二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.522 )
- 日時: 2012/08/07 23:18
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: bkovp2sD)
(・・・うん。こんなものかな)
時は少々戻る。
マルヴィナはある程度の情報を集めてから一つ肩の力を抜いた。
(・・・そろそろ、鍛錬かな)
実際に細剣を交えるなら、やはり相手にすべきはモザイオである。
だが、新参者がいきなり一番の強者と称されるモザイオと戦えさせてもらえるだろうか。
ある程度の実力者だろうと想像がついているであろう他の者も、まさか[とある別世界]で彼女が
一番——否、二番目の剣技を誇っているなどと気付くはずはない。
となると、別の者と戦い、実力を見せつけるべきか。それとも迅速に、挑発してその気にさせるか。いや、
早すぎると相手にもしてもらえないかもしれない。どうするべきか——
とさまざまな考えを巡らせている間に、鍛錬は始まる。
マルヴィナは考えるのをやめた。
最終的に、両方やるかと決めたのであった。
天使界二番目の実力派剣士は、凛とした表情で初戦に臨む。
そして、マルヴィナ見守り三人組。
・・・が、体育館兼講堂に着く手前——
「む?」
その出入り口に少々人だかりができている。
それに対し声を出し反応したのはセリアスだけだったが、無論無言の二人も軽く首を傾げる。
「なんだ・・・?」
問うても答えが返ってくるわけではないので、実際に近づく——そして、その意味は大して時間をかけず知らされる。
「む」
「おっ」
「あら」
三者それぞれ短い感嘆の声を上げる。
彼らの視線の先にいたのは——持ち前の剣技を披露するマルヴィナの姿であった。
『なかなかの実力者』ではない。『相当』——という言葉で表していいものか、それほどの実力者だ。
マルヴィナのことを、周りはそう認識し始めた。
こんな強い人がいたのか——そんな羨望と憧憬の目。
強い、と言うより、美しかった。まるで舞を踊っているように見えた。
それに魅了され、思わず周りも動きを止めていたのである。
「凄い」
ミチェルダが素直に目を見張り、
「・・・・・・・・・」
モザイオが憎々しげな表情をし、
「ほう」
剣教師ガザールは感嘆の声を上げる。
ちなみに、マルヴィナはまだ本気ではない。
『常に本気であれ』——師の教えである。
が、彼はマルヴィナの実力がさらに上がると、なかなか難しい言葉を教えてくれた。
『[本気にならないこと]に本気になれ』————
なんのこっちゃ、と首を傾げる。どうしてもわからなくてキルガにも何気なく尋ねたのだが、
彼もお手上げだったらしい。セリアスはなんとなくぼんやり分かったような、分かっていないような、
そんな感覚だけがあるらしい。
『本気になるべきところでないところで本気になると、無駄に体力を使うことになる』と言いたかったのだろうか?
なんとなく納得がいかないながら、とりあえず今はそうなるように『本気を出している』のだった。
鋭く、弾かれた音が鳴り響く。マルヴィナ、三度目の勝利。
彼女はここでようやく、周りの人々が自分を見ていることに気付く。なんとなく気恥ずかしさを覚え、
彼女にしてはかなり珍しく顔を赤くし肩をすくめた。
「むー・・・『好き』って感情以外であんな表情をすることもできるのね・・・」
「シェナ、それ、禁句」
「だいじょーぶよ、さすがにキルガもこの程度では」
キルガの頭が下がっていた。
「ってなんで落ち込んでんのよ!?」
「は?」と、瞬時にキルガの頭が持ち上がる。目は、何のことだ? と言っていた。
「・・・はい?」
「・・・へ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
三人がなんだかよく分からない空気に包まれていたとき——
「マルヴィナ君、どうだね、うちの強者と戦ってみるかね?」
ガザールはそんな質問をマルヴィナに投げかけていた。
「強者ですか?」あえてとぼけてみるマルヴィナに、当の本人から声がかかる。
「っざけんなよ、女ごときに俺様がやられるわけねえだろ!」
「逃げんのー?」
マルヴィナがそろそろかな、と相手を乗り気にさせるための言葉を言おうとしたとき、別方向から声。
それは、ミチェルダであった。
少し驚くマルヴィナに、彼女はにっ、と歯を見せて笑った。
モザイオの居丈高な状況を変えてくれる者が欲しい。
モザイオに勝てる人が欲しい。
マルヴィナの勝利を確信している。
ミチェルダはそう思ったうえで、そう言ったのだ。
マルヴィナは笑い、無言で、だが挑みかかるような目で相手を見据えた。
モザイオはしばらくそのにらみ合いに応じていたが、悪態をつくと、乱暴に細剣をとりあげ、
そのまま大股でマルヴィナの前まで歩いてきた。
「・・・ちょーしノってんじゃねぇぞ」
モザイオのすごむ様子をみて、マルヴィナは口だけで微笑む。
「・・・・・・[誰が]?」
このやりとりを、彼らより一層鋭い眸で眺めている者——
ルィシアの存在に、マルヴィナは気づいていながら何も言わなかった。
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.523 )
- 日時: 2012/08/10 23:41
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: bkovp2sD)
—————っぱぁん!!
今日一番、鋭い音を立てて、細剣が弾かれる。
「っ!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
弧を描いて主のもとから弾き跳んだ細剣は、観衆のいない空白のスペースに落ちて乾いた音を立てた。
勝負あり。
細剣を未だその手に携えていたのはマルヴィナ、消えていたのはモザイオ。
文句なし、マルヴィナの勝利であった。
「す」
沈黙を破ったのは、ミチェルダの歓喜か、あるいは圧倒による震え気味の声。
「すごいマルヴィナ、よくやったー!」
「わっ」
構えを解いたところでいきなり飛びつかれ、マルヴィナはよけようか——と思ったがそれもやめて素直にとどまった。
さすがに学院一の猛者をこうもたやすく倒してしまうとは、周りの人間、ガザールすら思わなかったらしい。
驚愕、歓喜、若干の同情と羨望。
群衆がさまざまな表情をしている中で——
やはり一人、異様な殺気を漂わせた娘がいることに、三人は気づく。
「彼女・・・」
勝敗の行方は分かっていながらも安堵と歓喜に包まれていた三人の中で、
真っ先にその重い空気を見つけたのはセリアスで、そのことに対し口を開いたのはキルガだった。
鋭い翡翠の眸に、感情といった感情はない、どこまでも深い、深い海の底のように冷えていて、
その眸に気付いたものに言い表せないほどの悪寒を覚えさせていた。
「彼女の 霊気_オーラ_ ・・・まるで別格だ。・・・まさか、あの人まで、ガナンの手先じゃないだろうな・・・」
「・・・分からん。でも、それならマルヴィナが、真っ先に警戒すると思うんだが」
まぁ・・・ね。キルガは曖昧に頷いてから、隣のセリアスの、さらに隣にいるシェナを一瞥した。
シェナは無言だった。殺気漂わせる娘への鋭く、値踏みするような視線は変わらない。
やはり、どうしても拭いきれない何かがあった。シェナと、ガナン帝国。
どこかで、何かつながりがあるのではないか。花の街サンマロウ、その北の洞窟——
恐怖から無理矢理に立ち直ったマルヴィナが、震える身体を押さえながら対峙し、しかし敵の武器を奪い
その類稀なる才能を見せつけてみせた、あの兵士が現れてから——その兵士たちへのシェナの反応を見てから——
どうしても、そう思わずにはいられなかったのだ。
だが、もし彼女がガナンの、[そういう意味での]関係者だったら——マルヴィナが、
あの邪悪に敏感に反応する彼女の勘が、黙ってはいないだろう。
マルヴィナはシェナを仲間とし、信じ、認めていた。疑うことなく、純粋に。
・・・マルヴィナを信じているのに、何故彼女の信じる者を信じないでいる? それは、矛盾していないか。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
キルガはそっと、内心でかぶりを振った。
そして、最終的に仲間の勝利に喜ぶ二人と同じように、屈託なく笑うのだった。
話通り、その日は早い時間に授業が終わる。生徒たちは放課後の教室でおしゃべりをする者もいれば、
いそいそと更なる勉強に勤しむ者も、図書館で好きな本を読む者も、購買へ行って買い物気分を味わう者も、
さっさと寮へ戻って寝る者も——さまざまだった。
キルガは槍術にてお前なんでそんな強いんだよ一体どこで教えてもらったんだよくそうただの優男じゃねえな
ちょっと俺に槍を教えてくれよ今ここで勝ち逃げとか許せんなどと彼に負けた、あるいは彼の試合を
口をあんぐり開けて見守っていた男たちに囲まれてなかなか逃げ出せないでいた。・・・おそらく周りの男たちも、
彼の近くにいればたとえ自分に向けられたものでないとしても大勢の女の子から視線を集められるという理由で
集まっていると言うこともあったのだろうが。
セリアスはセリアスで、さっさと寮に戻り、自室で筋力トレーニング。普段鎧を着こむ彼には、
何も身に着けていないように感じて、いつもよりもトレーニングをしていないと落ち着かないらしい。
そしてその分へとへとになり、身体もほてり、最終的にはクールダウンに寮の外へ出てくしゃみを一発かましてから
元の部屋へ戻っていくのだ。
シェナはというと、放課後の教室でおしゃべりをするクラスメイトに付き合っていた。
シェナは授業の合間はいつも授業についていけなかったセリアスのためにその授業ごとの要点をまとめて説明して
セリアスに毎度頭を下げられているので、彼らにとって情報を得る時間と言うのは
放課後やその他の時間に充てられるのであった。
そして、マルヴィナは。
目の前にいる、前日までは敵意と、恐怖感の入り混じった視線で見られていた大人数を前に——
不敵な、だが決して嫌ではない——むしろ優雅ともいえる微笑をその口元に浮かべていた。