二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.445 )
日時: 2011/08/07 22:07
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: fckezDFm)

     3.


 ——夜の事。
「きいたよぉ。女王様が、義援金を出してくれたそうじゃないか」
「えぇ、おかげで主人がまた仕事を張り切りだして!」
「しかもあれ、沐浴場。自由に使えるようになったって話じゃないか」
「あら、もうご存知でしたの? あたくし、朝一番で伺おうと思っていますの!」
 砂漠の夜は恐ろしいほどに寒い。普通ならばこの時間は女たちはあまり出歩かないのだが、今宵は別であった。
 女王が変わり始めているらしい。
その噂は、半信半疑だった最初だったが、うつされた行動によりだんだんと信憑性を得ていた。



 その中で。



 守護天使像の前、広場の中央に、誰かが降り立った。
金色の長髪、灰色の瞳。
悠然と、堂々と。秀麗で有能な魔法使い、“悠然高雅”アイリスは、ゆっくりと両手を合わせ、微笑んだ——・・・。




 ———『・・・ねぇ×××、人の心なんて、簡単に変わらないよね』
 何かの声がした。×××は、当たり前だろ、と頷く。
『どんなにきれいごとを並べたって、虚しいだけだ。少なくともわたしは、そう思うね』
『やっぱりね。でも、仕方ないさ。ウチらは、そういう性格なんだから。今までも、多分、これからもさ』———




「っ!?」
 マルヴィナは、いきなり跳ね起きた。
 夢を見ていた気がする。誰だろう。誰かが、何かを言っていた。
人の心? 何の話・・・?
 でも、確かに誰かは、わたしに向かって話していた。
わたしもその人に答え返していた。

 ・・・でも、何かおかしい。[わたしが答えたんじゃない]。[わたしの中の誰かが答えた]。
 自分の答えではないことを言った気がする。・・・夢?
本当に夢なのか? なんだか、・・・馬鹿な話だ、だが——マルヴィナにはそれは、過去に思えた。
 過去? いつの事? どうして? あの人は誰?
「・・・・・なんなんだよ、一体・・・」
 マルヴィナは窓を開ける。流れ込んできた風は恐ろしく冷たく、マルヴィナは震えあがる。
(だ・・・ダメだ。眠気覚ましにしかならない)
 窓を閉めようとする。が、そのとき。


(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?)


 マルヴィナは、目を疑った。広場の中央、守護天使像の前。誰かがいる。女性だ。
金色の髪と、灰色の瞳——何故、暗闇で瞳の色が見えたのだろう?
だが、何故か、目を引いた。
 守護天使像の前に立っている、だが像は見えていた。すなわちその女性は、透けていた。
 おかしな感情を覚えた。どうかしている、と思った。だが——笑い飛ばせない自分がいる。
全然似ていない、そもそも性別が違う。なのに、彼女は、キルガに何かが似ているような、そんな気がした。

(・・・誰・・・・・・?)

 マルヴィナは立ち上がると、扉を開け、階段を音をたてない程度に急いで降り、外へ出た。
砂風が舞う。だが、気にしなかった。
早く。早く。・・・間に合って——



『ようやく来たわね。・・・待っていたわ、“天性の剣姫”マルヴィナ』



 “悠然高雅”は、その称号の名の通り、悠然とそう言った——。







「・・・・あなたは、何者だ・・・?」
 マルヴィナはいきなり呼ばれた称号と名に、少し警戒しながら尋ねた。
だが、彼女は。ふっと小さな溜め息のようなものをつくと、目を細めて微笑み、歌うように言った。
『警戒は恐怖。恐れる必要はないわ。——私の名は、アイリス。称号は、“悠然高雅”』
「アイリス・・・・・?」
 どこかで——マルヴィナは、そう思った。頭の端に転がった、記憶という玉に、手が届かない。
アイリスはそんなマルヴィナを見て、また語る。
『さすがね。彼女は、私のことを記憶に残してくれたようね』
「・・・・・・・・え?」
『あなたの記憶に自分の記憶を受け継がせた者よ』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
 マルヴィナの頭が疑問符に支配される。
無理もない、アイリスはそう思った。だから先に、説明しておく。
『・・・あなたが何故、自分が異常な時に天使界へ送られたのか、何故、己が存在しなかったはずの
過去の出来事を知っているのか——私は、それをあなたに、教えに来たの。・・・時が満ちたのよ』
 わけが分からない。そもそも彼女は何者なのか? そして、
「アイリス・・・あなた、わたしの存在を知っているのか?」
『・・・えぇ。はるか天空の宮に住みし神聖なる光の子にして、人間という名の創造体を守るべく存在するもの、即ち天使』
 アイリスは台詞めいた言葉をよどむことなくさらりと言ってみせる。








『私は、教えに来たのよ。あなたに眠る謎と・・・そしてあなたの、“記憶の先祖”のことをね———』








 冷たい風が、頬を撫でる。

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.446 )
日時: 2011/08/11 21:28
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: fckezDFm)

 はっ、と、マルヴィナは小さく笑う。
「何それ。“先祖”だって? そんなもの」
『存在しない・・・そう言いたいのね』
 先に言われた。開いていた口を不機嫌さを包み隠さず閉じかけ、マルヴィナは思い直し、言う。
「当たり前じゃないか。すべての父は創造神グランゼニスさまだ。先祖なんか存在しない」
『“先祖”はただの隠喩よ。本当のではないわ。・・・けれどマルヴィナ、覚えておきなさい。あなたは——』
 アイリスは変わらぬ笑顔のまま——発言する。




『創造神グランゼニスに作られた生命ではないわ』








 爆弾発言だった。
マルヴィナの時が止まる。
風が吹き荒れる——いつの間にか、広場で話していた女たちも、いない。
 深夜。
 [ひとり]。
「・・・どう・・・いう、・・・こと・・・・・・?」
 ようやく六文字、声に出す。勢い付けて、今度はさらに大きな声で。
「何だよそれ、いきなりそんなこと言われて、信じるわけないだろっ」
『動揺は真実』またも謎めいた言葉を言い、アイリスは祈るように手を組む。
『信じたくない気持ちは分かるわ。けれどこれは事実・・・あなたを創り出したのは、“記憶の——』
「その名はもういい。じゃあなんだ、わたしはその 某_なにがし_ に創られて、
そいつの記憶を受け継がされているっていうのか!?」
『ご名答よ。大まかに言えばね』
 大まかに、という言葉に、まだこれ以上にややこしい細かな部分があることを悟る。
ここまで来たら、遠慮はしない。
「どういうことだよ、説明して。・・・いや、そもそも、あなたは何者なんだ? なぜ・・・そんなことをわたしに言う?」
『彼女が望むからよ』あっさりと言う。『そして、定めであるから』
 アイリスは遠くを見るように視線をそむけた。マルヴィナがその視線を無意識に追う。
『・・・まぁ』
 そして、その言葉で、意識を取り戻す。
『・・・私たちの存在の事なら、マラミアに聞くといいわ』
「え、ちょ・・・」
『カルバドへ向かうといい。ここから北の、大草原の中の集落よ。そこに、もう一人の同胞がいる』
「何言ってんだよ、ここまで話して次回もちきりって・・・!」
 マルヴィナの声は、虚しく響いただけ。
風のやまない砂漠の城下町に、ひとりの陰が、ぽつんと残されているだけだった。




 そんなことがあったからか、マルヴィナは翌日不機嫌であった。
「・・・どうしたマルヴィナ、さっきからモノの掴み方が怖いんだが」
 朝食でキルガがマルヴィナに言った言葉である。
「そりゃ不機嫌ですから。・・・あんなさっむい中意味わからん言葉言われてさっさと立ち去られて。
“詳しくは掲示板で!”とか言うつもりかってんだ」
「マルヴィナ、怖いわよ。今日は関わるのやめておこうかしら」
 シェナの冗談が珍しく空回りする。
「何かあったのか?」
 セリアスだけは素直に心配の声をかける。マルヴィナは伸ばしかけた手を止め、うーん、と唸った。
「・・・昨日さ、妙な人に会ったんだ」
 アイリスという名の女性、実体はない。だが、霊には見えない。
マラミアという人物(?)に会うためにカルバドへ行けと言われたこと。
記憶の先祖。自分の・・・正体。
「・・・ちょ待っ、何だよそれ、じゃあ・・・マルヴィナは一体、なんだって言うんだよ」
「わからない」マルヴィナは言う。「・・・まさか、今になって・・・自分自身の“謎”に関わることになるなんてね」
「“異常時期に送られた者”・・・か」キルガが呟く。
「でも、そんなことを言ったら、僕らはどうなんだ?
マルヴィナだけじゃない、僕らだって、十分おかしいってことになる」
「いや変なのは、最初っから分かってっけどな」セリアスが苦笑した。
「いまさら言われたって・・・だからどうしろって言うんだ。・・・でも」
 マルヴィナは手を戻し、顔をあげ、言い放つ。
「カルバドに行きたいんだ」
 降ろした手を握りしめる。
「一度聞いてしまったものを、最後まで聞かずして無視したくない。・・・カルバドに、行きたい」
「はいよ」
 セリアスの軽い返事が返ってきた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」
 思わず問い返す。
「・・・・・いいの?」
「ん? だって、マルヴィナが言いだしたんじゃないか。いいに決まってるだろ」
「いやそうだけれど。・・・いいの? んなあっさりと」
 そんなマルヴィナを、シェナがつつく。
「何言ってんのよ。遠慮なんかしなくていいのよ」
「果実集めも兼ねているしね」
 キルガが果物を半分に割りつつ言う。
「・・・あ、そっか」
 マルヴィナは納得したように肩をすくめた。
 そんな彼女に、キルガは半分のその果物を渡す。
「・・・で。まだ何か、悩んでいるだろ」
 受け取りそびれかける。
「っ何で分かった!?」
「バレバレだよ」さらりと言うキルガを睨みつける気力もなく、マルヴィナは苦笑する。
「え、なに、まだ何か悩んでたの?」
 シェナがマルヴィナの顔を覗き込む。
「んー・・・まぁ」
 三人がいいから話せと言わんばかりの表情であることを確認し——マルヴィナは、結局、決意した。







「・・・転職しようと思っているんだ。魔法戦士から」