二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.557 )
日時: 2012/08/24 20:24
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: bkovp2sD)

 夕日が差し込む茜色の武具店。
その中から、計三人の驚愕の絶叫が村中に響く。
あまりにその声が大きくて、畑を手入れしていた農夫は鍬を落とし、
夕飯準備を終えて皿を並べていた主婦は料理をこぼしかけ、
呑み過ぎて夢の世界を彷徨っていたのんべえは酔いを醒まし、
水車の近くに紛れ込んでいた魚を眺めていたティルは危うく落ちそうになる。
そして、肝心の大声を上げた三人——店員の男女二人とマルヴィナは、空いた口を塞ぐことのできぬまま
衝撃の事実を発表したスガーとその手の剣を凝視していた。
「・・・えと、あのな。まずは、ちょっと座ったらどうだ。お前らも」
 口を開けたまま何も言えずかたかた震えているか、口を開けたまま完全に動きが止まっているか、
口を開けたまま——とにかく一つだけ間抜けな共通点を持った三人は、スガーに促され素直に座る。床に。
「いや、せめて椅子に」
「いいからさっさと話してよ」
 女性店員。「私は防具しか興味ないけど、なんか面白そうじゃない」
「面白いってレベルじゃないけど」男性店員。「これは、今凄い瞬間に立ち会ってるかもしれない」
「・・・銀河の剣、なのか、それは」マルヴィナが、未だ震える声で、言う。「本当に?」
 剣士として、マルヴィナはそれを知っていた。
知っていたが——スガーの話を、黙って聞く。

「突然変異——と言ったら妙だが、この剣はそうしてたまたま偶然、出来上がったものだ。
今は廃れたが、錬金術の結果だな。・・・アンタ、刀は知ってるかい」
「あぁ。剣と違い片刃の武器・・・サーベルともいうもののことだろ? 片刃のために、剣よりはずっと丈夫な」
「やはり知ってるか。話が早いな。・・・そうだ、強度は剣より刀のほうが上だ。だが、そんな常識を覆しちまう。
・・・コイツの丈夫さと、鋭さは、肩を並べる者がねぇどころか、ずば抜けている。決して刃こぼれしねぇ、
まさに神秘としか言いようのねぇ究極の剣だ・・・今はこんなだがな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 マルヴィナは、スガーから受け取って、そしてまじまじと見つめた。・・・手が、震えていた。
 史上、最強。
目の前にある錆びた剣が—とてもそうと見えない剣が—、この世界においてただ一つ、最高の称号を得たもの。
錆びても、壊れることのなかった剣。窮地を救ってくれた剣。
「・・・スガーさん、これを元に戻すこと、できないか?」
 マルヴィナは改めて、素晴らしい腕を持つ鍛冶屋を見た。だが、スガーは、顔を伏せてむぅ、と唸った。
「・・・多分それは、人の手を加えて戻るもんじゃねぇ。魔法的な力がかかってんだ。
・・・俺ぁ魔法の類は、トンとさっぱりなんでな」
「魔法的な・・・」マルヴィナは復唱して、ふ、とため息をついた。まぁ、そんな簡単に行くはずないか、
でもどうにかして、甦らせてあげたい、そう考えていたところ。
「む、ちょっと待てよ」
 スガーが、ぱっと顔を上げた。その眼がいつの間にか希望の光を奥に秘めていることに気付き、
マルヴィナもまた顔を上げる。
「確か・・・おい姐さん、ちょいと手伝ってくんねぇか」
「え? えぇ、いいけど」
 女性店員が立ち上がり、スガーと一緒に店の奥へ消える。
残された男性店員とマルヴィナは、剣を挟んで顔を見合わせた。
「・・・その剣」
 男性店員は、言った。
「その剣は、主がいると思うんです。ちゃんと使いこなせる、ただ一人の主——
その剣がこの世界にただ一つしかないように、使いこなせる者もこの世界にただ一人しかいないと思うんです」
「主」再び、復唱。
「今はそんなですけど・・・それでも、その剣は、マルヴィナさんを認めています。・・・もしかしたら、って、思いませんか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わたしが」
 わたしが、この剣の、主?
言おうとして、先にそんなまさか、という考えのほうが出てきた。
まだまだ、自分より強いものはいる、強い剣士はたくさんいるはずだ。・・・実際に、知ってもいるのだから。
「強いだけじゃ駄目なんです。剣を認め、剣に認められる、そんな人が主なんですよ」
 だが、マルヴィナの考えを察したように、男性店員は言った。
驚くマルヴィナを前に、一つ頷く。
マルヴィナは、剣に目を落とし——そしてまた顔を上げ——「貴方は、一体・・・?」

「はーい、お待たせー」
「あったぜ、剣再生の当てが!!」

 その時、はかったかのようなタイミングで、女性店員とスガーが戻ってきた。
男性店員は、静かに笑っていた。

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.558 )
日時: 2012/08/24 21:22
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: bkovp2sD)

 二人が持ってきたのは、ずいぶん古びた辞書のようなものである。
表紙は殆ど文字がかすれて読めないが、昔はさぞ立派な本だったのだろう。
「俺は学がないんでな。こういうもんは読まねぇんだが、俺のご先祖様が鍛冶屋たるもの
この程度の知識は身に着けとけって残してってくれた代々伝わる武器のための本だ」
「んー・・・もしかしてこれかしら? えと・・・げん・・・じゃない・・・ぎん・・・? ぎん、が・・・あった、これよこれ!」
 子供のようにはしゃぎながら、女性店員は三人に見えるように広げて床に置いた。瞬時に、三人が頭を寄せ合う。
 決して人の手ではどうすることもできないもの——いわゆる“神器”と言う名のあるものが、書き綴られていた。
銀河の剣はどのようにしてできたのか、いつからあるのか。そして、いつその力が失われたのか——
そのようなことが書いてある、と思う、と彼女は言った。
「むぅーん。もう殆ど読めないなぁ・・・あ、これだっ、呪文・・・呪文だって!」
「「呪文?」」マルヴィナとスガーの高さの違う声が重なる。
「うーん・・・封印、されてて、で、それを起こす・・・とかなんとかで、・・・ちゃんと呼んであげなきゃで・・・
剣は生き物か!! って突っ込みたくなるわね」
「少なくともこいつは生きもんだろうよ」と、スガー。「魔法ってのは全部生きもんだろ」
「・・・そうかなぁ・・・」
「とにかく、えーっと・・・読むわよ・・・」







『目覚めよ』







「目覚めよ・・・?」







『目覚めよ、この剣に』







「剣に——」







『汝と共にある者のもとへ戻れ、—————————』













 そこで女性店員は、「むー!?」と明らかに不満を表す唸り声を上げた。
「な・・・」マルヴィナも、思わず声を上げた。
「どうした」と、スガー。
「何かあったんですか」と、男性店員。
 マルヴィナは本に顔を近づけ、頁をめくって透かし・・・悔しげに、口を開いた。
「そのあとの言葉が、分からない」
「わからんだぁ!?」スガー。
「ちょうどここが、見えないのよ! 一番肝心なのに!」
「まって、もう一回見せて!」マルヴィナはもう一度試みるが、やはり駄目だ。
「ダメだ・・・空に関係する名前が入ることしか、分からない。・・・くっ、せっかくここまで来たのに・・・!」
「焦っちゃだめです」男性店員。「きっと、いつか見つかるはずです。マルヴィナさん」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 そうか、とすぐに答えられることではなかった。マルヴィナは唇を噛み俯く。だが、結局、はぁ、とため息をついた。
そして、世話になった三人に、丁重にお礼を言って、窓の外を見る。
紅石の刻まで、あと少しだった。





















         漆千音))1095文字しかねぇ!! 最近1700字は書いていたからなんか変な感じがする・・・