二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.450 )
- 日時: 2012/08/22 21:47
- 名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: bkovp2sD)
長い沈黙の後。
驚愕の声が、爆発した。
「わわわわちょっ、声声、声デカいっ」
まさか転職の言葉でそんなに驚かれるとは思わず、マルヴィナは慌てふためく。
当然朝っぱらからこんな大声をあげてしまったはた迷惑な旅人達は、周囲から冷た〜い視線を浴びてしまい、
平謝りに謝るのであった。
「ど、どうしたのマルヴィナ。一体何がどうして、どうなってそういう結論に陥ったの」
「陥るとは失礼な! シェナだよ、考えるきっかけになったのは」
「え、私?」シェナが固まる。
「いや悪い意味じゃないから安心して」
マルヴィナは苦笑してから、話し出す。
シェナはパーティの回復の要である。キルガは少々の回復呪文が使えるものの、ふだんは使う暇などほとんどない。
自分たちは強くなってきたとは思う、だが、
世界にはさらに、比べ物にならないほど強い敵がごろごろしているだろう。
先日現れたガナン帝国とも、いつか闘うことになるのかもしれない。
そう考えると、シェナは仲間の体力に一人で気を配り、集中し、祈ることで、自分の身が危うくなる。
昨日も——アノンに自分がふっとばされた時、シェナは自分の守りを捨ててマルヴィナの傷の治療を試みていたのだ。
「・・・でさ。“然闘士_レンジャー_”って知っているか?」
「む?」セリアス。
「あぁ・・・名前だけは聞いたことがある」キルガ。
「私も」シェナ。
知らないのはセリアスだけか、と、マルヴィナは説明しようとしたが、
「自然と、野生の力を味方につけた戦士の事だよな? あー・・・回復と、補助が出来て、
んで弓とか爪とか使えて・・・そだ、前登ったビタリ山に何か優秀なそいつが現れるって噂もあるな!」
・・・先に説明されてしまった。しかもなんだか恐ろしく詳しい。
「・・・・・・・・・・・・分かってんなら尋ねるな」
マルヴィナが半眼のジト目でセリアスを睨む。
「いやぁスンマセン」あっさりと謝るセリアス。このあたり、妙に潔い。
「・・・爪は使わないはずよ?」
と、シェナ。セリアスがえ、と一度目をぱちくりとさせた。
「然闘士が使うのは、斧と弓と投てき系統。・・・爪はないわ」
「あれ? ・・・え、でも、確か」
セリアスが悩み、悩み果てて、悪い、なんかと勘違いしたっぽい、と言った。
だが、その表情は、納得しきれていないものがある。
沈黙の気配が寄ってきて、キルガはとりあえず話を戻した。
「なるほど・・・マルヴィナが援護か」
キルガが考え込む。
これで、今までは大まかに言えば攻撃役がマルヴィナ、キルガ、セリアス、補助がキルガ、シェナ、
回復がシェナといった形で担当していたが、補助と回復にマルヴィナが入ったことで、
攻撃的な戦力は若干下がったが、バランス的には安定したと言えそうだった。
「うん、いいんじゃないか。フォースも使えるみたいだし」
「剣もだな。『職業』柄、剣は少し重く感じるだろーが、マルヴィナには関係ないしな」
「なったら、回復呪文のなんたるかをみっちり教えてあげるわ。覚悟しておきなさい」
にっこり笑って恐ろしいことを言うシェナに、苦笑したのはキルガである。
彼も彼で、一応は回復呪文を扱う身、丹念の込め方やら集中の仕方やら、色々叩き込まれたのであった。
別に丸め込まれるわけではないのだからいいのだが、そういえばキルガの周りには、
妙にひとつのことを以上に熱心に教える女性が多いような気がした。
Chess))ちなみに“然闘士”当て字です。自然。
だってカタカナのままだと≪○○戦隊××レンジャー≫みたいな感じだし。
ついでに最後の一文、キルガの心当たり的にはシェナ含め三人見つけました。
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.451 )
- 日時: 2011/08/13 16:22
- 名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: fckezDFm)
そんなわけで、マルヴィナ除く三人は、セントシュタイン・リッカの宿屋で、暇人状態でぼけらんとしていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・あ、紅茶、いる?」
リッカである。他の客が誰もいないこの時間、彼女としても暇で暇で仕様がないのである。
断ろうかと思ったのだが、わざわざ気を使ってくれたのを追い返すわけにもいかないので、
三人は素直にもらうことにした。
「ストレートにする? それとも、何かジャムとか果実とかミルクとか入れる?」
「僕はストレートで」
「ジャムって何がある?」セリアスが念のために聞く。
「ベリーね。ラズベリー、クランベリー、ストロベリー、ブラックベリー、ブルーベリー、その他もろもろ」
「ざっくばらんね・・・」シェナが苦笑。「私ブルーベリー」
「あ、じゃあ俺、ミルクで」
「分かったわ。ちょっと待っててね」
先ほどより軽い足取りで、リッカはカウンターの奥へ消える。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
再び、暇時間。かなり短いのだが、この何もない時間が既に飽きてしまった三人にとっては長い時間であった。
「今頃マルヴィナ、修業してんだよなー・・・」
「そのビタリ山の然闘士に会えていればね」
「あー・・・会えていてくれー・・・んで早くなってきてくれー・・・暇で暇で○×△%*☆И」
「セリアス、言葉がおかしい」
「せめて人間の言葉で話しなさい」
日は巡り。
心配されずとも無事、噂の然闘士に会えていたマルヴィナは、三日の寝ずの修行を終えてダーマ神殿にいた。
「ううう・・・さ、さすがに眠い」
噂されていたその者は、生まれながらの然闘士であった。
名はプーディー、獣に育てられた半獣人の娘だった。
彼女は人間を欲深いものと見なし、近付きたがらなかったが、マルヴィナの人間らしからぬ気配と、
瞳の奥の強い光を見て、それを認め、遠慮容赦なくさまざまな知識と訓練を教え込んだのである。
かなり疲れたのだが、なんだか以前より様々な分野で強くなった・・・と思う。多分。
(・・・あー・・・眠い。すごく眠い)
だが、自分のためにセントシュタインでひたすら待ちに待つ三人のためにも、早く転職し、戻らなければならなかった。
舟をこぐ重い頭をぶんぶんと振り、半死人のような表情で神殿の階段をのぼり。神官たちに若干引かれ。
ようやく中に入った——マルヴィナを真っ先に見つけたのは、やはりあの[変人]であった。
「マルヴィナ——!」
最も聞きたくない声を聞いてしまい、
マルヴィナはげんなりという言葉も生ぬるいほどの感覚に陥る。ほぼ拒絶反応である。
もちろん、変態魔法戦士スカリオだった。
寝不足による不機嫌さを全く隠すことなく、マルヴィナはぎろり、と鋭い眼光でスカリオを睨む。
瞬時にスカリオの周りの空気が三度ほど下がった。ついでに彼の足も射すくめられて止まっている。
「何か用か。変人」
トゲだらけ、あるいは刃だらけの返答の後、スカリオは一丈(約3メートル)ほどの間隔をとる。
「えーと、何か用かい?」
「こっちの台詞だ。わたしは転職しに来たんだ」
あーなるほど、と納得しかけて気付く。
「魔法戦士から!?」
「当たり前だろう今魔法戦士なんだから」
「いやいやいやいやちょっと待ってよキミ[魔法戦士に]魅力を感じたからそうなったんでしょ!?」
[スカリオに]と言わなかったところは評価してやろう、と考えるマルヴィナ。
「パーティ的な問題だ。考えを改めるつもりはない」
返答を聞かず、マルヴィナはそのままふらふらと、・・・宿屋へ向かって歩いて行くのであった。
取り残されたスカリオは、相変わらず手厳しい、となぜかときめきつつ、マルヴィナの行先についてふと気づく。
「・・・あれ? 転職するんじゃないの?」
もちろんその呟きにはマルヴィナに届いてはいなかったが。