二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.484 )
日時: 2011/11/28 21:59
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: EetYfsjv)

      3.


 同日、夜のこと。
いつもなら寝支度を始める遊牧民たちも、皆外に出、宴に酔いしれていた。
広場の中央で赤々と炎が燃えている。キャンプファイアー、というものを、マルヴィナたちは初めて見た。
族長の立ち位置にいるのは、ラボルチュではなく、ナムジンであった。
あの一戦後、ラボルチュは何の未練も躊躇いもなく、族長の座を降り、息子に譲ったのである。
未熟だと思っていた息子が、自分を超えるほどに成長していた。

“—父親なら、もっとナムジンのことを見てあげるといいよ。理解してやるんじゃなくてね—”

 マルヴィナが言い残した言葉の意味が、ようやく分かった。
・・・心残りを、あえて言うなら、息子の成長に気付けなかったということだろう。




「そーいやさマルヴィナ」
 食用肉にかぶりつきながら、セリアスが言う。
「ん?」一方草原の老婆の秘伝の草の茶、という長ったらしい名前(?)のそれを飲みかけていたマルヴィナは、
目だけでセリアスに反応した。
「この前、ここにガナン帝」
 国の気配を感じたって言ってたろ——という残りの長い文章を言いかけたところで、マルヴィナが勢いよく立ちあがった。
「しまっ、忘れていたっ・・・! あぁまずい、逃げられたッ!!」
 いきなり叫んだマルヴィナに、周囲の人々が視線を送る。セリアスがあわて立ち上がり、
スンマセン、なんでもないですと謝っておく。
そして、声を潜められるように、なるべく顔をマルヴィナに近づけて
(キルガの視線を思わず探してしまった)話を続けた。
「逃げられたって・・・マジかよ、それ」
「気配を感じないんだ、しまった、すっかり忘れていた・・・! さっきの戦闘中には、少しだけ感じ取ったんだ、
けれど今は全くない。おそらく、住民のふりをしていた密偵だ・・・!」
「・・・ちくしょう、マジかよ・・・」不覚だった、とセリアスは頭をおさえる。
「・・・仕方ない。過ぎちまったことだ。・・・けれど、これから警戒した方がいいかもな」
「ごめん」
「謝るな、マルヴィナ一人のせいじゃない」
 ぽん、と肩を叩く。マルヴィナはうなだれつつも頷いた。
さて、そろそろシェナの様子を見に行くか・・・と踵を返した時、何故か不意にキルガとばっちり目が合ってしまった。
いや別に、キルガも意味があって見ていたわけではなく、むしろこちらも不意に視線を上げたところで
こんな状況になった、というわけだったのだが、当然それを知らないセリアスは大いに慌てた。
(いやいやいやいやいやそうじゃなくてって言うかなんでお前そんな遠くにいるんだよ!?)
 もちろんその考えもキルガに届くことはなかったのだが。




 マルヴィナは頃合を見計らって、その場を離れ、民たちの死角となるような、ひっそりしたところへ足を運んだ。
えーっと・・・と小さく呟きながら辺りを見渡すと、捜していた“人物”から声をかけられた。


『おー、やっと来たなマルヴィナ。待ちくたびれた』


 それは、かすれ気味の、辛うじて女のものである声——薄紫の眸、灼熱の長髪、アイリスの同胞マラミアである。
「あ、ようやく来た」マルヴィナは目をしばたたかせ、言う。
『コラ。どっちの台詞だ。待ってたのはこっちだっつーの』
「えぇ? だってこっちは数日前に」
『アホ、ここでの用事が解決していないうちにノコノコ出てくるか。——って、そんなことはどっちゃでもいい』
 ノリというかテンポというか、そのいずれかの良い言葉を言い、マラミアは頭を振って髪をバサつかせた。
紅い髪、薄紫の少々つり気味の目——違和感を感じていたのだが、そういえば、セリアスに似ている。
別にセリアスはつり目ではないが、それ以外はほとんど似ているのである。
だが、その訝しげな視線に気付きながらもマラミアは無視し、話しはじめる。
『えーと、なんだっけ・・・そう。“未世界”のことについてだったな』
「ちょまっ、待った、わたしそもそも、あんた達が何者なのか、聴いていないんだけれど」
『あー急かすな。今から話してやる』
 マラミアは髪をわしゃわしゃとかき乱し、少しだけ目を開けた。

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.485 )
日時: 2011/11/29 21:00
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: EetYfsjv)

 マラミアはまず、自分たちのことから話しはじめた。
 自分の正体——それは、“霊”ではない。そもそも、人間の世界に、実在していた者たちではないのだ。
種類の名はない。あえて、“不人間”とでも言っておこうか、とマラミアは話した。
住まう地は、先程ちらりとその名を出した“未世界—実はこれも仮名である—”。
 未世界とは、人の形をしていながら人になれなかった者=不人間、
実在はしていたが強すぎる後悔、未練を残した者=霊  の二つの種類が集う場所だという。

『何でそんな世界があるんだとかは聞くなよ。何で人間界とか天使界があるんだって聞くようなもんだから』
 マラミアはそう言って、余計な質問を回避した。
『まぁ、いろいろややこしい世界だからその辺の説明は必要な時にだな』
 既に十分ややこしいわ、と言いかけてマルヴィナは一応黙ったままを保った。
『で。・・・どうやら今の世、その“未世界”から“霊”を蘇らせるほどの力を持っている奴がいるらしい』
「はぁ!?」マルヴィナはつい大声を出し、急いで口を塞ぐ。マラミアのジト目に、ゴメン、と頭を下げて謝る。
「え、じゃあマラミアも」
『誰が呼び捨てで良いっつった!? ・・・しかも、アタシは“不人間”だって』
 やはり混乱するマルヴィナに、マラミアはやっぱ説明難しいわ、と溜め息をつき、説明再開。

 “霊”が蘇るというのは、実体として再びこの世に存在すること。
 “不人間”がこの世に出てくることは束の間の“顕現”であり、時間が限られていること。
『“不人間”系統を呼び出すのは、修業を積んだ奴ならまぁ難しいことじゃあないんだ。ほら、例えばあんたも今日、
あの二匹の狼呼び出したろ? ・・・あいつらも、“不人間”だよ。なんかおかしいけどな』
 数秒沈黙。「・・・えぇっ!? あの二匹が!?」
『そ。それとか、ほら、占い師とか召喚士とかいるだろ? あいつらが呼び出すのも、“不人間”だ』
「あ・・・そういうことなんだ。幽霊呼び出しているわけじゃないんだ」
『そう勘違いされてっけどな。・・・でも、“霊”は違う。一度消えた魂を再び戻すってのは、
とんでもない力が必要なんだ。だから、よく言われるだろ? たとえ蘇生の呪文を身につけたとしても油断するな、
命が完全に消えるまでに呼び戻せと——完全に消去される前なら、蘇らせることが出来る奴もいる』
 マルヴィナはその言葉を聞いたことがなかったが、おそらく賢者であるシェナは聞いたことがあるのだろう。
『しかも、その蘇生ができるって奴は——』マラミアは話を戻し、そして一度切る。少し溜めてから、言った。

『・・・どうやらガナンの中にいるらしい』

 マルヴィナの眼が開く。マラミアが出会ってから一番厳しい表情を作る。沈黙が、続いた。
 が、その重苦しい空気を払うように、いきなりマラミアは『・・・ま』と気の抜けた声を出した。
「はい?」
『ちょっくらそろそろ時間がまずいんでね。このほかに聞きたいことがあったらエルシオン学院にいるマイに聞いてみ』
「は? マイ?」
『そ。・・・あぁ、本名はマイレナな。へへっ、アタシら、こんな感じの愛称持ってんだ。マイレナはマイだし、
アイリスはアイだし。アタシはマミ』
「・・・マラミアだけ滅茶苦茶わかりにくいね」
『余計じゃ』
「・・・で? あと一人は?」
 マルヴィナの質問に、マラミアは固まる。
「イヤ『ん?』って顔しないでよ。わたしの記憶の先祖とやらだよ」
『あー・・・』マラミアは答えを濁す。『ま、とにかく、一応エルシオンはここから東な』
「無視かい」
『アイツは賢者だったんだ、少なくともアタシらん中で一番頭がいい。いろいろ教えてくれるだろうさ』
 要するに、マイレナという人物に聞けと言うらしい。
 賢者・・・その言葉に、再びシェナを思い浮かべる。ガナン。シェナ。つながり——?
「あのさ。えっと、シェナってわかる?」
『あー? あぁ、分かるけど』
「話が早いな。・・・あのさ、シェナ、ガナン絡みとなると、いつも何かに怯えたような感じになるんだ。
・・・何か、知らない?」
 知るわけないか。聞いている途中に、思った。だが、マラミアの眼が一瞬、
本当に一瞬だけ険しくなったのを、マルヴィナは見た。
 ——知っている?
『あー・・・うん。そりゃ、仕方ないわ』
 そして、言いづらそうに、その言葉から始める。
そして。


『その娘昔、ガナン帝国に捕まってたことがあるようだな。だからだろ』


 先ほどより長い沈黙が落ちた。
「え」
 マルヴィナは一言呟き——
「ええええぇぇぇぇえええっ!?」
 そして、思わず叫んだ。
『わっ、バカっ』マラミアは焦り、そして、自分を見てさらに焦った。顕現時間がもう終了するのだ。
『と、とにかく、いいか、その話、絶対誰にも話すな、本人にもだ!
もし話した時、お前の魂消滅させることになるからなっ!? とにかく次はマイに会』
 マラミアの話途中で、声は途切れた。


 宴の続く集落の片隅で、マルヴィナはしばらくの間ずっと立ち尽くした。







 とんでもない過去を秘めていた、仲間を想いながら。













        Chess))しまった、明らかに1と2と3のバランスがおかしい。