二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.526 )
- 日時: 2012/08/12 18:27
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: bkovp2sD)
どん、と。マルヴィナの前に、なんだかすごく大きなグリルチキンの皿が置かれた。
目をしばたたかせ、また一方でおそらくグリルチキンよりも大きな喜びを感じているだろうマルヴィナに、
それを置いたセリアスは二言、
「戦利品だ。食え」
と促した。
たちまちマルヴィナの表情が華やぎ、素早くお祈りを済ませてから、何とも嬉しそうな顔でチキンを切り始める。
「セリアス・・・実はいい奴だったんだね」
「ほめてもそれ以上は——ちょっと待てなんだ『実は』って」
チキンを口に入れながら、マルヴィナは「はぐ?」と目だけで“なんのこと?”と言いたげな視線をセリアスに送った。
相手の悪気ないその表情に、いややっぱいいわ、とセリアスは苦笑気味に諦め、シェナがお疲れー、と
いまいち言葉通りの感情を抱いていなさそうな声色で言い、キルガはマルヴィナの幸せそうな表情を
同じように幸せそうに見ていたりする。
「で、首尾は?」
シェナが、こちらは慎ましくパンを口に入れる前にマルヴィナに尋ねた。
マルヴィナは幸せそうな表情を未だ崩すことなく、そしてさらりと、
「とりあえず奴らの中に入り込んだ」
と言って三者から同時に問い返しの言葉をもらった。
「不良グループ。なんかモザイオに勝ったことでモザイオにも取り巻きにも恐れ半分に認められてさ。
今日、ちょっと動いてみようと思う」
「今日?」キルガだ。「・・・夜にか?」
マルヴィナは頷く。そして、簡単に説明を始めた。
事件に一番関わりのありそうなグループに潜り込んだことで、
なかなか関係のない生徒からは聞けそうにない話を聞き出せた。
まず、幽霊の話。セリアスが冗談交じりで言ったあの話。ないとは言い切れない。
そこに女神の果実が関わっているのなら、あり得ない話ではないのだから。
だから、マルヴィナは幽霊方向で調査を開始することにしたのだ。
その話を出すと、彼らは何とも気まずそうに黙り込んだ。モザイオが話さないので、周りも話していいのかどうかと
悩んでいるらしかった。埒が明かないと思ったマルヴィナは、やり方は好きではなかったが、
モザイオの意地を突いて——すなわち、「怖いの?」と言って——どうにか話を聞き出した。
聞き出したのはいいが、その先まで行ってしまったのだ。
・・・日付変更時間——学校の屋上にある、守護天使像。
その額を触ると、幽霊がでる。
その噂は、シェナが知っていた。放課後で聞き出した情報である。
関係あるかもしれない——マルヴィナがそう思って、一人内心力強く頷いた時、モザイオが言ったのだ。
『それなら実際に試してみようぜ』
取り巻きたちが一斉に血の気を引かせたのは言うまでもない。モザイオですら、若干震えていたのだ。
マルヴィナは少々呆れ半分、もし本当に起きたらモザイオの身が危ないという緊迫感半分でそれを否定しようとした、
だが相手は頑固だった。
結局——日付の変わる時間、その行動にマルヴィナも付き合わされることになったのであった。
話し終えたマルヴィナが再びチキンに手を伸ばし、
「単純」
シェナが見えないモザイオに対し棘が五本ほどついた発言をし、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」反応のしようがなくてキルガは黙っていた。
「てかさマルヴィナ、なんでそんなアイツのこと気にしてんだ?」
セリアスが何気なく尋ねる。シェナがずるっ、と椅子から滑りかけた。
「あんたねぇ・・・さすがに分かるでしょ」
「え? ・・・何が?」
「・・・ちなみに恋じゃないってことくらいはわかるわね?」
「そうじゃないと思っているから聞いているんだ」
「許容範囲。よし」
とよくわからない会話を聞き流したのち、マルヴィナは答える。
「ん・・・なんとなく。なんとなくなんだけれど——」
マルヴィナはこの時間の中で、初めて表情を曇らせる。
手を止めて、潜むように、そっと言った。
「・・・あいつが、次の犠牲になるような気がしたから」
小さな声で。