二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.384 )
- 日時: 2011/05/04 15:30
- 名前: Chess ◆JftNf0xVME (ID: fckezDFm)
「っ危ないっ!!」
キルガは鋭く、叫んだ。が、走ることはできない。
仮にマルヴィナを負っていなかったとしても、この距離では、間に合わなかった。
不用意にも毒虫に近付いたマウリヤは、そのままその細長い脚に弾き飛ばされ——
・・・・・・・・・しゃっ・・・・・
・・・嫌な音を立てて、身体を地面に叩きつけられる。
「くそっ!」
セリアスは悪態をつくと、真っ先に飛び出す。
「邪魔だ、退けっ」毒虫を斧をふるって怯ませ、セリアスはマウリヤを揺する。
が、マウリヤは虚ろな目をしたまま(果実の力か、人間とそう変わらない)、身悶えもせず横たわっている。
ネジの切れたロボットと同じように。
(くそっ・・・ちくしょう!)
セリアスは強く唇をかみしめた。正体が人形であったことなど、関係ない。
マウリヤは、サンマロウの[住民]だ。自分が守るべき者だったのだ。
それなのに。
「セリアス!」
悔咎にうなだれるように顔を伏せるセリアスに、シェナは叫んだ。
「・・・まずは逃げましょう! とてもマルヴィナとマウリヤ残したままじゃ戦えないわ!」
『ま、そりゃそーだわな』
いつかの、誰にも聞こえない“声”がした。かつてベクセリアの封印の祠でサンディが聞いた、あの声が。
『ま、ここで逃げれりゃそんでいいんだけど。・・・あいつが相手じゃ、キツそうだしな』
『あの魔物を知っているの?』
『ま、[アイツ]に聞いたことがあってね。
・・・それにしても、お見事[アイツ]の弱点、マルヴィナに受け継がれてるな』
『・・・そうね。———は、虫は平気だけれど、あの生物だけは異常に苦手だったものね』
何かの名前だけ——聞こえなかった。
『ここでマルヴィナ起きるとまずいだろうな。足手まといになるだけだ』
『・・・そうね。もし、そうなったら・・・また、私たちの出番・・・ね』
『しゃーないな。・・・死なせるわけにはいかない、って奴だからね』
三人は意識のない二人に気を配りながら、走る。
「もう少し! もう少し余裕がないと、 脱出呪文_リレミト_ は使えないわっ」
シェナは叫ぶ。瞬間移動式の呪文は、落ち着きを持って慎重に作動させないと、
時空の狭間に飲み込まれてしまう、と言われていた。とくに脱出呪文は高度な魔法であった。
が。
「お、お、お、おいっ!! あ、あ、あいつはっっ・・・・!?」
その時、反対側から、誘拐犯たちに出くわす。そこで気付いた。
今ここで逃げたら、追いかけてくる毒虫が、洞窟の外に出るかもしれないと。
近くの町を狙って、人間を襲うかもしれないと。
(・・・ダメだ)
キルガが、セリアスが、シェナが、同時に思った。
(ここで、逃げるわけにはいかない——!)
毒虫が迫る。固まった三人と意識のないマルヴィナたちを狙う。
が、その一瞬——
彼らは武器を手に、振り向き様にその攻撃に対抗した。
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.385 )
- 日時: 2011/05/04 20:29
- 名前: Chess ◆JftNf0xVME (ID: fckezDFm)
シェナの指先が空を切る。
「上手くいきますようにっ・・・」集中力を込めた指先が、淡く光る——轟いたのは、 爆発呪文_イオラ_ 。
妖毒虫が人には決して発せない声で叫んだ。が、苦しみは、怒りへ変わる。
妖毒虫は身を縮めたかと思うと、白く太い糸を吐き出す。それは一つの網となって、
魚を捕えるようにシェナを締め付けた。
「ぐっ!?」歯を食いしばり、抵抗する。が、糸の締め付ける力は増す一方だ。
「シェナっ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ」
目を強く閉じる。声が出ない。ぎりぎりと、嫌な音がする。
「い・・・・とをっ・・・・」
シェナが、辛うじて絞り出すようにセリアスに言う。
「な、何だって?」
「き、・・・・ぃ・・・って・・・・、い、・・・っとをっ・・・!」
(糸を切れ・・・?)
「セリアス、ここだ! ここを斬れっ」
キルガが叫ぶ。毒虫の背である。そこから糸は出されているらしい。
「糸が戻っていっているんだ。槍じゃ糸は切れない!」
「任せろ!」
セリアスは一閃、見えない糸に向かってまっすぐに斧を振り下ろした。ブツリ、と言う音がして、
シェナの少し抜けた声がする。
「いったぁ・・・」
「シェナ、大丈夫かっ。気分はっ」
音と声的に大丈夫だとは思うが、とりあえず尋ねる。
「身体的には大丈夫だけど、気分は最悪よ・・・私虫嫌いなのよね」
そりゃ見ればわかる、とはさすがに怖くて言えないが。
ともかく、状況の立て直しを終えた三人は、もう一度攻撃体勢に入る。
八の脚は、相変わらず不気味に抜かりなく動いていた。
相手は宙吊りである。ゆえに、どの位置から攻撃しようがすぐ方向転換をされ、隙を作り出せなかった。
(・・・とにかく、マルヴィナが起きる前に、勝負を終わらせなければ・・・)
それにしても、マルヴィナはなぜあんなに[コイツ]が苦手なのだろう? と思う。
否、これだけではない。脚が多く、長いものはすべて苦手なようなのだ。
ムカデなら脚は短いからいい、と言っていたのだが、つまり、あの形がダメだというらしい。
でも——その理由が、分からない。いやまぁ、知りたいとは思わないが。
(でも、理由もないのに・・・っていうのも、おかしいよな・・・)
「っ!!」
と。三人に、長い脚が刃となって襲ってくる。切り裂かれる前に三人は飛びのき、距離をとる。
虚しく空を切った脚はそのまま洞窟の壁に激突し、揺るがせる。細かな石がぱらぱらと散り——
不幸にも、マルヴィナの身体に当たる。
「っ?」
睡眠薬の効果は短く、意識がなくとも薄々と邪の気配を感じとり、かつ石があたり——
マルヴィナは、目を覚ましてしまう。
「・・・マルヴィナっ!?」
「見るなっ」
キルガ、セリアスと叫んだが、もう遅い。マルヴィナはその目を開き、咄嗟に絶叫する。
耳をおさえ、うずくまり、がくがくと震えて。
(しまった・・・!)
「えっ? マルヴィナ、一体どうしたのっ?」
「ダメなんだ、マルヴィナは[この形]を見られないんだ!」
セリアスの悔しげな声に、シェナは驚きを隠さず、小さく呟く。
「拒絶反応・・・?」
あのマルヴィナが、どんな魔物にも臆すところを全く見せなかったマルヴィナが、怯えていた。
しかも、異常なほどに。
今にももう一度叫びそうなマルヴィナの名を呼び、シェナは安心させるようにその肩を抱く。
「マルヴィナ、大丈夫・・・大丈夫よっ・・・!」
あやすように、そう語りかける。暗闇の中で、シェナは、マルヴィナの恐怖に虚ろになった瞳を見た。
(何があったというの・・・? マルヴィ——)
「「危ないっ!!」」
二人分の声に、シェナはギクリと身をすくませた。はっと気づき、勢いよく振り返る。
そこに、髑髏の顔があった。
(やばっ——)
シェナは目を見開き、あまりにも唐突すぎて、そのまま固まってしまう。毒虫の脚が振り下ろされる——
『作動』
瞬間。
——————————————カッ!!
声の後、またしても[あの剣]が——眩く、輝いた。
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.386 )
- 日時: 2011/05/04 21:08
- 名前: Chess ◆JftNf0xVME (ID: fckezDFm)
「っっ!?」
その瞬間、シェナは宙を浮いた。
否、何かに引っ張られたのだ。・・・何に? 今触れているものといえば、マルヴィナ。
(まさか・・・この、剣?)
そしてマルヴィナも——剣に引っ張られるように、この攻撃をかわしたのだ。
(ど・・・どういうことっ?)
「隙ありっ!!」
セリアスの声がする。驚愕していたのはシェナだけではない、毒虫もだった。
その一瞬に見せた隙を——キルガとセリアスが見逃すはずもない。
二人は何の前触れもなく、ピタリと息を合わせて毒虫に突っかかる。
一思いに脚は切断され、急所には聖なる槍が深々と刺さっていた。
断末魔の叫びを耳にこびりつかせ、魔物は、深い闇の波動を起こして——消えた。
攻撃した後の体勢を元に戻し、二人はマルヴィナに駆け寄る。なおもまだ、彼女は震え続けていた。
もう一人、意識をなくしたマウリヤへは、隅で震えながら観戦していた誘拐犯たちが駆け寄る。
「お嬢さんっ」
が、反応は・・・ない。
デグマはそれを確認し——冷や汗を流し——静寂の中で、呟く。
「やべぇ・・・お嬢さん、・・・・死んでる」
「あ・・・兄キぃぃぃっ」
マルヴィナを二人に任せ、セリアスは立ち上がる。いや、マウリヤは死んではいない、正体人形だから・・・と
まさか言い出せるはずもなく、とにかく落ち着くようにと声をかけようとした、その時。
「・・・あぁ、びっくりした」
・・・マウリヤはまばたきし、ゆっくりと立ち上がったのである。
(やば)
セリアスの思った通り、誘拐犯たちはその顔を恐怖にひきつらせ、そして・・・気付いた。
妖毒虫に切り裂かれたはずの首筋は、傷はあっても——血が一滴も出ていなかったことに。
「うっ」
デグマは呻き、そして・・・叫ぶ。
「うわぁぁぁぁっ、化け物だぁっ!!」
「化け物だー!」
調子よく最後を合わせ、クルトも叫ぶ。洞窟には、その悲鳴と、二人の逃げる音が四方八方から響いた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ」
マルヴィナがようやく顔をあげた。まだ不安げに首をすくめながら、マウリヤを見る。
「・・・・・・・もの」
呆けたように立ち尽くす、マウリヤを。
「・・・ばけもの。みんなから嫌われる、悪い生き物・・・」
「・・・!? 言葉の意味を、知っているのか・・・?」
おそらくは、初めてまともな反応を見せたのだろう。今までものの名を知らず、頓珍漢な返答をしていた彼女が、
誘拐犯の言葉の意味をはっきりと理解し、感情を出していた。
「・・・わかってるの。みんな、ものが欲しいだけなの。マウリヤはほんとはいらないの・・・」
涙の出ない瞳——だが、マウリヤは泣いている。涙を流せず——泣いている。
「マキナのためにおともだちたくさん作りたかった・・・けど、わたし化け物だから、むりなんだ・・・」
違う・・・! その三文字を、叫びたかった。だが・・・言ったところで、彼女を救えるか?
第三者である者が言ったところで・・・彼女を。
———違う。あなたは、化け物なんかじゃない———
『大切なおともだちよ。マウリヤ』
その時、マキナの声が響いた。
「マキナ! お帰りなさい。ねぇ、今までどこにいってたの?」
人形であるがゆえに上手く表現できない感情。偽りのない笑み。
だが、それはマキナの心を痛めつける。こんなわたしに、笑ってくれる・・・。
『マウリヤ・・・ずっと一人ぼっちだったわたしを、あなたは支えてくれた・・・でも、今は、あなたが』
「なぁに?」
意味を理解することなく、マウリヤは無邪気に問い返す。そのマウリヤを、
するりと抜けてしまうのにもかかわらず、マキナはきゅうと抱きしめた。
『ごめんなさい・・・ごめんなさい。もう、わたしの願いに縛られないで、自由になって。
わたしはマキナ、あなたはマウリヤ。マキナは遠い国へ、天使さまと旅立ちます。
だからあなたも、元のお人形に戻って・・・』
マウリヤはゆっくりと、まばたきした。
『マウリヤ・・・わたしの大切なおともだち。・・・・・』
・・・ありがとう・・・
最後の言葉を残して、マキナは昇天した。
「わたしはマウリヤ。マキナは遠い国へ旅立つ・・・」
マウリヤはマキナの言葉を復唱した。
「・・・マキナが旅立つってこと・・・みんなに言わなきゃ・・・」
おぼろげに呟くと、マウリヤは、ふらふら、一人洞窟の外へ向かった——・・・。