二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.559 )
- 日時: 2012/08/25 13:27
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: bkovp2sD)
2.
先に述べたように、教会は少し綺麗で、この小さな村にしては大きな建物だった。
淡いクリーム色をした窓は、今は夜の闇に溶け込んでいる。不思議なうねりを見せる燭台から、
縦に長い火が頼りなさげに光を放っている。
奥には石碑、古い言葉で、何かが刻まれている。
教会の中央、幾人が集まるそこに、マルヴィナや村長はもちろん、何とティルまで来ていた。
どうしても気になって、様子を見に来たらしい。
何もないかのように静かな、静かなそこで、村長は話を続ける。
「あの黒い竜こそ、三百年前に存在した闇竜バルボロス。奴が現れたのち、お主はこのナザムの村に落ちてきた」
寄合の内容は、いきなり空に現れた闇竜についてであった。・・・天の箱舟を襲った、あの竜の。
マルヴィナは黙って、目を閉じた。
「訊こう。お主とあの竜は、何か関係があるのではないのかね!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
マルヴィナは、目を閉じたままだ。ゆっくりと考える時間を作り、そして答える。
「・・・あると言えばある。だが、ないと言えばない。話をする。あるのかないのかは、あなたたちが決めることだ」
マルヴィナはゆっくりと、事の経緯を話し始めた。人間でも、分かるように。人外の力を、
天の箱舟や天使の存在のことを、さりげなく言い換えて。
「・・・成程。狙われたことは、“関係ある”が、直接的には“関係ない”——そう、言いたいのだな」
「・・・間違いない」
ばん、と、長椅子を叩く鋭い音がした。驚いた住民が村長を見て、マルヴィナは真っ直ぐ彼の目を見る。
「信じられるか! 竜に襲われて、生きておれるはずがない。はっきり言おう、我々は疑っているのだ、
お前があの闇竜とグルなのではないかとな!」
「ちょっ・・・ちょっと待ってよ!」
何を馬鹿なこと、マルヴィナがそう反論するより早く、ティルが飛び出してきた。
拳を震わせ、マルヴィナを背に庇い、村長を見上げて。
「なんでマルヴィナさんの言う事を信じてあげないの!? マルヴィナさんは、襲われて、あんなに怪我してるんだよ!?
グルなわけ、ないじゃないかっ!」
「お静かに! 神の御前ですよ!!」
そういう自分が一番大声を出した神父を、同時に睨む村長とティル。ティルの目は興奮して潤んでいる、
村長の目は冷酷に乾ききっている。
その対でありながら同じ意味持つ眼に神父はたじろぎ、村長はそれを無視して次いでマルヴィナを睨んだ。
マルヴィナはその視線を、静かに受け止める。
止まる時間。
ついにティルが、教会の外に飛び出した。
伝わらない思い、疑心溢れる空気、自分の無力さ。それらに耐え切れなくなって。
扉は、開け放しにされた。流れ込む風は、冷たかった。
「とにかく」
ティルを追おうと扉に向いたマルヴィナに、村長が止めるように言葉を発した。
飛び出したティルを、いかにもなんとも思っていないような様子で。
「余所者は、不幸を呼ぶ。わかったら、とっとと出て行ってもらおうか」
「・・・ティルは」
「あやつなど、放っておけばよい。じきに戻ってくる」村長は鼻で笑う。「・・・所詮あ奴も余所者だからな」
その言葉に、ついにマルヴィナは我慢の限界を感じた。
「・・・・・・あなたは」
その眸に、憤怒の炎を燃えたぎらせて。
「あなたには、愛情というものはないのか?」
村長は気だるげに、マルヴィナを見た。「何のことだ」
「ティルが、余所者だって? それを、あなたが言うのか? あなたが、余所者扱いをするのか!?」
「あ奴は別の場所から来た」村長はあくまで冷徹に、言う。「この村の者ではない。それを余所者と言わずして何という」
「家族だろう」マルヴィナは負けじと言った。
「ティルはあなたの甥だろう、住んでいた場所が違うだけの家族をなぜそこまでないがしろにする!?
・・・ティルをどこまで、孤独にさせるつもりなんだ!?」
「ですから、神の——」頼りなく言った神父にも、マルヴィナは厳しい視線を向けた。神父は喉を鳴らし、後退する。
「・・・あなたもだ、神父殿。・・・あなたの信ずる神は何者か知らない、だが、平等の思想は同じはずだ!
あなたはあなたが信ずる神のいう事を無視している、そうでないというならばそれは全く勝手に作られた氏神でしかない!」
「なっ・・・何をっ」
「じゃあ何故せめてあなただけでもティルを助けない!? わたしのことはどうでもいい、
この村にいるティルを、[存在する]彼を何故助けない!!」
マルヴィナは言い終え、はっと息をついた。
これが、マルヴィナ。
理不尽な言葉や行動を黙って見過ごせない、正義感強き娘の本質の姿。
「・・・ティルを探してくる」
マルヴィナは言った。
「そのあとで、この村を去ろう」
そして、返事を待たず、マルヴィナはその場を去った。
・・・村を去るのは、そうしろと言われたからではない。今のマルヴィナなら、そんな命令には従わない。
だが。そう、決めたのは。
度々自分の目の前に現れるようになった、ガナンの存在があるからである。このまま村にいれば、いずれまた
ガナンの手先が現れる。・・・一度襲われて、生存が確認されれば、再び狙われる可能性は低くない。
犠牲は出したくなかった。たとえ、どんなにおかしくて、どんなに許せない者たちであっても、絶対に。
——マルヴィナは、まだ知らない。自分の恐れた、その想像した出来事が、三百年前に実際にあったことを。
そしてそれこそが、この余所者嫌いの村を創り上げた歴史であることを——今は、まだ。