二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.276 )
- 日時: 2011/03/14 19:11
- 名前: Chess ◆JftNf0xVME (ID: fckezDFm)
2.
——夜のこと。
暗くなった空に、星が散らばり、月が孤独に輝いていた。
漆黒の海にその月が浮かび、波に合わせてゆらゆらと揺れる。
静かな村に、さざ波の音だけが広がる。
マルヴィナは、目を閉じて、潮風にあたっていた。
オリガの家を訪ねた四人だったが、その後彼女が村長の家に呼ばれたために、彼女を待つ状態となっている。
その時間を利用して、マルヴィナは一人、自分の世界に入り込み、気持ちを落ち着かせていた。
・・・月。
今宵は、満月ではない。端の少し欠けた、未完成な円だ。
それを、見ながら。彼女の記憶は、数百年前にさかのぼる・・・
「きるがー、せりあすー」
天使界へ送られてきて間もない、人間界で言えば五歳程度の小さな見習い天使がいた。
マルヴィナである。
短い髪をばさばさに振り回して、ついでに手もぶんぶん振り回して、名を呼んだ二人のチビ天使のもとに走る。
真っ先に甲高い声で反応したのは、髪の毛もまだぺしゃんこのセリアスである。
隣のキルガは・・・なぜかこの頃からすでに妙に可愛い可愛いと言われ女天使たちに人気であった。
「うーい。マルヴィナぁ、お師匠さまきまったー?」
チビセリアス、いきなりチビマルヴィナに痛いところを突く。
「・・・う・・・きまってない」
「セリアスは決まってたっけ?」
チビキルガ、すかさずツッコミ。
「きまったぞー、今日! テリガンさまだ!」
たちまちチビマルヴィナとチビキルガの頭上に疑問符が急増する。
「しらないのか」
「ぜんぜんしらないー」
チビマルヴィナ、即答。
「でもこれで、きるがもせりあすもお師匠さまきまっちゃったね。あとはわたしだけかぁ」
後から知ったのだが、彼ら三人は、異常な時期に天使界に送り込まれた。
もしかしたら、神が作り出した生命ではないのでは・・・とも言われている。
どちらにせよ、準備ができていなかったので、師匠を決めるのにも
(あるいは天使が師匠になると名乗り上げるまでにも)一苦労をかけられていたのだった。
が、そんな会話を、黙って聞き続ける上級天使もいた。
彼は、上位の優秀な天使でありながら、弟子をとったことがない。
そんな彼が、不満げに頬をふくらます小さなマルヴィナを、じっと観察するように見ていた——。
長いので(これは短いけれど)一度打ち切り。
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.277 )
- 日時: 2011/03/14 19:49
- 名前: Chess ◆JftNf0xVME (ID: fckezDFm)
天使界は、マルヴィナたち三人を巡って話し合いが度々あった。
幼い天使のころは、成長が早い。あれから数十年、マルヴィナたちは人間界でなら十四歳程度となっていた。
彼らは、皆それぞれ不思議な能力を秘めていた。
キルガは、知識の呑み込みが早い。天使界でも優秀であり、またイザヤールと同じ時期に天使界へ送られた
ローシャと言う名の女天使が、彼の師匠に任命された。
が、ローシャもキルガに物事を教えた後はたじたじの様子である。彼は優秀すぎた。
もう教えることがほとんど残っていない、と時々ローシャはラフェットに話している。
セリアスもそうだ。もっとも彼の場合、物事を考える能力は浅いが、守護天使に必要な戦闘能力は半端ない。
彼は日々の鍛練で、剣から棍から槍から、さらには徒手空拳まで、戦いの才能を発揮している。
彼の師テリガンはやや年老いたベテランの天使であり、様々な武器を教える立場にあった。が、そんな彼もまた、
セリアスの能力に舌を巻いていた。
最も考えさせられるのは、マルヴィナである。彼女には今だ師匠がいなかった。
おそらく、否、完璧に天使界史上師匠がいない点において最遅であった。
それは、彼女が最も天使らしく、その一方で天使らしくないからであった。
マルヴィナは守護天使に異常なまでの憧憬を抱いていた。そのために、守護天使に必要な知識を
なかなか覚えられないながらも必死に勉学に励もうとしていた(励んでいたわけではなかった)。
だが、それよりも、マルヴィナには異常な能力があったのである。
それは、邪悪に人一倍反応すること、呪いの類を一切寄せ付けないこと、
古の天使界の歴史を何故か[覚えていること]である。
最後のそれについては、無論すべての出来事を知っているわけではなかったのだが、歴史書の保管される
守護天使記録書物庫に入ったことすらない見習い天使が何故数千年前の出来事を知っているのかが謎だった。
また、彼女は、現在鍛錬の剣術で、年少で女ながら一番の実力を持っていた。
神秘の能力を宿し、古の記憶を持ち、また剣の才能に優れた謎だらけの少女天使。
彼女の師匠になろうとする上級天使はいなかった。
が。そんな中でただ一人、ラフェットは気付いていた。
自分の幼なじみが、かつてない雰囲気を漂わせていることに。
その少女天使に、長年、惹かれるように、あるいは考え込むように観察し続けていたイザヤールの心情に。
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.278 )
- 日時: 2011/03/14 20:44
- 名前: Chess ◆JftNf0xVME (ID: fckezDFm)
「・・・はぁっ!」
「ぬぅっ!」
・・・天使界、鍛錬所。
鍛錬の内容として剣術をとっている見習い天使、あるいは守護天使候補たちの視線の先には、
実力者であるマルヴィナとセリアスの一騎打ちがあった。
またしてもマルヴィナの師匠を決めることについての議論に駆り出された上級天使に代わって
審判を務めさせられているのは、槍術からセリアスに強引に連れてこられたキルガである。
一応彼も暇だったので別によかったのだが、
「せぃっ!」
「はっ!」
・・・さすがに見ていて飽きてきた。
二人は表向きには互角である。が、息の乱れを見てみると、優位に立っているのはマルヴィナであった。
セリアスはだんだんと息が深くなってきているが、そもそもマルヴィナは汗ひとつかいていなかった。
いくら好きなことだからって、ここまでいくものなのかなぁ、と若干呆れ気味に考えていたキルガの視線が、
ふっと戦う二人から外れた。まず初めに視界に入ったのは、自分の師匠ローシャである。
会議に参加していたはずじゃ、と思ったが、次いで現れたラフェットと、さらにその横の生真面目な顔つきの
坊主頭の上級天使を見て、もしかして、マルヴィナに何か用があったのか、と考える。
「・・・あの人、イザヤールさんだっけ?」
剣術をとっていた幼なじみフェスタの問いに、キルガは頷く。「確か、剣術においてもかなりの実力者だ・・・
マルヴィナに用事があるのかも」
「マルヴィナに? あぁ・・・あいつ、今だ師匠が——あ」
と。
「っせぇやああぁぁっ!」
フェスタが何かに気付いたのと、マルヴィナが気合いの声を発したのは、ほぼ同時であった。
はっとして視線を戻すと、見えた光景は、練習用の 細剣_レイピア_を横倒れになりつつぴくぴく身じろぎをする
セリアスに突きつけたマルヴィナの姿であった。
「・・・・・・・・・・・え」
「・・・? キルガ? ・・・もしかして、見ていなかったのか・・・?」
「見ていなかった」包み隠さず、謝罪交じりに答えるキルガ。
「審判がそれでどーするっ」
「いや同じ動きを半時(天使界では三十分を表す)眺め続ける身にもなってくれ」
「半時? ・・・あ、ほんとだ。結構闘ったんだな、わたしたち」
「・・・疲れた」
セリアス、話しかけるなと言わんばかりの返答。
「そう? わたしは別に平気だけど」
「マルヴィナ、剣術になると疲れ知らずだもんなぁ」
周りの天使たちが頷く。
「でもさーマルヴィナ、強すぎっからさ。さすがに三対一くらいじゃないと無理だって、もう」
「三対一かー。それもいいな。でも、やっぱわたしは一騎打ちの方が好きだな」
「私が相手をしようか」
・・・そこで、別の声が届く。
マルヴィナがはっとし、天使たちがその声の主に焦点を合わせる。
・・・イザヤールである。
「ちょ、イザヤールっ・・・」
ローシャがあわてて咎めようとするが、ラフェットがそれを手で遮った。
若干口の端を持ち上げて、楽しそうな目で彼らを見る。
誰? と言わんばかりの視線をマルヴィナから受けたキルガは、素早く自分の知る情報を伝えた。
セリアスがかなり心配げな足取りで部屋の端に避難(?)し、イザヤールは先ほどセリアスのいた位置に立つ。
マルヴィナは細剣を右手に持ったまま、相手を観察した。力量がビシビシと伝わってくる。・・・彼は、強い。
「安心したまえ。“命令”は作動させない。が、私は相手の実力がどうであれ、決して手加減はしない。・・・良いな」
天使は上位の天使に逆らえない。それは、天使界の 理_ことわり_ である。
上級天使が下位の天使に“命令”というものを発動させれば、それをさせられた天使は、
上級天使の望まないことを行動に移すことはできなくなる。つまり、イザヤールがマルヴィナに動かないよう
“命令”を作動させた場合、マルヴィナは動けなくなってしまうのだが、彼はそうする気は全くない、と言うことだ。
マルヴィナは彼の実力を知らなかった、が、剣術は大好きだった。たとえ知らない相手であったとしても、
別の天使と戦えることが楽しみであった。
だから、言った。
「お願いします」——が、その勝負は、マルヴィナが思いもよらない速さで、勝敗がついたのであった——。
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.279 )
- 日時: 2011/03/15 20:00
- 名前: Chess ◆JftNf0xVME (ID: fckezDFm)
———っぱぁん!!
鍛錬所に、鋭い音が響いた。
イザヤールは、正眼の構えを元に戻し、相手を改めて観察した。
目を見開き、何もない自分の右手と、床に落ちた彼女の細剣を呆然と見比べる——マルヴィナ。
「・・・・・・・あっ・・・しょ、勝負ありっ」
キルガでさえ慌てて、試合終了の合図をした。始まってから、四十秒ほどしかたっていなかった。
「はっ・・・早ぇっ・・・」
避難し、ボーっとしていたはずのセリアスが、冷や汗を流し呟いた。それが合図のように、周りからどよめきが起こる。
あのマルヴィナが、あんな短時間で、あっさりと負けた。
相手が優秀な上級天使であったとはいえ、彼らには信じがたいことであった。
が、当然、一番焦りを隠せていないのはマルヴィナである。
剣術を初めて行った時から、負けなしの実力を持っていた。
闘うごとに、鍛えるたびに、強くなっていった。それは誇りでもあった。が——今、ここで、負けなしの女剣士は、
その称号を変えることになってしまった。——それが、悔しかった。
「——————————っ・・・ありがとう、ございましたっ・・・」
確かに、勝てるかもしれない、などとは考えてはいなかった。そこまで自惚れではなかった。
何が悔しいのか。それは、ここまで早く、こちらの攻撃が決まらぬままに、勝負が終わってしまったことだった。
頭を下げたまま、なかなか上げないその少女に——イザヤールは、話しかける。
「・・・これは“勝負”だと・・・侮っていたな」
「・・・え」
いきなり何を言い出すのかと、一瞬思った。つい、顔を上げる。
「これはただの“鍛錬”だと——どこかで、そう思っている。それが、今回の敗北の理由だ」
マルヴィナはきょとん、とした。その通りだ。だが、何故? それが、敗北の理由?
「物を習うのに、手加減は不要。鍛錬だ、練習だと思えば、自然と手を抜いてしまう。それが心情だ。
・・・常に、次はないつもりで励めば、その才能はさらに開花するだろう」
「・・・開花・・・」
マルヴィナは、復唱した。きっ、と、イザヤールの視線を真正面から受ける。
「・・・“常に本気であれ”——ということですね」
「・・・その通りだ」
マルヴィナは視線を落としかけ、無理やり上げた。イザヤールの目を見たまま、しっかりと頷く。
ローシャが目をしばたたかせ、ラフェットが、へぇ、と感嘆の声をあげている。
(たしかに・・・あの子、イザヤールが僅かに見込むほどの何かがある)
「それから、その練習用の細剣は、もう少し重いものに変えた方がいい。いささか軽すぎるようだ」
「これですか? ・・・これより重いものか・・・わたしに使えるかな・・・
いや、やれるか、じゃなくて・・・やるんですね!」
「ある程度の実績がつけば、その軽さでも十分な戦闘が期待できよう」
(あ〜らら、イザヤールの奴)
普段寡黙な彼が、珍しく饒舌(彼にすればこれは饒舌範囲である)となっていた。ラフェットは、くすりと笑う。
(こりゃ、すっかりあの子気に入ったみたいだね。・・・多分、これならあの子の師匠には・・・)
それから、イザヤールがマルヴィナをめぐる会議中に自分が彼女の師匠になることを申し出たのは、
数日後のことであった。
——そんなことを思い出したマルヴィナは、ふっと目を開けた。
意識の中に、相変わらず鳴り続ける波の音が飛び込んでくる。
・・・なぜ、こんなことを思い出したのだろう。・・・あぁ、そうだ。月だ。
あっさりと細剣をはじいた彼の背には、黄金に輝く月が見えた。まだ、夜になりたての空だった。
あれが、印象的だったのだ。
・・・当てもないところへ視線をさまよわせたまま、マルヴィナは溜め息をついた。
何処かへ行っていたキルガが戻ってくる。情報収集していたらしい。
その後、オリガも小走りで戻ってきた。マルヴィナはもう一度、無意識に目を閉じた。