二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.331 )
日時: 2011/06/03 19:43
名前: Chess ◆JftNf0xVME (ID: fckezDFm)

   【 Ⅷ 】   親友


 マルヴィナのフードも、だんだんと重くなってきた。
なにしろ大きさにしては重過ぎる女神の果実が三つも入っているのだ。
ついでにサンディまで入っているのだ(サンディも重い、・・・といったらぶっ飛ばされそうだが)。
「首が絞まる」
 マルヴィナは、フェンサードレスの胸元のボタンを外す。シェナがさっ、と妙に青い顔で振り返り、
[そこ]を見て、「・・・・・・許容範囲ね」と呟く。
そして思わずその様子を見かけた(もちろん意味に気付いて慌ててそらした)男二人をひと睨みする。
「ま、天の箱舟に入れたら不気味な光景になっちゃうしね」
 天の箱舟は人間の目には見えないが、果実はそうではない。
つまり、果実だけが宙に浮いた状況に見えてしまうのだ。
「あ、ソレない」
 だが、それに反論したのはサンディである。
「大丈夫なのか!?」
 マルヴィナは喜んで、箱舟にいれに行こうか——と考えていたのだが、その思いはすぐさま打ち砕かれる。
「今箱舟ちゃんないデスし。呼び出しでもしなきゃ来ないワヨ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
「呼び出せないのか?」
「だって知らないし、呼び方」
「・・・・・ちょっと、それじゃあ帰るとき、どーすんだよ・・・?」
「ま、そのトキはそのトキ」
「サンディぃぃぃ!!」



 というのは余談として(するな、というマルヴィナの声は無視して)。
「みんなぁ、ちょっと」
 シェナの声がした。・・・ちなみに、一同はまだカラコタ橋にいる。デュリオ盗賊団に妙に気に入られたらしい。
「何?」
「デュリオに聞いたんだけど」
 シェナが指を鳴らす。妙に情けない音だったが、言ってシェナチョップを食らいたくはないので全員黙っておく。
「ここから南の港町。なんていうか忘れたんだけど、[まだ]ちゃんと船があるみたいね。
どうにかして譲ってもらえると助かるんだけど」
「サンマロウっすよ」
 デュリオの苦笑の一言に、真っ先に反応したのはセリアスだった。
「サンマロウだって!」
 マルヴィナは驚き、キルガが素早く、ほら、セリアスのお師匠さんの担当地、と言う。
「あぁ」マルヴィナは納得したが、デュリオたちやシェナがその反応の理由を知るはずもない。
「前、そこの舟にも乗りやしたんでね。間違いない」
「・・・間違いないんだな・・・」
 デュリオの言葉を復唱して、セリアスは興奮を明らかに抑えた様子で答える。
「と言うか、姐さんに初めて会ったのが、その時でやしたからね、間違いないっす」
 盗賊団の一人がそう言い、シェナ以外三人が「はい?」と問い返す。
「あはは。そういえば、その話まだしていなかったわね。——ひとまず、船を目指して、
サンマロウに行ってみましょうよ。——あ、そこの食料、詰めてもらえる?」


Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.332 )
日時: 2011/04/01 20:07
名前: Chess ◆JftNf0xVME (ID: fckezDFm)

 ならず者の集落を出た一行は、暖かい風と、滝の小さな波音を耳に感じながらサンマロウを目指す。
「あれは、あの大きな地震があった二日後ね」
 大きな地震、あのことか、とマルヴィナは思った。
二日後と言えば、リッカに助けてもらったばかりで、意識もまだない状態である。
「私、セントシュタインに用事があってね。ある場所から、サンマロウで乗り継いで、そこまで言ったんだけど」
「・・・・・?」
 マルヴィナは、その時何かに違和感を感じた——が、何に対してかは分からない。
「船がちょっと遅れちゃってさ。ようやく到着した十分くらい前に、セントシュタイン行きは
出発しちゃったのよ。だから適当にふらついてたんだけど、そしたら何かいかにもガラ悪そーな男どもが
でかい顔して歩き回ってんのよ。盗賊みたいな格好の割に、いろんな人にハバきかせているでしょ、
意味ないし、とか思って横通ってやったわけよ。そしたらね・・・





 ドンッ! シェナはその男どもにぶつかる。しれっとした顔で通り抜けようとするが、当然そのガラの悪い
男たちがそれを見逃すわけもなく。
「おい、そこの姐さんよ」
 肩をつかまれる気配がしたので、その前にクルリと身をひるがえす。
 声をかけてきたのは、頭も顔も悪そうな筋肉ムキムキの荒くれ男だった。分かりやすい奴、と思いつつ、
「何?」
 と答えてやる。
「ナニ、じゃねぇよ。人にぶつかっておいて、礼もなしか?」
「ばか言わないでよ。ぶつかってきたのは、そっちでしょ。こんな町中で、真っ昼間からでかい図体して
威張り散らしてんだもの、石像にぶつかって謝れって言ってるよーなもんでしょうが」
 シェナがさらりと言って鼻を鳴らす。
「る・・・るせぇっ、このアマが」
「喧嘩?」
 シェナがにやりと笑って、ひょい、と短刀を見せる。
「武器は?」
 荒くれは答えようとして——シェナの右手を見る。そこにあった短刀は、まさしく荒くれの物であった。
つまり、盗賊が物を盗まれていたのである。
 荒くれはしばらくぽかんとする——シェナの質問の答えは、突進だった。
「おっと」
 シェナはそれをほとんど無駄なく右に避け、唖然としながら見守る群衆に笑いかけてから身をひねった。
突進の勢いが収まりきらず前へよろよろステップを踏む男の足を払ってやろうと思ったが——さすがに動かない。
あら、と一言、次の瞬間、シェナはその足より少し上、脛の部分を思いっきり蹴り飛ばす!
「どわぁっ」
 地を揺るがすほどの音を立てて、荒くれ、うつぶせにひっくり返る。シェナが短刀を荒くれの眼先に投げ返し、
刃が地面の金属部分にあたってちーん、と音がした。試合終了。わずか十五秒、制圧完了。
 群衆からどよめき、続いて拍手。まんざらでもないシェナ、恭しくお辞儀をして、自分の前に向かってくる
別の盗賊らしき男に目をとどめる。
まだいるのか、と思ったが、その男はそれにしては親しげに、お見事、と言った。
 そして、人々の拍手に重ねて、ぼそりとシェナに呟くように話しかける。
「いや、うちの馬鹿がご迷惑おかけして、すんませんでした。俺はデュリオ、そこの奴らを束ねる盗賊っす。
普段から派手な真似はするなと言っているんですが、どーも聞き分けの悪い奴らで」
「弁護は結構。そんな暇あったら、そいつらを説教してやりなさいな」
「了解です。また会えることがあれば、何か借りは返しますぜ」
「はいはい。それじゃ」





——ってな感じよ」
「怖ぇー・・・」
 セリアス一言。
「十五秒制圧完了って・・・」
 キルガの明らかな呆れ口調。
「てか、シェナ、いつの間にそいつの短刀盗んだわけ?」
 マルヴィナである。
「うん、すれ違った時。短刀なきゃ、大きな顔はできないだろうって思ってね。
ま、拳って武器もあったけど、さすがに拳は盗めないでしょ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・前から思っていた・・・」
「はい?」
 マルヴィナの呟きにシェナが問い返し、マルヴィナ、神妙な顔つきで、シェナの肩をポンと抱く。
「シェナ、あんた、」
「うん」
「はっきり言って・・・」
「うん」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・賢者より盗賊の方が似合っている」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 答えは当然シェナチョップだった。