二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.602 )
日時: 2012/09/06 21:37
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: bkovp2sD)

 ガナン帝国について、新たなことが分かった。
          ・・・・
・・・ガナン帝国は、三百年前、一度滅びたらしい。
原因は不明。だが、一方で、復活した理由も不明だ。
シェナがガナンに捕まってから、帝国は突然滅び、シェナの安否も不明になってしまったのだ。
ガナンを名乗る兵士に度々襲われ、関わってきたことを、マルヴィナたちはすべて話した。
ここまで彼らを信用できるのはきっと、仲間を助けてくれる人たちだから。
仲間の、故郷の人々だから。

「成程。それで、グレイナル様に会いに」
 ラスタバは得心したように頷いた。「分かりました、許可致します。山頂へ、足を運ぶことを」
 マルヴィナは問い返した。
きけば、グレイナルは、この火山の頂にいるらしい。
だが、最近魔物が狂暴化している。この火山の魔物はかなり酷いらしい。
そこで、山頂への入り口をふさぎ、立ち入ることを許した者にしか山を登らせてもらえないという。
シェナは意識を失ったまま目覚める気配はないし、起きたとしても体調を完全に回復させるまでは
同行させる気はなかった。そのため、山頂にはマルヴィナ、キルガ、セリアスが行くことになった。
万一にとケルシュを同行させることをラスタバは薦めたが、三人は断った。万一、の状態が、
この里で起きるかもしれなかったから。
もし起きたとき、彼にはこの里を守る義務があるだろうと思ったから。











「・・・・・・・・・・・・ぅぅぅぅぅぅぅ」
 人間には聞こえない声で、何かが唸っていた。
「・・・・・・・・・・ぅぐううぐむぐむぐ」
 人間には見えない乗物の中で、唸っていた。

 ・・・サンディである。

「・・・ぐ。うむむむ。・・・ぐ、ぅ。・・・・・。・・・・・っ。
・・・・・・・・・・・っぐぅあああああむ————!!」
 が。遂に訳の分からない絶叫をしてサンディはばーん、と運転台をブッ叩く、そして痛くてぷるぷるした。
「あーもう、わけわからん」
 訳分からんのは自分の絶叫だ——なんて考えがサンディにあるはずがない。
「ったく、勝手に、アタシの箱舟ちゃん壊しやがって! あのドラゴン今度会ったらシメてやる・・・」
 牙があったら今すぐ手あたり次第かじれるものを探してがじがじ噛みそうな様子のサンディは、
だが次いで、はーぁ、と腕を重ねあごを載せ、眉をハの字にため息を吐く。
「マルヴィナ、だいじょぶかなぁ」
 セントシュタインに集まった時、ひとりだけ来なかったマルヴィナ。
また壊されたらたまらないと思って早々に箱舟のもとに戻ったが——それでも心配なのは、心配なのだ。

 ——相棒。
 お人好しで。見捨てられなくて。だから、首突っ込みたがり屋で。
天使のくせに『星のオーラ』が見えなくて。なのに天の箱舟は見えて。
仲間が現れてからは、いつの間にか凄く、凄く頼りになる戦士になっていて、四人の中心だった。
 ・・・裏を返せば。マルヴィナは、ひとりだと、凄く頼りのない、娘なのだ。
サンディは、否、サンディだからこそ、知っていた。相棒は、強い、強い戦士だけれど、
弱い、弱い娘なのだ。自分に怯えて。一人で抱えて。怖いこと、恐れていることを、ひとりで詰め込んでしまう、
弱い、弱い少女なのだ。
だから。マルヴィナを一人にした、あいつを——師匠だという、あの天使を、サンディは許さなかった。
師匠のことを語るマルヴィナは、本当に誇らしげで、幸せそうだった。
サンディはそのたびに呆れもしたが、邪険には決してしなかった。
 ・・・それなのに。
そんなマルヴィナの思いを払って、打ちのめした、あの天使。
「絶対、許さないカラっ!!」
 サンディは叫んで、再び箱舟の運転台を叩く。もう、痛みなど感じなかった。









 ドミール火山は、更に暑かった。
「ぐぅぅぅぅぅぅ。暑、い」
 セリアスは情けない声を上げる。が、二人も同意見なので、何も言えない。
「さ、さすが火山。・・・相当のものだな」キルガが顔にへばりついた髪の毛をはがし、
「暑い。汗が凄い。溶ける。どろどろ」マルヴィナは顔を拭い手を振って水気を弾き飛ばし、
「そんなマルヴィナは見たくないな。・・・あー、暑い」セリアスは相変わらず情けない声を上げる。
 水分を補給させてもらえたのは幸いだった。こんな環境でも、水の湧くところはあったらしい。
手持ちの塩を少量水に加え、準備も万端——で臨んだはずなのに既にこれである。
しかも鎧の中に熱はこもるし、足取りは不安定だし、何より魔物が強い。襲われるたびに
自棄っぱちな雄叫びを上げて突っかかっていくのは、そうでもしないとぶっ倒れそうだからだった。
が、その欠いた冷静さが、仇を成す。いきなり、鉄の戦車に乗った小人が現れたかと思うと、
リズムに乗りだして暴走しながら突っかかってきたのである。不意を突かれマルヴィナとキルガは
その影響で転倒、マルヴィナは不安定な転び方をしたので、頭を強かに打ち付けてしまった。
傷が開いたような痛みが襲う——否、開いていた。
「う、ぐっ!!?」
「マルヴィナ!?」
 唯一転倒を免れたセリアスが気合一閃、小人を打ち払うと、頭を押さえ膝をつくマルヴィナに駆け寄った。
「おい、大丈——」セリアスは言葉を打ち切った。打ち切らされた。出血が止まらない。
「痛——」汗の影響で、痛みが増している。この状況は、厳しい。

 ——と、その時、



 キルガとセリアスは、こちらへ向かってくる人影を、見た。

















    漆千音))久々に中途半端止めをした(というか無理矢理区切らせた)

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.603 )
日時: 2012/09/07 22:30
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: bkovp2sD)

                マント  フード
 こんなに暑いのにそいつは、黒い外套に頭巾と、非常に暑苦しい姿をしていた。
しかも、そのまま——蹲るマルヴィナの前に、立ったのである。
セリアスは思わず、その場から引いてしまったのだ。
マルヴィナがはっとする、が、顔は上げられない。そのまま、そいつは、呟いた——



 べホマ、と。





 マルヴィナの頭の傷から、金色の光が生まれ出で、そのまま身体中を包み込む!
キルガが目を見張り、セリアスが唖然とする、その眼の前で、
マルヴィナの頭の包帯の中から流れ出ていた血が、止まる。
驚いてマルヴィナは、頭を上げた——痛く、ない。
どころか、傷が——。
「え? ・・・・・・・え?」
 混乱し、手を見て背を見て頭を触り、首を傾げて前を見る。黒外套が立ち上がる。
「え? ——待っ・・・!」
 待って。その言葉には、応えてくれなかった。だが、何かを言っていた——


 “マタアトデ”


 と。





「マル、ヴィナ・・・大丈夫か?」
 念のためにと、セリアスが訊いた。キルガが手を貸し、マルヴィナを立ちあがらせる。
頷くまえに、マルヴィナは血染めとなった包帯を外した。二人が目を見張った。
そこにあったはずの大きく、生々しい跡は、跡形もなく、消えていた。
「え?」    ベホマ
「まさか・・・完治呪文? 今のが・・・」                           ベホマ
 どのような傷でも完全に回復させるという、僧侶のみ使うという、最高位の回復呪文——それが、完治呪文。
「ちょ——今のは誰なんだ? なんで助けてくれたんだ? そしてありがとーう!」
 混乱しながら礼を言うセリアス。尤も、もう姿はそこにはなかったが——
「・・・今の人、何か・・・」キルガは呟いた。・・・が、自分の考えが馬鹿らしくなって、言うのはやめた。
だが、実のことを言うと、セリアスもまた、キルガと同じことを思っていながら言わなかった。


 ——懐かしい。










 謎の黒外套に助けられてから元気になったマルヴィナは、その分よく動いた。
竜戦士が襲ってくる。返り討ち。ヒートギズモが炎を吹く。追い風。緑竜が薙ぎ払う。払いかえす。
暑いのを払うように熱くなる彼女を見て男二人はやれやれと息を吐きながらも加勢。
そうこうするうちに頂と思しき場所に着く。
「うしゅああああー、着ぅいたぁー」
 何とも気の抜けた声でセリアスは脱力したのだった。


「天使だから当然のように思ってしまっていたが」
 山頂——の手前の坂を昇りながら、キルガが言った。
「グレイナルが存在していたのは三百年前。・・・普通の人間じゃ、既にこの世にはいないはずだった。
けれど、ちゃんと今もいる——竜族というのは長生きなんだな。おそらく生命力は、天使と変わらないのだろう」
「シェナを見りゃわかることだ。・・・人間界にも、天使みたいなのがいたんだな」セリアスが頷く。
「世界って不思議だよね」マルヴィナ。「・・・でも、グレイナルは、竜族じゃない」
「え?」
「へっ?」
 キルガとセリアスが、ほぼ同時に問い返した。
 マルヴィナの声は低かった。独り言でもいうような声で——だがすぐにびくりとする。
「・・・あれ? ・・・何でこんなこと知っているんだ?」
「はぁ?」
 セリアス。「おい、ボケたか」
「・・・肘鉄喰らいたいか」
「スンマセン」
 セリアスが脱兎の勢いで三歩逃げた。
「・・・ちなみに、だったら何なんだ?」
 キルガは首を傾げるも、あえて詮索はせずそちらを尋ねた。
「・・・うん。・・・でも、言わなくても、すぐわかる——」

 はかったように、その咆哮は、響いた。
その声、雄叫び、凄まじく、猛々しく、雄々しく。

 頂上。          ・
そこにいた、グレイナルという者は—————・・・。







「竜・・・・・・・!?」









 白く、大きな—————光竜だったのだ。

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.604 )
日時: 2012/09/09 01:10
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: bkovp2sD)

 暖かい日差しが辺りを照らすその部屋で——
 シェナは、目を覚ました。
                          ・・・
 いつの間に寝ていたんだっけ。・・・あれ、でも私、今あの里に向かっているはず。
この部屋——あぁ、懐かしい。ここは、私の———・・・




「———————————————————————っ!!!!」




 瞬時に、複数の箇所のスイッチが入った。
がばっ、と身を起こし、立ちくらみ—いや、起きくらみ—をおこして倒れこむ。頭をぐらぐらさせながら、
けれどシェナはかつてないほどに焦っていた。故郷を懐かしむ余裕など、なかった。

(ど)
 どくどくどく。心臓が大砲のように大音を奏でる。
(どうしよう——どうしようどうしよう!!)
 頬を緊張させて、シェナは思った。
(ドミールだ、ここは、ドミールだ・・・・・・・・っ!!)
 知られてしまっただろう。仲間たちに、自分は、天使ではないと。
天使と同等の力を持つだけの、地上の民に過ぎないと。
(ね、熱っ・・・!)
 そう、熱。熱で、倒れたのだ。
馬鹿、自分を罵った。
ドミール出身だと、知られないために——どうにかして、里の民にばれないようにするか。口止めするか。
今更考えると、どう考えても不可能なことをやって見せようとしていたのだ。
その時からすでに熱はあったのかもしれない。
・・・焦って落ち込んで、そして——冷静になって、思った。
・・・おばあさまは? ケルシュは? そして——

 嫌いだった、あの少年は?

 命を懸けて自分を救おうとし、返り討ちにあい、それなのに私は何もできなかった、しなかったあの少年は、
今一体、どうしているの——?




「っ!」

 音がして、シェナはそちらを見た。そして——止まった。
そこにいたのは。


「シェナ、さま・・・」
「ケルシュ・・・・・・・・?」

 祖母意外に頼りにし、好きだった、騎士の姿だった。



              ・・
 ケルシュは無事を祈り続けた少女を目の前に、思わず涙を流しそうになる。  ・・
だが、騎士の務めは。先にすべきことがある。なにより、騎士ではなく、ひとりの家族として、
言うべきことがある。
 互いに静かになってしまったそこで——ケルシュは、シェナの前に立ち、膝を折り腕を水平に掲げ、
頭を垂れて敬礼をした。騎士のすべき、行動。
 困惑するシェナの前で、ケルシュは言う——ずっと言いたかった、言葉を。






      ・・・
「お帰り——シェナ」







「!!」
 いつしか、そう呼んでくれなくなった名。  ・・
従者としてではない、ひとりの、もうひとりの、家族として、呼んでくれたその名。
 シェナは、思わず拳を握りしめた。
ゆっくりと立ち上がり、ケルシュの前にしゃがむと、その首に腕を回した。

「ただいま・・・ケルシュ・・・!」

 彼女の眼に浮かんでいたのは、一粒の涙。











 グレイナルだと、竜は名乗った。
その大きさ、存在感。圧倒される。だが——不思議と、猛々しさは、闇竜よりもかけているように見えた。
・・・それは、その歳のせいか。
「・・・わたしは、マルヴィナという。こちらは——」
「貴様ら」
 マルヴィナが仲間を紹介するより早く、グレイナルは言った。
「・・・そのにおい、忌まわしきガナン帝国! 性懲りもなくまた儂を狙ってきおったか!?」
「え?」「は?」「ちょ」
 マルヴィナ、キルガ、セリアスと、三テンポ綺麗に問い返す。
「はぐらかしおっても無駄じゃ、忘れるはずもない。・・・ならば儂とて容赦はせん、
年老いたとて舐めるでない。古の竜族の力、見せてやろうぞ」
「待った! ちょっと、待った!」マルヴィナが慌ててそれを止めた。「それは違う!」
「違うとな」グレイナルは嗤った。「この期に及んで弁解か。いつからそれほど見苦しくなった、帝国の犬よ」
「だから、違うって言ってるだろー!?」セリアスだ。「俺らは、あんたの力を借りに来たんだ!」
「僕らは、シェナの・・・この里の民シェラスティーナの、仲間です」キルガも言った。
「復活したガナン帝国に相対できる力を持つあなたに、協力を頼みたいのです」
「シェラスティーナ? ・・・あぁ、『真の賢者』か」
 グレイナルはその爪で首筋(?)をかく。「・・・そうか、あの娘が帰ってきたのか」
「信じていただけますか」キルガは静かに、祈るように言った。だが、相手は相変わらずだった。
「帝国に捕まったというのならあの娘も、帝国の者となったという事か。
ならばこのにおいは、あの娘によるものということだな」
「おい」
 セリアスが、抗議と、非難の声を上げたが、思ったよりその声は小さくなってしまい、相手には聞こえない。
「同じことだ、とにかく帝国のにおいを纏ったものに協力など」
「願い下げなのは、こっちも同じだ」
 先に鋭く言ったのは、マルヴィナだ。キルガが、セリアスが、驚く。
彼女はその眸を、怒りに燃え上がらせていた。
「仲間を・・・わたしらの大事な仲間を侮辱する者に、もう用はない。ましてやあなたは
シェナをよく知るものだろう。ならば分かるはずだ、彼女が帝国なんかに手を貸すはずがないと!」
 グレイナルはその大きな眼で、ぎっ、とマルヴィナを睨みつけた。マルヴィナは怯むことなく、睨み返す。
「・・・ほう、このグレイナルに、意見するか。それは無知ゆえか、若さゆえか」
「どうだっていい、とにかく仲間を侮辱する者に、手など借りない!」
 キルガとセリアスは黙ったままだったが、マルヴィナの言うことを否定はしなかった。
どこかで、彼女と同じことを思っていたから。少し、彼女より勇気が足りなかっただけで。
この勇敢さを、キルガは好きになったのかもしれない。セリアスはこんな時にも拘らず、そう思った。
 黙ったグレイナルに、踵を返しマルヴィナは仲間を促した。
「・・・帰ろう」
 二人は、頷いた。その場から、足音が消えてゆく。
グレイナルは、その場で、少しだけ笑っていた。

あの向こう見ずな眸を、思い出しながら。

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.605 )
日時: 2012/09/09 20:00
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: bkovp2sD)

「・・・そう」
 シェルラディスの死を、心苦しげに告げたケルシュに、シェナは思ったよりも冷静に答えた。
「・・・なんとなく、想像はしていたの。・・・駄目ね。覚悟はしていても、受け入れるのは厳しいわ」
「・・・シェディ様も、同じことをおっしゃっていました」ケルシュは顔を伏せ、言う。
「貴女がお生まれになり、母君が亡くなられたとき」
「・・・そっか」
 シェナは虚空を見上げた。
「・・・最後の言葉は、覚えてる。邪に屈するな、死を見るな——・・・忘れたことはなかったわ。
なかったのよ。・・・・・・・・・・・・・・でもっ・・・」
「シェナさま?」
 いつの間にか視線を落とし、シェナは苦しげに顔を歪めていた。けれど、それ以上は、語らなかった。
ケルシュはその様子にただならぬものを感じる。『でも』?
 どうかされたのですか。言いたかったが、言ってはならないような気がした。何とも言えぬ沈黙が落ちる。
が、ふとシェナは、その表情を元に戻すと、ケルシュを見た。
「そういえば、今の里長は誰が務めているの? ケルシュ?」
「いえ、私など。ラスタバです」
「ラスタバ・・・あっ」シェナはいきなり、弾かれたように身を乗り出した。「ねぇ、ディアは? 彼は——」
 シェナのその問いに——ケルシュは、その表情を、隠せなかった。

 ——哀切。
          ・・・
「・・・三百年前——あの後、命を落としました」
「——————————————————————————っ!!!」

 シェナの顔が、蒼白となった。
顔を伏せ、毛布を握りしめて。

 けれど、彼女は、呟いたのみだった。
眸の奥に生じたものを堪えながら——「そう」——と。





                                    ・・・・
 先程より気まずい空気を作り出してしまったその部屋の雰囲気を変えたのは、あの三人だった。
「ただいま——あぁっシェナ、目が覚めたのかっ!!」
 里長の家に『ただいま』とか言って、マルヴィナはそのままシェナに気づき、駆け寄る。
ずっと騙し続けていたことを思い出して、シェナは目をそらして、小さく答えた。
「で。シェナ。なんかいう事あるだろ」
 あぁ、やっぱり。シェナは、反射的に肩をすくめた。ずっと騙してきたこと。やっぱり、やっぱり——
「なんで体調悪いこと、黙っていたんだ! 熱があるならちゃんと言う、ちゃんと言って休む!
身体壊したらどうするんだ!?」
「・・・・・・・・・・・・え?」
 想像していた言葉とは別のそれに、シェナは思わず目をしばたたかせた。
見れば、入口に立つキルガは「だから大丈夫か、って聞いたんだ」と苦笑するし、
セリアスは「もっと頼れもっと使え、まったく!」と口調の割に笑っている。

 ・・・誰も、言わない。隠していたこと、騙していたこと。

 シェナは、ようやく——今更——今になって初めて、悟った。
自分は、無駄に怯えていただけなのだと。
どこの出身だろうと関係なしに、彼らは自分を認めてくれるのだと。
 言い表せぬほど胸がいっぱいになり、シェナは思わず歯を噛みしめた。
あまりにもあっさりと許してくれた——却って、辛くなるほどに。

 ・・・それでも、言えない。


“ —・・・・・・・・・・・・・・でもっ・・・— ”


 その先の、言葉だけは。






「ところでマルヴィナ殿——首尾はいかがでしたか?」
 ケルシュが改まって、マルヴィナに問う。が——彼女は、「あー」とお茶を濁しかけて、けれど素直に言った。
「うん。追い返された」
「・・・はい?」
「追い返された。機嫌損ねられてさ」セリアスだ。「一体何のために来たんだろな、俺ら」
 はっはっはっ、と力なく低く笑うマルヴィナとセリアスの二人は結構不気味だった。
「でも、この里はガナンと戦った人々がたくさんいるんだろ? 何かつかめるはずだ。
ここで諦めるわけにはいかない。・・・だから、わら布団で構わないからここに滞在する許可を欲しいんだが」
「・・・いや、あの、マルヴィナ殿。・・・お客人に、ましてシェナさまのご友人に、
そんな不躾な真似はできませぬ。宿屋をお使いください、無料で提供いたします」
「え」マルヴィナが若干上ずった声で言う。「いいの?」
「構いません。私が話をつけておきましょう」
「わ、ありがとうございます!」マルヴィナが手をたたいて喜び、ケルシュは早速宿屋へ向かう。
彼の姿が見えなくなったときに——黙っていたキルガはぼそりと言った。



「・・・狙ったな」