二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.583 )
- 日時: 2012/09/01 19:06
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: bkovp2sD)
真っ先に彼女のもとへ着いたのはマルヴィナだった。然闘士のあまり公にされていない力、
風を読み取りそれに乗り、素早く行動する。
三人を残す形で、彼女はハイリーと——[ただの私服のハイリーと]対峙し——仲間たちはマルヴィナの合図を見た。
その、合図は——待機せよ、という意味だろうか。
キルガは担当地ベクセリアに居た人として、セリアスは次期担当地予定サンマロウ出身の人として、
シェナはただ単純にそんな人がいた程度に、それぞれ彼女を覚えていた——だが。
マルヴィナは——・・・。
「お久しぶりです、マルヴィナさん」
ハイリーはどこか冷静に、そう言った。少し緊張気味に、少し驚愕して、でもそれを表情に出さずに。
「こちらこそ。・・・今回は、何故、ここに?」
あくまでもマルヴィナは、そう問うた。少し緊張気味に、少し警戒して、でもそれを表情に出さずに。
「・・・サンマロウで、お話ししましたね。探し人をしていると・・・その[子]が、ここにいると聞いたのです」
マルヴィナは思ったよりも具体的な内容に、言い逃れとしては詳しすぎ、不向きすぎるその言葉に困惑した。
相手の出方が、全く分からなかった。
・・・分からなかったから。
「・・・でも、この村、住民以外をひどく嫌っている」
マルヴィナは、前に出た——ハイリーの、目の前に。
背を見せて。
ハイリーの頭に、思い浮かぶあの時の言葉。
“天性の剣姫”を仕留めた者に与えられる、特権——・・・。
ハイリーの手が自身の腰に伸びる。
そこにあるもの——硬く冷たいその道具を手に——
「だから、入るのは多分容易じゃない——」
刹那。
——————————————・・・ィィィン・・・
暗殺、ただそのためだけに作られた帝国の短剣と、いつの間にか抜き放たれていた細剣が、
マルヴィナとハイリーの間で耳障りな金属音を響かせた。
ハイリーの緊張と驚愕は比べ物にならないほど大きくなり、マルヴィナの冷静な眸を動けぬまま見ていた。
追いついた仲間たち——真っ先にシェナが、身を低くして増速、地を蹴り腕を横に振り、
ハイリーの懐を狙って体当たりする。セリアスに教えてもらった、先手必勝の不意を狙った攻撃である。
「かっ!!」
ハイリーは目を見開き身体を折る。マルヴィナが素早くハイリーの手を叩き、短剣を払った。
短剣は弧を描き、地に刺さる。走っていなければ危うくセリアスが短刀を頭に突き刺しただろう。
頽れたハイリーに、世話になったことのある女性に、マルヴィナはそれでも、その剣を突き付けた。
[今度は]、かわされないように。絶対に反撃できないように。
「・・・・・・・・・・・・・・・っ」
「気付かなかった」マルヴィナは言う。「最初は、分からなかった。・・・あなたが帝国の人間だったなんてね」
目を細めて、焦燥に瞳を瞬かせるハイリーの目を、見る。
彼女は、殺そうとしただけで、殺したくはなかったのだ。彼女の目は、マルヴィナにはそう見えた。
「・・・あなたの闇は、小さい。あなたは帝国の人間らしくない。・・・できるなら、わたしはあなたと戦いたくない」
ベクセリアであった時は殆ど会話もしなかった。サンマロウで会ったときは、協力すらしてくれた。
彼女は、帝国の騎士として動いていたのではない。きっと、ただの住民として——けれど、サンマロウで、
マルヴィナに睡眠薬を盛り、その情報を帝国に流したのは、彼女で間違いないだろう。・・・それは彼女の意思?
・・・そうは、思えなかったのだ。動いているのではない、動かされている。そう見えるからこそ、戦いたくない。
それでも、彼女は。
「・・・いまさら情けをかけるの? それでも私は、あなたを」
———————仕留める。
呪うように、何度も何度も口中で繰り返した言葉。繰り返したことで、それを自分の意志と思いこませようとした。
今更、変えられない。
「・・・どうして」
マルヴィナは、剣を構えたまま—けれどその手に最初の力は入っていなかった—、尋ねる。
「・・・こんな好機、二度とない。願いを叶えてもらう、そのためにあなたを仕留」
「そこまで」
恐ろしく無情に、恐ろしく冷静に。
その声は、天井から降りかかってきて、マルヴィナの剣を弾いて乱入した——
「・・・ルィシア・・・!!」
闇髪、翠眼、それはルィシア。
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.584 )
- 日時: 2012/09/01 21:07
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: bkovp2sD)
おそらく、彼女の歳は十七程度しかないだろう。
だが、その威圧感、その佇まい、眸、表情、言葉——どれもが、少女らしくない。それが、ルィシアの特徴だった。
「・・・どこまで暴露するつもり? ・・・しかも、返り討ちにあって形勢逆転——言わなかった?」
ルィシアは、とても年上に向かって言うに相応しくない言葉を並べる——
「“天性の剣姫”は討てない」
そして、一般的な十七歳が浮かべる笑みとは程遠い、ぞっとするという表現も温いほどの冷笑を浮かべた。
「“黒羽”様っ・・・お待ちください、私は、私はまだっ・・・」
「残念だけど」
そのあとの言葉が思いつかなくなったハイリーに、ルィシアはあくまで無情に、言う。
その首に、自分の短剣をあてがう。
「指令が来た」
その言葉の意味は——死刑宣告。
・・・あぁ。
結局、同じなのね。あの時と。
・・・何年前だろう。
そう、あれは・・・例を見ない、あの大地震の起きた・・・そのあとのことだった。
いつの間にかはぐれてしまった弟を探しに、サンマロウへ戻った。
けれど、見つけられなかった。はぐれてから、ここに戻ってくるまで——何日もは、経っていなかったのに。
それでも、親戚に引き取られたとだけ、聞いた。
親戚なんていたことすら、知らなかった。そんな話を、聞かされたことはなかった。
死んでしまった親はそんなことを誰にも話さなかったらしい。
だから、誰一人、引き取った人間のいる場所が分からなかった。分かったのは、この町には、いないという事だけ。
気が付くと、途方に暮れたのか——私は、しゃがみこんで、池に映る自分の顔を見ていた。
そこにいた私が泣きそうな顔をしていたのは、波紋のせいなのかそうでないのかは、分からない。
どんな夜更かしでももう寝るだろう、そんな時間だった。誰も、気付いてくれなかった。そう思った。
「何してんの? あんた」
いきなり、突っぱねたような、気だるそうな声が後頭部からした。驚いて、そのまま振り返る。
夜闇に溶ける髪色、瞬く翠の眼。見たことのないくらい綺麗な少女だったのに、
その眼はおそらく年下であろう少女に似合わないほど凶悪に光っていた。
けれど。私に、気付いてくれた。思わず、答える。
「弟を探しているの」
「そうは見えないけど?」
痛いところを突かれた。ハイリーは目を伏せる。
「・・・強制、ってのは趣味悪いしね」
「え」
何か呟かれた気がして再び顔を上げるが、少女は答えず、言った。
「・・・そいつを見つけたいなら、来る? っても、ただの傲慢な皇帝がふんぞり返ってる、馬鹿みたいな国だけど、
一応世界には行ける」
随分な言い方をした少女を呆気にとられたように見る。だが、ハイリーは首を振った——横に。
「それは嬉しいけど、でも、もし見つけたら、私は国にはいられない。だから・・・いい」
「そりゃそうよね」
諦めたような、だが——危険な、声がした。思わず身をすくめる、より早く、首にあてがわれた、それは短剣。
驚愕すらできなかった。そうしたら、すぐにでも喉を切り裂かれそうだったから。
「・・・だがらしゃーないけど、強制的」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「なんで、って顔してるわね」短剣を持ったまま、嘲笑する少女。
「・・・傲慢でふんぞり返ってる皇帝の面倒な命令。適当な人間を集めろってね・・・悪いけど、付き合ってもらうわよ」
その日の記憶は、そこで途切れた。
いやだった、でも、世界を見ることはできた。ようやく見つけた弟。
だけど、出してもらえない。帝国からは、出られない。
だから。出してもらうために。
願いを、聞いてもらうために。
そのためには、
———これしか、なかったのだ。
マルヴィナが叫んでいた。
ハイリーは、首から流れるモノが赤色をしていることに気付きながら——倒れた。
身動きができないその場所で——ハイリーは呟いた。せめて、知っておいてほしかった。
眩しすぎるほどに強くて、純粋で、優しい、優しすぎる娘に、敵でありながら私の名を必死に呼ぶ彼女に——
「・・・ごめん・・・
ティル」
「っ!!?」
マルヴィナは目を見開き、思わず手を止めた。
探していた人。
“— お姉ちゃんがいたんだけどね —”
ティルの言葉が、繋がる———!!
止まったままのマルヴィナの前で、ハイリーは静かに——その生涯を、終えた。
命の喪失は、怒りに。マルヴィナはまだ温かい彼女の手を少しだけ握ると、その騎士に向き直った。
「・・・・・・ルィシアっ・・・・・!」
「・・・ふふ」
赤黒い騎士は、面白いわけでもないだろうに、小さく、冷たく、笑った・・・。
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.585 )
- 日時: 2012/09/01 23:09
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: bkovp2sD)
シェナは、思わず後退した。ガナンの者に対して、さっきはあんなに動けたのに。もう、動けない。
セリアスは体制を低くして、背に手を伸ばす。キルガはいつでも動けるように構えた。
私だけ、この体たらく。
でも、
——でも。
「こうやって言葉を交わすのは初めてね、“天性の剣姫”。——あたしは“黒羽の妖剣”・・・名は、知っての通り」
ルィシアは顎をくっと上げ、髪を払った。何か言いたげなマルヴィナを見て、鼻で笑う。
「勘違いしないでよ? これは皇帝の命令。あたしが殺したくて殺ったわけじゃない——こいつと同じよ」
「———————くっ!」
ぎゅう・・・と、拳を握りしめた。悔しい。何もできなかった。
敵とはいえど、目の前で、人を殺されてしまった——・・・。キルガが感じていた苦しさが、少しわかった気がした。
「・・・帝国はマルヴィナを、狙っているのか」キルガが言った。ルィシアは視線をキルガに向け、嘆息する。
「やっぱり、ばれるか。残念——まぁね、今は、最も驚異的な存在だって、あんたたち四人は帝国の噂よ」
「!!」シェナはびくりと肩をすくませた。心臓が、かつてないほど早く動いている。どうしよう。
どうしよう、言われる、このままじゃ、言われて——・・・・。
「けど、あたしはあんたたたちには興味ない。・・・あるのは、あんただけ」
ルィシアは手にした短剣を左に持ち替えて、その腰のレイピア—マルヴィナのものと似ているが、
生々しい色をした、例によって赤系の色の剣である—を抜いた。レイピアと併用しているということは、
左手にあるのはマンゴーシュだろう。
マルヴィナは歯ぎしりした。激昂し、混乱し、なにより傷が完治していないこの状況では、戦うことは困難だろう。
加えて、彼女の剣は、先手必勝の魔物専用。刃を躱すのには向いていない。
となると——・・・。
マルヴィナは唇を噛んだ。弾かれた隼の剣を拾い上げ、構える。
「マルヴィナ!?」仲間の叫ぶ声がしたが、反応する余裕はなかった。
マルヴィナのものもそうだが、ルィシアのレイピアは刺突用のものではなく、両刃である。
天使界での剣を躱す練習には刺突用のフルーレもしくはレイピアを使っていたために、
刃のついた攻撃はいつも自身の剣の刃を使って受け流していた。今回、それができない。
となると——
「マルヴィナ、駄目だまだ傷は治ってない! 俺が相手をする、」
セリアスが言いかけ、ルィシアに笑われる。
「言ったでしょ、あたしはあんたたちには興味ないって——もしかして馬鹿なの?」
「あぁそうだ、俺は馬鹿だ、だから邪魔する」
「暑苦しい。仲間なんて、よく持つわね——」
「——目覚めよ」
ルィシアの笑みが消えた。マルヴィナが、もう一つの剣を持っていた——その使い物にならなさそうな剣を
どうする気かと呆れかけたとき、その形に気付いて顔をしかめた。
「目覚めよ、この剣に。汝と共にある者のもとへ戻れ——空の英雄!!」
マルヴィナは叫んだ、だが。
剣は、何も起こらなかった。何の変化もなかった。違う。空の英雄じゃ、なかった。
「・・・・・・・・・・は」
ルィシアは笑う。
「それ、まさか、銀河の剣・・・? あんたが、それを持つの?」
ルィシアは一瞬とはいえど肝を抜かれたことに腹立ち、地を蹴った。
・・・闘いが、始まる———。
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.586 )
- 日時: 2012/09/01 23:11
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: bkovp2sD)
いきなり攻撃を始めたルィシアにマルヴィナは驚愕し、隼の剣を抜きなおす。
押され気味に一瞬、剣と剣が激突し、マルヴィナはそれを上にはじきルィシアは舌打ちした。
マルヴィナはルィシアの連続攻撃を何とかかわしながら、叫ぶ——
「何故この位置が分かった、ルィシア!」
「聞くこと!? 目をつけられているあんたたちの居場所なんか、すぐに分かること!」
「どうだか!」
マルヴィナは最後の攻撃も躱し切り、反撃を開始する。相手の懐に入り、薙ぐ。
「そう——そういえば、あんたが拾ったもの、返してもらいましょうか!?」
「何のことだ!」
ルィシアは余裕をもってそれを躱す、が、すぐさま繰り出されたもう一撃に、顔をしかめて飛びのいた。
マルヴィナはお返しとばかりに剣を振りかぶり、ルィシアを狙う。
「とぼける気、エルシオンで拾ったはずよ——あたしのピアスをね!」
ぴたり。静止の音をあらわすなら、この言葉だろうか。
それほどいきなり、マルヴィナはその手を止めた。
ルィシアはそれに少し驚愕し、だがそのまま斬りかかろうとして——・・・。
「発信機?」
マルヴィナの言葉に、思わず動きを止めた。
マルヴィナはその隙を見逃さない、風に乗る、そして、一気にルィシアの眼先へ、そのまま——
「!?」
背後を、とった。
腕に一閃、怯むルィシア、その腕をマルヴィナはそのままねじ伏せる!
「ここまでだっ!!」
マルヴィナの叫び声が響いた。ルィシアは腕の痛みに呻く間もなく、自分を怯ませたマルヴィナの言葉を復唱した。
「発信機——何故お前がその名を知っている!?」
発信機——取り付けた者の行方を知るその小型機械は、ガナン帝国のみが厳密に開発し続けたものである。
それ故に、そんなものがあることは、誰も知らない——そう、キルガでさえ。
なのに、彼女は。
「知らないが、知っている! そうか、あのピアスには発信機がついていたんだな? だからわたしの場所が分かったんだ」
ルィシアは答えない、だがねじ伏せられながらも変わらないその屈辱に燃えたような眸を見て、
その仮説が間違っていないことを確信した。
「そして、それをいまさら返せと言うことは——もうわたしたちの行動パターンは、帝国には筒抜けってことか。
・・・ならば、遠慮はしない」
マルヴィナはつかむ腕に力を加え、緊張と気の昂りを募らせて、抑えるように鋭く言った。
「わたしらを帝国へ連れていけ。その皇帝とやらに、直々に合わせてもらう!」
本当は、『霊を蘇らせるもの』に会わせてもらいたかった、だが今は、
ハイリーの命を終わらせたその者に会いたかった。
・・・彼女は既に、冷静ではなかった。
ルィシアはそれが分かっていたのだろうか。緊迫した表情の三人を一瞥、そして——笑った。
「・・・悪いわね。——断るわ!!」
「なっ!?」
掴んでいた右腕を、逆に掴まれた。マルヴィナは驚き、その後その意味を察したのか、顔をさっと蒼白にさせた。
ルィシアは強引にその腕をいきなり前に引き、マルヴィナを横に引き寄せ、その手を空いた左手でつかむと、
そのまま一気に前へ払った。少女らしからぬ怪力、その反撃。マルヴィナを地面に叩きつける。
「がっ!!」
「マルヴィナっ!」
二人の勢いに圧倒されて動けなかった仲間たちが、ようやく駆け寄る。
完璧な早業だった。ルィシアは腕を抑え、息を吐きながら、後退する。
「は・・・っ、面白い。“天性の剣姫”、次はお互いもっとましな技術で闘おうか。
——この借りは、返すわよ」
一つ咳をして、ルィシアは一つの羽を放り投げた。
キルガとセリアスが逃がすまいと追おうとしたときは、既にルィシアの姿は消えていた・・・。
漆千音))ノートに書いていた話があまりにも妙だったので、この場で変更。
小説書くのって楽しいけれど難しい。
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.587 )
- 日時: 2012/09/02 01:15
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: bkovp2sD)
この大地においての人を葬る方法は、土だとキルガは言った。
四人はハイリーを埋葬し、そして、静かに祈った。最後まで弟を思い続けた、ひとりの女性に。
「・・・あなたがどんな辛い人生を歩んだのかは、わたしは知らない。
でも・・・せめてこれからは、あなたの魂が安らかに眠れますように」
祈り終え、マルヴィナは悲しげに、名残惜しげに、その盛り上がった土を見る。
・・・ごめん。彼女の唇は、その言葉を紡いだ。
その言葉は、ハイリーの最期の言葉と同じだったということに、マルヴィナは気づいているだろうか。
そのまま四人は、竜の門に移動した。
「ここで矢を放てば・・・ドミールに行けるんだな」
「あぁ。・・・で、誰がうつ? 俺プレッシャーに弱いぞ」
「・・・僕も控えさせてもらいたい」
「情けないわね男ども。マルヴィナ、どうする?」
「そりゃ弓使いのシェナだろ」
「マルヴィナ然闘士でしょ? 器用さは確実に上だと思うけど」
「なんだかんだ言ってシェナも控えたいのか?」
「・・・・・・・・・・。撃ってくれます? マルちゃん」
「だから誰がマルちゃんだ——キルガぁ?」
思わずくつくつと堪えるように笑っていたキルガは、マルヴィナの表情を見て、「笑った」と言った。
「・・・え」言われて、気付く。自分の表情は、和らいでいた。
「気持ちは分かる。その思いは、受け止めて、忘れないようにしなければならない。
・・・けれど、それでマルヴィナが暗くなることなんて、ハイリーさんは望んでいないはずだ」
キルガは言って、セリアスに目くばせした。セリアスは何? と言いたげにきょとんとし——その言葉が以前、
自分がキルガに言ったものと似ていることに気付いた。
分かってんじゃん。セリアスはにやりと笑い、キルガではなくマルヴィナに拳を突きだして見せた。
シェナも笑っている。皆穏やかな、けれど静かに決意した笑み。
「・・・・うん。そう、だね」
マルヴィナは右手をぎゅっと握りしめ、胸に当てた。目を閉じ、気持ちを落ち着かせる。
「・・・よし。撃とう」
「よっしゃあ!」セリアスがマルヴィナを肘でつつき、頷いた。
マルヴィナは息を吐き、崖の前に立つ。光の矢が輝いている!
マルヴィナは、身体の底が燃え上がるような、不思議な感触を覚えた——
矢をつがえ、弦を引く。射抜く先は天、晴れ渡った空。
緊張の一瞬——
マルヴィナの手が、矢から離れる!!
黄金の輝きを伴って矢は空を切り裂き、その輝きは架け橋となる。
今ここに、底なし崖への路が現れた。
「すっ、げぇ」
「・・・同文」
セリアスと、キルガ。シェナは心なしか、顔を強張らせた。
マルヴィナは放心したように天を見上げていたが、やがてはっとしたように手元を見る。
役目を終えた弓矢は、満足げに——というと少々おかしいが、そう見えるほどあっさりと、静かに消えてゆく。
完全に消える前に、マルヴィナは、ありがと、と呟いた。
「・・・さぁ、新天地だ」
「・・・あぁ」
「っしゃあ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えぇ」
緊張気に——でも果たしてこのまま乗って大丈夫だろうか? と思いつつも四人横に一列に並ぶ。
「おい、何事だー!?」
その時、聞き覚えのある声がして、マルヴィナは振り返った。
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.588 )
- 日時: 2012/09/02 08:38
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: bkovp2sD)
振り返って——見えたのは、ティル、ナザム村長、スガーまでいた。そして——用心棒だろうか、
もう一人誰かがいた。
「・・・なんだ、お前はあの旅人じゃ、・・・・・・・・・・・・・・・っ!?」
村長はマルヴィナをひと睨みした目をそのまま驚愕に開いた。その足を、崖の前へ。
「は、橋がっ・・・橋が、架かっ・・・架かって・・・!」
「すごい、すごいやマルヴィナさん! マルヴィナさんがやったんだね!?」
え、何知り合い? とでもいうように視線を交わし合う仲間にあとで説明する、と胸中で言いつつ、
マルヴィナは頷いた、でもわたしだけじゃなくて仲間のみんなもね、というマルヴィナの言葉は
ティルには聞き流されてしまったらしい。
すごい、すごいとはしゃぎながらティルは、マルヴィナの言おうとしていることを先に村長に言ってくれた。
「きっとマルヴィナさんは、黒い竜を追っかけるつもりなんだよ! ね?」
「あぁ」マルヴィナは頷く。「やられっぱなしじゃいられない」
「ほらぁっ!」
「むぅ・・・」村長は唸る、唸って、しばらく経って、スガーと仮に用心棒が顔を見合わせ肩をすくめ、
そして村長は——マルヴィナに、頭を下げた。
「・・・え?」
「マルヴィナ殿が黒い竜に襲われたというのは、本当の話——否、全て、誠だったのですな」
「えぇえ!?」
いきなり礼儀正しくなってしまった村長に、マルヴィナはかえって慌てた。信じてくれたのは嬉しいが、
さすがにいきなりこれではとまどう。なんせさっき、お前、と呼ばれたばかりなのだ。
「魔獣の洞窟に入られたのですな。・・・如何にして光の矢を手に入れられたのかは、多くは聞きませぬ。
——並びに、今までの非礼をお許しいただきたい」
「ちょ、ちょっと待って、わたしはその・・・迷惑かけたのは、こっちだし・・・
でも・・・ありがとうございました」
マルヴィナが、頭を下げ返した。キルガたちは何のことかよく分からなかったが、
同じように頭を下げておいた。
「マルヴィナさんマルヴィナさん。教会で落としたものって、もしかしてこれ?」
ティルが差し出したのは——それは、白いピアスだった。
そう、ルィシアのもの。発信機のついた、敵国の証——・・・。
マルヴィナはぎくり、とした。ハイリーの姿が思い浮かぶ。今更気づいた。
ティルの髪色は、ハイリーのそれと同じ。目元もよく似ていた。
——何で気付けなかったんだろう。彼女の守りたかった人は、すぐそこにいたのに。
マルヴィナは、口を開く——
「ありがとうティル、助かった」
——けれど、今は言わない。
いつか彼が、真実を確と受け止められるようになるまで。
「この先がドミールだ」スガーだ。本当にお世話になった、職人だった。
「かなり遠い。魔物も強い。・・・アンタ、何も持たずに大丈夫なのか?」
スガーが言ったのは、キルガの姿についてである。
ガドンゴ戦で槍を折ってしまったキルガは、徒手空拳の状態だった。
いえ、大丈夫じゃないかもしれません、と素直に言った彼を、スガーも素直に笑った。
「アンタ、武器は?」
「槍ですが・・・」
「ちょうどいい」
スガーは用心棒に目配せした。頷いて、彼は背負った槍を外す。この次の行動が目に見えてキルガは、
慌てて受け取れません、と言おうとした、だが。
「希望のあんたらを死なすわけにゃいかねぇ。あんたに使われるなら、この槍だって喜ぶはずだ」
彼らしい、その理由で、キルガを黙らせた。
「・・・その槍で、仲間を守れ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!」
キルガは、はっと表情を変化させた。
槍で、仲間を、守る。
この言葉は、確か、確か———・・・。
「マルヴィナさん」
スガーはマルヴィナに顔を向けた。はい、とマルヴィナはしっかり答える。
「あんたはただの旅人じゃないって、言ったな」
スガーと初めて会ったときのことを思い出す。
「・・・そりゃそうだよな。こんな、いい仲間がいんだからよ」
スガーはそう言って、槍を受け取ったキルガを、セリアスを、シェナを見た。
会話すらかわしていないのに、彼はそう言った。
マルヴィナは仲間を見て、口をつぐんで——そして、笑った。
「・・・当たり前だ」
スガーは頷く。「言った通り、この先の魔物は強い。だが」
そして、同じようにもう一度、笑った。
「・・・アンタなら、大丈夫さ」
マルヴィナは、仲間を見た。
ドミールへ行くということは、ガナン帝国と戦うということ。
それに異を唱えず、諦めず、彼らは承諾してくれた。
こんなに良い仲間に巡り合えたことが、嬉しい。
「じゃあねー、マルヴィナさん、頑張ってねー!」
「御武運、お祈りしておりますぞ!」
「諦めんなよ、あんたらならできる!」
「またいらしてください、歓迎します!」
ナザムの四人の去り際の声を聞き、マルヴィナは満足感でいっぱいだった。
余所者嫌いの村が、変わろうとしている。
だって——村長は、幼いティルの手をとって、歩いているのだ。
人の心を良い方向に変えられた。それはマルヴィナにとって、光の矢を手に入れた以上に喜ばしいことだった。
「さて、行くか」
「あ、ちょっと待て、ここって『底なし』だったよな?」
「落ちやしないわよ、大丈夫」
「こっこここで落ちらら、俺恨むぞわっ」
「何で噛んでんの・・・? あそっかここ下見えないね」
「言わないでおいたことを言うんじゃねぇぇ!!」
「だいじょーぶだってぇ。なんならセリアス、目を」
「勘弁してくれー!!」
(・・・大丈夫。・・・・・・・・・・・・・・・・そう、大丈夫よ)
シェナは、ひとり決断し、[自分自身を]落ち着かせるように胸を叩いた。
自分が先ほどより熱っぽさを感じるのには、気付いていない。
崖を渡った先に見える、岩山の頂を見る。
目を細める、泣きそうに顔が歪んでいた。
・・・最近、また夢に見た。
——三百年以上前の、忌まわしい出来事を。
【 ⅩⅡ 孤独 】 ——完。