二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.578 )
日時: 2012/08/30 21:43
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: bkovp2sD)


 未だ心臓のバクつく青い顔のセリアスを何とか励ましながら、四人はつり橋の奥に一つだけあった石造りの小屋に入る。
中は同じように木漏れ日のような光が射しているが、やはりどこから発生しているものかはわからない。
煉瓦に巻きつくツタ、薄いコケ。まるで小さな隠れ家である。
が、四人が真っ先に目を引いたのは、ど真ん中に鎮座する、石の巨像であった。
そして彼らは、洞窟の名の意味を理解する。

 その巨像は——魔獣の形をしていた。
鋭い犬歯、雄々しき尾、尖った爪、竜の羽、右手には槌、左手には盾。
それらは言うように石でできたものだったが——恐ろしく精密で、恐ろしく現実的だった。
「凄いな・・・ビタリ山のラボオさんを思い出すな」
「動いたりして」
「やめてよ」
「・・・・・・・・・・・・」
 キルガ、マルヴィナ、シェナ、そしてセリアス——尤もセリアスは未だに話す気力がないのだが。
「最深部——だよね」
「多分」
 光の矢は・・・と、探し出す。と、声を上げたのはマルヴィナだった。
「あった、像の後ろ」
 マルヴィナが手招き、三人が集まる。なるほど、石像に守られるように、黄金色の弓矢がそこで静かに輝いていた。
が。守られるように——というか、実際に守られているのである。
つまり、石像が邪魔で、いくら手を伸ばしても弓矢に届かないのである。
「こ、ここまで来て諦めてたまるかっ」
「ちょ、マルヴィナ!?」
 と、マルヴィナは、石像の左手の盾部分によじ登り、弓矢に近づこうとする。もう少し近づけられれば、届きそうだ!
——が。もちろん、そのままあっさりと入手させてくれるはずがなかった。

 ごがが・・・といきなり、あたりが揺れだす。
「うわわわわわ、じじじ地面ががが揺れれててててていってぇ!!」
「ばばばばかか、しゃ喋ると舌噛むっ——むーーー!」
 セリアスとシェナが騒ぎ、キルガは揺れながら「マルヴィナ!」と叫ぶ。
正しく叫べてはいたが、そのあとに舌を噛んだ。
が、今は気にしない。それよりも——マルヴィナは、盾にしがみついたまま上下左右に揺られているのである。そう、
揺れているのは地面ではない。

 [石像が動いている]!!

「ちょ、ちょちょ、ちょわぁぁぁっ!!」
「ハうフィなっ!?」噛んで、シェナ。と、その上に投げ出されたマルヴィナが落ちてくる。二つの珍妙な悲鳴が上がる。
「重っ」
「軽鎧のせいだ!!」
 即座に反論、シェナは冗談よ、と軽く流したが、今この場で冗談を言ったことに若干後悔した。
揺れはおさまった、だが、彼らの目の前には。
 先ほど目の前にあった石像に瓜二つの、巨大な魔獣が、槌を振り上げて挑発的に笑っていた。






 ・・・仕留める。
何としてでも、仕留める、仕留める、仕留める——・・・!

 ハイリー・ミンテル、否——ガナン帝国騎士“紫紅の薔薇”ハイリーは、ただそれだけを考えていた。
かつて、世話になった娘を。
談笑しあった娘を。
——そして、裏切った娘を。
 ・・・あの、闇髪でありながら、その心に闇を一切見せなかった娘を、
ただひたすらに真っ直ぐだった娘を——マルヴィナを、仕留める——・・・。
そうして、私は、願いを叶えてもらうのだ。
 こんな好機は滅多に訪れない。だから。
だから、私が。

 ・・・なのに。
確かにマルヴィナは、村の外に出たはずだ。
しかも、その場で、消えた——おそらくはキメラの翼などで、移転したのだろう。
だが、発信機は、ナザムの村を指したまま、動かない。ならば別人か。だが、あの顔は、間違いない——・・・
すぐにでも村の中に入りたかった。そして——本当は、[彼]に会いたかった。
だが。それは、叶わない。なぜなら、今は帝国の人間だから。
もう、一般の人間ではないのだから。

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.579 )
日時: 2012/09/02 16:43
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: FDRArTRL)

 マルヴィナの唇から、かすれた高い音が響く。
ファレスとルゥジェ、そう名付けた二匹の聖狼がマルヴィナの足元に降り、
一気に大怪像へ間合いを詰め、強い二攻撃を与える。
 キルガの手にした槍は、目にもとまらぬ速さで四回、突きの攻撃を繰り出した。五月雨突き、と呼ばれるその技は、
重装備にもかかわらずその重さを気にしない天使の力を兼ね備えた——すなわち、
素早く動ける彼だからこそ使える大技である。
 セリアスが掲げたそれは、 戦闘斧_バトルアックス_ 。天井に掲げ、意識を集中させる。
魔神斬りと呼ばれるその技は、一か八かで、当たれば魔神にも匹敵するほどの大ダメージを与える、渾身の一振り。
シェナの手中には、ケイロンの弓。更に弓技、天使の矢と呼ばれるそれは、消費した魔力を取り戻す技。
敵へのダメージに比例して回復させることで魔力を蓄え、そして援護・攻撃の呪文を唱えてゆく。
 マルヴィナだけは、その武器を使わなかった。傷が疼き、再び熱っぽさも戻ってきた。うまく剣が扱えなかった。
どんなに剣の腕に自信のある者でも、己の体調と睡魔だけには叶わない。
 地響き、ハートブレイク、そして時々繰り出される
圧倒的な破壊力を持つ攻撃—冒険者はそれを、痛恨の一撃、と呼ぶ—。互いの攻撃の手は止まらない。
キルガとシェナの 守増呪文_スカラ_ 、セリアスの兜割、マルヴィナのストームフォース。
 相手は強かった、少なくとも、今まで彼らが戦ってきた敵の何よりも。
光の矢の守り人——大怪像ガドンゴ。
死角は、ない。先ほどのような余裕など、以ての外だ。
ガドンゴの攻撃を、キルガは最前に立って盾で受け止めた。押し返す、だがそれは最初だけ。
力の差があった。押し返されてゆく。
「っ」
 キルガは歯を食いしばり、押されまいと槍の切っ先を背中の壁に突き立て、後退を防ごうと試みる。
が、それは墓穴を掘ったに過ぎなかった。
変な具合に力が加わる。両端に加わったその力は中心へ、そして——

     「      」

 音を立てて、彼の槍は、中心から二つに折れた。
「ッ!!」
 そしてそれは、命取りになる。一瞬彼が見せた隙を、ガドンゴは突いた。横ざまから飛ぶ槌、そして——

 当たりは、しなかった。

 この間にのんびりしているほど、仲間は薄情でも怠惰でも、貧弱でもない。
セリアスの蒼天魔斬、シェナの 闇大呪文_ドルモーア_ 、同時にガドンゴの背に当たる。
怯んだ瞬間にキルガは飛びのき、手に残った槍の柄を放った。
二つの強力な技を喰らった大怪像がその動きを鈍くした瞬間——マルヴィナが、その剣を抜く。
 とどめ、だ。
マルヴィナは眼光鋭く、間合いを一気に詰め、斬りかかる。押すものと押されるもの、その動きが止まった時——
マルヴィナは、大怪像の鼻頭に、その剣を突き付けていた。
「勝ち、だ」
 マルヴィナは息を吐き、短く言った。他の三人も、溜め息を吐く。
今回ばかりは誰も何も話さなかった。気力がなかった。
が、溜め息に下がりかけた顔が四人、ほぼ同時に上がる。剣先を突き付けられたにもかかわらず、
大怪像は跳躍——なんといつしか、元の台座に戻っているのである。
「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」
 なにがあった、としか思えない四人はそのまま絶句。が。

『汝の勇気、確と見た』
 大怪像——否、石像に戻ったガドンゴの“声”がする。
「・・・はぁ」
 が、曖昧にしか答えられない。
『光の矢を掲げ、天を射抜け。さすれば道は開かれん』
 その言葉の意味することは——認可。
眩いばかりの光を放つ、

 目が開くようになったときには、石像はそこになかった。
受け取れ、とでもいうように。更に後ろの台座の上で、光の矢は名の通り、
美しく、重々しく、ただ静かに輝いていた・・・。