二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.367 )
日時: 2011/04/24 17:19
名前: Chess ◆JftNf0xVME (ID: fckezDFm)

       3.


「つまり、それって・・・」
 サンマロウ。一番の大きな屋敷の前で、多勢が輪を作る。
 マルヴィナは、その屋敷に残された羊皮紙を指し、声を震わせる。
「お金・・・残ってないって、こと?」
「そういうこと、らしいですねぇ・・・」
 何とも居心地悪そうに、住民はそう言った。

 町一番の大富豪の一人娘マキナが誘拐された。
当然犯人の目的は身代金である。これと言った額は指定されなかったものの、町の住民に何でも与え続けた
マキナの家にもう財産はほとんどなく、かき集めたところで大した金にもならない状況となっていたのである。
「らしいですねぇって。ちょっと、あなたたちはマキナに今まで、いろんなものもらってきたんだろ?
そのお金で何とかできないのか!?」
 マルヴィナは若干声のトーンを高くして、そう呼びかける。が。
「家計が・・・」
「お金じゃないからさぁ・・・ねぇ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・っ」
 マルヴィナは唇をかむ。そんな勝手な・・・今まで世話になったものを、見捨てるというのか?
「なんでっ・・・」
(・・・これが人間なんだよ、マルヴィナ)
 キルガはマルヴィナの問いに答えるように、そっと思った。それは守護天使として、
彼女よりずっと長い実績をもつ彼だからこそ、言えることだった。
(天使は、恩義を決して忘れない。だが、すべての生き物が、そういうわけじゃないんだ・・・)
「くそったれ! 信じられねぇ・・・そんなに人の命より、自分の金の方が大事なのかよっ」
 セリアスの怒気混じりの声が聞こえた。町長の家から出てきたのである。シェナがセリアスの元へ走る。
「だめだった。町長も、話すら聞いてくれない! 確かに恩はあるけど、しょせんよその家の娘だからって・・・っ」
 どうやら、彼も彼なりに、町長に掛け合ってくれたらしい。が、それも無駄でしかなかった。
「・・・仕方ないわ」
 セリアスの報告を受けたシェナが、彼女なりの静かな怒りを目を閉じることで軽減させると、
マルヴィナとキルガに叫んだ。
「埒が明かないわ。行きましょう! 先に、マキナだけでも救うのよ!」
「えっ、でも・・・仮に成功したって、金を求めて犯人がまた現れたら、パニックにならないかっ?」
「・・・・・・・マルヴィナ」
 キルガが呟く。こんな身勝手な言葉を聞かされてもまだ、彼女はこの街全体を守ろうとしていた。
数日の任務でありながら、確かに受けた守護天使の称号の名に懸けて。
 だが。
「・・・行こう。確かに、ここで立ち往生しているよりかは、助けに行った方がいい」
「後で犯人が来たとしたら、自分の行動を悔やむのね!」
 シェナがその怒りから、住民に冷徹な言葉を投げつけた。彼らにその言葉は伝わらない。
(・・・こんな街を・・・俺は、いつか・・・守ることになっていた・・・)
 セリアスは、手に込めた力を緩めないまま、そう思った。もし自分が、キルガやマルヴィナのように、
早期から守護天使になっていたとしたら、この町を守り続けられただろうか。

(“人間はな、自分の行動の意味に、時に気付かないんだ。後のことを、考えなくなってしまう時がある。
そうして、後悔してしまうことがあるのさ。・・・だが、その悲しみから、守る・・・
それも守護天使の役目だと、わたしは思うのだ”)

 この町を守護していた、師匠テリガンの言葉を、思い出す。
(・・・自分の行動の意味・・・)
 今の住民たちは、それに、気付いていない。
いつか、彼らは、後悔するだろうか。マキナが犯人たちに殺されてしまったとしたら、死んでしまったら、
その時、彼らは、どうしようもないくらいに後悔するのだろうか・・・。
(・・・止めてみせる)
 阻止したい。そうなることは、本当は誰も望んではいないはずだ。
マキナがそのまま帰って来なくなることなど、誰も望んではいないはずだ——!

「・・・あぁ、助けに行こう! 無事に・・・」
 セリアスは先ほどとは違った声色で、叫んだ。
「・・・誰も、後悔させたくない。だから、行こう」
 それは、“次期”、“候補”という言葉にとらわれずに決意した、一人の守護天使としての声だった。