二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.471 )
- 日時: 2011/09/25 17:18
- 名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: Xn5/gwB3)
マルヴィナは同日、深夜になりかけたその頃に一度宿を出た。
もちろん、アイリスの言う『もう一人の同胞』——マラミアを探すためだ。
草原の民たちの習慣は規則正しいらしく、この時間に外をうろつくものなどはいない。
だから、人気のないこの場所でその人物を探すのは簡単だろうと思っていた、が、しばらく歩き回って探してみても、
一向に見つからないのである。
(・・・っかしいなぁ。確かに、ここのはずなのに・・・)
本当に、何者なのだろう。どうして、わたしのことを知っている?
でも、やはり——自分の存在の方が、分からない。
わたしは一体何なんだ?
考えるたびに、平静でいられなくなる。腕が震える。怯えているのだ。
今まで、滅多に怯えなかった自分が——最近、度々何かに恐怖を覚えている。
自分の存在が怖かった。自分は本当は天使ではないのかもしれない。アイリスと同じ種類なのかもしれない、否、
もしかしたら、魔物であるかもしれないのだ。自分が幾度も葬ってきたものの、仲間かもしれない。
もし、そうだったら。そうだったとき、わたしは——・・・
「・・・・・・・・・・・・は」
自嘲気味に、短く笑い飛ばした。
そんなはずがない。もしそうだったら、世の中から邪悪とされているものの気配を
こんなに敏感に感じ取れるはずがないじゃないか。
・・・そう、もしそうなら、真っ先に自分の邪悪に気付くだろう?
何を怯えているんだ。わたしはわたしじゃないか。
(・・・疲れているな。相当)
弱気でいるわけにはいかない。マルヴィナはかぶりを振る。目的は明日に回し、宿へ戻ろうと、踵を返しかけた
その時、
「————————————————————————っ!!?」
後ろから突如現れた気配に、口を塞がれた。
(・・・・・・・・・っ、く、あぁっ!?)
触れられるだけで、激しい脱力感に襲われる。
(ま・・・魔物かっ・・・!?)
振りほどこうにも、身体が消耗しかかって、思うように力が入らない。必死に、後ろのその正体を探る。
が、先に、その声によって、正体を知らされる。
「ほほ・・・そんなに抵抗するでない。ちと、尋ねたいことがあっての」
高飛車な口調、艶っぽい声色。魔物じゃない。シャルマナだ。マルヴィナは目つきを険しくし、必死に睨みつける。
「大声を出さないことじゃ。・・・わらわとて、考えがあるからの」
シャルマナの標的がマルヴィナか、あるいは仲間たちに向かっていることが、その口調から分かった。
口を塞いでいた手が、マルヴィナの首を絞める格好になる。悔しかったが、言うことに従った。
「・・・そなた、黄金の果実を求め、この地に参ったと言うたな。それは何故じゃ?」
「・・・・・・・っ」マルヴィナは唇をかみしめ、努めて冷静に答える。「・・・大事なものだからだ」
首にかかる力が増した。マルヴィナは声を上げず喘ぐ。
「問いの意味を理解しておらぬのか?
そんな答えを欲しているのではない・・・まだ何か、隠されし秘密があるのであろう」
やはりそうだ、と思った。シャルマナは、女神の果実の情報を欲している!
マルヴィナは薄れゆく意識の中で、必死に考えを巡らせた。
「その果実を探さねばならぬ理由はなんじゃ?」
なるべく情報を漏らさず、諦めさせるだけの納得できる情報。それは、一つしかなかった。
「・・・・・あれは」
マルヴィナは潰れかけた声で言う。
「・・・[手にした者の]身体を、破壊する」
シャルマナの腕の力が、若干緩いだ。
「己の欲望と邪悪に蝕まれ・・・全てを意思から離してしまうもの」
間違いではなかった。実際、果実を喰らったものは、皆そうなってきたのだ。
だが、それを知らない者にとっては、脅しの台詞としては大いに有効だった。
呆けたようにシャルマナの動きが止まる。今なら抜け出せそうだった。だが、マルヴィナは、
もう既に意識が無くなり始めていた。ほとんど足に力が入っていない。
と、急にその腕が離れる。マルヴィナはそれと同時に、前のめりに倒れた。視界がぼやけている。
まずい。
今、気を失うわけには、 いか な ———・・・
目の前が、暗くなる。
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.472 )
- 日時: 2011/10/11 21:31
- 名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: Xn5/gwB3)
キルガが戻ってきた。
「・・・どうだったんだ?」
セリアスが尋ねる。
「あぁ、気を失っているみたいだ。シェナが言うには・・・魔法的な力で、強制的に」
「そっか」
セリアスは溜め息をついた。
昨夜、例によって寝つけなかったキルガは、いつものように外の空気を吸いに外へ出たのだった。
そこで驚いたのは、その目の前に、無造作に置いて行かれたように倒れているマルヴィナがいたことだった。
ますます目が覚めてしまったキルガは、容体を確認し、宿へ運んだのであった。
「お姫様抱っこでもしたの?」
「なッ!!?」
朝、その話をしたシェナにはそう言われたが。
とりあえずマルヴィナをシェナに任せ、彼らは出発を後らせた。
もとから今回の依頼は気の進むものではなかったし、全員一致の意見の結果であった。
そして、セリアスに様子を報告しに戻ってきた——それが今の状況である。
「何かマルヴィナって、狙われやすいよなぁ」
セリアスがぽつんと言う。「人間にも、魔物にもさ」
「今回は意図的にマルヴィナを狙ったものだろう」キルガも言う。「・・・あまり歓迎されていないようだ」
「・・・悔しいか?」
セリアスは静かに、そう言った。
キルガは訝しげにそちらを向く。
「好きな奴が、何度も危険な目にあわされている・・・悔しいか?」
「・・・・・・」
キルガは黙りこむ。数秒考えて——答える。
「悔しくはない」
目線を上げて、もう一言。
「——許せない」
セリアスはその反応を聴いて、安心したように笑う。
「・・・でも、この感情は、マルヴィナだけじゃない。誰であっても、許せなかっただろう」
「・・・よし」
満足げに頷くセリアスを見て、試されたのだろうかと、少しだけ首を傾げた。
「・・・でさ、キルガ」
「ん?」
「いつ告るんだ?」
いきなりさらりと言われた言葉に、ついキルガは吹き出してしまった。
「なな、何をいきなり——」
「いつなんだ?」
冗談を——そう続けようとした言葉は、セリアスの再びのその言葉に遮られる。気付いた。冗談ではない。
背を向けられてよくは分からないが、表情は茶化してはいないだろう。真剣に、真面目に言っているのだ。
「・・・い、いつって」
重い沈黙が辺りを支配する。答えは出てこなかった。
あまりにも長すぎたので、セリアスは長いため息をひとつつくと、口を開いた。
「・・・いつまでも待ってくれると思うなよ。今のままじゃ、マルヴィナ、どんどん遠ざかっていっちまうぜ?」
「・・・ちょっと待て。何でセリアスまで同じことを言う!?」
「ん?」
セリアスはまさかのそんな反応に振り返った。目が「何のことだ?」と言っている。
「スカリオと大体同じことを言っている・・・」 (>>255参照)
「はぁ!? 俺があの変態野郎と!?」
最初は思いきり嫌そうな顔をしたセリアスだが、しばらくして、まぁ、仕方ないかと、再び溜め息をついた。
「言われても仕方ないことだしな」
どうやら原因がやはりキルガにあるかららしい。
「・・・確かに俺だって、今すぐ言って来いなんて言えないけどさ。・・・お前、早く想っていること
伝えなきゃ、マルヴィナはどんどん違う方向を見て行っちまう。あいつは、そう言う奴だ」
キルガは黙った。今度は、本当に悔しかった。
・・・マルヴィナが好き。その気持ちは、本物だ。嘘も偽りもない、どんなことを言われようが変わらない想い。
だが——[それだけ]のような気がしてならないのだ。
僕は、マルヴィナの、何を知っている?
スカリオからも、セリアスからも言われた。キルガの気付いていなかった、マルヴィナの性格。
知らなかったこと、だが、傍から見れば分かりやすいこと——それに気付けない自分。
何故気付けない?
何故分からない?
彼女のことを知らなさすぎているのに、好きになって良いのだろうか。
「———————————————————・・・」
分からない。
人の感情には、鋭い方だと思う。けれど——自分の感情は、何一つ分からない。
そんなのでいいのだろうか。
このままで、いいのだろうか——
「ふたりともっ!!」
いきなり、幕がばさりと音を立ててあがる。驚いてそこを見ると、なんと起き上がったマルヴィナが立っていた。
後ろにシェナもいる。どこか呆れたような、安心したような、微妙な表情で。
「ま、マルヴィナ。大丈夫なのか!?」
「問題ない、心配感謝する! それより、」
あまり感謝していないような口調できっぱり言い切る。どうやら用事の方が格段に重要らしい。
「時間がない。わたしが無駄にしてしまったんだ、取り返さないといけない。今すぐナムジンのところへ行く!」
今すぐ、の言葉に二人は同時に硬直する。
「・・・ちょっと待て、なんでそんなに」
「待てない。・・・あぁあ、もう結論から言う。わたしたちはハメられたんだ、今すぐここを出てナムジンを追う!」
今度はシェナまでも硬直した。が、わけが分からないなりにも、三人は急ぎ出立の準備を始めた。
「嫌な予感がするんだ」マルヴィナはうずうずしながら言う。どうやら本当に回復しているらしい。
「気にかけすぎてるだけじゃないの?」シェナは言うが。
「わたしの嫌な予感が外れたことがあるかっ?」
「・・・・・・・ないわね。いいわ、行きながらちゃんと話してよね」
分かっている。言い切るマルヴィナの、決意するような横顔を見てから、キルガはそっと目を伏せた。