二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.561 )
日時: 2012/08/25 13:28
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: bkovp2sD)

「マルヴィナさんっ!!」
 寄合の前に眺めていた石碑のおそらく下に落し物をしただろう。
マルヴィナはポケットを探りそう思って、今出たばかりの教会を見てかなり後悔した表情を作った。
石碑の下にあったものが気になって、それを取り出してみようとして・・・カン、という音がしたのは気づいていたが、
物を落とした音だとはその時は気づかなかった。不覚。
ティルを連れ戻した後、石碑の下を探って、取り戻さねばならない——そう思っていたところ、
自分の名を呼ぶ聞き覚えのある声を聞いた。
先程の、二人の店員である。
遠目からもはっきりとわかるほど青ざめた顔色を見て、マルヴィナの嫌な予感が働いた。
「寄合で何があったんです? ティルが、凄い泣きながら、村の外に飛び出してっちゃったんですよ!」
 表情が、強張る。
「どうしましょう、夜のこのあたりって、凄く物騒なんです! 村長、今大丈夫ですか?」
 大丈夫か、というのはおそらく機嫌のことだろう。大丈夫ではない。
もし機嫌がよくたって、彼は決して自ら探しにはいかないだろう。
マルヴィナの表情を見て覚った店員たちは、顔を曇らせる。
「やっぱり、スガーさんにも頼んで、僕らで探しに行くしか——」
「わたしが行く」マルヴィナはきっぱり言った。
「行ってくる。・・・ティルが飛び出したのは、寄合に参加していた者たち全員の責任だ」
「マルヴィナさん」
「大丈夫」マルヴィナは緊張した面持ちで頷いた。
「怪我はもう大したことない。それに、譲り受けた強力な武器だってある。なんとかするよ」
 マルヴィナらしくない、本来根拠として成り立たない理由を述べて、彼女は頷いた。
店員たちはためらいがちに頷き返し、ティルの向かった方角を告げる。

 その先、北東。
マルヴィナは腰に譲り受けた剣——隼の剣を携え、錆びた銀河の剣を確認し、村の外へ走る。








 新天地を一人で歩くのが、こんなに心細いものだとは思わなかった。右も左も分からない。
地図はキルガが管理していたので、マルヴィナの手にはない。自分の直感のみを信じて、マルヴィナは走った。
頭が痛い。目の前が、くらりとする。
それでも、マルヴィナは走る。助けてくれた少年、親切にしてくれた少年を、探すために。
幸いにして、ティルは見つかった。北の橋を言われた通り東に曲がった時、岩に座りうずくまる彼を見つけた。
だが、ほっとしたのも束の間、草原から飛び出し無防備な少年を狙うは魔物、 紅き旋風_レッドサイクロン_ 。
 焦り、後悔、恐怖・・・それらに感情を支配されたティルを、魔物は嘲笑い、 真空呪文_バギマ_ の
呪文を投げかける! ティルは咄嗟に叫んだ——かもしれない。目を瞑り、手をばたつかせ——
風の刃は、届かなかった。間一髪、マルヴィナは横ざまからティルを抱き留め、跳躍、その場から逃れる。
着地し、ティルを立たせ、そのまま剣を引き抜く。真空の刃を突き進み、怯んだ魔物をそのまま薙ぎ払う。
怯んだとはいえ相手は浮遊体、攻撃を辛うじてかわし、にへらと笑う。が、その顔は、一瞬しか保てない。
気付かぬうちに、もう一攻撃が、その身体を裂いていた——隼の剣の性能を利用した、高速での二回攻撃。
上と下に分かれた紅き旋風は、その笑い顔を瞬時に憤怒に変え——
だが、何もできずに、大地にしみ込むようにして消えた。
ぴっ、と横に払い、マルヴィナは剣を収める。そして、横に残したティルに、聞くまでもなかったが、安否を問う。
「あっ、だ、だっ、い」
 かなり震えてはいるが、言おうとしている通り大事無いらしい。マルヴィナはほっと安堵のため息をついた。








「そういやさ、ティル」
 村に戻らず、そのまま北へ歩いてゆくティルについていきながら、マルヴィナは尋ねた。
ティルは少しだけ後ろのマルヴィナに歩く位置を合わせ、マルヴィナの言葉を待つ。
「・・・これ、見覚えないか?」
 マルヴィナはポケットの中から、青白く静かに、神秘的に光る宝玉を、羽を模った石で包み込んだような
美しい首飾りをティルに見せた。
ティルはそれを見て、宝玉の輝きに見とれながらも、首を横に振った。
「ごめん、しらないや。・・・どこにあったの?」
「そっか・・・うん、教会の、石碑の下。なんか光ったように見えたから、探してみたら、あったんだ。
・・・その時、ちょっと大事なものも落としちゃったんだけれどね」
 あはは、と力なく笑うマルヴィナ。ティルはふぅん、と答えて、まじまじと首飾りを見た。
「あそこにあったんだ・・・今まで、知らなかったな」
「まぁ、知らないなら、しょうがないしな。ありがとう。・・・で」
 マルヴィナは同じ場所に首飾りを戻し、ティルに尋ねる。「どこに向かっているの?」
「・・・うん。ぼくの、お気に入りの場所。すっごい、きれいなところなんだ・・・マルヴィナさんにも、見せてあげたくて」
 そういうと、ティルは少しだけ歩く速度を上げた。
「もう近くなんだよ。ついてきて!」
 マルヴィナは目をしばたたかせ、微笑むと、歩幅をティルの速度に合わせた。