二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.310 )
- 日時: 2011/03/27 19:58
- 名前: Chess ◆JftNf0xVME (ID: fckezDFm)
そんなわけでキルガは、ハルクに案内されて、噂のパスリィを尋ねる。
「まぁ、見てわかると思うが、こっちは女騎士の宿舎だ。女といえど強いからな、気をつけろよ」
「・・・えっと、何にですか?」
「襲われんなよってことだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
反応のしようがない。
朝の見張りに立つ女騎士に朝の挨拶をし、パスリィを呼んでくれ、と言う。
見張りの騎士はキルガに見惚れること数秒、いそいそと扉を開け、若干上ずった声で「小隊長〜」と呼ぶ。
「何? 朝から」
「あの、副団長さんが」
「ハルクが? 何だってのよ・・・」
小隊長と言えど副団長の名を呼び捨てにしていいのか、とキルガは思ったのだが、その考えを読み取ったのか、
ハルクが横から小声で説明を入れる。
「パスリィは敬語使うのが嫌いでよ。団長以外はいつもあんなんだ。まぁ、その代わり、
部下にも自分を呼び捨てで呼ばせてっけどな」
「あぁ・・・いますね、そういう人」
なんとなくマルヴィナの姿がちらつく。
パスリィは短い髪をガシガシ掻き、面倒くさげにハルク——の横の青年を見る。たちまち目を見開き、
ざかざか大股でやってきて、キルガをじ———っ、と品定めするように見る。
「・・・・・・・・ふぅん。もう、歩けるんだ」
「・・・はい?」
開口一番がそれか、とは言わないが。
「名前は?」
「・・・キルガです」
出身は、とか聞かれたらどう答えようか。とりあえず、ベクセリアと答えるか——いや、それは危険だ。
だが、そんなキルガの思考内容を読み取れるはずもなく、パスリィはいきなり、「あんた」とか言う。
名乗った意味がない。
開かれた扉の奥で、数人の女騎士たちが物珍しげな視線を扉の外に送る。そして小声で、だがしっかりと騒ぎ出す。
「見える? 見える?」
「うん、分かる分かる! かっこいー!」
「えぇ、見えないよぉ。副だんちょーさん、ちょっとどいてー!」
誰をネタにしているのかは言うまでもない。
ともかく、パスリィは相変わらずキルガを品定めの目で見続けつつ、次なる言葉を言う。
「・・・聖騎士になりなさい」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
キルガ沈黙。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
答えたのは、ハルクだ。
「アンタはいいから。キルガ、ね。聖騎士になりなさい、っての。返事は?」
「ちょっと待ってください。・・・何で、いきなり、・・・それなんですか?」
一応は反論の義理はある。会ったら真っ先にお礼を言おう、とキルガは考えていたが、どうやらその余地はない。
「分かってないわねぇ。あんた、あの大地震の被害者でしょ? あんたこの砂漠で、血だらだら出して倒れてたのよ?
どー考えても、普通助からないような怪我負ってたのに、二日で歩けるほど回復したなんてまずありえないでしょ?」
まさか天使ですから当たり前ですと言うわけにもいかないキルガ、
「そうなんですか」と言うことでわざと詳しい説明を逃れる。
横で黙らされていたハルクは、たまりかねて助け舟を出す。
「・・・いや、おいパスリィ、ちょっと待てよ。そりゃいくらなんでも唐突すぎ——」
「ま、それはそうね」
あり? とハルクが首をかしげる。何かやけにあっさりと引き下が——
「だから、今からあたしが聖騎士についてみっちり教え込んであげるわ」
——っていなかった。
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.311 )
- 日時: 2011/03/26 21:22
- 名前: Chess ◆JftNf0xVME (ID: fckezDFm)
「おう、お帰り」
「おつかれさん〜。これ食うか?」
「・・・ありがとうございます・・・」
「声が死んでるぞ、キルガ」
夕方、ようやくキルガはパスリィに解放されて戻ってくる。
「んで? どうすんだ兄ちゃん。お前さん、聖騎士になんのか?」
「はい」
「そっかそっ・・・はい?」
納得しかけて、問い返す。
「・・・もう一回行ってくれ。最近耳が・・・」
「・・・はい、です。聖騎士になります、ということです」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ありえないほどの沈黙。
「・・・ま、マジか?」
「パスリィに言いくるめられたか!?」
「いえ、僕から言い出したんです。・・・理由もありますから。彼女が言った言葉は、一つしか関係ありません」
きっぱりと言い切ったキルガに、聖騎士の男たちは沈黙。代わりに、彼らの精霊(朝は皆寝ていたらしい)が
それぞれの主人の周りを飛び始める。
『おぉぉお、男だねぇ、あのパスリィを相手に引かなかったってのが伝わってくるな』
『マリレイよりずっと頼りになるぞ!』
「オルン、それは余計だ」マリレイと呼ばれた騎士が突っ込む。
精霊。当然、パスリィから説明は受け済みである。
聖騎士に宿り、主人を助け、行動を共にするパートナー、それが精霊だ。主人に似るという精霊たちだが、
それはパスリィの相棒、ラーミーと言う口が悪く喧嘩っ早い精霊を見て一発で納得した。
『ところでキルガ、おめぇの精霊は? おれっちには見えねぇんだが』
精霊オルン、いきなり痛いところを突く。
「・・・って、キルガ、まだ聖騎士にはなってないんだろ? そりゃ宿るわけが——」
「いえ、なりました」
「は?」
即座に聞き返される。
「・・・さっき、洗礼、とかいうものを受けて・・・聖騎士になりました。
実は、これからお願いします、って言おうとしていたんです」
「・・・・・・・・・・・・・・もう?」
「はい」
「仕事が早ぇぇパスリィ————!!」
『ここの誰よりも男らしいな!』
「いやパスリィは女だが・・・」
「ですが」遮って、キルガ。「・・・どうやら僕には、精霊は宿らなかったみたいです」
「そうなのか? 兄ちゃんの精霊なら多分モテるだろうに」
『あー悪かったな相棒。・・・まぁ、てことはあれだ、キルガは精霊の助けがいらねぇってこった』
オルンがあっさりと言う。
「いらない?」
『それほどまでに強いってことさ』
強い・・・か。
キルガは、そっと笑った。この僕が。大切な人を助けられなかった僕が、強いって。
キルガが聖騎士となることを望んだのは、パスリィの説明の一言にある。
(“大切な人を守る、博愛の騎士——それが、聖騎士”)
・・・守りたい人、守るべき者は、ここにはいない。分かっている。だが、キルガはその言葉に反応した。
二度と、あの悔しさを、感じたくはない。感じないために、聖騎士となることを選んだ。
たとえ、一生その大切な人に出会えなかったとしても・・・それでも、この道を選びたかった。
「てことはなんだ、明日、広場で紹介されるってことか」
聖騎士として砂漠を守るものは、必ず砂漠の民に紹介される。
朝、広場で行うのが決まりとなっているのだが、
「・・・ちくしょー、キルガ。お前、絶対明日騒がれるぞ。せめて第二ボタンは守れよ」
「はい?」
男たちに羨望と同情の目で頷かれ、キルガはわけが分からないなりに頷き返しておいた。
これが、キルガの聖騎士生活の始まりだったのだが——
Chess)あんまり長くするわけにもいかないので、あと二話で止める(予定・・・
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.312 )
- 日時: 2011/06/03 19:35
- 名前: Chess ◆JftNf0xVME (ID: fckezDFm)
————ざっ!!
「っなぁぁぁぁああっ!?」
「しょ、勝負あり、第七回戦、勝者キルガ!」
翌日のことである。
聖騎士となったキルガは、起床予定の時間の二時間前に起き(てしまった)、圧倒的に女性の多い広場で
新たな砂漠の守り手として紹介された。
「ほう。やはり、思った通りだな」
「あの、ハルクさん。あのキルガってやつ・・・まだ怪我してるんじゃなかったんですか?」
「あぁ、している。だが、槍術を相手にすると、気にならなくなるらしいな。
現に今、休みなしで七人打ち負かしやがった。思った通りだ。あいつは、槍術にかけて天才的だよ」
「ぐぅぅ・・・完璧すぎますよぅ・・・いるんですねそういう人」
なんとなくキルガが気に入ったハルクは、親切にも、聖騎士の生活から、仕事内容、掟、
さらには鍛錬についてまで教えた。
格技場で槍の練習試合をする騎士たちの様子を見せたハルクは、キルガがその時闘っていた二人の動きを
しっかりと観察していることに気付いた。あまりの集中力に、こいつ、ただもんじゃねぇな、と思い、
ハルクはなんとなく声をかける。
「・・・動きが見極められるのか」
「はい。・・・この調子だと、今体勢を低くした人の方が勝ちますね」
「同意見だ」
間違いない、と思った。こいつは実力者だ。それも、相当の。
「・・・槍は、やったことがあるだろう。お前さんは強そうに見えるが?」
「・・・どうでしょうか。やってみないことには分かりません」
自慢も謙遜もしないように、さりげなくキルガは答えた。・・・が。
「んじゃやってみな」
というハルクの声で、瞬時に目をしばたたかせる。
「・・・・・・・・は?」
「ちょっくら興味があるんだ。なに、怪我してるやつでも無理がないように、そこそこの実力を持つ奴しかださねぇよ」
『どーだかー? ハルクってこーゆーの悪趣味だから気をつけなよー?』
ハルクの精霊ミルケ(おそらく女)のいたずらそうな声がする。・・・確かによく似ている。
そんなわけでキルガは、ハルクの名指しでいきなり試合に駆り出されたのだが、
「しょ・・・勝負あり、第八回戦、勝者キルガ!」
・・・ぶっ続けの試合でこんな調子であった。
大して息の乱れていないキルガに、当然騎士たちは両手を上げて降参せんばかりの視線。いつの間にか
格技場の窓の外で試合を観戦していたダンスホールの女性方々が騒ぐ。
「・・・よう、どーするキルガ。もうちっと続けるかい?」
「いえ、正直言うと・・・これで勘弁です」
「まだ戦えることは戦えんだろ?」
「まぁ。ですが、僕は乱入者ですからね。ずっと居座っているわけにもいかないですし」
『まー誠実。ほんと完璧なモテ男ねぇ』
ミルケの視線が格技場の窓に向いていることは言うまでもない。
「いやな、でも・・・確かに、パスリィの目に狂いはなかったようだな」
「はい?」
槍を元の位置にかえし、一礼してからキルガは問い返す。
「聖騎士の素質がある、ってことさ」
「・・・戦うことが、ですか?」
「あぁ。それ以外に何がある?」
キルガは首を傾げる。戦うことが・・・何故?
「聖騎士は・・・全てを守りにかける、と聞いたので・・・何か、違うのではないか、と思ったんです」
「ほう」ハルクはニヤリと笑い、
『考えんじゃん、新米くん』ミルケも訳ありな声色で続ける。
わけが分からなくて話の続きを促すキルガに、ハルクは表情を変えずに、言う。
「お前さんはまだ、聖騎士というものを完全には理解していないようだ。だから、無理はない。
ヒントをやる。だが、答えは教えない。自分で考え・・・答えが分かった時に、お前さんは本当の聖騎士となる」
「・・・本当の」キルガは、復唱した。
ハルクは頷く。そして—— 一言で、言った。
「“攻撃こそ、最大の防御”———」
と。
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.313 )
- 日時: 2011/03/27 17:20
- 名前: Chess ◆JftNf0xVME (ID: fckezDFm)
(“大切な人を守る、博愛の騎士——それが、聖騎士”)
(“攻撃こそ、最大の防御”)
二つの言葉が、あの日から、キルガの頭を離れなかった。
(攻撃が・・・最大の、防御?)
言葉としては、聞いたことがある。だが——意味は、よく分からない。
(・・・何かを守るために、攻撃をする・・・?)
なんだか矛盾していないか? と思う。攻撃なら、『職』バトルマスターの専門ではないか、と。
(・・・難しいな)
キルガは起き上がり、窓の外を見上げる。夜、宿舎。仲間のいびきがよく聞こえる。
もともと夜すぐに寝られないのだが、さらにいびきの大合唱が耳に飛び込んできているこの状況で
どうやって寝ろというんだ、というのがキルガの感想である。
(・・・星空、か)
人間界へ落ちて、そろそろ一週間がたつ。姿は人間のまま、変わりはしない。
もう、一生戻らないかもしれないな、と苦笑した。諦めたのだろうか。自分の感情も、分からない。
「・・・・・・・・?」
と、キルガは、不意に広場を見た。守護天使像の前。誰かいる。キルガは声をあげそうになった。
金髪、長い髪を頭上で結わえている、キルガと同じ灰色の瞳の、神秘的な女性。
彼女は守護天使像の前に立っていた。だが、像は見えた・・・すなわちその女性は、[透けていた]。
見たことはない。だが、キルガは知っていた。誰なのかが分からないというのに——知っている。
(・・・・・・・何、だ?)
彼女はキルガをまっすぐ見ていた。が——瞳があった瞬間、ふっと笑い——そして、消えた。
「っ!」
無意識に、呼び止めようとして・・・かなわないことを理解する。
キルガは口をつぐんだ。今のは、何だったんだろうと、考える——当然、何も思いつかなかった。
何重ものいびきを背音楽に、青年は一人たたずむ。
・・・そして、翌日、彼はグビアナ城を離れた。
理由は、単純である。修道院を追われたのだ。朝、聖騎士団長から、厳しい話があった。
グビアナの女王から修道院への寄付金が送られなくなった、と。
よって何人かが、修道院を後にすることとなった。新米のキルガは当然その内に入っていたし、
なんとあのハルクまでもが追われる一人となっていた。
「まぁ、な。決まったことだ。仕方ねぇよ。・・・よう、キルガ。これからも聖騎士で居続けるかどうかは、
お前さんの勝手だ。だがな・・・俺の言った、あの言葉だけは・・・忘れんなよ」
「・・・“攻撃こそ、最大の防御”・・・ですね」
「あぁ。・・・んじゃ、元気でな」
それが、ハルクと交わした、最後の言葉だった。
そして、数日の時が流れ、彼は奇跡的な出会いを果たす。
同じように人間界に落ち、翼と光輪をなくした戦士セリアス、
そして、また同じように、翼と光輪のない恋しい人——マルヴィナに。
あの日以来、聖騎士は、考え続ける。
自分の戦友たちを守る役目を持つ青年は、ずっと。
サイドストーリー 【 聖騎士 】———完