二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.475 )
日時: 2011/11/06 18:45
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: EetYfsjv)

「ずっとあんな調子だべ」
 従者の一人が、そう呟いた。
「あれじゃあ、いつまで経っても終わんねえだ。何としてでも魔物退治に行ってもらわにゃ」
 そろって頷く——が、結局何もできず、遠くにいるナムジンから目をそらした。


 ナムジンは一人、頭を抱え震えていた——

 と見せかけて、険しい目で考え事をしていた。
(・・・どうする・・・予定が狂った。あの旅人らも、余計なことをしてくれる。・・・このままでは、
準備も満たぬまま、あの魔物を討伐することに・・・!)
 ナムジンは聞こえぬよう溜め息をつき、そして立ち上がった。再び、従者の目がナムジンに向く。
「・・・・・・・・」
 だが、あえて何も言わず、ナムジンは外へ出た。
そして、訝しんだ従者が追って外に出てくる前に、死角になる位置に身をひそめた。
 静かになると、ナムジンは、そっとその地を離れた。
そして、まっすぐ北へ向かう——。






「あいつかよっ」
 マルヴィナの昨夜の説明に真っ先に反応したのはセリアスだった。
「やっぱあいつ、怪しいんじゃないのか!?」
「見た目通りだと思うけれど。・・・で、果実のことについて・・・訊いてきた」
 一瞬の間をおいてから、今度はシェナが発言する。
「・・・果実の情報を欲しているってこと? となると・・・奴も手にしたがっている一人?」
「あるいは」口を挟んだのは、キルガ。「・・・既に喰らっているか」
 マルヴィナは頷いた。
「おそらくはね。キルガと同意見だ」
 ちくしょう、やっぱりあったんじゃねぇか——言おうとして、セリアスはふと気づく。
「・・・ん? じゃあちょっと待てよ。・・・え? あれ? ・・・何がどうなってんだ?」
 混乱し始めたが。
「・・・えっとつまり」キルガは軽く考えてから、短く言った。

「今回の黒幕は、あのマンドリルではなくシャルマナではないか——そういうことだよ」

 あぁなるほど——言いかけ、再び言葉を飲み込む。
「マジかよっ!?」
「気付いていなかったんかい!!」
 マルヴィナの即座のツッコミ。なんだかいいコンビネーションだった。
「まぁ、何しに草原に居座っているのかは知らないけれど——おそらくあのマンドリルを狙う理由は、
マンドリルが自分の正体に気付いているのが分かっているからだと思う」
「あー・・・なるほどな。魔同士だから、気付けるってわけか」
 その言葉に、マルヴィナは一瞬だけピクリと反応してから——平静を取り戻し、頷く。
「で」
 話に区切りができた為、その合間を縫ってシェナが再び発言。
「話してくれない? 朝の——『ハメられた』の意味を」
 マルヴィナは三秒ほど目をしばたたかせてから、あぁ、そういえば、という。忘れていたの? と言う視線を送るシェナ。
適当に受け流し、マルヴィナは多分、という。

「わたしたちに邪魔をさせないためだと思う」


 マルヴィナの推測が、静かに伝えられてゆく。

















                Chess))え、ここで終わり!? ・・・はい、ここです。あえてまだ推測は公開しません。

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.476 )
日時: 2011/11/06 22:40
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: EetYfsjv)

 ナムジンは、北の橋を渡ったところで、身体を西に向けた。
歩き慣れた庭のように、平然と進む彼の姿は、どう見ても昨日魔物一匹に怯え震えていた彼と一致しなかった。
よく見れば、右手は、腰に吊るした短刀の近くにあり、いつでも抜けるようになっているのだ。
 が、[そこ]へ着くまでに、短刀を抜くことも、使うこともなかった。

 ——そこは、木の葉や茂みによって巧みに隠された小さな洞穴だった。

 見通しの悪いそこでも、躊躇うことなく、枝をかき分け、ナムジンは進む——そして、中に入る。
そして、そこにいた茶色の生物に——

「きたよ、ポギー」

 あの、マンドリルに、話しかけた。




「あんなやり方では、先にお前が殺されてしまう」
 ナムジンはマンドリルに近付き、そう言った。
「命を粗末にするな。お前が死んでは、母上も悲しむ」
 右を見上げる。そこにある、大きく美しい石碑——ナムジンの亡き母パルの眠る墓を、哀しそうに。
おそらくは伝わったのだろう、マンドリルはうなだれるようにひと声鳴く。
が、その瞬間、何かを感じ取ってか、顔をいきなりあげた。
ナムジンもまた、はっとし、洞穴の入り口を見て——絶句した。


「・・・それがあんたの本性か」


 そう、感情の読み取りにくい声で言ったのは、昨日の、あの旅人の内の一人だった。黒髪——否、闇の色か。
信用しにくい色を伴っていることだ。今ふっと、そう思った。
 言わずと知れた、マルヴィナである。

「・・・まさか、こんなところまで来るなんて・・・あなたは一体何者なんだ?」
「奇遇だな。わたしもあんたにそれが聞きたい。目的は大体見当がついているからいいとして、
何故そんな臆病者のふりをしているかが——」
 言い終わらぬうちに、ナムジンは動いた。走り様に短刀を抜き放ち、マルヴィナの首筋を狙う。
だがマルヴィナは、慌てず騒がず、右膝を曲げ足を壁に付けると、ナムジンとの距離が
二の腕ほどとなったその一瞬で強く壁を蹴り、それをかわす。マルヴィナは剣を抜かなかった。
そのまま半回転し、ナムジンとの間合いを詰め、そのまま彼の右腕の窪んだあたりを強く叩いた。
「っ!」
 そこを突かれた時、腕から手にかけて痺れたような感覚に襲われる。
寸分違わず決められ、ナムジンの短刀が音を立てて落ちた。
「くっ・・・」
 悪態をつきかけて、止める。「・・・何が目的だ」静かに、尋ねる。
「そうだな。強いて言うなら——あんたの手伝い、かな」
「冗談はやめてくれ」ナムジンは嘲るように笑った。
「何を理解して、そう言っているのかは知らないが、僕は僕一人で目的を果たす」
「勇ましいな。それでよく、あんな演技ができるもので・・・まぁ、それも、薄々シャルマナには感づかれているみたいだが?」
 ナムジンの目つきが変わった。「・・・シャルマナが? 何故・・・」
「あんたが自分の命を狙っていることに、気付き始めたんじゃないか?」
 ナムジンは口を噤む。警戒するようにマルヴィナを見つめ——言う。
「・・・あなたは一体どこまで知っているんだ?」
「何も」即答する。「推測ならかなり立てたてたけれど、全て根拠がない。・・・[誰か]から聞かない限りね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」間違いなく今の[誰か]はナムジンだろう。信じていいものか否か。
ナムジンはそっと考え——気付く。

 マンドリル、名をポギーという彼が、警戒していないのだ。
彼女の霊気を、彼女の存在を。むしろ、歓迎しているようにも見えなくはない。
魔に鋭い、人外の力——・・・。
信じるポギーが、信じる者。


「・・・・・・・信じて・・・いいんだな」
 ナムジンは小さく言う。
マルヴィナもまた、小さく笑い——言った。








「当然」





 と。

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.477 )
日時: 2011/11/07 21:30
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: EetYfsjv)

 マルヴィナは壁に背をつけ、改めて自己紹介をした。
「わたしはマルヴィナ、とある果実を探してこの地にやってきた然闘士だ」
「・・・改めて。カルバドの族長ラボルチュの息子ナムジン」
 マルヴィナは右手をすっと前に出す。ナムジンは戸惑い、躊躇いつつもその手を握り返した。
「・・・さて。どっちから、どこから話そうか」
「その前に・・・君には仲間がいたはずだろう。彼らは一体どうしたんだ?」
 言った後、返答は穴の外からくる。
「はいはーい。ここにいるぞー」
 ちなみに、セリアスであった。
「・・・はい?」
「まー、この穴は小さすぎて、入れそうなのはわたしとシェナくらいしかいなかったんだ。で、わたしだけが入った」
 あっさりというマルヴィナに、ナムジンは閉口した。全く知らなかった。
質問の答えがすぐ返ってきたということは、このやり取りは彼らにもしっかり聞かれていたのだろう。
当然、ナムジンがマルヴィナを狙ったことも——が、彼らは落ち着きを乱すことなく、気配を消し続けたままだった。
彼女が無事であることが、分かっているから——だとしたら、なんという信頼感だろう。
 ・・・そう言うこともあるのだな。ナムジンは、そっとそう思った。
「・・・大した信頼感だな」
「ありがと。・・・あんたたちも、そんな風に見えるけれど?」
 ポギーのことである。ナムジンは笑って、傍らにしゃがみ込んだ。
「・・・こいつは、母上が見つけたんだ」
 マルヴィナが奥の墓を見る。

   “愛しの母上此処に眠る。
       その気高き魂は草原を流れる風とならん”

「・・・元から病弱なひとだった。けれど——本当に、強い、強いひとだったんだ。
・・・こいつを見つけて・・・ここで育てた。僕の大切な友達だ」
「なるほどね。だから・・・気付けたのか。シャルマナの邪まに」
 ナムジンは頷く。
「あいつを討つべく——僕らは、いや・・・ポギーは、草原に現れたんです。けれど、あいつの術は、恐ろしく強かった」
 初めて実行したのは、シャルマナが一人でいた時だった。が、シャルマナはポギーに気付き、
いつもその手にしている杖を向け、ポギーにしばらく動けなくなるほどまでの傷を負わせたのである。
「ようやく最近その傷が治り、僕は作戦をたてなおしたんだ。僕は臆病者のふりをして、
奴の警戒心を解こうとしていた。・・・これが、理由だよ」
 満足したように、マルヴィナは頷いた。
「じゃぁ、私の番だな。・・・実はわたしは、昨日、シャルマナに襲われた」
 ナムジンが一瞬目を見開く。
「まぁ、理由は二つあったんだが・・・その内の一つは、わたしに睡眠薬を嗅がせ、
あんたを追っての出立を遅らせるためだったと想像している」
 おかげで気分は最悪だったよ、と溜め息を吐く。
「・・・何が言いたい?」
「さきにも言ったけれど」マルヴィナは続ける。「おそらく、あんたを殺すためじゃないか?」


 ナムジンが自分を疑っていることに気付いたシャルマナは、本性がばれる前に、魔物討伐を良い盾に、
ナムジンを亡き者にしてしまおうと考えたのではないか。
おそらく、それは前夜、咄嗟に思いついたものに違いない。詰めが甘いのが、そう考える理由である。
そして、わりと戦闘能力のある旅人たち四人が彼のそばにくっついていては邪魔となってしまうだけである。
 見れば、旅人は、今回の依頼にあまり乗り気ではない様子。誰かが足止めすれば、きっと出立を遅らせるであろう。


「——ってーなことを、考えたんじゃないかと。まぁ、全体的に詰めが甘かったから幸いにして
こうやって再会できたわけだけれど」
「今のは・・・本当に想像か?」
 呆気にとられたようなナムジンを見て、それにマルヴィナは少し哀しげに笑った。
「わたしもそう思う。想像したことにしては、詳しすぎるって。・・・最近、わたし自身が、妙なんだ。
・・・わたしのことが、分からなくなるほどに。・・・でも、わりと想像しやすいことだろ?」
「言われなければ分からなかったと思う」ナムジンは溜め息をつく。
「よくは分からないが・・・たしかに、しっくりとくる推測だ。となると——こちらもはやめに
手を講じなければならないな」
「で、本題」マルヴィナはそこで、さっぱりとした表情に戻り、言う。
「わたしらに手伝わせてほしい。奴を討つ、その計画を」
 関係ない人に手伝わせられない——と、また言いかける。あぁ、そうだった。思い直す。先ほど、自分は
彼女を信じたばかりだった。・・・そう言えば、長いこと忘れていたような気がする——[人間]を、信じることを。




「・・・もう一度聞く。信じていいな?」
「もう一度言う。・・・当然」
 便乗して、マルヴィナはからかうように、だが真剣に言った。
 ナムジンは頷いた。
「手伝ってほしい」