二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.392 )
日時: 2011/05/12 22:25
名前: Chess ◆JftNf0xVME (ID: fckezDFm)

 翌日セリアスは、がばっ! と跳ね起きると、 白金鎧_プラチナメイル_ を装着——しかけて、止めた。
鎧の重さに既に慣れてしまったので、何も着ていないようでむしろ若干戸惑ってしまう。
 が、慣れれば結局楽であった。おっしゃ、やるぞ、と気合を入れてから、一気に腹筋と背筋と腕立て伏せを
各二百回ずつとなんとなくイメージトレーニングを済ませると、朝のジョギングと言うには早すぎるスピードで
宿を出て船着き場まで走る。
「おじさん!」
 あっという間に着いてしまい、だが大して息も乱れてはおらず、そのままセリアスは叫んだ。
 漁師ジャーマスにである。
「おぅ、セリアス。早ぇな」
「そりゃそうっすよ!」にっと笑ってから、次に仲間の肩をポンとたたいて、
「おっす、マルヴィナ」
 ようやく挨拶をする。
が、マルヴィナは凶悪な仏頂面で「・・・おはよ」と呟く、あるいは[唸る]と、
「・・・あんたさ。いきなり“おじさん!”はないだろ。わたしにかと思ってつい
“わたしは女だ!”って思ったぞ」
「はは、悪ぃ悪ぃ。つーわけで、おはようございます、ジャーマスさん」
「おぅよ」ジャーマスはそこらの岩ほどにもある拳を引き締まった腰に当て、にやりと笑った。
「よし、セリアス。今から俺が船乗りの基礎からみ〜〜〜っちり教え込んでやる。ついて来れるかっ!」
「ついて行きますっ!」
「よぉし! よく言ったぁ!」
 叫ぶ男どもを前に、マルヴィナは「・・・ついて行けんわ」とかなんとかなんとか呟き、早々に退散する。


 マルヴィナはその後、自分のフードを覗き見た。果実は——四つ。
 マキナの家の裏の、小さな墓に——それはあった。マキナの墓。
そして、そこに寄り添うように、人形マウリヤは座っていた。
もう動かないマウリヤの横に、果実は残されていたのである。
 そして彼女の言伝で、船はマルヴィナたちに譲る、ということになった。
彼らは手を叩き、伸び上がって喜んだのだが、

「誰が動かすのヨ」

 というサンディの珍しく冷静かつもっともな意見の元、彼らの歓喜は空気の抜けた風船の如く
しゅうううう、としぼんでいったのだった。
 そこで手をあげたのがセリアスである。彼は四人の中では機械や仕掛けなどを解くのが最も得意であった。
そのことから、だったら自分が船を操縦すると言い出したのである。
だが、彼も当然船というものを人間界に落ちて初めて見たので、右も左もわからない状態だったのだが、
そんなセリアスに指導(?)してやると出てきたのがジャーマスであった。


 ・・・というわけでこの状況なのだが。そんなことを思い出しつつ、マルヴィナは集まった果実を見て、
ひとりにやにやと笑っていた。おそらく誰かが見ていたら怪しい人だと思われただろうが、幸い周りには誰もいない。
 それにしても。もしかしたらわたしたちって、凄いのかもしれない、と少しだけ自惚れてみる。
もう果実が四つも集まったのだ。折り返し地点。嬉しいし、誇らしい、——のだが。

(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・重い)

 ・・・やはりさすがにフードに四つも入っていると首が絞まる。
(あ〜頼むセリアス。早く乗れるようになって。んで倉庫かなんかにしまわせてくれぇ)
 と。

「だいじょぶ? マルヴィナ」

 そのフードがいきなり軽くなる。「はぶっ!?」若干吹き出しつつ、マルヴィナは面食らって振り返る。
そこには、昨日の様子はどこへやらの、ひょうひょうとした表情のシェナがフードを掴んで立っていた。
「しぇ、シェナかぁ。びっくりした」
「なんで? ——あ、これ、ハイリーさんから。今回の事件解決のお礼だってさ」
「礼」マルヴィナはきょとんとして、シェナの差し出した白布の袋を受け取る。じゃらっ、と音をたて、
ずっしりとした重さを感じつつ、袋の紐を解く。・・・中には銀貨と、若干金貨が入っていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うわわわわわわ」マルヴィナ乱心。
「た、た、大金じゃないか。こんなに受け取れない」
「んー。いいんじゃない? それにしても、ハイリーさんてお金持ちなのねぇ」
 どうやらこの貨幣はすべてハイリーが用意したらしい。マジかよ、と言いそうになるのをこらえつつ、
マルヴィナは恐縮しつつもシェナに返しておく。
「キルガは?」受け取って、シェナは尋ねた。
「町長のところ」
「そ。・・・あれ」
 答えてから、シェナは首を伸ばし、遠くを見た。ハイリーの姿が見えたのである。
「うーん・・・やっぱりハイリーさんて、謎よねぇ・・・行動といい、このお金といい・・・マルヴィナ?」
 ねぇ、と同意を求めようとして——マルヴィナの目が、困惑と警戒の色になっていることに気付いた。
 シェナは戸惑い、見比べる。相手は視線に気づかない。シェナは首を傾げる。


 が、マルヴィナは、その時思った。
ハイリーの、気配、生気が——





 ・・・例の帝国に似ている、と。