二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.443 )
- 日時: 2011/07/30 23:47
- 名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: fckezDFm)
「今だっっ!!」
マルヴィナの合図。呪文を詠唱し始めるシェナ。
マルヴィナが跳びかかる、アノンが叫ぶ。マルヴィナは飛び散った血を気にせず、
金色の鱗を思い切り蹴りつけて後ろへ跳んだ。
「ドルクマっ!」
シェナが叫んだ。強く大きな闇の魔力が、炸裂する。
アノンは唸ると、息を一気に吸い込む。“竜斬り”の構えをしていたマルヴィナははっと目を見開く。
「防御を固めろ、来る!」
「了解!」
二人が盾をふりかざし、身を縮めたその後、激しく燃える炎が噴出された。
が、それは炎のバリアによって四方に小さく散る。二人は唇を噛み、顔をあげる。火傷はない、大丈夫。
だが、熱気はかなりの物だった。まともに喰らえば、おそらくは即灰になっていた——。
(気付いているんだろうか)
マルヴィナは思う。
(人間は火を吹かない、即ち自分は人間ではない。アノンは、それに気付いているのだろうか)
いないな、そう思い直す。
気付いていれば、戸惑うだろう。だが、相手は、変わらず興奮し、
一瞬意識を走りに向けたマルヴィナに向かって、大きな爪を振りまわ——
「・・・え?」
「マルヴィナっ!!」
その一瞬が、命取りとなっていた。
攻撃するために背後に回ろうとしていた、その時を狙われた。爪が振り回される、横腹を容赦なく一思いに裂く。
息が止まる。
痛みが感じない——
——————ィナ、
・・・シェナの声が、聞こえない——
———『あの子だよ。イザヤールの弟子になった・・・異質な天使ってのは』
・・・何年前だろう。今よりずっと幼い時、まだイザヤールの弟子になりたての時、そんな声を聞いた。
未だ数人から、異質と呼ばれ、関わり合いになりたくなさげな視線を送られた頃。
ざっくばらんで、なんと言われようと自分が良いと思ったこと、気にしないと決めたことは、そのままを通し続ける、
そんなマルヴィナも、さすがにその言葉はこたえた。
知っていた、自分はまだ孤独だと、受け入れられないと。
一部の者には。
そう、だが、もう一つ知っていることがあった。
受け入れてくれる人は、必ずどこかにいる、心の奥底でそう思う人はいる。
マルヴィナにとっての、師匠やその友達、昔からいつも共にいたキルガやセリアス。
マルヴィナが求めたのは、彼らの無言の理解。
無理矢理解決しようとは思わない、無駄に慰めようともしない。
孤独なものに求められるのは、厚かましくない理解。
あなたもそう思っているはずだよ、ユリシス。
そして、無言の理解をすべきものはアノン、あなたの役目なんだ。
—————————「ベホイム」
シェナの回復呪文が、マルヴィナを包む。
マルヴィナは深く息をつくと、歯を食いしばり、ゆっくりと起き上がる。
「・・・・・・・ありがと、シェナ」
「まだ傷はふさがっていないわ、動かないで——・・・っ!?」
シェナの集中力が途切れる。再びアノンの爪が振り下ろされる。マルヴィナはシェナを突き飛ばした。
爪が地面に叩きつけられる。アノンは伝わってきた痛みに呻いた。
マルヴィナは唇を結び、まっすぐにアノンを見た。
「・・・あなたがやるべきことは、そんなものじゃない」
呟く。独り言のように、静かに。
「・・・そんなことは、求められない。わたしと・・・かつてのわたしと同じ、孤独者には。そんなことは」
伝わるだろうか。伝えねばならない。人の思いを。
「・・・分からないか? 本当は、力ずくでは、人の心は変えられない」
先ほどまでアノンの攻撃に抵抗はしてきたが、それだけで事を終わらせようなどとは考えない。
そんなことは、不可能だから。
「だから、なんやと言うてんのや。帰すわけにはいかん、あの敵だらけの城に」
「敵だらけ。確かめたわけでもないことを、よく言うな」
「うるさい、はよ黙らんかいっ・・・!」
三度、マルヴィナを狙って、爪が襲う。マルヴィナは身構えた。剣を構え、抵抗しようとする——
「———————————やめてっ!!」
・・・時に、突き刺さるような、何かを想ったような、鋭い声が響いた————・・・。
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.444 )
- 日時: 2011/10/16 20:39
- 名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: Xn5/gwB3)
自分自身でさえ、驚いてしまった。
疲労で、もう歩くことも出来なさそうな自分だったのに、まだこんな大きな声が出せたなんて、と。
だが、大丈夫。出せたのだから、出し切ってしまえばいい。
誤解が解けるのなら、主が気付くのならば——
「これ以上、アノンを傷つけるのはおやめください・・・!」
「—————ジーラ!?」
主が——ユリシス女王が、私の名を呼ぶ。
だが、叫んだら叫んだで、ジーラは足の力が抜けて崩れ折れかける。
「危っ」
セリアスはその腕をつかみ、体勢を整えさせる。
「む・・・」
マルヴィナの後ろ、シェナから、そんな声が聞こえたような気がした、・・・が、気のせいだろう。
「ユリシスさま、無事で良かったです。アノンまでいなくなってしまっては・・・ユリシスさまはもう、
誰にもお心を開かなくなってしまわれますわ」
「・・・・・・・・・・・・・・」マルヴィナは黙る。
ユリシスは明らかに困惑していた。何故? どうしてそんなことを言う?
視線でその考えを読み取ったジーラは、申し訳ございません、と言う。
「私は見てしまったのです。ユリシスさまが夜な夜な、アノンに語りかけているところを」
先代王ガレイウス、ユリシスの父。
彼はおそらく、歴代の中でもっとも慕われた王だったろう。
水不足を補うために自らつるはしをふるい井戸を作り、義援金を送り・・・忙しくも充実した日々を送る王だった。
だが、その忙しさゆえに。幼いユリシスにかまう余裕などは生まれなかった。
寂しい。我が侭な自分が嫌い。でも、抑えられない。後悔しかできない。
傲慢で、我が侭な女王の裏には、孤独で、寂しがり屋の、小さな娘がいる。
「どうか、そのお気持ちを、私たちにも打ち明けていただきたいのです。
ユリシスさまは決して、一人ぼっちではありませんわ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ユリシスは黙る。顔はずっと伏せたままだった。
マルヴィナはずっと無表情だった。シェナは小さく溜め息をついた。
(ひとの心は簡単には変えられないわ。でも・・・何かは、変わったのかしらね)
ちらりと、そんなことを思う。
アノンはと言うと、先ほどの邪気はどこへやら、呆けたような、安心したような、微妙な思いを巡らせていた。
「・・・城には、アンタみたいなええ人もおったんやなぁ。これならわてはピエロやで」
いやピエロじゃなくて蜥蜴、・・・あるいはドラゴンだろ、と方向性の違った反論を仕掛けて止める。
今ここでそんなことを言えば蜥蜴の声の聞こえないユリシスとジーラに一発で変人マルヴィナの称号をもらいそうだった。
「・・・なぁ、アンタ」
その考えを知ってか知らないでか(多分後者)、アノンはマルヴィナに向かって話しかけてくる。
「・・・わて、人間ちゃうやろ。人間は口から火ぃ吹かへん。・・・やけど、アンタ、アンタも人間ちゃうやろ?
・・・わてこんな力、もういらへん。城で生活する。せやからこの果実・・・アンタに託すわ。欲しがっとったんやろ」
マルヴィナの返事を待たず、アノンは直立不動する。金色の鱗が、さらに金色に輝く。
別の輝きではあったが、それは、それぞれが演奏し合うように、お互いの光を強めた。
白い光が辺りを照らす——
目を開けた時、そこにいたのは、小さくあどけない金色の子蜥蜴と、眩く輝く、五つ目の果実だった———・・・。