはマルヴィナに好意を持っているわけではない、
彼は仲間思いな性格なのだ、と言うことは分かっているのだが・・・やはり、最終的にこの複雑な表情になる。
 だが、シェナは。
「フリーフロアのはずよ。今回はマルヴィナから行っちゃったけど——あ、聞いてないわね」
 セリアスが脱兎の勢いでフリーフロアに向かっていた。無論、キルガも追っていた。


「スカリオ」
 マルヴィナがスカリオを呼ぶ。
「ん? ・・・あぁ! マルヴィナ、君凄いね。絶対魔法戦士の素質あるよ」
「あぁ、そのことで話がある。——あの時、そのフォースを教えてくれなかったら、
魔法戦士というものに興味を持たなかっただろう。感謝する」
「ああ! ようやくボクに——」
「興味を持ったのは“魔法戦士”だ。“スカリオ”じゃない」
 スカリオの発言をサラリと一刀両断するマルヴィナ。乾いた空気が流れた頃。

「マルヴィナぁ! 大丈夫か! っっっスカリオぉぉっ!!」

 かなり迷惑な叫びと共にセリアス登場。
「セリアス君? 何だいそんな慌——うわっ首絞まるっ」
 そしてそのままきゅううううっと問答無用で首を絞めたわけなのだが、
続いて登場したキルガ、ではなくシェナに、凄い勢いで頭をはたかれ、
「あー、すいませーん。勘違い、勘違い」
 という言葉で、スカリオは命拾いしたわけである。
「どうしたんだ? いきなり」
「なんでもないのよ。それよりマルヴィナ、魔法戦士に転職するつもりで、スカリオに話を聞いていたんでしょ?」
「え? あぁ、うん。そうだよ」
 セリアス&キルガ、頓狂な声を出す。
 マルヴィナは肩をすくめ、もったいぶった口調で宣言した。

「・・・決めた。わたしは、魔法戦士になる」




 マルヴィナは一人、ダーマ神官に会いに行っていた。
フリーフロアに残された三人の内——スカリオは、キルガを呼んだ。
しかも、いつものへらっとした様子ではなく、大真面目に。どこかの不良かと一瞬思ったほどに。
「・・・何か?」
 キルガは若干警戒しつつ、尋ねた。スカリオは少し離れた位置にキルガを誘導する。
ますます持って訝しげな顔をするキルガに、スカリオは低い声で、一言言った。
「好きなんだろう、あの子の事」
 キルガは一瞬呆気にとられ——途端に、身体を硬直させた。何で分かった!?
「分かりやすいんだよ。マルヴィナのことが好きだって、見れば分かる。が——まだ、躊躇ってるんだな」
 スカリオはまるで先輩にでもなったように、続ける。
「確かにあの子は、人一倍度胸もあるし、剣技の実力は半端じゃない。正義感もある。それに、可愛いし」
「・・・最後は関係ない。僕は、マルヴィナの性格が、・・・好きなんだ」
 それに、あえて言わせて貰うなら、表現が違う、と思った。“可愛い”ではなく、“美人”でもなく・・・
彼女には、“綺麗”、と言う言葉が、一番似合った。彼女を創り上げる、性格や、特徴を全部含めても。
「へぇ、言うじゃないか」スカリオは笑った。
「だが・・・気をつけるんだね。もたもたしてると、彼女は違う方向を見てしまう。別のところを見てしまう。
彼女は、そういう子さ。あっという間に、視界から省かれてしまう・・・今のままだとね」
 キルガはぽかん、とした。その通りな気がする。何で、分かるんだろう。
「・・・君よりは色恋沙汰に詳しい自信を持つ者から、助言しておくよ。
現状維持は、危険信号だ・・・ってね」
 スカリオはふっと笑うと、キルガの肩をぽん、と叩いて、立ち去った。
(危険信号・・・か)
 キルガは、口をつぐんだ。