二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.400 )
- 日時: 2011/05/14 21:43
- 名前: Chess ◆JftNf0xVME (ID: fckezDFm)
【 Ⅸ 】 想見
1.
空は快晴、風は爽快。まさに船旅にはうってつけの気候。
風に髪を躍らせ、マルヴィナは両手を広げた。海が好きなのである。
たなびく闇色の髪を見て、マルヴィナは少しだけすくってみた。
(・・・大分、伸びたな)
天使界から落ちた時は、確か肩につくかつかないか、という位の長さだった。だが今は、しっかりとついている。
(・・・シェナは長いし、結構きれいなんだよな。・・・・・・)
しばらく考え込んでから、マルヴィナは無意識にキルガを探した。
そして、急にはっと気づき、
「っだから何だってんだっ!?」
つい、そう叫んだ。
「わっ!? な、何よいきなり! 叫ばないでよ心臓に悪いわねっ」
「わわわっ!? シェナ、い、いつからいたんだっ!?」
まさかシェナは、マルヴィナを驚かせようとして忍び寄っている途中でいきなり叫ばれて
自分が驚いてしまったなどとは言うわけにもいかず、うー、とかいう意味のなさない言葉を返しておいた。
「・・・で。なにが何だっていうの?」
シェナは落ち着いてから、そういった。今度はマルヴィナがうー、と意味のなさない言葉を返す側である。
(・・・何だったんだろ)
当然だ。自分にも分からないのだから。
そもそも、無意識とはいえ、何故今キルガを探してしまった? ふつう考えている内容からして、
捜す対象はシェナである。キルガって[そういうこと]詳しかったっけ?
いや、確かに頼りにはなるけれど、よく気を使ってくれるけれど、大切な戦友であることは変わりないけれど、
・・・なんなんだ? この、何か・・・うまく言い表せない、微妙な感じは・・・?
「・・・最近、わたし、変じゃないか?」
「えっ?」
マルヴィナのいきなりのそんな質問に、シェナの声はひっくり返る。
「な、なななななな、なな、何が、何があったのマルヴィナ一体!?」
「・・・何だろうなぁ・・・・・・ねぇ、キルガは?」
「え。船に酔って寝てるけど」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
しばらく沈黙。
「・・・キルガ船酔いするんだ!?」
「確かにねぇ・・・普段丈夫なやつほど意外なものに弱い、とはよく言うわ」
「初めて聞いたよそれ」
まぁまぁ、と軽く答えてから、シェナは思った。
(・・・“キルガは”?)
・・・何故今、キルガのことを話題に出したのだろう?
それに、さっきの反応に、最近自分が変じゃないかなどと——
(・・・・・・・・・・・・・・・あ)
シェナはたっぷり四秒考えて、そして、思った。
(・・・・・・もしかして)
海に視線を戻したマルヴィナを見て、シェナは一度くすりと笑い——
(船酔い野郎、あんたの想い、もしかしたら叶うのは遠くないかもよ?)
・・・と思ってやったのだが、
(・・・多分)
いつもの表情に戻りきってしまったその横顔を見直して、そう付け足しておいたのであった。
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.401 )
- 日時: 2011/05/17 20:51
- 名前: Chess ◆JftNf0xVME (ID: fckezDFm)
一方“船酔い野郎”キルガ、腕を目の上にのせて唸り中である。
「うー・・・これだから船は嫌いなんだ・・・」
酔いながらもまともな感想が言えているのだが。
ジャーマスに乗せてもらった小舟も、ツォの浜の漁師に乗せてもらった舟でも、実は調子が良くなかったのである。
迷惑がかかるからと、ずっと我慢し続けていたのだが・・・今回ばかりはさすがに限界が来た。
あー気分悪、とブツブツ呟きつつ、キルガが顔をしかめたまま寝返りをうったとき、
「あ〜も〜、風強すぎっ! これじゃヘアぼさになるんですケドっ!!」
・・・何とも騒がしい奴が入ってきたりする。
「つかなんでマルヴィナもセリアスもアタシの箱舟ちゃん乗ってたトキ酔ったくせにこの船じゃ酔わないわけ」
というサンディの愚痴と、
「セリアスは[運転]してるからともかくマルヴィナよマルヴィナ何でへーきなわけー!?」
という文句と、
「つかコサージュつぶれてるー。せっかくなおしたのにっ」
という意見などなど全てを、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
キルガは不機嫌のハンコを額に付けていそうな表情で聞き流す。
(・・・頼むから静かにしてくれ)
もちろんその考えがサンディに届くことはないのだが。
「あ、ち—————っ・・・」
それから二日の時を経て、彼らは砂漠へ着く。
さすがに二日も揺られれば慣れたのか、キルガの顔色はそう悪い方ではなくなっていた。
一方で不機嫌顔なのがマルヴィナとサンディである。
マルヴィナはきっちりと止めていた胸元のボタンを外し(またシェナがその状況を確認していた)、手団扇であおぐ。
サンディはサンディで、やはり一人文句を言っていた。
「マジ、ヤバス。これいじょーアタシをこんがり美人にしてどーすんのヨッ」
そんなサンディに答えたのはマルヴィナである。
「美人かどーかはともかく、確かにそれ以上[焦げたら]作るのに失敗した目玉焼きの白身並に黒くなりそうだね」
「例え長っ」
「えーだって、白身って本当に真っ黒になるしさぁ」
「方向性違うわよ」
セリアスとシェナ、二人がかりでマルヴィナにツッこんだのであった。
ともかく、彼らはグビアナ城を目指し歩き始める。
「そういや砂漠って、サソリ出るよな・・・」
セリアスが何気なく呟く。
「それを言ったらタラ——」
「シェナ言うなッ!!」
残りの四文字を言われる前に、キルガがあわてて制した。ン、まで言っていたシェナの唇が止まる。
そして、キルガの視線の先のマルヴィナを見て、あ、そっか、ごめんマルヴィナ、と口を閉じたのだった。
だが幸いマルヴィナは地図と格闘しており、会話を聞いていなかった。いなかったのだが。
「・・・ねぇみんな。・・・非常に、言いにくいんだけれど・・・」
という、微妙に不吉な言い回しをする。
いや〜な予感のした三人は顔を見合わせ、セリアスが尋ねる。
「・・・・・・・・・・・・ちなみに? 道に迷った以外の意見なら受け付けるが」
「じゃあ何も言わない」
「ん、ならいい」
「イヤ良くないだろうっ」あっさり答えてしまったセリアスに対しキルガが間髪を入れずにツッこんだ。
「道に迷ったのか、マルヴィナっ!?」
「んー。もしかしたらそうかもしれない」
同じようにあっさり言ってしまったマルヴィナに、暑さ以外の理由の若干のめまいを感じるキルガ。
「か、勘弁してくれよ・・・砂漠で遭難っていうのはかなり厳しいんだ・・・」
「キルガ、道、覚えてないわけ?」シェナが尋ねるが、さすがに一度通っただけで覚えられる状況ではない。
ましてや、(皆は道、道と言っているが)砂漠に“道”などありはしない。しかも今日は黄砂がたっている。
これで晴れていたら、そろそろ城の面影が見えるはずなのだが——
「・・・あっ」
と。キルガが、短く呟く。見渡していた砂漠の奥に、何かが見えたのである。
しかも、それは。見覚えのあるそれは。
「・・・聖騎士団・・・!」
それは、かつてキルガの所属していた、グビアナ聖騎士団の団員たちであった。
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.402 )
- 日時: 2011/05/20 21:20
- 名前: Chess ◆JftNf0xVME (ID: fckezDFm)
「・・・久しぶりね、キルガ」
聖騎士団に拾われ、四人が馬車ならぬ 駱駝_ラクダ_ 車に乗らせてもらっているとき、そんな声が聞こえた。
む? と、そろって顔を見合わせる三人の前で、キルガはなんとなく苦々しげな表情となる。
この勝気、あるいは頑固そうな[辛うじて]女性の声で、真っ先に自分に声をかけてくる聖騎士といえば、
一人しかいない。金色、短髪、身長は微妙に低く“さん”を付けるのが嫌いな、聖騎士団の小隊長、
「・・・パスリィ・・・」
及び天使界から落ちたキルガを真っ先に見つけた人物、パスリィである。
「何、そのシラケた顔は。・・・あらら、今回は、やけに大人数じゃない」
四人でか? と反論する気力もあまりない。
「・・・キルガ。知り合い?」
「・・・・・・・・・・・・・・・まぁ」
微妙に歯切れの悪いキルガに自分を紹介される前に、パスリィはさっさとマルヴィナに自己紹介をする。
「パスリィよ。グビアナ聖騎士団小隊長」
「・・・・・聖騎士[団]なのに小[隊]長なのか・・・?」何気なくセリアスがぼそりと呟くと。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・細かいこと気にしてると禿げるわよ」
遠慮容赦ないパスリィのツッコミが返ってきたりする。セリアス、反論できず。
「・・・僕が天使界から落ちた時に、助けてくれた人なんだ」
キルガはその間に、ぼそりとそう伝えた。
「あぁ、なるほどね。・・・結構素敵な人じゃない」
シェナがくすりと笑う。「キルガとは相性悪そうだけどね」
「で? まさか聖騎士に戻りに来たの?」
話をさっさと打ち切ると、パスリィはキルガにそう尋ねた。キルガはきっぱりと、「違う」と答える。
「様子を見に来たんだ」
キルガはそう言ってから、それに、と口中で呟いた。
それに——もしかしたら会えるかもしれない、と思ったのだ。
副団長であった—そういえば何故彼は副[団]長なのだろう?—ハルクに。
そして——聖騎士団を追われる前夜に見た、金髪、灰色の瞳の、あの神秘的な女性に。
・・・彼女を見つけた時、キルガは全身に雷が走ったような、不思議な感触を覚えたのだ。
別に恋心だとか、そういうものではない。ただ、彼女を見た時、キルガは、馬鹿な話だとは思うが——
“もう一人の自分”を端から見ているような、そんな感情を抱いた。容姿はまったく似ていない。
だが・・・雰囲気が、自分と一致する何かを漂わせていた。
彼女は一体何者なのだろう。それが知りたかったのだ。
「まだ戻って来ない方がいいわよ」
パスリィのその一言に、キルガは意識を取り戻す。相変わらず考え事をすると
周りの世界から意識を途切れさせてしまう。本当は早く直したいのだが、そう簡単にいくものでもない。
「未だ全然女王から寄付金貰えないからね。最近ちょっとは金、できたけどさ。果物売ったおかげで」
ふぅん、と答えようとして。
「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ果物っ!?」」」」
見事に四人はハモる。若干幌の中に響き、駱駝が一瞬びくりと動いていた。
Chess)恒例中途半端止め。ノートに書くとこういうことが起きるっていうデメリットが・・・