二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.29 )
日時: 2010/11/11 16:29
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: rHtcSzQu)

——一方、ウォルロ村の東北東、ガナセルと呼ばれる地域。
ベクセリア、という名の町。
・・・の守護天使キルガである。

誰もいない宿屋の個室を掃除するという何とも地味な作業を
彼が既に三時間もしているのには、当然理由がある。
宿屋を切り盛りする女将の腰が不幸にもギックリいったために、
掃除が出来ない〜、まずい〜、ナムナムとなぜか珍妙な呪文のようなものを唱え
ひっくり返ったことからであった。
というわけで、無言でせかせか掃除。
前の客は相当いい加減な正確だったのか、
見るものが強盗に入られたかと誤解しそうなほどの散らかりよう。
すべての部屋を片付けた頃には空がすっかり茜色。
「・・・ふう」
華奢なわりに意外と丈夫、滅多に疲れることのない彼でさえ溜め息をつくほどであった。
星のオーラが出るといいけど、と少しだけ思いつつ、ひとまずは一度外へ出る。
扉を少しだけ開けると、そこにはちょうど女将の姿があった。・・・いつ外に出たんだろう。

「ふいい、冷たい。ありがとねぇエリザちゃん、助かるよ」
「いえいえ! そうだ、そのシップ、おばさんにあげますよぉ。うちのルーくん、全然使いませんし」
・・・どうやらギックリいったところに湿布を貼ってもらったらしい。
それで治るのか、とキルガは思いつつ、背中丸出しのおばさんを前に眼を逸らしておく。
「それじゃ、わたし行きますねぇ。ルーくん、研究に根詰めすぎてるかもしれませんし」
去っていくエリザという名の女性_この町の町長の一人娘_を見て、女将は溜め息をついていた。
「・・・ルーくん、ねぇ。可愛そうに、あんな学者を夫なんかに持って・・・気を使って。
ああ、守護天使様、彼女に幸せをあげてくださいまし」
キルガは、眼を細める。

——幸せ。

(・・・幸せって、——いったい何なんだろう)
人間によって、違ったもの。
お金が欲しいとか、遊びたいとか、そういうのをよく聞く。
エリザの幸せとは。
“学者”であり“夫”——ルーくん、本名ルーフィン。
キーワードは、彼。
“その人がいるだけで幸せ”という言葉があるが、あれはただのきれいごとだと教えられた。
人間は、それだけで満足する欲少ない生き物ではない、と。
だが、彼女は?エリザは?
彼女の幸せは、ルーフィンの傍にいる、この現状。
彼女は幸せを感じている。
だが周りはそう思っていない。

「・・・・・・・」

若い守護天使は悩み続ける。
どうか幸せに——そう願う人間に対して、一体どういう行動をすればいいのか——・・・