二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.624 )
- 日時: 2012/09/26 21:31
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
「いってぇ・・・」
更に半時経った後の、チェルス。
ゲルニックの攻撃を半分——いや、それ以上に受けていながら、
けろりとした顔で「いってぇ・・・」程度で終わらせているこの生命力。
(少しは腕を上げたってか。・・・)
既に傷の治療は済んでいる。けれど魔法は、急所を撃った、あるいは打った。流石に急所は痛い。
胡坐をかいて、首を鳴らす。面倒なことに、先ほどマルヴィナは自分の正体を大声でばらしてしまった。
自分が消えた三百年前から今にかけて生きているものは少なくない。
あなたがあの伝説の——云々、かなり多くから声をかけられたが、あぁはいはいと受け流す程度に応じた。
ただ、妙なことに—— 一番問われるだろう質問は、誰も投げかけてこなかった。
——何故存在するんだ?
そのような言葉。
三百年前、忽然と姿を消した者が、突然現れた。
いくらなんでもおかしいだろう。なのに皆、三百年前に生きた自分の姿を見ているように、話しかけてくる。
(・・・まさかとは思うが・・・『未世界』を知っているのか?)
腕組み、考える。いやまさか・・・だが、もしそうでないなら、他にどんな理由がある?
「・・・」
が。早々に、考えを打ち切る。どう考えても分からないことを考えるのは嫌いだ。
根拠のない、すなわち推測しか得られない。情報は、真実だけで十分だ。
脳裏で、マルヴィナに呼びかける。起きたか? ・・・起きているよ。答えが返ってきた。
どうやら目覚めたらしい。チェルスはようやくかと、嘆息した。
早速だが、訊きたいことがある。マルヴィナが言った。申し訳ないが、来てほしい、と。
二つ返事で了解し、チェルスは手を使わずに立ち上がると、堂々と、颯爽と、その場を去る。
宿の一階の、カウンターの前のテーブルに、マルヴィナ、キルガ、セリアスがいた。
シェナはというと——重要な話がございますと言われ、ラスタバについて行ってしまったため、今はいない。
チェルスは髪を後ろで無造作に束ねながらやってきた。・・・そうか、マルヴィナがざっくばらんなのは
この人の影響か、と、男二人はそろって得心いったような表情になった。
「えっと・・・彼らが仲間だ」
マルヴィナは紹介する。
「“静寂の守手”キルガです」
「セリアスっす。“豪傑の正義”です」
思わず敬語になる二人に、あー堅苦しい、敬語やめい、とばっさりいうと、一応は、ということで
自分も名乗り上げた——『記憶の先祖』、“蒼穹嚆矢”——チェルスの名を。
(それにしても・・・うん。納得。そっくりだわ、あんたら)
自己紹介を終えてから、チェルスは思った。キルガと、セリアスを見て。思い浮かべたのは、もう二人の仲間。
“悠然高雅”アイリスと、“剛腹残照”マラミアのふたり。
だが、今言うべきじゃない。今言うと、ややこしくなる。
とにかく、チェルスは彼らの質問に応じた。
真っ先に尋ねられたのはやはり、ルィシアのことについてだった。どうしてそこまで助けようとするのか。
シェナが聞いておいてと言って立ち去ったためだ。
「んー・・・結論から言うと、マイのためかなぁ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・やっぱ結論からは厳しいか。説明ちょっくら苦手だから、分からんことあったら後から聞いてくれ」
チェルスは足を組み、腕も組んで話し始める。
———“賢人猊下”のことは知っているか? ・・・話が早いな。
“賢人猊下”マイレナ・ローリアス・ナイン。三百年前までに実在していた僧侶だ。
まぁ最終的には賢者になっていたが——そいつには正真正銘の妹がいて、それがルィシアなんだ。
・・・そ、つまり、あいつは本来存在するべき人間じゃない——つまりアイツも、ガナンに甦らされた『霊』、
わたしと同じ部類だ。
この人は何故こんなにも重要な言葉をさらりと言う。
驚愕の中に呆れを交えた表情をするマルヴィナ。
先程覚えた違和感の意味が分かった。彼女は自分をこう名乗った——
“ —・・・魔帝国騎士、“漆黒の妖剣”ルィシア・[ローリアス]— ”
そういう、ことだったのだ。
でも、それなら。それなら、どうして。
「なんでマイの妹が、敵国にいるんだ、って話だよな。・・・だが私も詳しいことは知らない。
本人に聞くしかないな」
深刻な話になりつつあり——と思った矢先、チェルスの腹の虫が鳴った。一瞬にして空気が冷める。
「・・・・・・・・・・・・チェルス・・・・・・・・・・・・」
「正直だろ。腹」短く笑声を上げ、腰に吊った麻の袋から胡桃のような小さな食べ物を取り出す。
ひょいと口の中に放り込み、食う? と差し出されたので、三人は遠慮なくもらった。
「・・・そうそう、マルヴィナ、あいつのピアス持っているか?」
「え。・・・ルィシアの?」
「そ」
持っているが・・・と答えたマルヴィナに、見せるよう要求。マルヴィナは借り部屋に戻り、すぐに帰ってきた。
それをチェルスはしばらく観察し——「発信機は壊されているな」
あの日マルヴィナが呟いたそれと同じ単語を口にした。 (参照 >>586)
「あぁそうだ、それ——」キルガだ。「その、『ハッシンキ』って・・・何なんだ?」
マルヴィナがいきなり口にした単語を、彼らは聞いたことがなかった。キルガは音の響きを覚えていて
それを調べてみたのだが、やはりどの書にも『ハッシンキ』なる言葉は載っておらず、
マルヴィナにも尋ねてみたのだが、あの時は冷静じゃなかった、頭に血がのぼっていたから、
自分でも何を言っていたのかは覚えていない。そう、答えたのだ。お手上げだった。
「ははぁ」チェルスは言った。「それも『記憶の子孫』の影響だな」
「影響?」
「『記憶の先祖』の記憶が受け継がれている、ってやつさ」
「じゃあチェルスは——知っているのか?」
「だからさっき、名前を言ったんだろ」
胡桃のような粒をもう一つ、口に放る。どうやらお気に入りらしい。
「『発信機』ってのは、まぁざっくばらんに言えばそれを持ったものの位置を特定する物だ。
帝国が獲物の動きを確認するための道具として密かに開発した物だから、世間一般には知られていない。
仕組みもよくは分からんが・・・まぁ多分、魔法の類だ」
「・・・」
「へぇえ」
キルガは無言で考え込み、セリアスは感嘆の声を上げる。マルヴィナは頷いた。
「でもどうやら、今は獲物じゃなく、兵士に取り付けられている。その理由なんだが——長いぞ。
それでもいいな?」
「長いのは慣れたよ」マルヴィナ。
「何事も説明なしではわからない」キルガ。
「・・・・・・我慢シマス」セリアス。
チェルスはやっぱりな、とどこか疲れたような表情をしたが——
語り出す、
これから先に本当に重要になる話を。
漆千音))おかしいな更新ストップのはずがちゃんと更新している
だって帰ってきてから九時間もあったら勉強ばっかやってられないっしょ←
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.625 )
- 日時: 2012/09/27 22:00
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
「ガナン帝国は三百年前に一回滅びたってのは知っているな?」
つい最近だが、それは聞いた。それぞれの反応で頷く三人。
「それがまた現れたってことは、二つの可能性がある——はいキルガ」
「えっ?」いきなり話を振られ、困惑気味に答える。その二つを応えろと言う意味か。
「・・・末裔たちによってたてなおされたか、あるいはその—まだよくは知らないが—『未世界』って所から
蘇った『霊』によって成り立っているか・・・ってことか?」
「お前本当に凄いな」完璧な回答に若干退いて半眼で答え返すチェルス。
「正解。で、どっちだと思う?」
「本来なら前者だが・・・話の流れからすると後者だな」
「流石はアイの——」ついうっかりぽろりと素直な感想を言いかけて、チェルスは慌てて誤魔化した。
三人、特にマルヴィナが怪訝そうにチェルスを見るが、「続きだ」と言われ、首を傾げるだけに終わった。
「そ、んで、今の帝国には『霊』がごろついている。
今日来た奴らもそうだ・・・殆ど骸骨だのなんだのゾンビ系統だっただろ」
「あぁ・・・」マルヴィナ。「そうだったな」ファイアフォースを皆にかけたのだから、覚えている。
死してなおこの世を彷徨うものに効くのは、炎、そして光。だから聖であり炎である 空爆_イオ_系統は
浄化に適していると、シェナは言っていた。単に殲滅するだけなら、火炎系統が最も効果的ではあるけれども。
「だが——兵士には二種類いる。ひとつは、『霊』。もう一つが——正真正銘の、今生きている人間」
「へっ?」
「・・・・・・」
「・・・あ、ぁ」
セリアス、キルガ、マルヴィナ—尤も喋っていないキルガをカウントに入れるかどうかの問題があるが—。
キルガは既に理解している。マルヴィナも思い出す。ようやくセリアスも気づいた。
弟を探し、ナザムの村で、その生涯を閉じた女性の存在に。
「何でまだ人間集めてんのかはまだ調査中。だが——ようやく本題に戻るが、この『発信機』は
あの国のクサレ皇帝がそんな兵士たちを監視するために使われてんのさ。もちろん、兵士には知らせないで。
——あいつは気づいていたみたいだが」あいつ、というのはルィシアだ。
「監視」マルヴィナが復唱する。「そんなもの付けて高みの見物であれこれ命令ってか」
「・・・いや」キルガ。「多分・・・脱走しないためじゃないだろうか」
「お前は・・・」チェルス。「何でそんなに頭が働くんだ」
「・・・え? ・・・む?」セリアス。完全に蚊帳の外。
「ハイリーさんみたいに、途中で帝国から離れたくても離れられない状況の人がいた。
・・・そう考えると、こっそり自分の故郷に戻って一般人のふりをする人が出てもおかしくはないだろ?」
「・・・・・・・・・」チェルスはかなり微妙な表情で苦笑いした。まったくこいつは。
「はいはい、じゃあもう一つはさすがにこの秀才でもわからない情報だ」チェルスはその表情のまま言う。
キルガは気を害する風でもなく、いやそもそもその『分からない情報』のことを自覚していて
そのまま尋ねるつもりでいたので、黙って話を聞く体勢に。どこまで誠実なんだこの男。
「もう一つ、『霊』に取り付ける理由だが——まぁ、人間と同じ状況も予測されるっちゃあ予測されるが
流石に三百年もたてば村町国の様子は変わる。そんな故郷に脱走してまで帰るとは考えにくい」
多分そいつ(キルガ)はそう考え済みだっただろうが——とは言わない。
「結論から言うと——『霊』の何を監視するかっていうのは、[消えたかどうか]だ」
やはり沈黙する三人組。
だから結論から言うなっての。と思ったのはマルヴィナ、
消えたかどうか・・・。とその意味を考えるキルガ、
・・・・・・・・・・・。頭の中でも黙るセリアス。そろそろ意識がぶっ飛びそうだ。
「はいそれでは——ここでいきなりですが『未世界』について説明をします。マイにまとめてもらった」
そう言って羊皮紙を取り出すチェルス。字を書いたのはもちろん実体のある彼女だったのだが。
『未世界』——仮名。本名? 知るか。
何で存在するのか——そんな質問した奴、何でこの世があるのか説明してからにしなさい。
世間一般が『あの世』と呼ぶものとは異なる
住民は主に二種類、強く未練を残した実在していた者、即ち『霊』。
もう一つは——人間としてこの世に生まれ出でられなかった者、即ち『不人間』(仮名)。
降霊術師だの召喚士だの、そいつらが呼び出すのは『不人間』。
この世を離れきってしまった『霊』を蘇らせるには相当の魔力が必要。
しかも、本来存在する者ではない為、その身体が再び死を迎えたときその身体は[消える]。
最後のは、マルヴィナも初めて聞く話だ。チェルスは段々疲れながらも話を続ける。
代わりに読もうか、と言おうとしたのだが——それは天使界のものでありながら古代文字であり、読めなかった。
さてここで世界の真実です。
霊関係の仕事している人には有名だよ〜僧侶とか「しまった、マイの言ったことそのまんま書いちまった」
人が死を迎えたとき、魂はどうやって別世界に行くのか? って話。
まぁ、死者の扉が開くんだろうって考えが最も有力らしいけれど。実は、正解。
もち名前は違うけれど、ごく小さな扉的なものが開いて、そこから魂は別世界に飛んでいく。
『霊』も同じで、死を迎えた瞬間その扉を通って『未世界』か『あの世』とかいう世界に戻っていく。
その時身に着けていたものも一緒に消えちゃう。発信機だって例外じゃない。
だから、『霊』に取り付けた発信機が消えた時点で、その『霊』が死んでしまったかどうかが分かるって仕組み。
「・・・マイの説明はいちいち軽いなマッタク」
重要なことを何でもない顔してさらりと言うお前が言うな、・・・とは流石に三人も言わなかった。
「そのための発信機か・・・納得した」
「やっぱ異世界っていうのは不思議だな。この世も天使界も説明し始めるとキリがなさそうだな」
キルガ、そしてマルヴィナ。セリアスは口から魂が抜けそうである。
「・・・説明は以上。よろし?」
「わたしは大丈夫」マルヴィナが答えたが、キルガはまだ何か考えている。
一体どこからそうも疑問が出てくるんだ。
「・・・まぁ、さすがに説明はもうこれで勘弁してくれ。言った通り説明は苦手なんだ」
「だってさ、キルガ」
「・・・あぁ」
「分からないことがあったらまた訊きに行けばいい」マルヴィナの助け舟。
不承不承、キルガも頷き、長い説明の時間は終わった。
「・・・これは今言っちゃいけないだろな」
宿を出たチェルスは、羊皮紙の最後の文を見て、呟いた。
なんせ、これは。
これは、これからのマルヴィナとシェナの、最も脅威となる事項であるから——
『・・・では、一度に大勢の霊が消えた場合——死者の扉の大きさはどうなるでしょう?』
それによって起こる現象、
それは——・・・。