二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.487 )
- 日時: 2011/11/29 23:53
- 名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: EetYfsjv)
「あと一つ、か——」
セリアスが腕や背を十分に伸ばしながら言った。
ダーマ神殿、ツォの浜、カラコタの橋、サンマロウ、グビアナ砂漠、カルバドの草原。
そして今、導かれるままに、次の地へと赴こうとしている。そこに、果実はあるだろうか。
期待と不安が入り混じるとは、まさにこのことである。
「エルシオン学院? 有名な学校ね。文武ともに鍛えられるっていう・・・
何、マラミアって人が言ったの? そこへ行けって」
「う、うん・・・」
「・・・どうしたのマルヴィナ。調子悪いの?」
「え」マルヴィナはシェナの視線を受けかけ——そらす。ううん、大丈夫、と呟くように言った。
カルバドの集落を後にした彼らは、次なる地エルシオンに向けて船を出した。
セリアスはいつもの通り舵を切り、マルヴィナは魔物の姿が見えた時以外はのんびりモード、
シェナは多量の魔力使用による気絶の後遺症(?)がすっかり消え、
そしてキルガは例によって調子が悪いのだが、寝ているとサンディがわぁきゃあうるさい、ということを学んだので
今日は初めから外に出て潮風に当たっていた。
マルヴィナはそっと目を伏せる。まともに、シェナを見ていられなかったから。
まさか、ガナンに捕まっていたことがあったなんて——道理で、過剰な反応を見せてしまうわけだ。
けれど——
“—その話、絶対誰にも話すな、本人にもだ! もし話した時、お前の魂消滅させることになるからなっ!?—”
・・・先日の戦いでマルヴィナが呼び出した二匹の狼は、実際にこの世のものに傷をつけた。
実体がないと言えど、ものに触れることができる——ややこしすぎる。だが、事実であるのだ。
つまり・・・マラミアの行ったこと——マルヴィナの魂を消滅させる、即ち殺めることは、可能。
・・・物騒なひと。
マルヴィナは、そっとそう思った。
「で——何、まだ聞きたいことがあったの?」
「うん、まだ、教えてもらっていないことだらけでね。まず“記憶の先祖”とやらの正体も名前も聞いていないし、
正直、何かこんがらかってきてさ。だから」
「ふぅん・・・」
シェナが頷く。そして、会話が切れたのを境に、一度大きく伸び、そのまま柱に背を預けて座った。
「いい天気ね、今日も」
「そうだね。・・・確かにこれだけの快晴だったら、外にいた方が酔わないだろうね」
マルヴィナはキルガを見て、言った。最近誰も髪を切っていないせいで、キルガの髪も少し長くなってきている。
周りの女性曰く、それがいいらしいのだが、やはりまだマルヴィナはそういうことに関しては鈍感だった。
「キルガも、いろいろ変わったよねぇ」シェナが呟く。
「なんていうか、何かを超えたような・・・成長とか、そういうのじゃなくて。
どことなく、そんな感じがするわね」
「確かにね」マルヴィナは頷く。「顔つきが、変わったと思う」
「あぁ、いえてる。・・・それにしても様になるわね・・・容姿が良いやつには風が似合うってのは本当ね」
「毎回思うんだけれど、それ、誰の言葉?」
「ん? 毎回即興」
「じゃあ『本当ね』とか『〜とは言うものだ』とか人に聞いたような言い方を止めてくれ・・・ややこしい」
いいのいいの、と手を振ってシェナは笑った。
なんとなく噂されている気がしたので、キルガは遂に怪訝そうな視線を送ってくる。
二人は肩をすくめ、そちらへ向かった。
「調子は?」
とりあえず、最初にそう聞いておく。
「・・・前よりはずっと良いと思う」
「でしょうね」マルヴィナではなく、シェナが笑って答えた。
バサつく髪を掬うように抑えつつ(シェナが決まりすぎでしょ、と半眼になっていた)、キルガは
ところで、次の場所にも誰かがいるのか、と問うてくる。
「うん、いる。マイレナって人で——そう、シェナと同じ、賢者だったらしい」
「——へっ?」シェナが素っ頓狂な声を上げる。いきなりの指名に驚いたのかと思ったが、違った。
「・・・私」
しばらく悩んで、考えてから——やっぱり、と確信を持ったような口調で、シェナはいきなり言った。
「私、その人のこと、知ってる——」
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.488 )
- 日時: 2012/08/10 13:22
- 名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: FDRArTRL)
数秒の沈黙の後、マルヴィナが、神妙この上ない顔つきでシェナの肩を叩いた。
「・・・前から何度も言っているし、」
「うん」
「前から何回も思っていたんだが、」
「うん」
「シェナ、・・・・・・・・・・・・・・・・あんたいったい何者?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」黙ってから、シェナは何とも微妙な笑顔をつくった。
「うーん・・・今回は、“賢者”かな?」
意外とまともな答えが返ってきたので、マルヴィナは頓狂な声を上げてから手を放す。
「結構有名なひとなのよ。たしか、本名はマイレナ・ローリアス・ナイン。初めは、彼女は僧侶だったの。
とある有名な世界に認められる団の一員だったみたい。で、治療の魔力を十分に身に着けて、しばらくして賢者となって——
最終的に、史上最強とまで言われる呪文を手懐けた、賢者の中の賢者よ」
恐ろしくさらりと説明してしまったシェナに、やっぱ何モンだこいつ、という半眼を送るふたり。
「そんな顔しないでよ。賢者の中じゃ常識でもあるんだから。・・・ほら、多分、称号なら、
この世界の冒険者も知っているかもよ?」
「そなのか?」
「ちなみに?」
マルヴィナ、キルガと言い、シェナはえーと、と呟いてから、言った。
「確か——“賢人猊下”」
過剰に反応したのは、マルヴィナだった。
「賢人猊下!?」
あぁ、やっぱり知ってる? ——と言いかけて、表情が驚愕以外の何かを秘めていることに気付き、言葉に詰まる。
「・・・どうしたの?」
「だ、ダーマ神殿で、聞いたことがある。ほら、名前知らないけれど、武闘家の人がいたろ。
彼に、聞いたんだ・・・伝説とまで言われた、その女戦士の名前」
「伝説・・・」キルガが言う。「なんだかその言葉も生ぬるく聞こえるほど凄そうだな、そのマイレナって人は」
「そうね。まず、究極呪文を覚えるまでが大変だわ。・・・究極呪文マダンテは、太古の昔の大賢者が編み出した
聖とも邪ともつかない魔法。でも、その前に、二つの魔法を取得しなければならないの」
一つは、聖——空爆呪文系統最大の魔法、 極爆破呪文_イオグランデ_ 。
もう一つは、邪——闇呪文系統最大の魔法、 絶闇呪文_ドルマドン_ 。
有能な賢者となると、ある日突然、とんでもない高熱を出すらしい。それが、その二つの内、
どちらかを身に着ける合図——自分の中に闇が多ければ、取得するのは絶闇呪文。光ならば、極爆破呪文。
「呪文で自分の評価がされるってことか・・・恐ろしいな」
「そうね。でも、もう一つの魔法を取得するにはどうすればいいのか、それはあまり知られていないの。
そもそも、一つを身に付けられても、二つ目は無理だ、って人が多いしね」
何で? と問い返す。シェナはだって、と肩をすくめた。
「自分が光の存在だ・・・って証明してもらったとしたら、大抵、もう一つの呪文を覚えるために
邪悪になろうとする人なんて、そうそういないでしょ? 逆に、闇だって証明されたら・・・
まぁ、大抵は、落ち込んで、そのまま引きずってっちゃうでしょうし」
「あー・・・」マルヴィナは曖昧に答えた。
「まぁ、後者は、人間にはありがちだな。・・・シェナはまだ覚えないのか?」
カルバドの地で、シェナはその二つの一歩手前の呪文を取得した。
となると、これはそろそろだという合図ではないのかと、キルガはそう言っているのだ。
だが、シェナは「まだまだ!」とどこか笑って言った。
「あんなのとはレベルが違いすぎるわよ。このうちのどっちかを覚えるだけでも大変なんだし、
まだ私じゃ無理ね。・・・それに」
一度切って——シェナは、少しだけ表情を暗くして、呟いた。
「・・・できれば、今のままがいいわ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・?」
マルヴィナとキルガは、顔を見合わせた。シェナのその一言に、何か言い表せない辛さを感じたので。
(そうか・・・てことは、マイレナは、“霊”なのか——)
賢人猊下——まさか、その名をここで聞くとは思わなかった。
そして、あれ? とつい呟く。
賢人猊下——その名を聴いて、思い浮かべられるもう一つの名——
——“蒼穹嚆矢”。
もう一人の、女戦士。
彼女は、一体——・・・?
潮風が、その時だけ、冷たく感じた。
【 Ⅹ 偽者 】 ——完。