二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.569 )
- 日時: 2012/08/25 16:30
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: bkovp2sD)
3.
紅い鎧——というよりかは、赤みがかった黒い 鎖帷子_くさりかたびら_ に身を包んだ、
小柄な騎士が風に髪を流し目を閉じていた。
・・・“漆黒の妖剣”、ルィシア。
これこそ、彼女の戦闘姿と言って等しい。
娘がこんな無骨な鎧に身を固めるのは何とも注意を引く姿だが、彼女のいるのは、とある不毛地帯である。
周りには誰も、いなかった。
“— 標的——ナザム村、ってところかしら —”
そういうなり、真っ先に反応した女騎士がいた。
ルィシアはそれを見て、眉をひそめた。その騎士のことは知っていた。
[あの四人]に近づき、監視していたもの。そして、生き別れた弟を探しているといつか言っていた騎士だ。
『標的』、それは、帝国にとって最も驚異的になるだろうと言われている、“天性の剣姫”マルヴィナであった。
“天性の剣姫”を討った者には、昇格、そして一つ願いを思うままにしてやろうと——帝国内で、発表された。
それほどまでに、既にあの四人、特にマルヴィナは知られていた。
・・・無理もない。なぜなら、“天性の剣姫”をよく知るもの、天使イザヤールが帝国に手を貸しているのだ。
彼らの存在は、最早知らぬほうが馬鹿、という扱いをされている。
・・・この騎士が反応したのは、ナザムの言葉だった。
ルィシアは騎士を見て、そう思った。
ルィシアは昇格や願い事に興味はなかった。ただ、マルヴィナを、
剣の腕に冴えたものを、打ち負かしたいという思いしかなかった。ひとりで行くつもりだった。
だが、その騎士に、同行させてくれと言われ、食い下がられてはさすがのルィシアも渋々承諾するしかなかった。
「お前に“天性の剣姫”は討てない」
そういっても、騎士は、飴色の髪を持つ女性は、答えなかった。
現在その騎士には、ナザム周辺を探らせてあった。
『標的』がいるのは、そこだと知っていたから。
・・・白ピアス。マルヴィナがエルシオン学院で拾った、あの小さな粒は、もちろんただのピアスではなかった。
それは——帝国の兵を管理するために組み込まれた、発信機である。
つまり、ピアスを所持するマルヴィナの行方は、ルィシアには筒抜けだったのだ。
だからこそ、取り戻さなかった。
——ぴ、と。探りに行かせた騎士から、通信が入る。
ルィシアはそれに何とも気だるげに応じる。
姿の見えない騎士は、その中で、『標的』が移動した、と告げた。
ルィシアは深々と溜め息をつく。そんなもの、発信機を見れば一発のことだ。そう思って、行方を探す——
「なによ。変わって、ないじゃない」
通信機から聞こえる、困惑の声。
「全く同じ場所だわ。・・・寝惚けているの?」
慌て繕う声を、ルィシアは完全に無視した。
「とにかく、正確な情報だけ伝えなさい。——分かってるの?」
返事は、ない。
苛立った拍子に、その騎士の名を思いだす。せめてもの一括にと、ルィシアはその名を呼ぶ——
「分かってるの、“紫紅の 薔薇_そうび_ ”、ハイリー・ミンテル!!」
・・・しばらくして、震え気味の声が、了解を意味する言葉を発した———。
漆千音))ついにハイリーさん正体明かされました。いやぁしかし彼女の称号考えるのに
20分もかかるとは思わなかった。意味は『赤紫色のバラ』・・・
・・・どういう意味だ? これ((ォィ
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.570 )
- 日時: 2012/08/25 20:16
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: bkovp2sD)
日が昇り始める。
例によって早い時間に目を覚ましてしまったキルガは、なんとなく、の思いに導かれて外に出ていた。
リッカの勤務時間にはまだ早いようで、カウンターには別の従業員が立っている。
対照的に、ルイーダの勤務時間は終わっていて、酒場は実質営業時間外とされていた。
見慣れた酒場も、なんだか別のものに見える。
朝日が差し込み始めた。ちらほらと、早起きが好きな人々の姿が見え始める。おはようございます、と会う人皆に言う。
「おはよう。なかなか珍しいな、君みたいな若者がこんな時間に起きているのは」
そう言ったのは、確か近くで靴屋を営んでいる主人だ。
「・・・良い朝だな。多分今日は、いいことが起きるぞ」
主人はそう言い、笑ってキルガの肩をポンとたたき、散歩に戻った。
キルガは目を細めた。・・・起きてほしい。
今日こそ、笑って、お帰りと言いたかった。
キルガは宿前の井戸に腰かけて考え込んだ。
大分、日が昇ってきている。そろそろシェナも起きるだろう。セリアスは・・・まず起きないだろう。
・・・果実は奪われ、箱舟は再び壊れた。
サンディは箱舟が落ちた後、セントシュタインに来て、
ちょっと厳しいからしばらく修理に出張する、・・・という内容をいつもの珍妙極まりない口調で三人に説明した。
・・・果実を探していた帝国。
七つそろったことで、強大な力を持ったであろう女神の果実。
それが、敵国に。
それは非常に、危険なことであった。帝国、と名乗るのだ。恐らく、このまま野放しにしておけば、
人間同士の争いが起こる。・・・そう、戦争、という形で。
人間と魔物の戦いにだって悩まされているのに、まして協力すべき人間が、争う。
・・・それは、愚かしいことだ。
そんな考え、人同士が争うことを思いつく人間の心が、彼らにはわからなかった。
人は魔物ではない。ちゃんと、言葉が通じるのに。
・・・止めなければならない。
果実を奪われた者[たち]の責任を持って。
だから、そのために。早く、四人に、サンディも含めて、いつものメンバーに戻りたかった。
早く帰ってきてほしい。マルヴィナ——
「あれっキルガ?」
いきなり、背中から声を掛けられ、キルガはらしくもなく盛大に驚き——しかもその驚き場所が悪い、
井戸の上という不安定な場所に座っていたキルガは、バランスを崩して背中からそこに落ちそうに——
(っってのはさすがに不味いだろ!!)
と自分自身に咄嗟に心中でツッコミ。
慌てつつも腕を頭の上に伸ばし、両手を井筒に必死の思いで突く——恰好としては、
井戸の上で腕だけブリッジをしているような、傍から見て妙に情けない姿になっているのだが、
そう見えないのは美形の特権か。
ともかく本人はその情けない姿を解除するために、腹筋を使って体勢を立て直す。はぁ、とため息を吐き、
そして落ち着いてようやく、声の主を正しく判断する——
「っマルヴィナ!?」
それは、昨日セリアスと話していた——帰りを待ち望んでいた恋しい人の姿だった。
マルヴィナが帰ってきたのはすごくうれしかったし、お帰りとも言いたかったが——
返ってきた瞬間のあの醜態をさらしてしまったのがキルガには大いに落ち込み要素だったらしく、
再会を喜び抱き合うマルヴィナとシェナ、屈託なく笑うセリアスの隣で、凄く微妙な笑顔を見せていたのであった。
マルヴィナはサンディの行方を尋ね、少し顔を曇らせた。
今は、待つしかない。しばらく会えないかもしれないのは、悲しいけれど。
「こりゃまた目立つところに怪我をしたなぁ」
ところで、セリアスが頬をかいて言った。もちろん、マルヴィナの頭の傷である。
「んー・・・多分もう、治らないんじゃないかと思う」
言葉こそ軽い調子だが、声は重い。
だが、重苦しい沈黙が来る前に、マルヴィナは言葉の調子を変えた。
「ごめん、実は、用事を残してきたんだ・・・もし、よかったら、手伝ってほしいんだけれど」
「どうしたの?」シェナ。「何でいきなり他人行儀っぽいこと言ってんのよ」
「よかったら、って、いいに決まってんじゃんか。な、キルガ」
未だ若干沈鬱的な表情(もちろんそこまで酷いわけではないが)のキルガを、セリアスは『サッサと起きろ』的な
意味合いも込めて、バシッと背中をたたいた。・・・凄い音であった。
「え、あ、あぁ、もちろん! ・・・・・・・・・・・・」
言ってから、じわんとやってきた痛みにキルガはぷるぷる震えた。
今頃背中に紅葉がくっきり浮き上がっているに違いない。
「・・・うん。ありがと、みんな」
マルヴィナは笑った。笑えることが、うれしかった。
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.571 )
- 日時: 2012/08/25 22:11
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: bkovp2sD)
旅の支度を始める。
天使界に戻ると思って売ってしまった薬草などを戻すために道具屋へ行ったり、食料をもらったり、
マルヴィナはリッカに新たな料理を教えてもらったり・・・支度が整うのに、そんなに時間はかからなかった。
必要なものをそれぞれ背嚢や腰巾着にまとめ、四人は話し続けた。何かの抜けていた日々を、埋めるように。
だが。
「それにしても・・・サンディには、申し訳ないことしたな」
マルヴィナは小さく、そう言った。
「箱舟には乗らないで・・・せめてそのまま地上にいたら、箱舟が襲われることもなかったんじゃないかって、思って」
「・・・マルヴィナ?」
セリアスが、訝しげに言った。
「果実も奪われちゃって、さ。・・・本当、ごめん」
「マルヴィナ、どうしたんだよ。らしくないぞ」
「・・・・・・・・・・・・・」
セリアスの問いに、マルヴィナは黙った。
「・・・まさか、マルヴィナ——」
キルガははっと気づき、その手を止めた。
(まさか——裏切られた、から・・・)
ずっと慕ってきた師匠、大切だった師匠。彼に裏切られたのが原因で——マルヴィナは、変わってしまったのではないか。
セリアスも気づいたらしい。らしくない、と言った自分の言葉を、後悔しているようだった。
「・・・なんか、さ。最後の最後で、油断していたんだろうなって思う。
・・・本当は、あの時の師匠・・・怖かったんだ。でも、逆らえなかった」
「マルヴィナ」イザヤールをあえて師匠、と呼んだマルヴィナの心情を思うと、心苦しかった。
「そんなに自分を責めるな。・・・マルヴィナのせいじゃない」
「あぁ、キルガの言うとおりだ。マルヴィナは悪くない。・・・悪いのは、ガナン帝国だ」
幼なじみたちから励まされ——マルヴィナは、少しだけ笑った。
シェナはずっと、顔を伏せていた——・・・。
ナザム村周辺の魔物はともかく、少し離れた大地に生息するものはどれも強敵だった。
ライノキングの突撃を、 紅き旋風_レッドサイクロン_ の真空呪文を躱し、アロダイタスの岩投げを避け、
死霊の騎士の眠り攻撃を受け流し、ブラッドアーゴンの吸血を免れ、そして斃す——そうこうしているうちに、
すっかりあたりは夜になってしまった。
「しまったなぁ・・・こんなに遠いとは思わなかった。ラテーナ、待たせちゃうなぁ」
「仕方ないわよ。ここで屍になったら一生待たせることになるわ」
シェナがさらりと、さりげなく恐ろしいことを言って、肩をすくめた。
「ところで・・・本当に良いの?」
不寝番のことである。彼女は、戻ってきたばかりで、つい最近目を覚ましたばかりだというマルヴィナに
気を使って自分たちが不寝番をしようかと言っているのだ。
だが、マルヴィナはそれを断る。
「いいんだ。それに、どうせ寝られない」
マルヴィナは笑って、そう答えた。だが、その笑顔は、どこか無理をしているようだった。
けれど——シェナは、それ以上は言えなかった。言ってはいけないような気がした。
隣でセリアスのいびきを聞きながら、キルガは——やはり起きていて、虚空を眺めていた。
が——眠れない上に隣から聞こえる[少々]うるさい音に我慢するのも疲れたので、キルガは起き上がり
少しでもマルヴィナに休んでもらうためにとテントの外に出た。
「あれ、キルガ・・・まだ早いよ?」
たき火に薪代わりの枝を入れながら、マルヴィナは答えた。
「いや、いつもの通り隣の誰かのせいで寝られないから」
キルガの真面目な口調の冗談に、マルヴィナは思わず吹き出した。
「とにかくマルヴィナ、」
「代わるつもりはないよ。シェナは静かだけれどね」
すべてを言う前に否定された。キルガは空いたままの口を閉じてやれやれと苦笑した。
夜空は満天の星が散りばめられていた。今夜は、新月だった。
マルヴィナは包帯を外していた。キルガは、ざっくりと刻まれた、その痛々しすぎる傷に——思わず、目を細めた。
「・・・治らない、のか」
キルガは、小さく、本当に小さく、言った。
マルヴィナは空を見上げたまま、まぁね、と答えた。
「時間もたっているし、深すぎるし。・・・まぁ、傷が浅くなることはあるだろうけれど、残ることは、残るだろうね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
キルガは空を眺めて、口を開く。
「・・・謝るのは、僕だって同じだ」
「・・・?」
マルヴィナはいきなり何かと、キルガを見る。彼は視線を空に上げたまま、続ける。
「守りたくて、後悔したくなくて、聖騎士の道を選んだのに・・・結局、僕は何もできていない。名ばかりの、聖騎士だ。
魔物と戦って、そこで守ることだけが、役割じゃない。・・・それなのに」
キルガは、拳を固めた。
「・・・なのに、届かなかった」
マルヴィナが落ちた時に、伸ばした手。届くことのなかったもの。
「肝心な時に、動けなかった」
イザヤールの剣の前に倒れるマルヴィナに——仲間のもとに、駆け寄れなかった、弱い自分。
「・・・じゃあどうすればいいんだって、考えても・・・所詮は机上の空論にしかならない。行動に、移せないんだ。
それで、あとから、後悔ばかりする」
「・・・キルガ」
マルヴィナはキルガの腕を握った。キルガは思わずどきりとして、マルヴィナを見る。
「・・・自分を責めるなって言ったのは、キルガじゃないか。キルガも、責めないでよ」
「・・・・・・・・・・・・・僕は」
キルガは、優しく、哀しく、笑った。
「僕は、もう後悔したくないんだ」
後悔するだけの自分に、何の意味がある? それを生かせないのなら、ただあぁまた駄目だった、の連続にしかならない。
「後悔なんて、誰だってできるだろ。・・・そうでありたくはないんだ。もし、このままだったら」
キルガは腕に込められた力を気にせずに、言う。
「・・・僕は聖騎士なんかじゃない」
「キルガ」ぐっ、とさらに力を込めた。その腕は、華奢ではあるけれど、ずっと丈夫で、ずっと強い。
「キルガは、聖騎士だ。でも、悩みがあるうちは、まだそうじゃないかもしれない。
後悔なんて誰でもする、それを生かせないことだってある、でも」
マルヴィナは、ぎゅうと、いつの間にか彼の袖をつかんでいた。
「それでもキルガは、聖騎士だ。・・・だって、こんなに、考えてくれているんだから」
マルヴィナの言葉に——キルガは、少しだけ意外そうな貌をする。
聖騎士だ、と。それでも、そう言い続けてくれる。
マルヴィナは、キルガを、聖騎士として認めている。
そんな仲間が、言葉ひとつで思いを軽くしてくれる幼なじみが——キルガには、たまらなく愛しく思えた。
「・・・あぁ」
マルヴィナに手を離させ、キルガは今度こそ、本当に微笑んだ。
「あぁ・・・ありがとう、マルヴィナ」
流れ星が一筋、空を横切った。
漆千音))キルガの思いが届くのはいつなんでしょう。
ところで最近こんな話ばっか書いている気がするな((笑
実はマルヴィナ&キルガの不寝番ストーリーは何気に書きやすかったりします。楽しいww
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.572 )
- 日時: 2012/08/26 22:40
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: bkovp2sD)
日が昇り始め、キルガはたき火を消して砂をかける。マルヴィナは最終的に、眠りに行った。
もうそろそろマルヴィナが起き、シェナが起き、そしてセリアスは起きないだろう。
キルガはそのまま外で、明るくなった空を見上げた。
——聖騎士だ。
マルヴィナの一言を、思い出す。
聖騎士。大切な人を守る、博愛の騎士。
・・・けれど。守っているだけでは、駄目なのではないか。・・・そう、思い始めるようにもなった。
守り、という言葉に、縛られすぎているのではないか。
だから、いつまでも、動けないのではないか。
(・・・ならば)
ならば、どうすればいい?
キルガは目を細め、胡坐をかいた膝に腕をのせ、頬杖をつく。
(・・・たまには、自由に動いてみようか・・・提案しても、いいだろうか)
新天地で新たな連携を生み出すのは少々危険ではあった。だが、このままでは、本当に何も変わらない気がした。
やってみよう。キルガは、静かに決意する。
おはよう、と言って、マルヴィナとシェナが同時に出てくる。キルガも挨拶を返し、立ち上がった。
さて、起こすか。と、キルガはセリアスのいるテントに向かう。
今日のセリアスは、十八回の「起きろー」で目が覚めた。
「・・・空の英雄、だったか」
日は大分昇り、二つのテントを片付け、旅の再開準備を整え再び歩き出す。
「・・・空の英雄グレイナル——確か、ゲルニック、とかいう男が言っていたな・・・
ドミールに向かい、空の英雄を亡き者へ、と」
「うん。力を貸してもらうといいって・・・でも、急がないと、先に奴らに狙われる。早くしないと・・・あ」
そこでマルヴィナは、一つ思いつくことがあった。『空の英雄』。空。
“— ダメだ・・・空に関係する名前が入ることしか、分からない —”
・・・もしかして。
マルヴィナは、唇を結び、腰の銀河の剣に、そっと触れた。
「ドミール、・・・か」
シェナが呟いた。言いながら、その表情はまた、険しかった。
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どうしよう)
思いはもちろん、誰にも気づかれはしなかったが。
四人の傷跡による血の匂いにひかれて度々襲い掛かってくる魔物をどうにかして退け、
四人が魔獣の洞窟に着いたのはそれからまた半日の後のことだった。
「・・・はぁっ・・・本当、遠かったな」
「魔物が、多かったからじゃ、ないかしら・・・う、ちょっとへとへと」
特にマルヴィナはやけに狙われていたし、シェナもきりがないと言って最後には魔法攻撃を連発したので、
かなりの疲労を伴いつつも歩いていた。
「封印を解いてもらったら、一度休もうぜ。この先何があるかわかんないし」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うぃ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あぃ」
マルヴィナとシェナはいずれも妙な言葉で了承し、キルガとセリアスは何とも微妙な笑顔で顔を見合わせた。
マルヴィナがラテーナの名を呼ぶと、彼女は驚いて振り返り、増えた人数にもう一度驚いた。
「あ、仲間だ。・・・それと、ごめん。遅くなった」
『遠いもの、仕方ないわ。・・・それに、待つのは、慣れているわ』
本人はフォローのつもりで言ったのだろうが、
その意味を知っているマルヴィナは、本当に申し訳なく思い、恐縮した。
『・・・じゃあ、封印を解くわよ』
ラテーナは言うなり、両手を胸の前で組む。何かに祈るように、しばらく静かに止まっていた。
そして——その声が、[響いた]。
「我はナザムに生まれし者。ドミールを目指すものに代わりて光の矢を求める」
その声は——確かに、響いたのだ。
[人に]、そして、[封印に]聞こえる——『声』として。
「——我の祈りに応えよ!」
ラテーナが叫んだ瞬間、入口に張られていた結界が、あまりにも呆気なく、いきなり消え去った。
当たり前のこととはいえ、一同はぽかんと口を開けてしまい、ラテーナはそれを見て笑う。
『・・・これで、いいかしら?』
声は、戻っていた。
「え、あ、うん。・・・ありがとうラテーナ、助かった」
『・・・えぇ。それじゃあ、わたしは行くわね。あの人を・・・』
ラテーナは一度目を細めると、四人をしかと見て、言った。
『————エルギオスを、探さないといけないから』
その言葉に反応したのは、三人——
[マルヴィナ以外]、三人だった。
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.573 )
- 日時: 2012/09/01 17:41
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: bkovp2sD)
魔獣の洞窟への、実に何百年ぶりかの来客は、相当に騒がしい者たちであった——無論、マルヴィナたち四人だが。
「喰らえっ隼切りッ——避けられたっ!」
「マルヴィナ、後ろ——いや。スクルト!」
「“いや”ってなんだキルガ・・・? おぉっと蒼天魔斬あたりっ!」
「“あたり”って何よ? じゃ私は 急所討ち_ニードルショット_ でっ!」
いちいち技の名前まで叫ぶのは、声が反響し返ってくるのを面白がっているからである。
つまり、大袈裟に騒いでいるだけであって、実際には意外にも、余裕綽々なのだ。・・・なのだが。
「あ、セリアス、 混乱呪文_メダパニ_ にかかった」
「な、何やってんだ一体。おーいセリアス」
何をこんな時にと、マルヴィナは剣の鞘を引っこ抜きそのままそれでセリアスの頭を後ろからど突く。
「うぎゃ」と「ふぎゃ」が混ざったような声を上げ、セリアス元通り。
最初呆けたような顔つきをしていたが、その眼にまだ残っている敵の姿を確認すると、
少々やけっぱちな雄叫びをあげ敵に突っ込んでいった。
ところでマルヴィナは、自分こそ『こんな時に』、とある魔物に一対一の勝負を仕掛けようとしていた。
スライム種族、全ての魔物の中でも上位の素早さと硬さを誇る珍種、“はぐれメタル”という見た目は
銀色のジェルのような魔物である。が、その堅さゆえに刃という刃は立たず、その身体の性質は呪文を一切受け付けない。
マルヴィナがこの魔物に目を止めたのは、そもそも初めにそのはぐれメタルに攻撃された——
という名の顔にへばりつかれたからである。
スネークロードという名の術師系の魔物と一戦交えていたときに、魔物の蛇の手(足?)が近くを通り過ぎようとしていた
はぐれメタルをむんずとつかみ、マルヴィナの顔面に投げつけてきたのである。おかげで顔は銀色、
視界がふさがれている隙に攻撃を仕掛けようとしていたスネークロードはそれより先に銀色を振り払ったマルヴィナの
超・爆発的な怒りを買い、そのまま恐ろしいまでの会心の冴えを見せた彼女の剣の前に撃砕。
自分をそんな目に合わせてくれた銀色を探したところ——そいつはマルヴィナの猛獣のような眼に文字通り飛び上がり
マルヴィナの攻撃を見事に躱し、退散。攻撃の空回りしたマルヴィナは呆気にとられ、その怒りも同時に吹き飛んだ。
「うー・・・あいつだけには勝ちたい」
「まぁまぁ。何もこっちから向かわなくても。“来るもの拒まず、去る者追わず”、———」
・・・なんだろ? ——言おうとして、キルガは口を押さえた。——しまった。瞬間的にそう思い——
馬鹿野郎! 自分を、心中で罵った。
その言葉の意味するところを、今更気づいた。・・・その言葉は、その考えは、彼女の師からの教えである。
・・・だが。『今』、それを連想させる言葉は——最も、言ってはいけない言葉であった。
(———————————しまった)
キルガは慌てて今の失言を下げようとして——止まる。マルヴィナは、笑っていた——でも、少し、哀しげに。
「・・・大丈夫。何があっても、——[わたしの]考えは変わらない」
少し、切なげに。
その様子に、キルガは、何も言えなかった。
だが——自分の無神経さに、恋しい人を傷つけた自分に、無性に怒りを覚えていた。
セリアスとシェナはともかく、マルヴィナとキルガは—どちらかというとキルガからは—それから少々
気まずい雰囲気を伴って、奥部へと足を進めた。地下へ続く階段をゆっくりと降り、彼らが目にしたのは、
今までの薄暗くかび臭く、音の響く迷宮ではない。どこから与えられているのか、木漏れ日のような光が射し、
二つの地、繋ぐのは頼りない一本のつり橋、その下は黒くて何も見えない。
「・・・何だ? ここ——・・・」
「邪悪ーな気配、臭う?」
「犬かわたしは」
シェナの発言にツッコミを入れておいてから、マルヴィナはあたりを見わたす。「——いや。特に感じないな」
「面倒がなくて助かるわね」
「戦うつもりだったのか?」
話しながら、つり橋を渡り始める——と、セリアスが躊躇うような足取りをしていることに、二人は気づく。
「どうしたんだ? セリアス」
「い・・・いや」
否定の言葉を発しながらも、セリアスの足取りは不安げだ。
「もしかして・・・高所恐怖症?」
「や、そういうわけじゃ、ない、はず、なんだが」
見ていても不安になりそうなその歩き方に、例によって先頭を歩いていたキルガが足を止めた。
「なんてか・・・その、足下が見えないところってのは、結構、怖いもんだなと」
「・・・恐怖症ね。ちょっと意外かも」
シェナはマルヴィナに先に行くよう促すと、セリアスに「目を閉じて」と一言。
いきなり何かと思い恐る恐る目を閉じた瞬間、シェナの一体どこに隠していたんだというほどの馬鹿力にひかれ、
セリアスは妙に情けない悲鳴を上げて何とか橋を渡りきる。
「——————っ、——————っ、—————————っ」
声にならない声で荒く息をつくセリアスに、シェナはちょっぴり困ったように笑うのだった。