二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.438 )
- 日時: 2011/07/16 22:39
- 名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: fckezDFm)
地下水路奥部の二人に戻る。
「そろそろ、空気が悪くなってきたな」
マルヴィナは手団扇であおぐ。が、来る風はじめじめとして不快だったので、すぐさまやめた。
「あー、じめじめ。きのこ生えてきそう」
「生えるの!?」
シェナの爆弾的な発言に、マルヴィナは大声で反応。かなり響いた。
声デカいわよ、シェナはそう言おうとした。が、先に、マルヴィナよりなお大きな声が、それを遮る。
「誰やっ」
二人は素早く目を合わせる。息を合わせ、陰に隠れる。
「・・・そう言うあなたこそ、誰だ? 名を聞くなら、先に名乗るのが礼儀ってものだ」
「礼儀も冷気もあるかい。邪魔せんといてや」
「寒っ。冗談いうならもっとましなもの考えなさいよ。——いくら蜥蜴でもさ」
・・・声の主は。
蜥蜴——否、もはや 竜_ドラゴン_ というに等しいそいつ——アノンだった。
「アンタら、さっきのけったいな旅人やないか」
幸い、巨大アノンの近くにユリシスはいた。探す手間が省けたわ、とシェナは心配っ気の全くない声色で言う。
「まぁまぁ。・・・けったいとはご挨拶だな。わたしはマルヴィナ、あんたの食らった果実を求めて旅をする者だ」
挨拶を始めたマルヴィナに、シェナは苦笑、アノンは呆然。ユリシスの表情は分からない。
「なんや、つまりは、あの果実を返せ言うんか。生憎や。もうわてが食ってもたがな」
「全部か?」
「見りゃわかるやろ、完璧な人間の姿んなっとるんやで」
その言葉には、マルヴィナもシェナもフリーズした。
完璧な人間の姿——いや待て、ちょっと待て。マルヴィナは目をしばたたかせる。
観察。結果。
金色の厚い鱗、大きすぎる目、細い眸、ずらりと並ぶ犬歯、・・・
「・・・ヤバいわよマルヴィナ。こいつ、この格好で、本気で人間だって思い込んでるわ・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」反応のしようがない。
「はぁぁん? 何か言うたか? あんたらどうせ、わての夢壊しに来たんやろ」
アノンは、やはり大きな足を踏み鳴らし、二人の前に歩いてくる。
二人は身構える。ついでに落ちてきた小さな石から頭を守る。
「やがな、あの城に戻すわけにはいかんのや・・・敵ばっかのあの城には・・・
それでも引き戻すっちゅうんなら、容赦はせぇへんでっ!」
「っ!!」
言うと同時、気合のこもった爪の一撃がマルヴィナをかすめる。
体格の割に、素早い動きだった。小手が音を立てて三つに分かれる。いきなり使い物にならなくなった。
「不意打ちか、卑怯なっ」
「うるさい、うるさい! 容赦せぇへんっ」
暴れている、という言葉がしっくりくる。暴れるアノンの一撃に備え、シェナは神秘の悟りを開く。
攻撃、回復共に、潜在能力を引出し、魔力を高める賢者特有の技である。
「戦うしか、なさそうね」シェナは溜め息をついた。
「二人だけだからな、最初は防御専念だ」マルヴィナは言いながら、左腕に通した紅蓮の盾をふりかざした。
炎のバリアが二人の前に生じる。
「シェナ、後衛へ。援護を頼みたい。わたしが合図したら、攻撃に移ってほしい」
「いいの? ずっと回復じゃなくて」
「大丈夫。わたしも隙を見て、攻撃する。・・・あぁ、なるべく奴の視界に入りにくい位置に、もう少し・・・そのあたり」
指示通りにシェナは動く。
「・・・って、ごめん。また即興だから、上手くいかないかもしれない。無理を感じたら、安全な位置に動いてほしい」
「かまわないわ」
シェナはそれだけ言った。
最近、マルヴィナの即興作戦の腕(?)は著しく成長しているように思えた。
戦術を組み立てるのは最初、マルヴィナとセリアス、主にはセリアスだった。
が、彼の場合、最近は攻撃に専念することが多く、攻撃と援護を交互に行うマルヴィナの方が戦況を見渡しやすくなった。
それからはずっとマルヴィナが作戦を組み立てていた。
が、直感的に作っている割には、彼女の作戦はほぼ完璧に思える。
何度も修羅場をくぐり抜けたおかげだろうか。いや、それだけではない気がする。
マルヴィナに眠る才能が一気にあふれてきたような、隠された能力が吐き出されたような、そんな感じがする。
(・・・従うわよ、マルヴィナ)
シェナはそう思った。マルヴィナの直感を、無意識に信じて。