二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.322 )
- 日時: 2011/03/31 14:24
- 名前: Chess ◆JftNf0xVME (ID: fckezDFm)
2.
「おかえんなせぇ、姐さん!」
二日後。
カラコタ橋の酒場に、マルヴィナたち四人は、複雑な表情でビタリ山から帰ってきた。
「おや、そのチョーシだと、例の果実ってぇのは見つかんなかったんですかい?」
「え? ・・・あ、ううん。見つけたわ。おかげさまで・・・心配ありがとう、デュリオ」
「はぁ」
何とも微妙な空気が流れた。デュリオは、こりゃ何かその先で辛ぇことがあったんだな、と察し、
ぱんぱん、と手を叩いた。
「まっ、とにかく、姐さんたちが無事に戻ってきたんだ! 姐さんも皆さんも、旅の話とか
俺の仲間にも聞かせてやってくださいよ!」
デュリオが無理やり作った、少し明るい雰囲気に、四人は顔を見合わせ、少し笑った。
そしてマルヴィナ一言、
「おごってくれる?」
——二日前。
マルヴィナたち四人とサンディは、そろってビタリ山へと向かった。ふもとの小屋には(大体想像していたが)
誰もいなかった。机の上に、開いたままの分厚い日誌が置いてあった。
マルヴィナは、数冊の内一番古そうな一冊を取り出した。見ますよごめんなさい、と早口で呟いてから、
ぺらっ、とめくる。天使は守護天使となるべく数千年前から人間界の言葉を共通することになっていたため、
マルヴィナたちも言葉を読み書きすることができるのである。
「・・・・・・・・」
彼女の集中するときの癖である“ネズミを睨むときのような猫の目つき”をしている。 (←詳しくは>>229)
「・・・ここに住んでいた人、ラボオって人で間違いなさそうだな。・・・・・・・っ?」
「ん?」
何かに反応したマルヴィナにまた三人も反応し(サンディは外で何故か並んでいる石造を見ていた)、
マルヴィナの手招かれるままに彼女の指す頁を覗く。
「・・・・・・・・えっ」
そこに書かれていたものを、マルヴィナが読み上げる。
“確かに私は嘘吐きだ。エラフィタに返った瞬間、ソナにぶたれたのも仕方がない”
「エラフィタに、ソナ・・・これ、偶然じゃ、・・・ないよね?」
「ソナ、って、・・・わらべ歌のあのソナおばあちゃん?」
シェナが 頤_おとがい_ に指を当てて呟く。
「うん。・・・やっぱそうだ。この人に恋人がいたみたいなんだけど、その名前が・・・」
“クロエ”
「・・・まじ、かよ」
セリアスが嘆息した。「どーゆーことだよ」
「ここは石切り場だな」キルガが腕を組む(彼の考え込むときの癖がこれだ)。
「外にも、人の手で作られたものであるらしい石像があった。となると・・・えっと」
「はいはい」シェナが呆れて制する。「あんたは色恋沙汰に疎いんだから、それ以上考えなくてよろしい」
「・・・・・・反論する言葉がない」
「あら、素直に認めるようになったわね」
「シェナ怖いぞ」
セリアスぼそり。
「ま、とにかく」
マルヴィナが微妙な笑い顔になって、日誌を閉じ、机に広げられた日誌を読み始める。
「ラボオさんは、山頂に行ったみたいだ。行こう。・・・さっきから、胸騒ぎがしてならないんだ」
「分かった」
一同は、山頂に向かって歩き出す。
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.323 )
- 日時: 2011/03/31 20:11
- 名前: Chess ◆JftNf0xVME (ID: fckezDFm)
ビタリ山は、洞窟と山道とあった。かつてはきっとふもとの階段から頂上へ上ったのだろうが、
時の流れによりその階段はボロボロに朽ち果てていた。
仕方なく周りの蔦を駆使してロープを作り、はしごのない崖をゆっくりと登ってゆく。
「けっこう、きつい、わね・・・」シェナがとぎれとぎれに言う。
「今回もまた、そのラボオってじーさん、果実を食ったんだろーな。でなきゃこんなところ、登れるはずがない」
一方体力のあるセリアスは、疲れからくるものではない嘆息を一つ漏らす。
七合目あたりで、魔物も急速に増え、ついでにもうすぐ夜でもあったために、四人は岩陰で野宿をすることにした。
空気が薄い。が、当然並の人間より遥かに高い持久力を持つ四人には、大した脅威ではなかった。
・・・とはいえ何もかもが平気なわけではない。賢者専用のワンピースを旅装とするシェナは、
肌の露出が若干多く、背のマント風の布を肩からショールのように羽織っていなければならなかった。
今回は、セリアスとシェナ、キルガとマルヴィナの二組で(ちなみにシェナ提案)交代に不寝番をすることとなる。
マルヴィナは冷えた手を、首の体温で温めつつ、空を見上げる。星空が見えた。
「この調子だと、明日は晴れそうだね」
隣でキルガが手をこすり合わせながら言う。彼は四人の中では一番寒さ慣れしているのだが、
さすがに少しは寒くなってきたらしい。
「そうだね。悪天候じゃ、登れる山も登れないしね・・・それにしても、寒い・・・っくしゅ!」
まさかのくしゃみをしたマルヴィナに(なんだか炭酸の抜けたような情けない音だったが)キルガは驚き、
「・・・上着、貸そうか」と若干遠慮がちに言う。
「ふぇ? いや、いいよ、キルガが寒くなるし」
「いや、僕は大丈夫」
「そう? ・・・じゃ、遠慮なく」
マルヴィナはもう一度気の抜けたくしゃみをすると、いそいそとキルガの上着に腕を通す。
「うー、やっぱこっちの方があったかいや。ありがと。・・・キルガ、顔赤いよ。熱ある?」
「えっ!? いや、ない、多分」
マルヴィナの指摘に少々裏返った声で否定する。こういうところ侮れないんだよなぁ、とかなんとか思いつつ、
後ろから忍び寄ってきたメイジキメラに裏拳を一発叩き込むキルガであった(マルヴィナが拍手していた)。
そして、日はまた昇る。
「〜〜〜〜〜〜〜っはぁ」
「———————————っ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぅ〜・・」
・・・といった、声になっていない声で、セリアス以外三人は溜め息をついた。
昼下がり、ようやくついた山頂にて、である。
「いやー、まさかこんなきついとは、想定外だったな」
「・・・・・・セリ、アス、あんたが、言っても、説得力ない」
セリアスの名以外を文節ごとに区切って、シェナは嗄れ声で言った。
「いやぁ、ははっ。やっぱよく寝たからかなぁ・・・分かった分かった、マシな休憩所探してくる」
計六つの恨みがましい視線を受け、セリアスはあわてて休憩所探しに走ってゆく。
が、その数分後、
「みんなぁっ」
そのセリアスが、やけに慌てた様子で戻ってくる。
「何・・・?」
休憩所に魔物が五十匹いる、とか言ったらまずセリアスをぶっ飛ばそう、とかなんとかシェナは思ったが、
もちろんそんなわけではなく、セリアスは自分の見た光景をいやに分かりやすく説明した。
「村だ・・・村があるんだ! 石の! エラフィタにそっくりだっ!」
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.324 )
- 日時: 2011/04/01 10:30
- 名前: Chess ◆JftNf0xVME (ID: fckezDFm)
「へぇ・・・村、ですかい?」
デュリオ率いる盗賊団の一員が、興味深げに問い返す。マルヴィナは(言葉通り)おごってもらったスナックを
ひょい、と口の中に入れて、頷いた。
二秒で噛み砕いて(!?)食べ終え、続きを話す。
「そう。エラフィタ、ってのどかな村でね。前に行ったことがあるっていうのは、すでに言ったろ?
それが・・・全部、石でできていた」
「石っ!?」
「ラボオの爺さん、そこまですげぇジジイだったのかっ」
酒を持ったまま何人かが驚き、中身が少し飛び散る。
「あ、勿体ねぇ」
「すまん」
マルヴィナはそのやり取りを見て、くすりと笑い、話を元に戻す。
目の前に広がる、灰色の景色。石のみの世界。
そこにいれば、まるで色を成したものがおかしな生き物であるかのような、そんな雰囲気を漂わせていた。
「・・・これ、全部、石だっていうの・・・!?」
最早疲れている暇など無いように、シェナは言った。
「信じらんない・・・これ、一体、何年かかったっていうの・・・?」
「あの小屋の日誌の最後の日付、いつだったか覚えているか?」
キルガがマルヴィナに訊き、マルヴィナは「・・・ゴメン」と謝る。
「つい最近だったぜ。一年も経っていない」
覚えているのはセリアスだ。記憶力[は]いいセリアス、さすがである。
天使にしてみれば最近である一年前、大地震の起こったあたりではあるが。
「じゃあ、一年で、これだけの作品を作ったってこと?」
「まさか。さすがに、それはないと思うが・・・」
「あ、もしかしてさ」シェナだ。「これは、もっと前から作られていたんじゃないかしら」
「前から?」マルヴィナ、問い返す。
「そう。一番古い日誌の日付、正確には二十九年前だったでしょ。その時から作っていたんじゃない?」
「・・・何か、分からないことだらけだなぁ・・・とりあえず、何処かにラボオさんがいるかもしれないし。
探してみよ、う・・・・・・・・て、ちょ、・・・・・・・・・」
いきなり歯切れを悪くしたマルヴィナに視線が集まる。
彼女の目線と指の先に視線を移すと、彼女の言わんとしていることが分かった。
石像が一つ、動いているのである。
「・・・あれ、クロエさん家の前、・・・石像、・・・動いているんだよね?」
「・・・動いてるな」セリアス呟く。
「うわ・・・きしょっ」
マルヴィナのフードから、サンディ素直な感想。どうやら今起きたらしい。
「つか、何このジミなとこ? さんちょーっつったら、もっとキレーな場所ってのがジョーシキっしょ」
「あんたの言う綺麗はハデハデきらきらだろ」
ぼそりと突っ込みつつ、マルヴィナは警戒しながらクロエ宅に向かう。
本来川であるそこも石となっていたので、そこを[歩いて]行くことにした。
「まーさか、アレがラボオとかゆーおじーちゃんじゃないデスよね?」
「・・・あり得るけれど・・・あまり考えたくないな」
「マルヴィナに賛成。攻撃、絶対効かないわよ」
「何でも戦い方向に考えるな」
シェナに突っ込んだのは珍しくセリアスである。
石像は大きかった。
一番背の高いセリアスと、一番背の低いマルヴィナの頭から腰までを足したくらいである。
動いていたことから分かるように、その石像には、魂が宿っていた。
“この地を荒らす者は許さない”——石像は確かに、そう言った。
すなわち、この[村]を守る、石の番人。
相手は決して、好意的ではなかった——・・・。
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.325 )
- 日時: 2011/04/01 11:35
- 名前: Chess ◆JftNf0xVME (ID: fckezDFm)
「おおっ、もしかして、そこで戦闘開始っすか?」
盗賊団の一員が身を乗り出す。シェナはまたビールこぼれるわよ、と言ってから頷いた。
「ま、あっちに暴れられたら、やむを得ないでしょ」
「石だったしね。攻撃のしようがなかったんだ。わたしの剣も、あの一戦で少し刃こぼれしたし」
マルヴィナが使い込んだ 白金剣_プラチナソード_ を見せる。後からしっかりと刃を研いだのだが、
どうしても小さな欠け部分が目立つ。
「まぁ、それでも、[色々]あってね。何とか倒した」
そう言って、マルヴィナはひょい、とつまみを投げてみせる。
「あぁっ、それ、俺のつまみっ」盗賊団の仲間が喚く。
「ははっ、悪いね、もらったよ」マルヴィナ、ちっとも悪びれずに答える。
「物を盗まれる盗賊初めて見た」キルガがぼそり。なんとなく、この酒場で一番浮いている。
「すげぇマルヴィナさん。こいつとメンバー変わりませんか?」
「いや遠慮しておく」
[色々]の中身を説明せずに済んだマルヴィナは苦笑して止めた。
「それで、そのあとは?」
「うん。・・・ラボオさんに、会ってきた」
「え」盗賊団一味、しばらく固まる。
「その果実食って、生きてたんですかい?」
「いやいやいや、果実食べても死にはしないよ」
「というか、その番人て、ラボオの爺さんじゃなかったのか?」
「いや、違うよ。・・・彼が果実に願ったんだ。石の村が、永遠に守られますようにと・・・
それが暴走しちゃって、あんな魔物を生み出したってワケだ」
「はー」盗賊団、納得。
マルヴィナは続きを言おうとして、一度止める。先に、キルガ、セリアス、シェナに目配せしてから、頷いた。
「・・・ラボオさんは、腕を痛めて、もう石を彫れなくなって・・・
だから、もう山の下に降りる気は、ないんだってさ。・・・少し、悔しそうだったよ」
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.326 )
- 日時: 2011/04/01 11:35
- 名前: Chess ◆JftNf0xVME (ID: fckezDFm)
マルヴィナたち四人は、 転移呪文_ルーラ_ を使って久々に[本物の]エラフィタを訪れた。
まっすぐ、村はずれの民家、北東に向かって(川を飛び越えるのにはもう懲りた)。
「こんにちはぁ」
マルヴィナが声をかけと、クロエ——の旦那ジャコスが出迎えてくれる。
「んん? ——おおぅ、久しいのぅ! よう来なすった。して、祭りは一昨日ぞ。遅かったのう」
「祭り・・・? いやいや、今日はクロエさんに用事が」
「クロエか? 今は地下に行っとるよ。いや、今もまだ、というべきか」
「そこにラボオさんの石切り場があったから?」
マルヴィナの一言に、ジャコスの顔色がさっと白くなる。
「ど、どこでそれを!?」
「実は、用事というのは、そのことなんだ。——ラボオさんは、最近、亡くなった」
「な・・・」
ジャコスは慌て、地下への階段を降り、すぐに戻ってきた。
「す、すまん、手を貸してくれ! クロエの意識がないんじゃ!」
「えっ!?」
四人は、急いで地下へ降りる。
「ごめんなさいねぇ・・・私ももう歳かしらね」
クロエの家で、タオルを冷たい水に浸し絞ったものを、シェナがクロエに渡す。
「ふふ、それにしても、お久しぶり。こんな村に、一体どうしたの?」
「・・・・・・・・・・」
四人が四人とも、黙り込む。話しておいた方がいいだろう、と思ってここまで来たのに・・・
いざ本人を目の前にすると、来るまでに考えていた何十もの説明の言葉が、すべて吹き飛んでしまった。
だが、これでは意味がない。代表で口を開いたのは、キルガだ。
「・・・ラボオさんのこと、です」
キルガの声は少し小さめだったが、クロエははっきりとその声が聞こえた。
ジャコスの反応よりいっそう顔色を白くし、黙り込んだ。
「・・・彼は、最近・・・ビタリ山という山の頂上で、亡くなられました」
「・・・・・・・・・・・・・・っ」
クロエの腕が震えていた。ぎゅっと空気をつかみ、がたがたと揺らして。
「・・・彼は、ビタリ山の頂上に、最後の作品を残されたんです。・・・それが、このエラフィタの村でした」
「唯一、この家だけ、入れるようにもなってたんです」耐えかねて、セリアスも説明に加わる。
「中にいた人は、二人で・・・見るからに、恋人って感じだった。だけど、表情が悲しげで・・・
俺、とても見てられなかった」
「あの村には」シェナも、また。「クロエさんの両親も[いたんです]。・・・そう、彫ってあったわ」
「だから、ラボオさんは——」
「ごめんなさい、もういいわ」
マルヴィナが開きかけた口は、クロエのその一言で封じられた。
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.327 )
- 日時: 2011/04/01 11:45
- 名前: Chess ◆JftNf0xVME (ID: fckezDFm)
「・・・もう、終わったことなのよ」
クロエは、しばらく黙ってから、そう言った。
「そんな・・・」マルヴィナだ。「そんな一言で、終わらせるんですか?」
「過去は変わらないわ。今の話で、よく分かったけれど・・・でも、今更、戻れないのよ」
マルヴィナが絶句する様を見て、クロエは微笑む。
「あの人がどれだけ私を思ってくれていたのか、今更だけど、確かめられてよかった。でも・・・それだけ。
それがもっと昔の話だったら、わたしもあの人を待ち続けていたかもしれないわね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・っ」
マルヴィナは黙った。本人がこう言う以上、もう、何を言っても無駄だった。
それは分かっている。理解できる。でも、納得できなかった。
待ち続けていた人の思いが、届いたのに。
「・・・マルヴィナ」
キルガが、呟く。
「・・・・・・・行こう」
その、三文字を。
「・・・複雑ね」
クロエの家を出てから、シェナが初めにそう言った。
「時は戻らない——か。考えてみれば、そうよね」
「・・・納得いかないよ。納得いかない・・・」
「・・・お節介だったのかな」キルガだ。「逆に、クロエさんを苦しめるだけにしかならなかったのかもしれない」
「後悔、か・・・確かに、辛いよな」
「運命って、時に残酷よね。人を苦しめて、悩ませて・・・縛り付ける」
「・・・・・・わたしは」
マルヴィナは、伏せた顔を上げることなく、言う。
「わたしは・・・まだ、後悔したことがあまりない。だから・・・クロエさんの気持ちは、分かんない」
だが、一度拳をぎゅっと握りしめると、辛さを振り切るように、勢いよく顔を上げた。
「だけど・・・何かに後悔して、事実を受け入れたくなくなっても・・・わたしは、
現実を見続けようと思う。・・・そうじゃないと、こうやって今日ここに来た意味が、なくなってしまう」
「・・・うん」キルガも、セリアスも、シェナも。三人とも、マルヴィナの言葉に、頷く。
「・・・同じだよ、マルヴィナ。僕らも」
マルヴィナはようやく、少しだけはにかんだ。
桜の花びらが、舞い散る。
過去を悔やみ流した涙のように、それは、静かに落ちていった。
【 Ⅶ 後悔 】——完結。
Chess) >>292 訂正。これも難しかった。