二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.290 )
- 日時: 2011/03/24 11:14
- 名前: Chess ◆JftNf0xVME (ID: fckezDFm)
「ぬしさまっ!?」
オリガが叫んだ。
普段は、何十メートルも奥にいるはずの海のヌシは、地響きを起こしながら浜へやってきた。
何事かと、キルガたち三人や、村人までもが表に出た。おぉ、ぬしさまじゃ・・・そう言い、祈る老人もいた、が、
海のヌシのギラリと瞬く赤い眸を見た瞬間、それは固まった。ヌシの咆哮、怒り。それに驚いた人々は、
さっと顔を青ざめ、後じさり、一目散に逃げ出した。
——これが、人間。信じ、崇めていたものを、すぐに奇異なものと見る。
・・・キルガは、かつてローシャから教えられた言葉を思い出した。守護天使となるか否か、決まる直前のこと。
こんな、人間という生き物を、あなたは全身全霊をかけて守り抜く意志と覚悟がある? と。
・・・あの時の答えと、今の答えは、変わらない。
ヌシを前にした大人たちの、早口の懇願、哀れな願い。
冷静さを失った、目の前の出来事から逃げ出したいばかりの人々。
・・・僕らは違う。
「・・・・マルヴィナっ!」
呼ぶ声に、マルヴィナは、うつぶせに倒れながらも、少量の砂をつかみ、ゆっくりと立ち上がる。
髪と、顔と、旅装を白くしながら、マルヴィナは、オタオタとする大人をヌシの前で、一人で庇った。
キルガが、セリアスが、シェナが、マルヴィナのもとへ行く。大人を押しのけ、下がらせ、
三メートルもない程の近くから、ヌシを見つめる。
「・・・マルヴィナ、大丈夫か」
「うん。わたしとしたことが、不意打ちを・・・ありがとう、みんな」
「ん」
短い返事をし、彼らは、あくまで立ち続ける。
どうしようか。考えた時——ぬしが急に、ふっ、と笑ったように見えた。
「・・・・・?」
『旅人よ。お主らも、その下劣者どもの味方か?』
どこからともなく、低い声がした。四人が訝しげな表情をするのに対し、村人たちは、驚愕を隠さない。
一番に反応したのは、オリガだ。この声。懐かしくて、威厳があって、誰よりも大好きな人の声。
「お・・・お父さんっ!?」
オリガは叫んだ。一番大きな声だった。
キルガが、やっぱり、と呟いた。シェナはその声を聞き逃さず、無視もしない。
「・・・何? キルガ、知ってたの?」
「昨日の情報収集でね・・・大体、予想はしていた」
「・・・じゃあ、何? あの人? は、女神の果実で、海のヌシになったってわけ?」
「多分」
ヌシが、ぐあぉぉ・・・と、ひと声鳴く。瞳の紅蓮が消えた。代わりに、同じ声が響く。
『・・・オリガ』
「お・・・おとっ・・・」
オリガの唇がわなわな震える。が、ヌシはすぐさまオリガから話し手を変える。
ヌシが、咆哮を上げ、だぁん! と地響きを起こす。浜が揺れ、網が壊れ、人々は倒れこむ。
四人は辛うじてそれに耐えながら、ヌシを睨みあげる。マルヴィナは、一か八か、と思った。
どうにか、この生物に、話は通じそうだ。だったら——諭すだけ。
「・・・セリアス、シェナ。村人の安全を確保してくれ。
セリアスは攻撃をどうにか流してほしい。シェナは怪我を負った人の回復を」
「「了解」」
唐突な頼みに、だが二人はあっさりと了承する。戦略を立てるのは、いつもマルヴィナだった。
さすがにこれは戦略、ではないが・・・それでも、[こういうこと]に関して、一番考えを巡らせるのはマルヴィナだ。
マルヴィナは頬の砂を払って、堂々と話しかける。
「・・・オリガの父親、だって? 今あんたが暴力ふれば、お互い痛い目にあう。
ましてやオリガは、当たり所が悪けりゃ死ぬ可能性がある。脅す気はないけれど、戦闘は、無しだ」
オリガはロクに食事をとっていない。幼く、軽すぎる少女は、今ここで闘えば間違いなく巻き添えを食らうだろう。
「・・・何があんたを動かしている? 村長に対する恨みか? それとも・・・第三者のわたしたちに、八つ当たりか?」
「・・・オリガ」
キルガが、そこで、ぽつり、と言った。
マルヴィナが、キルガを見て、一つ頷く。キルガも返した。そして、もう一度言う。
「・・・答えはオリガだ。そうでしょう?」
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.291 )
- 日時: 2011/03/24 17:56
- 名前: Chess ◆JftNf0xVME (ID: fckezDFm)
答えが、あたし・・・?
オリガは、きょとん、とした。シェナが駆け寄る。
「怪我、してない?」
「あ、大丈夫です」
そしてオリガは、高い位置にあるキルガの頭を見上げた。
「一年前の大地震」
キルガの推測が、はじまる。
「漁の途中、あなたは、黄金の果実を見つけませんでしたか? いや・・・さらに、口にしたのではないですか。
黄金の果実は、願いをかなえる効果がある。その話は、有名です。ここからは推測ですが・・・
あなたは死を覚悟した際に、考えたのではないですか。この先、オリガは、どう生きてゆくのだろう——と」
「な・・・」
オリガが目を見張る。推測だよ、とマルヴィナがオリガを励ますように言った。
「・・・その思いは彼の魂を海のヌシと変えた・・・そう言いたいんだよね?」
「あぁ」
ヌシがかすかに身じろぎしたように見えた。セリアスは警戒したが——その必要はなかった。
(・・・ヌシがキレた時は・・・俺の出番だな。ま、ないと思うけど)
キルガはシェナと違って相手を挑発したりしないし、とかなんとか。
シェナが人の心の内を読めたとしたら、確実にシェナチョップが飛んできただろう。
・・・ふ、と。諦めたような、そんな笑い声がした。
『・・・なかなかだな、お主は。その通りだ・・・間違いもなく、全てお主が言った通りだ』
オリガの父の声。
シェナはその声を聴きながら、やるわねキルガの奴、と呟く。あぁいう人間心理などは、彼が一番鋭い。
『・・・私が目を覚ました時、確かに私はこの姿だった。一人となったオリガに・・・
このぬしさまの立場を利用させていただき、魚を届けようと・・・そう考えた・・・だが』
一度、声が途切れる。
『だが・・・いつしか、オリガの周りに、身勝手な村人が群がるようになっていた・・・』
傍観者であった大人たちが、びくっ、と震える。
「・・・そっか」
対し、オリガは、小さくつぶやく。
「・・・あたしの・・・せいだったんだ」
だが、次の言葉は、予想された礼の言葉ではない。後ろめたさの、言葉だった。
Chess)切るタイミングがつかめないので、一度ここで投稿!
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.292 )
- 日時: 2011/03/24 18:01
- 名前: Chess ◆JftNf0xVME (ID: fckezDFm)
「・・・あたしのせいで・・・ここの漁を、なくしちゃったんだ・・・」
『オリガ・・・?』
その声に、たまらずオリガはぎゅっと両手を握りしめて、言った。
「お願い・・・もうやめて、魚を届けないで。こんな生活のままじゃ、大切な漁を忘れちゃうよ。
この村が、漁の村じゃなくなっちゃうよ」
「な・・・ぁ、オリガ、誰が許した、そんな自分勝手——」
「黙ってろっ」「黙ってなさいよっ」
男の言葉を、セリアスとシェナが、同時に封殺した。
「自分勝手は誰だ、いつまで人に依存してんだよ!」
「まだ分からないの!? 自分だけ良ければいいなんて甘ったれた考えしてるから、こんなことになったんでしょう!?」
マルヴィナは、開きかけた口を閉じた。言いたいことは、二人が言ってくれた。
「・・・誰かに頼ってばかりなんて、間違ってる。あたしは・・・この浜で、漁を続けたい」
オリガは、小さく、だが何故かよく響く声で、堂々と言う。
「あたしは、村一番の漁師の娘。あたしは・・・一人で何でもできるようにならなくちゃいけない」
きっぱりと言い切ったオリガに、人々の視線が殺到した。少女は臆することなく、瞳を煌めかせる。
『・・・なるほどな』
そんな彼女を見て、オリガの父は、ふっと息を漏らした。諦めではない。それは、安堵。
『・・・・私は・・・私でさえ・・・何もわかっていなかったということか・・・
だが、今分かった。・・・いつまでも子供だと思っていたお前が・・・成長したものだ』
「・・・お父さん、ぬしさまになって、この浜を守ってくれようとしたんだね。でも、大丈夫。
あたしが・・・あたしが、この浜を、漁師の村に、戻して見せるから!」
言い切る彼女の存在は、光。
その光は、いつか、闇を照らし、消し去らせる力を持つだろうか。
・・・大丈夫。彼女なら。
ヌシは、巨大な身体をぐいと海へ向けた。その身体が、ゆっくり、見えなくなってゆく。
魂が、昇天してゆく・・・誰もが、初めて見るものながら、そう思った。
「・・・あ・・・」
オリガは、そこで口を開く。だめだ、泣いちゃいけない。浜の女は、強くなくちゃいけない。
泣いちゃ、いけない・・・
「・・・・・・っありがと————————っ!!」
だが彼女は、そう叫んだ。姿の消えた、ヌシ、否、父親へ。
村に、何回も、ありがとう、という言葉が響いた。
彼女は、くるり、と顔をそむけた。顔をごしごし、と腕でこする。
余韻が、消えてゆく。そして——完全に、聞こえなくなった。
だが、その時彼女は、もう泣いていなかった。
村の光として存在する彼女は、村の誰よりも、強い意志を秘めていた。
「・・・さてと」
マルヴィナは、呟く。
「・・・事件、解決。わたしたちも、そろそろ次の場所へ、だな」
「そうだな。・・・にしても、俺、あんまいる必要なかったんじゃないのか?」
「まぁまぁ。あの言葉、決まってたよ」
マルヴィナは、そう言って笑った。
右手に、二つ目の女神の果実を光らせて。
【 Ⅵ 欲望 】——完結。
Chess)あー、こいつが一番書くの難しかった。表現の仕方が分かんない・・・うぅ。夕飯夕飯。