二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.387 )
日時: 2011/05/04 21:39
名前: Chess ◆JftNf0xVME (ID: fckezDFm)

      4.



「遂に見つけたぞ、天使どもよ!!」
 シェナの 脱出呪文_リレミト_ で外へ出た四人を待ち受けていたのは、血を吸ったの如く
紅き鎧に身を包んだ、計三人の兵士だった。武装した姿と、自分たちの正体を知っていたことに驚愕を隠せない。
問答無用で突きつけられる剣。はっと身構える。
「・・・・・?」声の主が見えなくて、シェナはセリアスの陰から兵士たちを覗いた。
 ・・・そして、その時。





「———————————————————————っ!!」





 シェナは、唇に両の手を当て、硬直した。目を見開き、腕を震わせ、じわりと汗をかく。
瞳の色は、はっきりと——恐怖。先ほどのマルヴィナと、同じように。
「・・・何者だ!」
 マルヴィナは声を押し殺して、叫ぶ。どうにか立ち直ったらしい。
叫んだのは、まだかすかに残る恐怖を払いのけるためでもあった。
 さっと、キルガがマルヴィナの前に庇うように立ちはだかる。が、マルヴィナは気付いた。
彼が珍しく震えていることに。
 圧倒されるような、ちりちりと突き刺さるような——そんな雰囲気を漂わせるどこかの国の兵士に。
「ふ・・・我が称号は“高乱戦者”、ガナサダイ皇帝陛下治めしガナン帝国の誇り高き兵士だ」
 律儀に答えた兵士の言葉に、シェナの顔色がいよいよ白くなる。
じり、と後退りしたが、それに気付く者はいなかった。
「ガナン・・・帝国・・・?」
(知っている)
 マルヴィナは、胸のあたりがぞわりとするのを感じた。
(ガナン帝国・・・いや、しかし、あれは——!)
「単刀直入に言おう。女神の果実をよこせ」
「なっ」
 叫んだのは、セリアスだ。
「冗談じゃねぇ。誰がお前らみたいな怪しい奴に!」
「右に同じだ、さっさと国に帰って叱られていろ」キルガもまた、言う。はぐらかす余地はない。
兵士はニタリ、といやらしく笑うと、突きつけたままの剣の柄を持つ手に亀裂を走らせんばかりの力を込める。
「・・・ほう。抗うか。・・・しかたない。力ずくで、奪ってやろうぞ」
 言うが早いか、後ろの兵士二人もまた金属音を立てて剣を引き抜く。
“高乱戦者”と名乗る兵士は、一番近くのキルガを狙った。左手に持っていた槍を素早く持ち替え、
キルガは相手の腹部をつくと見せかけて、一瞬のうちに一番やわらかい喉元を狙って突きつけた。
寸でのところで足を止めた兵士は、さっと身を引き、にやりと笑う。
「ふ、なかなか。だが、所詮槍。剣には勝てぬ!」
 なめんなよ槍を、と、もし槍の使い手がセリアスだったらそう言っただろうが、キルガなので聞き流す。
 が、そのキルガも、次の言葉には黙っていられなかった。

「ハンデでもくれてやろう。剣は剣同士で戦うのが適している」

 意味を理解するのに二秒かかった。キルガははっとする。剣士は、マルヴィナしかいない。なにがハンデだ。
「勝手にそんなことをっ・・・」さっきのことでまだ精神的に不安定なマルヴィナを気遣い、キルガは抗議した、が。
「・・・わたしなら大丈夫だ、キルガ」
 キルガの心配を読み取ったようにマルヴィナは言う。
「あぁ・・・かまわない。相手をしよう。・・・みんなは、残る奴らに気を付けて」
 キルガに一度微笑んでから、マルヴィナは進み出た。不安でひきつった表情を見せるキルガに、
セリアスは落ちつけよ、と一言言った。
「歌と剣を相手にした時のマルヴィナは最強だ。簡単にやられるはずがない」
「くっ・・・」
 押し潰されそうな心臓をおさえ、キルガは目を強く閉じ——

「——行くぜ」
「・・・あぁ」
 セリアスの一言に答え、残る兵士二人の動きに集中した。




 誰もまだ、シェナの様子に、気付いてはいなかった。

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.388 )
日時: 2011/05/05 21:29
名前: Chess ◆JftNf0xVME (ID: fckezDFm)

 マルヴィナは腰の剣に手をのせ、じゃっ、と音を立て一気に引き抜いた。順手にしっかりと持ち、ピタリと止める。
マルヴィナは剣に意識を集中させながら、相手の剣を見た。構え方からして、なかなかの有段者だ。
(あの剣・・・確実に、[これ]より上等だ・・・)
 残っていた兵士二人が動く。キルガとセリアスは素早く目を合わせた。
「俺はあっちを担当する」
「了解」
 セリアスが左に、キルガが右に。それぞれ散った時、キルガは、シェナの様子にようやく気付いた。
拳を固め、顔を伏せ、若干震える彼女に。
「・・・・・・・?」
 いやまさか、さっきのマルヴィナのように、赤い鎧を見ていられないというわけではなさそうだが、
だったら何故、あれだけ震えている? まさか、知り合いなのか?
「っ」
 考え込むと、どうしてもそちらに意識がいってしまう。危ない危ない、と、キルガは集中する先を変更する。
あとから考えればいい。大丈夫。大した敵ではない!
 セリアスもまた、そう苦戦しているわけではなさそうだ。互角、どちらかといえば、セリアスの方が優位である。
 が——マルヴィナは。

(このままじゃ、こっちはそうはいかないかもしれない)

 相手は上物の剣、こっちは刃の欠けかけた剣。実力以前に、根本的なところから不利であった。
(・・・なるべく、刃をかわさない方がいいな)
 戦術を素早く組み立て、マルヴィナはじりじりと間合いを詰めた。と、相手が向かってくる。
「!?」
(は、速——)


       ——————・・・・・ィンッ・・・・・!


 僅かな金属音を立て、ふたつの剣が交錯した。やはり相手は大の男、力は強い。
(・・・くっ、しまっ・・・た・・・っ!)
 このまま剣を折られたらたまったものじゃない——思ったことは、現実となる。
 刃独特の音を立て、マルヴィナの剣が半ばから折れ飛ぶ。
「ッ!!」
 相手の剣が振り下ろされる!! が、これを躱せないほど、マルヴィナものんびりとはしていない。
辛うじて横に跳び、後から冷や汗を浮かべる。闇色の髪が散っていた。
バクつく心臓をおさえ、折れた剣を見て悔しげに呟く。
「刃砕き、か・・・!」
「どうした、“天性の剣姫”。貴殿の力はこれほどではないはずだが?」
「っ!?」
 マルヴィナは目を見開く。
「・・・何故、わたしのことまで知っている?」
 自分たちを天使と呼んだ時点でおかしいとは思っていたのだが、自分の称号や実力まで知られていた。
特に、称号はまだ最近貰ったばかりである。いつから奴らは自分たちのことを知っているのか・・・。
「まぁ、仕方あるまい」マルヴィナの質問には答えず、兵士は 邪笑う_わらう_ 。
「睡眠薬を受けたその身体ではな・・・出せる本気も出せぬというもの」
「なっ!?」
 これにはさすがに、キルガやセリアスも驚いた。
「そんなことまで・・・!」
「一体、何者なんだっ・・・?」
 答えは再びの突進だった。マルヴィナは辛うじて身をかわし、歯ぎしりする。このままじゃ、まともに戦えない。
せめて、剣の代わりになるものがあれば——




「・・・・・・・・・・仕方ない」




 一言、マルヴィナは呟いた。目を閉じる。腕を下げ、隙だらけの格好となる。
「おい、なにやって・・・」
 セリアスの声を、無視する。そのままマルヴィナは、右手に持っていた剣を——






 音を立てて、地面に放り捨てた。

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.389 )
日時: 2011/05/10 21:56
名前: Chess ◆JftNf0xVME (ID: fckezDFm)

「っ!?」
 まさかのその行動に、さすがの兵士たちも度胆を抜かれた。
が、マルヴィナは。剣姫の名の如く、優雅に微笑むと——



「っ・・・・・せぇぇぇいっ!」



 そのまま、気合の声を発し、深く腰を落として——回転。キルガと戦っていた兵士にぶつかり、
そして、そのままその腰の剣を奪い取る!!
「な、」
「何ィ!?」
 驚愕の声を受け止め、マルヴィナはその勢いを止めることなく一気に相手の懐を薙いだ。
間一髪で兵士はその攻撃を避けたが、並の者では確実に腹を切り裂かれていただろうというほどの早業だった。
 しかも、たったそれだけの行動で、この重さと鋭さゆえに持ちにくいこの複雑な剣は
まるで忠実な生き物のように、マルヴィナの手にぴったりと馴染んだのである。
「なんだとっ。我らでも慣れるまでに幾年もかけたというのに・・・何故、貴様が瞬時に使いこなすことができる!」
「すげーぞマルヴィナ! さすがイザヤールさんの弟子!」
 セリアスが勝ち誇ったように叫ぶ。キルガもまた、呆然とした兵士の隙を突き、
「マルヴィナの剣の実力を舐めるなよ!」
 誇るように、そう叫んだ。
「イザヤールだと・・・!?」兵士が呟き、その後、にやりと笑う。「そうか・・・そういうことか!」
 マルヴィナは重く、速く剣を唸らせる。兵士はそれを辛うじて受け止める。
が、この恐ろしく剣の腕に冴えた天使は、勝利の確信を表情に出した。
このまま戦いが続けば、不利になるのは明らかに兵士の方である。


 果実はあきらめた方がよい。大丈夫だ、新たな、否——思った以上の収穫があった。
この不覚は帳消しにできる。
「・・・ふ、仕方ない、果実はあきらめるとしよう・・・!」
「えっ!?」
 叫んだのはもちろん、部下の兵士二人である。思わず動きを止めた時にできた隙を見逃すはずのない
キルガとセリアスは、そのまま体当たりし、冷静にそれぞれの武器を突きつける。
セリアスは武器が斧なので、ほぼ断頭台のような状況だったが、動けない兵士は既に覚悟でもしたのか
目を思い切り閉じていた。
マルヴィナは交錯した剣にさらに力を込めながら、逃がせまいとする。
が、敵は素早く身を翻しそれを躱すと、そのまま嘲笑うような視線を彼女に向けた。
そしてそのとき、兵士は——飛んだ。[跳んだ]のではなく。
「天使よ・・・覚えておくが良い! 貴様らは必ずいつか斃される。必ずな・・・」
 だんだんと、トーンダウンしてゆく。兵士は空に消えた。呆然とする彼らの前に、油で光る羽がひらりと落ちてくる。
「・・・キメラの翼だ」
 マルヴィナは苦々しげに言った。突きつけていた武器を元に戻し、キルガとセリアスがマルヴィナの後ろから
その羽を覗きこむ。置いて行かれた兵士二人は、明らかな不利を感じ取り、
すぐさま近くを流れていた川へ飛び込む。鎧の重みでフォームが取れないものの、派手に水飛沫を立てて逃げ始める。
「・・・行ったか」セリアスが呟く。
「ガナン、帝国・・・」キルガが復唱し——首を、傾げた。
「おかしいな。初めて聞いたはずなのに・・・知っている気がする」
「キルガもか?」セリアスだ。「俺もそう思ったんだ。バカな話だけど、それどころか・・・関わったことまであるような」
 マルヴィナはその二人の会話に驚き、二人もなのか、と呟いた。
が、あえてそうは言わず、別の話題を出す。
「・・・ガナン帝国・・・何故、イザヤールさまのことを知っているんだろ」
「それに」キルガはシェナの様子のことを言おうとして、口をつぐんだ。
馬鹿馬鹿しい考えだった。そんなことがあるはずがない——そう言ってその考えを消したかった、が、
消したい一方で、その可能性を否定できない自分がいる。

 シェナが、あの帝国とつながりがあるのではないか、という、その考えが。



「なんか・・・嫌な予感がするよ。すごく・・・嫌な・・・」



 マルヴィナは呟き、不安げに敵国の剣を握りしめた——・・・。